ヒーローとヒロイン
妙な放課後による俺達幼馴染での初めての回転寿司。
何故か卑猥な比喩表現が入っていたりして若干妙な空気にもなったが、普通にお寿司を満喫してそのまま帰宅した。
と言うより俺は別にお寿司を目的とした事で海未とあの話をきっかけに話す事があるのだとばかり思っていたが…ただの腹ごしらえする為の設け展開だった。
「クソ〜結局よくの分からない事で時間を費やしてしまった。まぁ楽しかったし気分転換にもなったからいいけど…」
あの時は山茶花のお弁当のせいで頭の中がどうなってしまったのかとばかり思ったが、普通に美味しい物を食べれてスッキリした。
「あ……山茶花の弁当箱どうするか、東小橋川さんに預けたままだったな。あの後自分から山茶花に何となくのニュアンスで返すと言ってたけれど……まぁ東小橋川さんなら大丈夫か…」
そんな一安心をしつつ玄関の扉を開けようとしたとスマホからメッセージが届く。
「………海未か。[今すぐ会えませんか?話したい事があります]か……アイツからまさかこんな風なメッセージが送られるとは予想外だな。今日はもう無理だと思っていたが、まだチャンスはあるみたいだな。」
ひとまず鞄を玄関の方へとおきそのまま海未が話したいと言って約束された場所へと足を運ぶ。
………約束された公園
「……って呼んでいてまだ来ていないのか。というか普通に考えたらこの公園アイツの家から近いよな。なのに何で俺が早めに来てアイツがここにいない。」
仕方がない、早めに5分前に着いたから連絡入れるか…たく何で俺がいちいちこんな事を…
ようやく来たか!青年よ!
「は?」
バサ!
「私はこの世の悪を許さずして君臨したヒーロー。その名もリスペクトマスク!君の今の抱えてる悩みを聞く味方だ!」
……………
「…………」
何あれ?
何だろう?
変な人かな?
ゆう〜かいはん〜?
いやきっと、ヘンシツしゃだよ。
や、やべ〜話しかけたくねぇ〜いい年になって仮面をつけてこっちを見ないでほしい…しかもまだ公園で遊んでいる子どももいるんだぞ。お前は恥をかきたいのか?それとも単にふざけてるだけなのか?
「プルプルプルプル……」
いや思いっきりモジモジしながら恥ずかしがってるし!やりたくないのを何でこんな辱めを受けてやろうとした。本当にわけのわからんやつだな海未は。
しゅ〜〜〜
「え?普通に滑り台を滑って降りた。そこはジャンプして着地とかじゃないのか?」
ストン!
……………
「あ、もう一回お願いしてもいいですか?今のはその着地できるかどうかの確認でしたので…」
…………
まさかの確認事項で滑り台を滑って降りた仮面をつけた子は申し訳無さそうにしながらまた上に上がっていき、俺は何なんだこの子はと思いながら周りの子ども達はずっこけてしまう。
「よし!では改めてもう一度やろうじゃないか!」
「その確認は必要なのか?というか既にもう格好つかないとと思うんだが…」
そうだ!そうだ!
カッコ悪いぞ!
ついでにそのお面はなんだ!
ブサイクだぞ!
おいおい最近のガキ共は思った事をつい口にするのか?いやまぁ分からないでもないが、そんなのメンタルが弱い子だったら即座に泣くぞ。
「ぐすん、ぐすん、か、かっこ、悪く、ないです。ぐすん…」
「いやまさかの目の前にメンタル弱い子がいた〜というか言われるのわかってるよなそれ。なのに何でその格好の姿で現れた?もっと今の若者のヒーローとか研究して来ない普通。」
「今時ですもん。昔に流行ってたヒーローですもん。というより私はヒロインですもん。」
あ〜こりゃもう自分がいったい何の立ち回りなのかも分かってないな。いや分からずにここへ来たと言えばいいのか…どんな対応されたさに現れたんだ。
「あ〜ほら子ども達そろそろ帰りの時間だから帰りな。あのわけのわからないヒーローは俺が何とかするから。」
何故かこっちに集まって一緒に見ていた子ども達に俺は時間も時間だから早めに帰るように促すと子ども達は大丈夫かなという視線を向ける。いや初めてあった大人にそう言う訝しげな視線はどうなんだ。最近の子どもの心境は分からんな。
「はぁ〜それでお前はそんな格好して何がしたかったんだ海未。」
「え?何で分かったんですか!」
「……特にこんな事言うのは気が引けるかもしれんが、お前が動き回るせいで、妙なフローラルなにおいが漂ったんだよ。コレどっかで嗅いだ事あるなって思ってな。それで、この無鉄砲差な性格とやたらとヒーローいやヒロインかな?それに拘る仮面マントの女の子。まぁその仮面が何よりも証拠なんだが…それ前のアトラクションで音ゲーやった時に付けてたやつだよな。」
「………」
仮面をつけた女の子はゆっくりと仮面を外し素顔を表して俺に真剣な視線を送ってくる。まさに正体を明かすかの様にしてゆっくり外し最初にかける言葉は…
「イックン……気持ち悪いですよ。匂いでわかるってそんな動物や変質者じゃないんですから。私ちょっと引いちゃいました。」
「お前の方がよっぽどの変質者だろうか!今の自分を鏡でみてみろ!」
まるで自分がまともな言い方をする海未に俺はとうとう我慢ならずそっくりそのまま海未に言い返す。
「………」
今更恥ずかしくなったのか、そのまましゃがみ込みマントと仮面を外す。いやそれするなら、ゲームセンターや東小橋川さんがやってたイベントにつけていたのはなんだったんだ。
「イックン!今の私は漫画でよく出てくるようなヒロインです!だからイックンは私を助ける義務があります。」
「おいおい、この流れで自分をヒロインアピールする意味が分からん。まさかその為にこんなくだらない事で呼ばれたのか俺は…」
「違います!イックンは私に聞きたい事があったんじゃないんですか?つまりイックンは私を助けようと手を差し伸べてている。けれどそれに気付かなかった私は物凄く後悔しました。だからこうやって改めてイックンに頼み込んでいるんです。」
「………あ。」
そうか海未は単純に気付かなかっただけなのか、俺が海未の偽名の名前を知った事で警戒してあんな回転寿司へ行く流れにしたのかと思ったんだが、普通に俺が自分に何に対して聞かれているのか理解できなかったのか。……それで今もっとも接触できる口実でヒロインという枠に興じたというわけか…
「いや分かりにくいわ。どうあってもそんなの理解に苦しむっつうの。」
とりあえずヒロインという口実でこの公園に待ち合わせをし、そのままあの校門前での話を俺は海未に聞くことにした。妹の香澄ちゃんが今何故保健室登校しているのか…そしてそれが今どんな負担をもたらせているのかを話し海未は少し寂しそうな顔をしながら俯く。
「うん。イックンの言う通り私は次の6月に向けての大会までは香澄に対して何もできません。勿論助けないといけないと思うしそうする事で昔のイックンに寄り添えると私は思っていました。でも現実はそう甘くはないんですね、えへへ。」
自分自身も理解している。いや理解せざるを得ないんだ。自分が妹を助けそのまま今あるparadise Skyを辞めればいいだけの事…けどそれをすれば家族はどうなる?今まで以上に陰湿な事が家族の身に起きてしまう。そうしない様にと周りには平然と何もないように振る舞いながら、今あるこの状況を無理矢理押し通してきた。そして今でも我慢をしている。
「お前が俺にparadise Skyを参加させたい理由…それに幼馴染同士が俺をそれに参加せる理由……なるほどな具体的な内容までは知らなくてもどこか通ずる物があったのか、直感で今の自分達は役にたたないから俺に任せたと言う事なんだな。」
「そうじゃありません!それは違います!」
「え?違うのか?」
「違わなくはありませんが、私の事情を知ってるのはごく一部なんです。蒼脊君と林音ちゃん…それに…」
「春野原とあの鳴神って子だけか?」
「はい…先生は勿論の事で知っています。ただそれには不在の学園長がいない以上どうする事もできないんです。かと言って教師達が動けば首に繋がるのもないわけじゃないので…」
「我が身可愛さで、注意するものもできないか……まさに大人としてのクズだな。」
けれどそれを上手く事を運んでくれたのが東小橋川さんと小萌志先生というわけだから、今回に関しては千載一遇のチャンスだという事かもしれん。
「ふぅ〜まぁお前の尊重心はわかるが、俺に沿うようなやり方はあまり関心しないな。それで妹が守られるとは到底思えないし、現にこうしてアイツの心は荒んでいってる。それをケアするのが友達であり家族であるお前にあたるわけだが…まぁそろそろ限界という事なんだろうな。」
「うっごめんなさい。本当なら私で解決したかったんですけど、そろそろ香澄の心が壊れるかもしれないんです。本当なら幼馴染同士での諸事情でイックンとの関係を楽しみたいという私情があったりするんですが…」
「事情が変わったという所だよな。まぁ朝の出来事であれが何回目なのかは知らないが、目がかなり死んでいた。相当この1ヶ月半でやたらと追い込まれてしまったんだろうな。」
それで学園長が帰ってくるまでは何もできない教師ときたもんだから、コレ以上どうにもできないとこの姉妹は気付いている。けれどそれも大きな間違いだ。抱える事で試合に望むストレスはかえって逆効果。となればもう腹を括るしかないな。
「海未。」
「あ、はい!」
「今週辺りからparadise Skyを教えてくれ」
「え!?それって……」
「ああ俺も参加する。」
この東小橋川さんが作ってくれた好奇…そのためのものだと思ってこのチャンス逃してたまるものか。




