コラボゲームの前にもう一つの問題をどうにかしなければならない件について
ガシ!
「ちょっと待ちなさい!」
俺がスルーしようとしたのを慌てて襟首を持って掴む美森。
それを姫乃は俺達を交互に見て慌てふためきながらオロオロとする。
そして思いっきり首が締まりそうなのを堪えながら踏みとどまり俺は振り返る。
「な、何すんだ。こ、殺す気か…」
「殺す気かじゃないわよ!それよりも大変な事が起きてるのよ。」
「は?何が大変なんだよ。……てかそんな事よりはさすがに酷くないか。一応俺も命はほしいわけで…」
「スマホ!スマホみていなの!」
「え?スマホ?……うわ。めっちゃメッセきてるし。しかも着信も多数。本当に何かあったのか?」
「だからそう言ってるでしょうに…ああもうここで話してたら注目の的になるから移動するわよ。」
「は?移動って何処に?」
「使われてない家庭科室。そこに集まっているか。ああ、後姫乃ちゃんもついてきて。ここにいて1人だけ置いてけぼりというのも後味が悪いから。」
「え?でも私には関係がない話しでは…」
「なくはないと言えば嘘になるかもしれないわね。関係性は少なくともあるかもしれないし。」
「は、はぁ…」
「ともかくこのまま2人とも急いで来てちょうだい。」
何がなんだか分からない俺たちは美森に連れて行かれるがままついて行き使われてない家庭科室へと足を運ぶ。
正直もう遅刻寸前と変わりようがないのだが…何やら緊急の為そのことは後回しにした。
「はぁはぁ……いいあなた達中に入っても絶対に動揺はしないでよ。後取り乱したりもしない事。若干の狼狽は仕方がないかもしれないけれど、中身は小学生なりたての女の子だから。」
全くわけのわからない忠告を受けれらる俺達。
その言葉の意味する理由は分からないが…ひとまず中にはそう言った精神年齢の子がいるという認識でいいのだろうか。
そんな事を思いながら美森姉が扉を開け俺達2人は中へと入っていく。
「………」
周りには誰かを囲むようにして立っている姿である宇佐木田さん。林音。海未が何やら心配しそうにしながら俺の方へと見る。
だけど何を心配そうな目で見ているのかは分からない。
だがそれが何なのかを聞かなければ展開が進まない為俺から話を切り出す。
「海未達?…何をしているんだ。誰かそこにいるのか?」
「!?星君?星君だよね。」
「え?星君?」
何故だか懐かしい感じがする呼び名。
もうその呼び名は呼ばれないものとばかり思っていたのだが…
バン!
そのあだ名を呼ぶ人物が勢いよくそこから立ったのか3人に囲まれていたのをおしのけコチラへ飛びこんでくる。
ガバ!
「星君!星君だ。星君の匂いがする。」
「……山茶花か?」
「うん山茶花だよ。みんな…みんな大きくなってたからビックリしたけど、やっぱり星君は星君なんだって思ったら嬉しくて飛びついちゃった。」
「……何がどうなってるんだ。」
状況がよく読み込めず。
俺は美森姉達の方へ視線をむけ理由を伺う。
「………朝私がたまたま朝練で早起きして山茶花の家の前を通った時懐かしい鳴き声が聞こえたのよ。その鳴き声には昔のあなたの呼び名を呼んで泣いていたのよ。」
「は?俺の昔の呼び名を呼んで泣いていた?……すまんそれだけでも話しの意図が分からない。」
「そうね。具体的に言ってしまえば記憶が元に戻ったと言えばいいのかしらね。」
「は?記憶が元に戻っただと?」
何故だ。普通なら喜ぶ場面なはずなのに何処か喜べない自分がいる。
でもその理由は既に明白だ。
だって今俺に抱きついてきている山茶花は今の山茶花じゃなく…昔の俺達が1番よく遊んでいて泣き虫で甘えん坊な山茶花なんだから。
「……ただ単に記憶が戻ったわけじゃないんだよな?」
「ええ、きっと何かしらの影響があったのは間違いないでしょうね。例えば昨日の出来事…もしくはその前に起こった再試験での体への負荷…どっちかは分からないけれど今の山茶花は昨日まで接していた山茶花じゃないわ。……はぁ〜いずれ起こるかもしれないと思っていたのだけれど……ヒヤヒヤしていた毎日がこうもポンときてしまうとはね。」
「ええ、でも、これはコレで良かったのではないのですか?今からでも山茶花ちゃんにはコレからの人生を歩んでいってもらったらいいと思います。」
「そうだよ!昔の山茶花ちゃんなら私的にも甘えてくれたらそれはそれでいいって思うしまた一からやっていけばいいんだよ。」
「……それはどうかな。」
「え?どういう事林音ちゃん。」
「2人の言い分も勿論僕的にも同意はするよ。でもねそれをしたら今までの山茶花ちゃんはどうするつもりなの?否定をして昔の山茶花ちゃんは要らないからはいポイって捨てちゃうのかな?」
「そ、そういうつもりで言ったんじゃないんだよ。ただ私は今の山茶花ちゃんなら周りともっと共有できる存在になるんじゃないかとそう思って…」
「うんうん!私も今の山茶花ちゃんも前の山茶花ちゃんも好きだよ。どっちが嫌とかどっちがいいとかそういうのないんだよ。」
「2人ともそんなの100の承知よ。林音ちゃんはそれを分かってて2人に悪戯をしただけにすぎない。2人の度胸を試したみたいな形だから気にしなくていいわ。それよりも…」
美森は2人のカバーをしつつ山茶花の方へと近づく。
「ねぇ山茶花。私達が体が大きくなってもちゃんと私達の事はわかるのよね?」
「う、うん。美森ちゃんだよね。そっちの青い髪の子は海未だよね?見てビックリはしたけれど女の子らしくなってて驚いちゃったな。」
「ううっ!か、可愛すぎますよ。だ、抱きしめてもいいですか!」
「今は駄目。その気持ちは抑えておきなさい。」
「そ、そんな〜」
「なら山茶花。今のあなたは何才かもわかる?」
「……7歳じゃないんだよね。」
「さすがは山茶花ね。この年での山茶花は既に塾にも通っていたし何なら他の子とは違って頭も良かった。そういう冴えた所は誰かさんのマネをしたくなったからなのかしらね。」
「?」
山茶花は美森の言っていることに理解できず首を傾げながら本当の子どもの様にして指を口元に当てながら?顔をする。」
「さてとじゃあ今の状況を読み込めたという事で本題といきましょうか。今の山茶花についてこのまま授業に出すのはよくないというのは皆んなも分かってるわよね。」
「ああそうだけど……いやその前に美森姉はどうやってここに山茶花を連れてきたんだ。別にここへ連れて来なくても家で待ってもらったらいいんじゃ…」
「山茶花の家は…ご両親は共働きしているのよ。いつもは1人で起きて1人でやっている山茶花だったのだけれど…」
「朝方家の前で泣いてそれを慌てて家に入ったって事なんだな。」
「ええ。けどまさかそんな時が来るとは思っても見なかったわ。何せこれまでそういったのがなかったから親御さんは安心して共働きをする様になったのも。もしこの事をしれば親御さんはいつまた山茶花がパニック状態を引き起こすかどうかも分からないから仕事を休むハメになるかもしれない。それもあの家を売ってまでもね。」
「……そんなに過酷なのか山茶花の家は…」
「そうじゃないわよ。もし記憶が戻った場合1週間…1週間で大人になった山茶花が元に戻らなければそうなるって話を聞いただけ…でもまだ分からないというのが1番の答えね。」
何て事だ…頭が痛い。まさかもうこんなに早くやってくるとは…単なるおふざけなのかと思いもしたが…自体は深刻という事なんだな。
「……じゃああの時山茶花が言った言葉の意味ってこういう事があるかもしれないからあんなことを言っていたのか…」
でもなぜだ。何故急に山茶花は記憶が元に戻った。
何かしら理由があるのは間違いないはず。
まずはその原因を探らないといけない。
………
「あ、あれ?そういえば山茶花ちゃんは何処に行ったの?」
「え?」
いつのまにかいなくなっていた山茶花。
姫乃に言われて気付き周りを見渡すと山茶花の姿は消えていた。
「いやいや今までそこで座っていただろう。まぁコッチに抱きついてきて慌てて椅子に座らせてたはずなのに…」
「うん私もそこまでは見ていたよ。そこから私は美森さんと神楽坂君の話しに集中して聞いてたから完全に視線を晒していたかも。」
「残念だけど僕も完全に注意深くみていなかった。何せ山茶花ちゃんだいぶ落ち着いて座ってたし何よりも静かだったからね。」
「じゃああれか、全員山茶花を見落としていたせいで何処へいったかは分からないって事なのか…いやでもさすがにそんな事は…」
「あ、山茶花ちゃんならお手洗い行きたいって言ってそのままトイレの場所に指をさして1人で行きましたよ。流石に記憶喪失が元に戻ったんですから1人でもいけるよね?って言ったらうんって言ってたので…」
なるほどまさかの1人で行かせたという犯人の口から聞けるとは思いもしなかったが…完全に海未が確信犯すぎてやってしまったと後悔する。
「いや後悔するのは後だ!今山茶花を1人にしたのはまずい。あれからコッチに戻って来てないというのはあまりにもやばいって!」
「そうね。今はもう授業が始まっちゃってるわけだし先生にでも発見されたら大変な事になるわ。」
「ひとまずこの話は後にして山茶花を探そう。悪いが姫乃もお願いできるか。」
「う、うん勿論です。一応もしかしたら私にも責任があるかもしれませんしね。」
「?」
「手分けして探すわけだけど、それぞれの階のクラスで分かれた方がいいと思う。一年のクラスの皆に行くって事はないと思いたいけれど…」
「可能性としてはなくもないだろう。とりあえず全員それぞれの階に行って探そう。その後またここに集合って事でいいな?」
それぞれ了解したと言葉にして格クラスの階に分かれて探す。
何事もなければいいんたが…




