強引な誘い
…………え?今なんて…
「ほ、本当ですか!イックン私と一緒に出てくれるんですね!」
海未は目を輝かせながら小刻みなジャンプをして喜びの感情を露わにし楽しそうにする。しかし俺はそんな海未に対して少しあどけない感じで濁す。
「すまん海未。悪いが俺はお前とは一緒に出れない。」
「…………な、なんですと!?」
素っ頓狂な驚き方だな。いや深刻な反応されないだけまだましか…
「何でですか!何でですか!私と一緒に出たくない理由でもあるのですか?」
「いやそんな事はない。寧ろ一緒に出た方が効率はいい、でも今回ばかりは少し下がってほしいんだ。」
「え〜〜何でですか〜」
そんなやる気のない感じで聞かれると、コチラとして答えるにも答えにくいだろう。
「お前妹が自分よりも優れてる立ち位置なのは既に知っているよな?」
「え?あ、もしかして身体の体型を瞬時に見極められる。メジャー無しでの天才としての力の事ですか!」
「それもあるが、それじゃない。もう一つあるだろう。お前と同じ天才にまで至ったスポーツが…」
「ああ、気付いたんですね。香澄ちゃんの方が私よりも上手いって事を……というか私ずっと香澄ちゃんと勝負したいって言ってましたよ。」
「ああ確かに言ってたな。けど香澄ちゃんは上手くそれを濁した。いや世間の噂が濁らせてくれたと言えばいいのか、香澄ちゃん自身まだ海未の前ではちゃんとしたparadise Skyをしていないだろう。」
「それはそうですけど……でも私前々から香澄が強いって事は知ってましたよ。」
「それは何処で知ったんだ?」
「周りの噂からで……あ。」
「そうお前は周りの噂からしか香澄ちゃんの強さを知らない。具体的な強さをまず理解していないんだ。まぁ本人は苦手でしたくないから上手い事断る様に言われてたけど、色々と話しを聞いて気が変わった。俺はあの子にあの大会に出てもらう。そして本当の意味であのスポーツが誰のおかげで反映されたのかも思いしらせないといけないしな。」
「でもでも!香澄が納得するとは思えませんよ。私があれだけ頑なにお願いしても結局の所は断ってばかりでしたよ。」
「それはお前が雲の上の存在だからだ海未。今の自分の立ち位置がどんな状態なのかよく理解して香澄ちゃんと話しをした事があったか?」
「え?それってどう言う意味ですか?私そんな天狗の様な事していませんよ。寧ろいつも通りに話して…」
天狗って…自分が有頂天気分なのは否定しないんだな。変な部分で自覚があるからよく分かんない子だな海未は。
「そのいつも通りが何処かしらで捻じ曲がった部分があるんだと思う。それがどの辺なのかは俺には検討がつかないが、少なくとも子供の頃にはちょっとしたすれ違いがあった可能性はあるかもな。何しろ香澄ちゃんがparadise Skyでの才能が発覚したのなお前がちょうどダイエットしていた時期だと聞く。その頃にお前はまた違う何かでの才能があったんじゃないのか?それでダイエットに成功したとか…そこら辺ありそうで無さそうな話ではあるかもしれないけどな。」
「………あったかも。いやでもそれはたまたまだったし、あの時は家族の事情もあったから……けどそんな風には全然…」
「何か思い当たる事があるのか?」
「……ありますって言えば簡単なんですけど、残念ながらただの憶測でしかありません。それに私馬鹿ですから、あまり深く考えるのは苦手です。」
「………ひとまずお前が馬鹿なのかどうかは置いといて…」
「そこは普通何かフォローとかしないんですか。イックンの意地悪。」
ぷくぅと頬を膨らませる海未。うんやはりコイツに考え事はコレから要になるかもしれないスポーツへの足枷になる。だから速攻で解決すべき案件ではある。
「海未。こう言ってしまえばキザなセリフかもしれんが、お前達姉妹の悩み俺が解決させてくれないか?」
「え?それはその…ありがたい事なんですけど、何も私達のことに首を突っ込まなくてもいいんですよ。単にお手伝いという形で問題ありません。私がイックンにparadise Skyに参加してもらうのも実は建前なんです。初心者でも活躍できる様にしてくれましたが、今回は私独断でやって…イックンとはその昔みたいにちょっとした息抜きで側にいてくれたらという私の願望なんです。」
「………悪いが今回その建前というの妥協できない。今回はどうしてもお前にはおりてもらわなければならないんだ。だからお前達姉妹を救いたい。……こんな言い方をすれば、本当にお前の望む様な形で気恥ずかしさがあるんだが…」
「???何の事ですか?」
「いやだからその……お前が皆んなから王子様と言われてるのを今回俺がその役になってお前を守る側になる。……こう言えば理解してくれるか?」
「…………ふぇ!?そ、それって!まさか私が、お、お姫様ですか!?」
ボン!
海未は物凄い勢いで顔を真っ赤にしながら、沸騰するぐらいの熱をだし一星に言われた言葉を脳裏に刻みながらあわあわと震える。
え!え!どうしよう!どうしよう!それってつまりイックンは私の事を意識してくれてるって事だよね!他の男の子から、見向きもしてくれなかった私がとうとうイックンに!
でもでも向こうはそう言う気で言ったという可能性はないかもしれないし、ただ舞い上がってる私だけが勘違いしてる可能性だって………
「〜〜〜〜〜」
「お、おい大丈夫か?何か顔が赤いぞ熱でもあるんじゃないのか。」
「誰のせいですか!誰の!急にそんな事言われたら誰だって赤面しますよ!私の事馬鹿だからってからかってるんじゃないんですか!」
「と、突然なんなんだ。お前にからかってる事をした覚えはないぞ。それに馬鹿だと言う事誰しもが重々承知してんだ。今更そんな事で恥ずかがらなくたって…」
「な、なんですって!」
ああなんか前もこんな事あったような〜何か勝手に思い込んで自爆してる感があるんだよな海未って……いやそこが海未らしいと言えばらしいんだが…
「というかお前がこう言うのを望んでた事なんだろう?なら素直に受け止めたらどうなんだ。特にこれといって害があるわけじゃあるまいし…」
「〜〜〜〜だとしてもですよ!少しは私の気持ちも察してください!」
だっ!!
「あ!おいまだ話は!」
「話ならつきました!もう勝手にしてくれていいです!イックンのバーカバーカ!」
「…………なんなんだアイツ。藪から棒に人の事を貶して走って行きやがって、第1お前が1番恥ずい事を言って俺を辱めたのを忘れていやしないか……まぁあっちから勝手にしてくれと言われたんだからそのまま言葉通りにさせてもらうけど…というかアイツ自身が聞いてほしいって言ったんだよな。しかも自分がヒロインと呼称したって言うのに、それを合わせてみれば…貶して帰っていくとはよく分からんやつだ。」
結局後日にまた話さないといけなくなってしまったわけだが、ひとまずこれでparadise Skyでの練習はなんとかなった。
「後はあっちだが…さてどうしたものか……ふぅあまりやるせないけど、あの子に頼むしかないか……何か騙す気分になったみたいで少々不満はあるけれど、善は急げだしな。早めに対処した方がいいだろう。」
………次の日の朝・保健室
「………あ、あれ?空いてる?こんな時間にどうして……もしかして先生がいるのかな?」
そう思って扉を開けると保健室には絶対にこなさそうな人物が窓際の方で窓を開けながら背中を向けて立っており、私はどうすればいいのかその場で立ち尽くす。
「………へ、変態先輩。」
「何だかいつもとは歯切れの悪い呼び名だな。まぁあの時ぐらいしか聞いてないからいつもとは違うけど、やっぱり気にしていたんだな。昨日の事…」
「な、何の事でしょうか。私は何も気にしていませんよ。と言うより何ですかここへ突然来て、もしかして私のストーカーですか?私に興味があるのは仕方がありませんが、そう言ったやり方はあまり良くないかと…」
この子はぐらかすの下手か…というか以前に私は虐められていませんみたいな装いのアピールは何処へいったんだ。それだけ余裕が無くなっているって事かもしれんが、物凄い動揺ぶりに俺が1番驚いたぞ。
「そんな動揺されてる感だしても、脅しみたいには聞こえないんだけどな。というかここに来た理由は昨日の件についてなのは察しがつくんじゃないのか?」
「……そうですよね。それしかないですもんね。……変態先輩やっぱり私…」
「出たくないか?」
「はい……出ても足手纏いな気がしてあまり乗り気じゃないんですよね。私なんてお姉ちゃんと比べたら下の下の下だし、何より変態先輩に迷惑をかけたくないんです。」
「迷惑か……まぁ正直面倒な部分はあるな。」
香澄は一星の正直な言葉を言われ一瞬下を俯きながら苦笑いを浮かべて、まるでそうですよねと言わんばかりの誤魔化し方をし一星は大きく溜息をつく。
「はぁ〜勝手に決めつけるのはまだ早い気がするがな。」
「……え?」
「確かに迷惑もありつつとてつもなく面倒なのは間違いない。でもコレはこの面倒だけはどうしても俺がやらなければならないと思っている。普通に考えたら誰か代用でやってもらってもいいが生憎そんな奴に頼める友達はいないしな。」
それに他の幼馴染と比べたらこの復讐いや頼み事はある意味気分がいいのがある。海未は俺を頼ってくれているし恐らく香澄ちゃんも俺のことを頼ってはいると思う。それならば…
「早いってもしかして変態先輩…」
「ああ参加するよ。お前と2人で今の家族のしがらみを破ってやろうじゃないか。」
「ご、強引ですね。」




