バーチャルムムチューベ ホシノ ナナノ
あの後ひとまず美森姉の機嫌を直しつつ屋台で売っていたクレープをご馳走すると本人は機嫌をよくしてくれて何故か赦しを得てもらった。
何に対して怒っていたのかは分からないがクレープ1つであそこまで機嫌を良くしてくれるのなら安いもんだ。
そしてその後俺は美森姉と別れてそのまま帰宅し先程お願いしようとしていた件を簡潔にさせてメッセを姫乃へと送る。
「……送信っと。」
ピロリン!
「ふぅ……そうだ鶴海がやっているバーチャルムムチューベの配信確か後1時間ぐらいで始まるから念の為に他の動画投稿とかも見てみるか。」
俺はスマホのムムチューベのアプリを開き鶴海がバーチャルムムチューべの出演している動画を見る。
「………ゲーム配信が多いな主にホラゲーか…インディーゲームが沢山投稿されているのをみると…コイツ相当なホラー好きだな。しかもなんかやたらとリアクションもいいし何だか本当に好きじゃないのを実感するな。」
でも妙に違和感があるのは何故だ。
普通の動画投稿者とか稀にゲーム配信とかは見ていたりするが…
「ここまで大袈裟に驚く必要性あるか?十分に視聴率も取れてるし何よりもメンバーズやらスパチャも多い……正直な所こんなリアクションをするような奴に見えるんだが……演技か?」
ピンポーン!
「あ?誰だこんな時間に…てか後少ししたらアイツのチャンネルが始まるから居留守でいいよな。」
ピンポーン!ピンポーン!
「………」
ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!
「だぁ!誰だよ!何回インターホン鳴らしてんだよ。近所迷惑もいいところだ!」
あまりにもうるささに俺は玄関の扉を開けインターホンを鳴らし続ける奴を追い払おうと開けた瞬間。
「ああ!やっと開けてくれました。もう遅いですよ先輩!ああ〜後少ししたら配信始まるのに急いで準備しなくちゃ。」
「………いや待て待てどう言う事だ。悪いがこの状況に対して理解できてないのは俺だけか?俺だけなのか?明らかにおかしいよな。本当なら俺の家にくる時点でおかしいよなって何色々と俺の勉強机に設置を組み立てるわけ?」
「え?配信の準備だけど?」
「配信の準備だと?待てまずは説明をしてくれ。今何て言ったんだ。」
「ああもう〜先輩この机微妙に傾いてててセッティングが色々と不向きですよ。あでも大丈夫ですよ。そういう時の為にセッティング補強材を持ってきましたから。」
「聞いてない聞いてない。誰が好んで自分の勉強机にバーチャルムムチューベーの為のセッティング補強材に興味を持つんだよ。」
「あ、すみませんがそこの鞄からカメラアングルのメモリーのチップとってくれませんか?カバーケースに入ってるのでそれをとってくれればOKです。」
「おい人の話を聞きやがれ…何でそう坦々と作業がすすめられんだ。てかもうなんかムムチューベーする為の形になりつつあるんだが。」
「もう先輩早くしてくださいよ!時間ありませんよ。ツルミの動画配信みたくないんですか?」
「お前……本当後で覚えておけよ。」
「そう言って優しくしてくれる先輩大好きですよ。」
結局なすがままに鶴海の言う通りにアレコレ鞄の中から鶴海が配信する為の機材の一部分を渡しつつ俺はその傍で鶴海がコレから配信するゲームを横から眺めて見る。
ヴィーーーン!
パソコンのみんなが知ってる様なデスクPCで使ってるパソコンで鶴海はやっていくのかとばかり思っていたのだが…自分の手元にはまるでスクリーン映像のようにしてコレから操作ができるモノが映し出され鶴海は腕まくりをして深呼吸しながら動画が始まるほんの2、3分前の心の準備をする。
そして俺はハイテックバージョンのパソコン?みたいなのを眺めつつ唖然とする。
「すぅ……はぁ……よし大丈夫。いけるツルミならいける。うん!」
自分にいけると意気込む為の精神統一か…やっぱり鶴海でも本番直前でも緊張するんだな。
そして画面にはBGMを流しつつ画面にひょっこりと現れだす謎の動物方の耳をつけた人が現れる。
もちろんコレは機械であってAIによる動作で動かされる立体ビジョンな為本物ではない。
本物ではないのに…
ニョキ!
「みんな〜お待たせしてごめんね〜ホシノ ナナノ登場だよ〜待っててくれたかな〜」
耳が萎れたり立ったりして愛情表現の出し方を現実の猫や犬と同じようにしてその仕草をアピールしつつ皆んなのコメントを拝啓してそのまま言葉を返すという鶴海のスタンス。
成る程な確かに周りにもそう言ったバーチャルムムチューベがいたりするが、鶴海の場合それを上手く人間となんら変わらない表情と仕草で周りの受け答えをしているわけなのか……ちょっと登録者数が上がる理由分かった気がするな。
「うんうん…えー!ひっど!ちょっと待たせただけで、そんな事いうの!……ああ!待って待って!そんな簡単に違う人の所へ移りかわらないで!」
更にはそう言った冗談での登録者を減らさない為の露骨なリアクション。
コレも相当な練度を重ねた奴にしかできない対応だぞ。
正直あの鶴海がって思う所もあったりはするが…意外にも驚かされたぞ。
「もう仕方ないな〜今回は特別に許してあげるから次回そんな嘘をつくやつはブロックしちゃうからね。………嘘嘘 笑 そんな事しないから安心して安心して…と言う事で!皆んなも待ってたかと思うんだけど、お待ちかねのホラーゲーム今日も生配信でやっちゃうよ!……ん?何々いつもホラゲーばっかでリアクションももうわかってるから他のやつやってよだって?………おおい!君は今言っちゃいけない事をいったぞ!配信者に対してそれは禁句な言葉だ!ホシノ、ショッキング!」
おお、ここでちゃんと相手のマウントを上手く受け止めてでの返し…それもまあ配信者としての鏡だな。
「ふふ、けどそんな君達も僕は嫌いじゃないよ。……ってコラ!そこ!気持ち悪いと気色悪いとかいわない!純粋に傷つくだろうが!……え?別に中の人じゃないから傷つかないでしょう?……そういう問題じゃなくない!僕側の操作している方のメンタルに支障があったりするんだよ!そこのところ理解してる?understand?」
やば…めっちゃ受けてんだけど…今のを日常会話でしてたらやっぱり冷めていたんだろうな。
こうやってアニメーションとかでのAIの動きだからこそ周りは面白つつ受けてるんだよな。
時代錯誤だな。
「ふぅ〜じゃあ今から始めるけど、僕がホラーゲーム苦手なのはみんな百の承知の助だよね?変に驚かす様なコメントは避けてちょうだいね?……え?もう何かいたりするんじゃないかって?……はきそこの君今私を脅かした罰として今から10分間配信とめま〜〜す。」
嘘が下手くそだろう。
そんなんで止めたりしたら放送事故じゃないか。
……ん?
しかし鶴海は配信の一部分声とAI操作のボタンを押しミュートにして操作の方をロックする。
え?嘘だろう。マジで一旦ストップする気なのか?
「……先輩今から私本当の本当に自分でも嫌なぐらいの嫌いなゲームをします。だから…」
「だから?」
ギューーー!!
「ずっと手を握っててほしいの〜」
「こどもかよ!」
あからさまにホラーゲームを怖がる鶴海。
涙目になりながら頬を膨らませてコチラをみてくるがそれは俺のせいなのか?完全に自業自得だよな?
「うう〜だってだって……」
「因みに今止めているのはコレも演者としてのアレなのか?」
「うん。たまにこう言った冗談視聴者さんがいたりするからたまにお決まりのこういった行為をするんです。そしたら受けがよかったのでかなり好評でした。」
「世の中には分からないやつがいるもんだな。てかいいのかほったらかしにしてたらまたコメントが荒れるんじゃないのか?」
「ふふ、自慢ではないですが、こういった放置の仕方も動画としての醍醐味なんですよ。見ててくださいね。」
そう言って、鶴海はミュートをONにして動作するモーションを起動もONにし隠れていた鶴海のキャラクターのホシノ ナナノがひょっこりと現れる。
「ふふ、ビックリしたかな〜って言っても前もしたような事だからみんなはもう知ってる人もいるかもしれないって……うぉぉぉい!視聴者さん減ってるじゃねぇか!どういう事だコレは!」
そう言って動画を見ている人はコメント欄でやたらと大受けしている者もいれば草という文字で嘲笑う様な視聴者もいたりする。
しかしそんなのは関係がないと言わんばかりに見なくなっていた視聴者側なのかそのまま減っていた人数が一気に増えていきまたもや高視聴率へと変わっていく。
嘘だろう。
たんなるおふざけをしただけでこうも逆転するのか。コレが鶴海の本来たる天才としての発覚なのか。
「あ、やべ普通に録画ソフトし忘れてた。急いでつけないと…」
だと思ったのだがポカをやらかす所を見るとどうやらそうでもないような気もしてきた。
「さ〜てとお前達心の準備はいいか?コレから物凄く怖いホラゲーをやるからな。きっと度肝が抜かれてしまうぞ。」
そう言いながら本人も相当怖がっている様をみて体を震わせる。
てか今まで本当にどうやってホラゲーをやってきたんだ。人気が出ているのは分かるが正直ジャンルを変えた方が良いきもしてきたぞ。
そんな事を頭の中でよぎりつつ鶴海はホラーゲームを起動して、タイピングでメモみたいな所へ俺に向かってなのか何かを書いているのを確認する。
「ん?」
怖いから私の足にお手てを当てて励まして!
じゃないとこのまま先輩に抱きつきそう。
それはそれで配信放棄したやばいのではないのか?というよりその状態で俺はずっとお前が配信してる様を見なくちゃならないのか?
「にへ」
俺は小声で鶴海にこういう。
「……にへじゃないんだよ。」




