美森姉の病
診察室…中へ呼ばれた美森姉の後に続き俺も中へと入る。
「四月一日美森さん。……男の人は付き添い人かな?」
「え、え〜と…」
「はい。私の弟なんです。」
弟だって!?
急なそんな設定持ち出さないでくれるか。
一瞬に増して驚くっつうの。
「弟さんか……まぁ弟さんであれば問題はないか。」
そりゃあ訝しまれるのも無理はないな。
医者でも急な弟の付き添いとか言われたら怪しまれるのも同然だ。
しかし…
ブーンブーンブーンブーン…
診察室にしてはやたらと機械が多い場所だな。
ここが美森姉達の体の副作用を抑えてくれる場所なら何も問題はないんだが…
さっきの林音の話しを聞く限りそうじゃなさそうだ。
治すというわけではなく一時的な処置…でもなくその場凌ぎで何かをされている可能性がある。
となればその関係性となる薬を投与されているって事だと思うんだが果たして…
「じゃあいつものように血をとっていくから。またいつものようにしてくれるかな?」
「はい。」
「いつものように?」
「おや?弟さんなのにお姉さんから聞かされていないのかい?」
「す、すみません。お姉ちゃんにはここに連れてきてあげるから何も聞かず話さずついてくるだけでいいと言われて…だから病気がどんななのかも聞かされていないんです。」
と答えてもさすがに怪しまれるか?
「そうかい…心配させたくないという思いがあるのだろう。まぁそう心配するような事じゃない。月一にある定期検診での検査だ。怪しい物は特に何もないから心配は無用だよ。」
「………」
医者の言う事だから、普通に考えたら疑うなんていうのはまずないのだろう。
けれどここでの医者は特別だ。
まずはどう言った感じで美森姉を診察しているのかを聞かないといけないな。
美森姉がわざわざ俺の事を嘘をついて弟扱いにしたんだ。
向こうで血をとってる間に聞けるとこは聞いておこう。
「すみません。お姉ちゃんの病気なんですけど、治らないのでしょうか?」
「直球だね〜まぁそう心配する気持ちは仕方がなものだよ。一応こちらからご家族の方へは話をしているんだが、まぁ具体的な事はまだちゃんと言えてはいないね。」
「それは昔からの影響でそうなってるとかなんですか?お姉ちゃんの病気をどうにかして治してあげてほしいんです。その元となった原因を教えてくれませんか?日常生活で気を付けるべき事があればお姉ちゃんを支えてあげたいんです。」
「………そうだな。」
くっ流石に無理があるか。
でもこうやってうってでないと美森姉の病気について何かを知らないと一歩先へ進める事ができない。
「君のその垢思いは大変良い心掛けだ。しかし既に手遅れではあるな。」
「手遅れ?それはもう助からないと言う事ですか?」
「……具体的にはコレ以上彼女は陸上選手として走れないという事だけは伝えておこう。」
「走れない?……足の病気ですか?でも手術さえすればいけるんですよね?」
「馬鹿を言うな。そんな単純なもので済むのなら彼女はここにいない。普通の病院で普通に検診を受けていれば治っていただろう。私達は医者という名の紛い物に過ぎない。」
「何を言ってるんですか?あなたは医者ですよね?」
「………」
何故そこで黙る。
それはあれか国に認められていない医者とかそう言った奴なのか?
失敗すればコチラに責任は問わないみたいな話しなら俺は今すぐにでも美森姉や他の奴等を連れてここから出て行かせるぞ。
「何で黙ってるんですか?もしかして俺達を騙しているんですか?」
「そんな事あるはずないだろう。」
そう言って医者は手を握りしめながらとても悔しそうにして美森姉の事を眺める。
まるで自分の力が足りなく悔やんでる様にもそんな風に見えていた。
「………」
「ああ、すまない。君のお姉さんなのに色々と失礼な事を言ったね。具体的な事は言えないが今はお姉さんの悪い部分の進行を防ぐ為に1番良い薬を投与しているんだ。それにはお姉さんの血が必要でね。その為の薬…血清を作ってるんだよ。」
「血清……それを作ったらお姉ちゃんは治るんですか?」
「少なくとも悪い部分の進行を抑える事はできる。今私達がやれているのは治すやり方じゃなく一時的に進行を妨げる形にしているんだ。いずれちゃんとした投与する薬が完成できるまではね。」
「………1つ聞いてもいいでしょうか?」
「何だね?」
「昔水泳ジュニア大会で1番活躍していた神楽坂一星という選手の名前をご存知ですか?」
「………ああいたね。覚えがあるよ。私もその子に関しては目を見張っていた事があってね。正直どんな身体力を持ってるんだと興味があったさ…いやはや時の流れは残酷だね。今ではもうあの子はきっと生きてはいないだろう。」
「生きてはいない?選手として出てはいないじゃなくてですか?」
「彼はね君のお姉さんと同様の薬を体内に投入されていたんだ。しかし投入されていた薬にも種類があってね…ああ勘違いはしないでほしいその神楽坂一星君と君のお姉さんの投与された薬具合は完全にお姉さんの方がマシなんだ。だからまだ生き続けていられる。本当に恐ろしいのがここから彼女のメンタル次第にはなると思うのだけれどね。」
「………そうですか。なら美森姉が俺をここに連れてきた理由が何となく分かりましたよ。あなた達嘘をついてますね。」
「え?嘘だと?何を言って……いや待て…君はもしかして…」
「はい神楽坂一星です。」
「そんないやそんなはずは……」
「コチラ側からお聞きしたい事が幾つかあります。聞いてもらえますよね?」
「内容次第だが……私を復讐しにきたのか?」
「見ず知らずの相手に何を復讐するんですか。俺が聞きたいのは単純な事ですよ。美森姉の病気を投与したここの病院基研究所はどこにあるんですか?」
「……今はもうない。昔に廃棄処分になって、今ではただの倉庫となっている。」
「ではあなた達はどうやって美森姉の病気を治すつもりなんですか?美森姉達の病は絶対に治らないんですよね?」
「そ、それは……」
「はぁ〜俺に後ろめたさがあるなら今ここで許してあげます。俺はもう病にかかってはないので…」
「病になってないだと?あれほどの摂取量だったのにも関わらず一切の名残がないと言う事なのか…」
そんな馬鹿な…研究員での話しの中では神楽坂一星という人間に大しての薬の投与は限界にまで投与したはずだ。
……いやそう言えばこんな話を聞かされていたけか…薬の投与は何回もしたが、本人には全く効果が見られずにいたと…ならば何回も試すほかないという話にはなっていたが……結局の所本人の才能が確実に素晴らしいという判断に至り…摂取した量で成人ぐらいの年になると命を落とすと聞かされていたのだが……まさかの見落としを喰らっていたのか私達は…
「へ〜そんな話をされていたんですね。まぁ俺の事に関しては別にいいです。正直自分の事に関してはどうでもいいんで…この命が尽きようが尽きまいがそんなのはどうだっていいんです。こっちが今懸念すべきなのは美森姉の問題なんですよ。本人の病に関しては今どうなのかその辺の話を聞かせてもらってもいいでしょうかね?」
「聞いて私達をどうするかというのはないと信じていいのかね?」
「くどいですでね。俺はアンタ方の研究員のやってる事に関してコレっぽちも興味なんてありません。……いや自分の道の為なら少しは興味があるのかな?」
「……そうかならば仕方がないな。話す他はないだろう。私達元研究員であった君への報いとしてコレは話さなければならない…そんな気がする。」
「それで俺に恩を着せるつもりならそういうのは結構ですよ。どっちみちにしてもここを潰すのになんら変わらないんですから。」
「………ひとまずここでの見解は後にしてもらうとして、今は彼女の問題だ。」
そう言って元研究者は何やらカルテみたいなのを取り出し中に入ってるレントゲンを取り出して美森姉の骨全体を映写して見せる。
「コレは美森姉のレントゲン写真?」
「そう。彼女の体の写真だ。その中でここを注目してほしい。」
そう言って足のつま先部分から上の脊髄である場所に棒を差し当てる。
「ここの部分に妙な黒い物が写っているだろう?コレは彼女の骨をむいしばむバイ菌とでも思ってくれたらいい。私達はそのバイ菌を防ぐ為にコレ以上の進行を防ぐ為彼女の血をとって血清を作って予防をさせているんだ。」
「病気という事での認識でいいんですよね?それなら治る可能性もあると言う事ですか?」
「残念ながらこの黒い部分…実際には病原菌とは無関係な物での物体だ。手術をしてもこの黒い部分での切り離しはできないしコチラ側での手がつけられない形になっている。言わば未知の領域だな。」
「………血清を作ってると言っていましたよね?それは美森姉の血じゃないと駄目な物なんですか?」
「そうだな。他の血で補なおうとすれば可能性としてはその黒い部分が膨張してとんでもない事になる可能性がある。いきなり走られなくなる可能性だってあるし命に関わる可能性だってある。」
「つまり試してはないって事なんですね。」
「私の話を聞いていたのかね。試せばとんでもない事が起こると言っているんだ。彼女にはまだ今年最後の試合がある。それが終わるまではと思っていたんだが…」
「???急な話しをしますね。それを防ぐ為に血清で補ってるんじゃないんですか?」
「……正直なところ彼女が大会に出る間際でのギリギリで恐らく走れなくなるだろう。」
「は?どう言う意味ですかそれは…」
「簡単な事だよ。彼女に寿命がきたと言う事だ。」




