久しぶりに帰ってきた場所
これは俺が12年前の頃へ遡る。
「…………」
「一星もう準備はできてるの?」
「待って!まだもう少しだけ待って。」
神楽坂一星12年前俺が6歳の頃親の都合上でこの街を離れる事になってしまい今日この街を出立しなければならない。けどまだ僅かに心残りがあった俺は母親にもう少しだけ出立するのを待ってとお願いする。その理由…
一星君!
一星!
神楽坂君!
星君!
一君!
それぞれ俺の名前を愛称で呼んでくれる仲間。幼馴染が今日引越す俺にわざわざ伝える事があると言われその言う理由を聞くためこの時を待っていた。
「一星向こうでも水泳頑張ってね!私一星に負けない様にもっと凄い大物の人間になる!」
この子は四月一日美森活発で男勝りな所はあるがちゃんと分かる所は理解して物事の判断ができる女の子。とてもじゃないが1つ年上でもそこまでの芸当はできないが正直この中でも男である俺は尊敬する所がある。
「うん!ありがとう。向こうでも絶対に水泳頑張って皆んなに俺が頑張ってるとこを伝えるよ!」
「一星君私ちゃんと一星君がいなくても目立てる様な女の子になる。だからその時はちゃんとお互いまた会った時仲良くしようね!」
この一星君と呼ぶ子は宇佐木田川兎引っ込み思案で前へ出たがる事を億劫にしてはいるが間違った事は必ず間違いだと時には言葉にしていう正義感溢れる志しを持っている。
「勿論だよ!俺だって絶対に負けないから。俺がいなくても頑張れよ!」
「うう、一君いっちゃ嫌だよ。やっぱり寂しいよ。私、私……」
この一君という愛称で呼ぶ子は八月一日海未寂しがり屋な子でもあるがとても懐きのいい部分がありとてもよく食べる膨らんだ女の子。
「泣かないで、俺も寂しいんだ。次会えるかどうかは分からないけれど、もしまた俺と会う事ができたらその泣き虫直して笑って会えたら嬉しいな。」
「うう、頑張る。一君とまた笑って会えるようなその時の為に頑張るよ私そして一君に認められるそんな女になるね!」
何を認められる様に頑張るかは分からないけれどとにかく頷かないとまた泣かれてしまったらこっちも悲しくなっちゃう為ここはそのまま頷きながら返す事にする。
「神楽坂君!私まだまだ神楽坂君と出会って浅かったけれど、神楽坂君の事絶対に忘れないから。」
この子は東小橋川林音最近とある出来事で仲良くなった女の子。まだこの子についてはよく分からないがとても負けず嫌いな性格でよく勝負事になると引かないという性根を持っており2人でよくやっているゲームで未だに彼女は俺に勝てていない。
「うん。次に会ったらこっちがやるゲームでもそっちのやるゲームでも絶対に負けないからね!」
「ふふ、それはこっちのセリフ……ぐす。げ、元気でね。」
そして最後の1人。唯一小さい頃から俺のそばから離れるのを怖がる妹みたいな女の子。
「星君!星君星君星君星君星!」
星君星君と連呼する女の子。日根野谷山茶花は海未と同じく寂しがり屋な女の子だがこの子は特に超と言うほどの寂しがり屋で臆病な面が多々ある。でも友達に対する想いは人一倍に大きく。美森姉と同様の熱意がある。
「山茶花……頑張れ!」
「ふぇ……」
「頑張って強くなって俺よりももっと沢山囲まれる様な人気者になれ!そうすればもう何も怖くないし色んな人からも助けてもらえる。それにここにいる幼馴染はもっと山茶花の助けになってくれる。だから……だから…」
「星君……」
「………」
駄目だこれ以上何か言えば山茶花を寂しがらせるだけじゃなくて困らせる事になる。そんなの山茶花の為にもならない……どうしようなんて答えたら…
「頑張る。」
「え?」
「私頑張る。星君に、星君に心配されないような強い女の子になる。だからだから今度は星君がこっちに帰ってきてちゃんと強くなった私を見て!そしたらよく頑張ったねって褒めてほしい。」
「………うん。うん!俺絶対にまたこの街に戻ってくる!そして皆んなとまた会えるように毎年毎年願いながら皆んなの事を俺は俺は……」
「一星そろそろいいかしら?」
「あ、う、うん……じゃあバイバイ皆んな。」
バタン!
一星は母親に呼ばれそのままトラックに乗り皆んなに言いたい事を言ったというわけではないがこのまま話が長引けば皆んなとの離れ離れが余計に寂しくなると感じた。
「皆んなに挨拶は済んだ?」
「うん。もう大丈夫。」
「そう。じゃあね山茶花ちゃんに皆んな色々と一星がお世話になったわね。皆んな元気でね。」
ブブブブ……
ブォーーーン!
トラックはそのまま一星の名前を呼び続けながら手を振る山茶花達と別れをつげこの街を離れていく。最後まで手を振り続けていた一星は幼馴染5人をその街に残し去っていく。
…………
「行っちゃった。」
「一君また戻ってくるよね。」
「うんだってあんなに激しく手を振っていたんだもん。絶対にまた戻ってくるよ!一星君は。」
「…………」
「山茶花?大丈夫。」
「うん。大丈夫だよ。だって星君に泣き顔なんて見せたら安心していけないもん。だからだから…」
「山茶花ちゃん……もしかして神楽坂君が行くまでずっと我慢していたならもう我慢しなくてもいいんだよ。だって私達ももう我慢なんてできないんだもん。」
「あ……」
僅かに綻ぶ林音の涙に山茶花もそうなんだと自分も堪えていた涙をようやく我慢する必要がなく皆んなの泣く姿を目の当たりにした山茶花はもういいんだと堪えきれずに溢れる涙をいっぱい流す。
「今だけ、今だけは……泣いてもいいんだよね?」
うん。
皆んなの頷きが山茶花にとってはとても安心の頷きに感じそれに応じて山茶花はこの瞬間最後の涙を溢れ出し大好きだった幼馴染の別れを惜しんだ。
…………12年後
「ようやく帰ってきたぞ!我が故郷島川!」
島川。そうここは俺が昔住んでいた場所島川。12年振りに帰ってきた俺はここ島川のある駅改札口から徒歩で10分で着くアパートまで行くつもりだったんだが…
「何で母さんがまだいないんだ。」
本来帰ってきた場所で親の転勤がどうのこうのと学業が疎かになってしまうと今更それを言う父親が昔住んでいた街で高校に通ったらどうだ?と言われ俺はわざわざこんな難易度の高い編入試験を受ける事となり母親と一緒にこの街に上京してきたのだが……
「全然姿形すらみえねぇまさか俺が違う場所に来たのか?いやでも確かここでって聞いてたのに…」
プルルルル!
「電話って母さんから?はいもしもし。」
スマホから鳴る着信音に出た俺は母さんから衝撃的な言葉を聞き叫びたくなる程の雄叫びをあげそうになるがそこは我慢し堪えながら母さんからの電話を切る。しかし電話を切った途端スマホの電源が落ちてしまう。
「なんだと……迎えに行けないだと……しかもこのままアパートに行けって……電源が切れたスマホで久しぶりに帰ってきた街にどう戻れというんだ。」
地図上のアパートのある場所のアプリを送ってきてもらったはいいがそこからどうやってアパートに行けというんだ。前に住んでいた場所とさほど変わらないから大丈夫と言われたが明らかにそう言う問題じゃない気がする。
「いきなり前途多難だ。とりあえず誰かに道を聞いて……」
「お?ねぇちゃん美人だね〜俺達と一緒に何処か遊びにいかね?」
「?」
何だ?こんな街にナンパする奴がいるのか?つうかよりにもよってナンパ野郎が駅でナンパしてんだよ。馬鹿じゃねぇの。
「はぁ?別に結構です。私待ち合わせをしてるんで…」
ガシ!
しかしそう言ってその場から立ち去ろうとする女の子の腕を鷲掴みにするナンパ野郎は逃がさないと言わんばかりに無理矢理引っ張ろうとする。
「いいじゃえねぇか少しぐらいよ!」
「いいから離して!」
あ〜もつよくある展開だな。え?何このシチュエーション何かのエロゲか何かか?まぁ俺には関係ないしとっと退散……
しかし本当に嫌がる女の子を目の前にした俺はどうにも昔からの癖なのか助けないと何だか胸糞が悪くなっていく達がある為やはり見逃せずやっぱりその子を助けようとしたのだが…
「おいお前…」
「いい加減にしろっつうの!」
ガシ!ヒューン!
ダシャン!
「ぐえ!」
パチパチパチ!
「全くしつこいのよねこう言う輩は。」
軽く薙ぎ倒した威勢のある女の子は軽く手をパチパチと払いながら残り2人の男を睨みつける。
「さ〜て次は誰が私を誘ってくれるのかしら?」
「ひぇ!!!!野蛮だ野蛮な女だ逃げろ!」
「ちょ!誰が野蛮な女よ!訂正しなさい!」
何とカッコいい姿だろうか制服を着こなしながらも護身術か何かでナンパ野郎を倒す女の子に俺は助けるつもりが見惚れてしまってその場から動けずただた佇む他なかった。
うん?てかあの制服確か今度俺が編入する制服と同じ気が…
「ちょっとそこのアナタ。」
「………」
「ねぇ聞いてる?」
「え、あ、お、俺?」
「そうよ。アナタさっきからこっちをジロジロと見ていたけれど、もしかしてアナタもあのナンパ野郎のいちみだったりするの?」
「いや違います!違います!俺は助けようとしたつもりがそっちが軽くあしらっちゃったせいでこうなんて言うか唖然としていただけです。」
「ふぅ〜ん。……まぁ別にいいけどね。何か何処かでみた顔があるからもしかして知り合いかなって思って声かけてみたけれど気のせいだったわ。」
そっちもナンパみたいな事していないか?逆にあっちの仲間の手口だったりしないかと半ば思ったりもしたぞ。
「所でかなり荷物があるみたいだけど、何処か遠出でもしてきたのかしら?あ、ごめんなさいね初対面なのに急な事を聞いちゃって。」
いや本当にその通りだと思う。
「今その通りだとか思ったりしなかったかしら?」
「いや別にそんな事は……あ、じゃあすみませんあの1つ聞いてもいいですか?」
「私のスリーサイズ?」
「違います。道を聞きたいんです。」
「あら残念。」
何で残念がる。
「それで何処に行きたいのかしら?今時の若者ならさスマホでサクッと調べると思うんだけどね。」
アナタも今時の若者の1人では?
「えーとですねここなんですけど。」
とりあえず妙なツッコミは避けつつそのまま知ってるかどうかを確認する為アパートの名前を彼女に話す。
「………え?そこって…」
「?どうかしましたか?」
「いえ何も。そうだ良かったらその場所私が案内してあげましょうか!」
「…………はい?」




