下手くそな芝居
多分コチラの意図は当然理解している筈だ。向こうは向こうで若干罪悪感めいたものもありつつこう言った刺々しい言い方をしているんだろう。まぁコレぐらいの事で弱音を吐いてしまったら仲直りなんて意味ないけどな。
「なぁ香澄ちゃん。」
「なんですか先輩?今私君津家さんと話しているのですが…」
「差し出がましくなかったらでいいんだが、少しだけ彼女フォローをさせてくれないか?」
「フォロー?もしかして事故があって頭でも打ったから人格が変わったなんて言い方しませんよね?」
「………ああ〜それもそれでいい具合に話せたかも…」
「口顎に手を乗せながら成る程成る程じゃありませんよ。何ていう言い訳を作る気なんですか本当に…」
「それはそれでよかったのかも…」
「よくありません!それでよかったとしても今後の付き合い方って言うのがあるのですよ。」
「確かにそうだね。ごめん今のは反省すべき点だった。」
茉莉奈自らが一星の提案というより香澄が単なる思いつきでいった発言の肯定をしだしたのをちゃんと考えながら反省する。その事にふふと笑い出す海未。
「ちょっとお姉ちゃん笑い事じゃないんだよ。お姉ちゃんも関連してるんだからちゃんと話に参加して!」
「ごめんなさい。でもあまりにもその本当にこの子が香澄を虐めてたいうのが信じられなくって…」
「お姉ちゃんは物事を楽観視しすぎなんですよ。ちゃんと前の事も含めて話して!」
「もう〜そんなに怒らないで下さいよ。ちゃんと分かってますよ。」
香澄に言われちゃんと姿勢を正し前を向く海未。
「茉莉奈ちゃん。わざわざ私達に会って、自分のしでかした事を謝っていただいてありがとうございます。」
「い、いえそんな!」
「そうだよ!お姉ちゃん何でお礼なんて言うの!」
「香澄は黙ってて…ちゃんと私の口から話すから…」
「は、はい…」
へ〜海未のやつちゃんと場の空気というか状況を分かって礼儀正しく対応するんだな。ちょっと意外な一面を見てしまった。ってコレは失礼だな。
「茉莉奈ちゃん私は単にお礼を言っているんじゃないんだよ。単にお礼はお礼としてという意味でありがとうって言ってるだけ…話しとしての本筋はここから話すね。」
「は、はい…」
「茉莉奈ちゃんはただ権力の力で私を振り向かせようとはしなかった。うんコレはとても偉い事だと思う。私個人としてはとてもいい事だと思う。」
「は、はぁ…」
おい海未やたらとベタ褒めするから本人若干戸惑ってるぞ。さっさと本題としての話筋を言え…
「けどねやり方なら他にもあったんじゃないかな。例えば自分の力でもっとこう周りにアピールするぐらいの全力投球をするとか…そう!私みたいにアグレッシブな感じで接するみたいな。」
「………え、え〜と。」
「お姉ちゃんいったい何が言いたいの?」
「え?ですから茉莉奈ちゃんは自分の過ちを認めて謝ってるから私はそれを注意基ヒーローとしてのアドバイスをしているのですよ。だよねイックン!」
「いやもういい。話がこん柄ってくるからお前はちょっと黙ってろ。」
「がーん!イックンにあしらわれました!な、なんで!」
「はぁ〜もう一瞬真面目な姉になってちゃんと聞く耳を持った私が馬鹿でした。……え〜と話の続きは…」
「茉莉奈ちゃんの謝罪に関してだな。まぁそれが自分達に関わってると言う事を香澄ちゃんは伝えてくれてはいたが、ひとまずその部分を外して話せてもらうぞ。代弁する気はなかったが、もういいんじゃないかと思って俺が話しに介入させてもらう。」
「え?でも先輩横入りはしないって…」
「ああでもこのままだとお前押し切られるだろう。だからちょっとばかり一押しさせてもらうよ。」
まぁ俺が言ってそれで収まるなら既に解決してるなら話した所で無意味にはなるが…一応補填みたいなのでカバーする他ないな。
「茉莉奈ちゃんが事故にあって色々と心の中で整理をしてお前達に謝るという判断をした。確かに香澄ちゃんの言う通り彼女の意思表示には少しばかりかけている部分があるかもしれない。だけどそれは彼女自身コレからお前達と一緒に償いたいという僅かな志がある。それを考えたら彼女はもうちゃんと罪を償っていると言ってもおかしくないんじゃないのか?」
「はぁ〜それは私でも分かっていますよ。先輩に言われなくてもその辺は理解しています。しかしそれを先輩の口から言ったら意味がないんじゃないんですか?私が受けた心の傷と痛みはどうあっても同じ目にあった人にしか分からないものとなっています。その痛みと傷を負った事のない先輩に言われても説得力皆無です。」
まぁそうくるわな。だから俺があれこれ言ったところで自分が味わってない経験を側から見ていた人に説得されても突っ放しのが当然の様に香澄ちゃんは言ってくる。そして横側であたふたしている海未はどうすればいいのか分からず一面相している。
ギュ!
「………」
こっちはこっちでもう無理そうなのか、俺の裾をギュッと掴みながら不安を装いもう無理なのかと言うぐらいの暗い顔をしながら下を俯き半ば諦めかけている表情が伺える。
「……はぁ〜たくどいつもこいつも何で思った事を言ってるのに素直に許すと言わないんだ。正直俺がここにいた所で本当に意味がないって思えてくるな。」
俺は席を立ち上がり机にお金を置く。
「え?先輩コレって?」
「後は当人同士の問題だ。変な腹の探り合いをして溝が埋まっていけば行くほど余計に小競り合いになっちまうだろう。だから後は当人同士で解決しろ。そもそもコレはお前達の問題だ。」
「い、イックン…さすがにそれはちょっと…」
「へ、へぇ〜先輩はそうやってこんなあやふやにして帰っちゃうんですね。私達の事をちゃんと一途に考えてくれる人だと思ったのに見損ないました。」
「あ?」
バン!
俺はお金を置いた机に思いっきり拳でドーンと叩き威勢のよかった香澄は萎縮する。
「ここで俺がどうのこうのと言われる筋合いが何処にある。お前達が解決する問題をコレ以上巻き込むのはやめてもらいたいんだがな。」
「で、でも!」
「でももへったくりもあるか!誰の問題だ!コレは俺が介入して片付ける問題か?違うだろう。俺がここで話した所でお前に何を言おうがお前の気持ちに沿う様な説得力はもうできないと思っている。まぁ確かにお前らからしたら責任放棄と思われても仕方がない。とりあえず納得するまで話せじゃあな。」
「あ!イックン待って!」
一星がそのまま席を立ち店を出ていきいきなりの横暴な言い方をして2人は困惑しながら唖然とし海未はそのまま出て行った一星の後を追いかけていく。
「な、なんなの!あの先輩!結局何とかするっておきながらただめんどくさくなって帰っていっただけじゃん!うわ!マジでないわ!引くわ!」
カランカラン!
「はぁはぁ…イックン何処に……あれ?」
「すぅ〜はぁ〜やっちまったか…」
「イックン?」
「あ?お前追いかけてきたのか?」
「そりゃあそうだよ!というかどうしたのそんな後悔のある顔をして…」
「コレは後悔じゃなくて、効果があったかどうか心配してんだ。」
「効果?」
「そう…本当にあの場では最低な行為をしたのは間違いない…でもそれをする事であの2人から俺の一変した態度を見てどう思う?」
「え〜と……ただのヤケクソになって帰っていったクズな先輩?」
「………やけにストレートな言い方だな。いやまぁあってるちゃあってはいるが…語弊があってあまり受け止めたくないな。」
「やっぱり後悔してるんじゃないですか。」
「後悔は違う。効果がなければ後悔はするが…まぁ後はあの2人の会話を聴いてだな。」
俺は海未を手招きしてこちらへ呼び寄せ海未はキョトンとした顔をしながら一緒に店の端っこ側に寄って壁にもたれながら地面に座る。
「イックンどうしてここに座る必要が?ってイックン!」
俺は隣に座った海未の方へゆっくりと近づく。近づいた瞬間海未は何故か目を瞑って何故か顔を前へ出す。
ど、どうしようもしかしてコレキスされちゃうのかな。でもなんでなんで、こんな時にどうして!もしかしてあの場ではそう言い繕ってわざと私と2人っきりになるための口実!だとしたらイックンは私の事を…
キュ!
「ふぇ?」
「ほらコレで声が聞こえてくるだろう?」
「イヤホン?」
「そう無線イヤホン範囲は広いから向こうの声がちゃん聞こえる筈だぞ。」
「聞こえるって……いったいなんの?」
ザーーー!
僅かなノイズ音が聴こえる中何処かで聴いた声のある声が耳に入ってくる。
「………ちょっと待ってイックン。この声って…」
「ああその通りだ。」
「でもどうしてこんな事を…」
「本音が聞きたかったからな。何せあんな下手な芝居をしたんだ。ここでアイツらがどう口論するのか聞かないと…」
「けどイックンコレはさすがに駄目なんじゃないの?言ってしまえば盗聴ですよね?お店の人も許してくれないんじゃ…」
「ああその辺は大丈夫。ある奴が根回ししてくれたからな。」
「根回し…」
海未は物凄い険しい顔をしながら一星の顔を伺う。
「それってもしかして林音ちゃんですか。」
「………ノーコメントで。」
「また林音ちゃんなんですね!もうイックンは直ぐに林音ちゃんばかりに頼って少しは私に頼ってください!」
「何に怒ってるんだお前は!揺らすな揺らすな!気持ち悪いだろう!」
「ぷく〜〜!!!」
もう!さっき変な事を期待していたのが馬鹿みたいにじゃないですか!
「イックンもしかしてわざとやってますか!わざとやって困らせたりしていませんか!だとしたら女の子の敵ですよ!女の子の心を弄ぶ人には天誅が下りますよ!」
「お前はさっきからなんの話をしている。話の脱線しすぎて訳がわからん。」
僅かに頭に湯気を出して顔を赤くする海未。時と場合で何を考えてるのか…海未はコレから漫画の様な展開に期待しては駄目だと今日この事を学んだ。




