お弁当箱が2つ?
はぁ?半分嘘をついて半分俺の事を巻き添えにしている?いや確かに何かしら情報があればという感覚で聞いたのに微妙に突拍子もない事を聞いてしまったぞ。
「じゃあ何か兎川はストーカー疑惑で俺の事を何かしらはめるつもりでマネージャーなんてあんな嘘をいったのか?」
「ストーカー疑惑がどうかなのかは本人と直接その現場で確認して把握するしかないね。彼女に関してはそこそこ今の段階で売れてる女の子だから、そういった事情があっても嘘だとは言い切れない。仮に君にそんな事をしてまでしてわざわざ朝からの教室での周りからの嫉妬を浴びせさせてまで君の事を呼び止めたりするかい?」
「いいやしないな。寧ろいつもなら周りに断って俺に話しかける要素が時たまある。でも、あれは野谷山がいるかそうでないかでの話しだからあんまり客観視なんかしていなかった。」
「そうだね。彼女の動機なんて私達からしたらこれといって何かあるわけじゃないし、寧ろたかが友人に話しかけるだけで友達にお断りを入れるのがおかしな話しだよ。けど彼女は今じゃ業界トップの一員だ。そんな子が素朴な男子に話しやお願いなんてしてたらまぁ周りからの反応は面白くないだろうね。」
「素朴な男子って…まぁ間違ってはいないが…」
そこまでの的確な指摘はいらないんだけどな…
「ふふん〜そんな君に私からちょっとしたアドバイスをあげようじゃないか。まぁ別にこれといってというアドバイスじゃないんだけどね。」
「アドバイス?情報を共有してくれるだけじゃなかったのか?」
「それだと今の君はどうやって兎川菟に接したらいいか分からなくなるよね?そうなっちゃうと私としても、君にお願いした兎川菟の聴集も出来かねなくなりそうだからそれだと私の仕事に支障がでちゃうんだよ。だから少しだけサービス…今回は特別に依頼料は無しにしてあげるよ。」
そんな風に片目をつむりウインクをする小橋。仕草はみたまんま可愛い類いなのだが……
「ん?どうかした?」
「性格がこれだもんな勿体ない…」
「だから何が??」
「いや気にしなくてくれていいそれよりもそのアドバイスをくれないか。」
「いいよ、しかしここに来てただ兎川菟の事だけ話してもあれだし…」
「?」
小橋は近くにベンチの方へ移動し座り手を隣にポンポンと叩きながら何やらこちらを誘導するかのような仕草を仕向ける。
「ほら、一緒にお昼を食べながら話そうよ。どうせまだ何も食べないでここに来たんでしょ?見た感じ何も買ってきてはいなさそうだしね。」
ギュルルル〜
「うっ…」
そういえば兎川の事で早く話を聞きたかった為に売店に行くのもすっかり忘れていた。なので俺はそのまま彼女になすがまま隣に座り持っていた巾着袋を開けだし昼食を一緒にする。
「でもお前のぶんの弁当までいただくわけにはいかないから何かやっぱり売店で売れ残りの物を…」
カパ!
カパ!
「え?」
「大丈夫だよちゃんと2人分用意してあるからね。」
何故かドヤ顔をしながら威張る小橋。いやそこで威張られてもどう反応を返せばいのか…
「何で2人分何か用意してるんだ?俺がわざわざここで一緒に昼飯を食べる予兆でもしていたのか?」
「そんなまさか私は未来預言者じゃないんだからそんな芸当な事はできないよ。それに私はこう見えて弁当を2つ分用意する女の子だから何かあった時の為の保険として用意していたんだよ。」
どんな保険要素だよ。それにこう見えてと言われても制服にマントみたいなのをつけている奴がそう言っても全然カッコがつかんぞ。
「それに現に今こうして役立ってるわけなんだから何も問題は無かったしね。」
「そうかもしれんが…いや何か妙な感じがするな。」
そんな疑問を抱きながら俺は彼女のもう一つの弁当を受け取る。中身は当然彼女と同じ弁当の種類色鮮やかな健康面でも気を遣ってる様なヘルシー弁当だ。
「おお〜何か何気に女子の手作り弁当を食べるのは初めてだな。」
「!?………蕾先輩とかに作ってもらって食べてたとかないの?」
「いやそんな事は無かったよ。てか作ってもらう理由なんてそもそも無かったしな。」
「へ〜ふ〜ん、そうなんだ。」
なんだ?何処となく素っ気ない対応になったが、何か妙な点とかあったりしたのか?
「それじゃあいただきます。」
「………ゴク」
俺は彼女の作った弁当に手をつけ、まず美味しそうな卵焼きを口にしかみしめる。
「…………うん、美味い。」
「え、ほ、本当に?」
「ああ美味いよ。普通に美味い男子の好みに合う様な味付けだし、何よりも昆布だしがきいていてパンチがいいな。他のもどんな味なんだ?ってどうかしたか小橋何か顔が真っ赤だぞ。」
「い、いやその…私男の子にそうやって、褒められるの初めてだから凄く嬉しくて…ちょっと、驚いたというか…」
「…………」
「…………」
な、なんだこの気まずい空気は…単に弁当を食べて美味しいっていっただけだぞ。なのにそんなリアクションされたらこっちが気恥ずかしくなるって…
「いや、でも本当に美味いから他のおかずもどんな物か気になるし食べてみてもいいか?」
「も、勿論だよ!良かったら私のお弁当も食べる?」
「いやそれを食べたらお前の分が…」
「ううん!大丈夫大丈夫だから!食べて食べて!」
小橋はそういいながら俺にグイグイと弁当を差し出してくる。いや気持ちは嬉しいんだが…
「小橋この弁当を渡したらお前が昼過ぎまで恐らく耐えられないと思う。だからちゃんとお前も弁当を食べてくれ、でないと放課後の仕事の方に手がつけられないだろ?」
「あ…そうだったね。ごめんありがとうすっかり忘れてたよ。」
小橋はそういいながら俺に差し出した弁当を引き下げ大人しく食べ始めそのまま兎川のさっきのアドバイスの件について聞き出す。
「所でさっきの話の続きなんだが…」
「ああ、兎川菟のアドバイスの話しだったね。このままお弁当の事だけで忘れそうになるとこだったよ。」
いやいくらなんでも弁当の話題だけで終わるのはさすがに何しにここへきたって話になる。変な所で思い出してくれて助かったっていうより言って良かった。
「彼女に関してのアドバイスは君が1番のアドバイスだったりするかな。」
「すまん意味がよく分からんのだが…」
「まぁ話は最後まで聞いて聞いて…兎川菟はああ見えて臆病な所がある。言ってしまえば誰かが側にいる事で何かしらボロが出る可能性もある。さっきも言ったけど、彼女は信頼を持つ相手にしか君にああ言った頼み事はしない、だから、君が必要となりマネージャーの候補として選んだんだ。」
「兎川のそう言った事情で俺へ接触したのは単に都合のいい解釈だけで選んだのかとも思ったりしたんだが…そこまで念押しされたらそうなのかって納得してしまうな。でもそれがアドバイスっていわれても…悪いが全然アドバイスには捉えられないな。」
「ふふん〜それは君がまだ彼女との関わりを持ってないからそう言えるんだよね〜今日の放課後彼女と接してみて、どれだけ君が彼女にとっての存在で、安心感を得られるという様な顔なのかと言うのを直接見れば私の言った事が理解できると思うよ。」
そうは思えないんだがな。
「さてそれじゃあお昼休みも終わる頃だしそろそろ教室に戻ろうとしますかね。」
「ああ悪いなわざわざ時間を取らせてしまって…」
俺達は互いに食べ終わった弁当の蓋を閉め昼休みを切り上げようとする。
「そんなのいいよたまにこうやって君とお弁当を食べると言うのがもしかしたら今後あるかもしれないからね。その時はまた作ってあげるよ。」
「ん?その言い方だと今日の分も俺の為に作って来たって言い方に聞こえるんだが?」
「やだな〜今のは言葉の例えだよ。そう言う捉え方は自意識過剰だからあまり恥をかかない発言をした方がいいよ。」
なんだろ何故かマウントを取られた気がするが…向こうも向こうで勘違いする言い方をしたから俺が間違った言い方なのかどうか判断つかなくなる。
「あ、弁当箱洗って返さないとな。」
「ああ〜いいよいいよそれぐらい、私が持ってきたお弁当だし君に洗ってもらうのも悪いからね。」
そう言って俺が持つ弁当箱に小橋は手を伸ばそうとするが、俺は彼女の手に渡す気はなくそのまま包んだ弁当箱を後ろ側へ隠す。
「え?」
「悪いなここでの弁当の貸しは作りたくないんで、洗って返す事に決めた。」
「だから別にいいって、言ってるじゃん。」
そう言う彼女の言葉に俺はどうしてもやっぱり渡す気にはなれなかった。何故ならここで2つ弁当を用意して来た事で先程の違和感を感じたからだ。ここでそのまま弁当を返せばまた何か妙な頼み事をされてしまうと厄介だと思いとりあえずこの弁当箱を持って帰って洗い後日彼女に返し改めてお礼を言うことにしようと今決めた。
「残念だけど、俺義理堅いたちなんでな。そこに関しては我儘は通させてもらうよ。」
「変な義理人情ね君って……はぁ〜そこまで言うならお願いしようかな?…けど本当に別にいいんだけど洗って返さなくても…」
「いい加減諦めろ。このままこの話を続けると堂々巡りになるから大人しく俺に洗わせるんだな。」
俺は無理矢理話をここで終わらせそのまま先に教室へと戻っていく。
「ああ〜行っちゃったか…まぁ私は気にしないからいいんだけど、本人もそれを気にしてるというのはないからそれもいいんだけど…問題は周りの反応だと思うんだよね〜神楽坂君曰く恐らくだけど、何かしら恩を売るわけにいかないとか思ってたりしたかもだけど、今回はそうじゃなくて、単純にそのまま弁当箱の包みを持ったまま教室へ戻ったらちゃんと見ている人からしたら勘繰られちゃうと思って私は静止したんだけど…今頃どうなってる頃やら…」
………教室へ戻った一星
「あれ?神楽坂君お弁当箱なんて持ってたりしたっけ?教室を出て言った時そういうの持っていなかったよね?」
「え?ああ、さっき一緒に食べてた奴がいたんだ。そいつから弁当を分けてもらってな、それで食べ終わったから洗って返すっていったんだよ。てかよく見てたな野谷山。」
「ふ〜ん、じゃあそのお弁当箱女の子から作ってもらったお弁当なんだね。」
「え?」
ダダダ!
ダダダ!
ダダダ!
何だ?何故か周りから一気にこちらへ向けてくる視線が痛い気がする。
「いやその、何でそう思ったんだ?」
「だって朝いきなり菟ちゃんに呼び出されたからもしかして菟ちゃんから貰ったお弁当なのかなって…」
「いや違うってそれとこれとはまた別であって…」
「じゃあ菟ちゃんからは別で何か貰ったりとかしたんだ。」
ギラン!
ギラン!
ギラン!
「いや何でそうなんだよ!てかそう思うなら本人に直接聞いて…ってあれ?」
「菟ちゃんならお昼からアイドルの仕事だから午前で終わりだよ。後周りから殺気が漂ってるから気をつけた方がいいかもね。」
「いやあなたがそう言った誤りな言い方をしたからなのでは?」
周りの殺気のある視線にこちらへどんどん近付いてくる気配を感じた俺は早く授業が始まってくれないかと言わんばかりの訴えを念じ続けてその間誰かに何をされるのかを不安に抱きながら今日一日はこの不穏な空気の中午後の授業を受ける事となった。




