どっちもつかず
「悪い春野原今は東郷と2人で話させてくれないか?」
「え?……」
夢葉は夏姫の方に視線を向け何で自分じゃなく夏姫の方を選んだのかとその事だけ頭の中で疑問に浮かびながら夢葉はその場所から大人しく離れる。
「………」
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「相当息切れしているな東郷…」
「な、何?私に何か様なの?神楽坂君の言われた通りにやってるから特にこれといって不満はないと思う。それに今は邪魔しないで欲しいコレはあの子と私の問題だから神楽坂君は介入してこないで…」
「悪いがそれはできないな。正直この勝負…お互いベストを尽くす様な形で終わらなきゃ後味が悪い…だからお前が走れる最高のベストな走り方を出せる様にアドバイスをする。といってもそれがアドバイスにはならないと思ってるけどな。」
「………聞くだけ聞く。」
一星と夏姫は何やら2人で作戦を立てているのかそれを不本意に見ていた夢葉は段々と苛立ち始める。
何で先輩は東郷先輩に何かを口添えしているのですか?私は先輩の為を思ってこの勝負をしているのに…なのに東郷先輩にだけ贔屓するなんてズルイです。こうなったらこのまま2勝して先輩が私の事を凄いって思わせるようにしないといけませんね。
「ごめん待ったかな。」
「……先輩と何を話してきたんですか?」
「特に何も…強いていうから何も無かったというべきかな。」
「何も無かった?」
いやそんな事はなかった筈です。自分でも何やら本当に?というような驚愕の驚き方をしていましたから何かアドバイスみたいなのがある筈です。つまり東郷先輩は嘘をついてるという事ですが…まぁそれでも私が勝つ事になんら変わりません。
「じゃあ2人とも用意はいいかしら?」
カチャン!
カチャン!
琵心の準備の合図と共に2人はまた同じクラウチングスタートの構えを取り足に力を込める。
「東郷先輩…神楽坂先輩に何を言われたかは分かりませんがこの試合も次の試合も私がもらいます。言っておきますが言い訳は聞きませんからね。」
「そう…なら私も言わせてもらうけれど…」
「よーい!」
琵心のよーいが2人の耳に入りよりいっそう足裏に力を込めながら走る体勢を整える夢葉と夏姫。そして夏姫の口から夢葉に向かってこう宣言する。
「私どうやら実力の70%しか出せていなかったみたい。」
「え!?」
パン!
ダン!
ダン!
2人はスタートの合図と共に走り出しお互い助走しながらそのまま同じ歩幅で真っ直ぐ走り抜けていく。
くっ!少し焦りましたが何も問題はありません。このまま私が東郷先輩のペースに合わせつつまた抜けてしまえば……あ、あれ?
ダダダダダダ…
な、何…この違和感何処となく何か変な感じがする。いったい…
「どうしたの?さっきまでの勢いは何処かいっちゃった?」
「ば、馬鹿にしないでください!コレぐらい…」
ダダダダダダ…
え?お、追いつけない!?な、なんで!?
ダダダダダダ…
パン!
僅かな差で先にゴールしたのは東郷夏姫。そしてその差で縮ませる事ができなかった夢葉は息を切らしながら地面に顔を向けていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
な、何で…何で追いつけなかったの?ペース配分は確かにちゃんとしていた。私が東郷先輩の走りに追いつけるのは道理…それはさっきの2試合目で分かった事…なのに…なのに…
「何で抜かれてしまったと思ってる?」
「!?……はい。どうしてさっきの試合で私の方が東郷先輩より上なのは分かっていたのに急にあそこから這い上がってくるっていったいどういうわけですか?まさかさっき神楽坂先輩に何か秘訣みたいなのを教えて…」
「そんなので勝てたなら誰も苦労しない。寧ろそれが可能なら他の選手なんて目から鱗よ。私は単にフォームを戻しただけ、神楽坂君にそう言われて今だけ元に戻したの前のフォームにね。」
「フォーム?……は!?そうだ!あの時の違和感はそれでしたか。」
「そう俺が単に東郷の走り方を前の走り方で走ってみたらどうだと提案しただけだ。それを実践するかどうかは東郷次第…もし仮にそれが本当に走る速度が変わるなら東郷は以前からのフォームのまま走り続ける事をそのままおしたんだが…」
「今のフォームは単に走力が上がるデフォルトに過ぎない…その内自分にしっぺ返しが返ってくる。それで何度もやっていたせいか体のあちこちに負担があったりもしたの…でもさっき変えるよう神楽坂君に教えてもらったフォームだと少しだけ足の軽さを感じる事ができた。と言ってももしかしたらただの感覚的なものにはなってるかもだけど…」
そう実際に東郷のフォームの走り方自体には早々問題が生じるわけじゃない。足のバネの筋肉それが体への負担が大きいか大きくないかで変わるんだ。前のフォームでは確かに走り出す瞬間の俊足率が大幅に上がる様な形式にはなっているが…逆にそれをし続けると体の一部の何処かが故障してしまうリスクを背負ってしまう…と言っても走れる様な怪我ではないからいいものだが問題はそれを治すのに何ヶ月かかってのリハビリというのが問題になる。そして俺が教えたフォームは基礎を重心的にした柔らかめのフォーム今のままでも東郷なら俺が教えたフォームでスムーズに順位を上手く上位のキープにまで上り詰める事ができるが、それには少なくとも慣れるのが1番大事になる。今し方ではあるがあのフォームはまだ未完成で次の試合が終わってから徐々に慣らす様俺は教えた。
「それで、どうする?このままもう1勝負する?」
「いえ…私の負けです。結果は同じに見えていますし恐らくもう一度東郷先輩とやっても全く同じフォームのままやり通すのでしたら私に勝ち目はないでしょうから今回の勝利は先輩に渡します。」
「そうならいいんだけど……ほっ」
夏姫は夢葉が何とか妥協してくれたおかげで、ほっと胸を撫で下ろしながら安堵する。
「あらら?もう終わりでいいの2人とも?ここで夢葉ちゃんが追い返せればまだ窮地は打破できると思うけど…」
「大丈夫です。今の私ではまだ完全に追いつけない未熟者だという事が理解できました。きっと先輩はコレを見ての共同で練習させたいというのが目的だったんだと改めて思い返せました。」
う〜ん何だかポジティブ思考みたいに頭の切り替えしをしちゃったみたいだけど、多分一星君の場合そういう事じゃないと思うのよね〜でもまぁこの2人に良い体験をさせたというのは私としてもありがたい事だし万事OKかな。
「ふぅ〜じゃあ神楽坂君コレからお願いね。」
「…………」
「うん?どうかした。」
「いや…」
あまりにも彼女の息遣いから荒い呼吸の乱れでお願いすると言われてしまって少しばかり男子特有のアレが反応してしまいそうになった。てか別に彼女はそういう意味でいったんじゃ無いんだ深読みはするな俺…
「ねぇ?何で目線を晒すの。私勝ったのにそんな風に塩対応されると何か凹む。」
「いやちょっと視線外しただけだろ。別にお前に他意はない。」
「じゃあ何でみてくれないの?」
「いやお前もしかしてわざと言ってるのか?」
「ん?何の事?」
僅かな息遣いそれに伴ってこちらへ身体を預けてくる東郷…あまりにも無謀すぎる彼女に視線が胸の方へいってしまう。
「…………」
「どすけべ…」
どうやらこの行為自体わざとらしく彼女は俺だけに聞こえる様にそういいながらほっぺをつねる。
「いてぇし…」
「とても痛そうな顔してないんだけど…もしかしてドM?」
「んなわけないだろ。単にそっちの力が弱いだけ…いっててて!!」
「ふふ、それじゃあ〜コレぐらいならどう?ここまで大っぴらにむに〜んって伸ばしたらさすがの君でも痛いでしょう?」
「や、やめろ。は、離せ…」
俺は何でこんな事をさせられてるのかあまり考えたくもなく不本意ながら彼女の行動を抑止しようとうする。
「あの〜お2人ともそろそろ練習始めませんか〜?そこでいちゃつかれると大変目障りといいますか。」
ゴゴゴゴ!!
「あ…」
夏姫は今の状況をどうやら察する事ができたのか、とんでもなく恥ずかしいことをしているのだと自覚し一星から離れ髪の毛をいじる。
「うふふ青春ね〜あの子達が本当に一星君にとっての支えになってくれてるのが何よりも安心感が高まってホッとするわ。ねぇ3人とももそう思わない?」
ゴゴゴゴ!!
「………べ、別に神楽坂君が誰とどう仲良くしようが私にとって関係ないんだもん。」
「お、同じく私もそうですから。あんな女垂らしなんて寧ろこっちから願いさげですぅ…」
この2人は隠し事が下手なタイプなんだよなやっぱり…それは昔からあいもかわらずだが…正直それはそれで仕方がないしあっちが鈍感なら尚問題はないしな。まぁそれはさておき…
蒼脊は琵心の方へ視線を向けながらあらあらと2人の頭を撫でる琵心を怪しむ様に睨む。
「でも琵心ちゃんコレからどうするの?」
「ん?どうするって何がかしら?」
「何がってこれからの事ですよぅ…あの2人が神楽坂君の事を好きになってしまったら琵心さんはその何ていいますか…」
「うん?別にあの2人が一星君の事を好きになる件は特に何もないんじゃないかしら?」
「はぁ〜」
「はぁ〜」
心底溜息を漏らす2人は今の蕾琵心の心境に相当危いという事が本人に自覚が全くなくなっているのを見て呆れる。
「え、えーと私何かこの段階で間違いでも起こしてるのかしら?」
「蕾先輩本当に何も分かんないですか?アンタの目的はあの2人を通常通りの順位に慣らすというのが目的だったんだろ。」
「そうよだからこうして一星君のおかげで2人は一星君と一緒に…」
「一緒まぁ聞こえはいいかもしれんが…側から見れば一星の周りにいるあの2人と一星はどういう関係にみえるんだ?」
「え?」
蒼脊に言われどういう事なのかと改めて一星達の仲良さを覗く琵心は冷や汗をかきながら純粋に焦りだしてしまうのに気付く。
「………もしかして私やっちったのかな?あははは…」
笑ってる場合じゃないよ…
笑って場合じゃないですよぅ…
笑ってる場合じゃねぇんだよな…




