第51話「へえ! 凄いじゃない、あの頑固爺さんが、そんなにほめるなんて」
ジョルジエット様は、家令のセバスチャンを残し、
護衛の騎士全員を書斎から追い出してしまった。
そして残ったセバスチャンには、会話には一切口をはさまず、
グレゴワール様との会話を聞いた証人としてのみ従うよう命じた。
さっきから、ジョルジエット様のお父上『鬼宰相』グレゴワール・リヴァロル様は、愛娘の言いなりだ。
太い眉、濃いひげ。
精悍な顔立ちのグレゴワール様は50代半ばといったところ。
ぱっと見はちょい悪のダンディな金髪碧眼のイケメン。
『鬼宰相』と怖れられた辣腕政治家で大貴族なのに、愛娘にはさからえない。
俺は呆れてしまったが、さすがにグレゴワール様をじろじろ見るなどしない。
遥か虚空を見つめ、知らんぷりをしていた。
「うおっほん!」
第三者の俺が呆れているのを察したらしい
わざとらしい咳ばらいをしたグレゴワール様。
両脇から俺をホールドする、
ジョルジエット様、アメリー様を改めてまじまじと見た。
「ジョル! そしてアメリー。嫁入り前の娘が、見ず知らずの男にそこまでくっつくのはいかがなものかと思うぞ」
ジョルとはジョルジエット様の愛称か?
それはさておき。
ああ、グレゴワール様。
そんな事言ったら絶対100倍になって返って来る。
案の定、ジョルジエット様とアメリー様が、すかさず反撃する。
「あら! お父様! ロイク・アルシェ様は見ず知らずの殿方ではありませんわ」
「そうです! グレゴワール様! 私達このロイク・アルシェ様に悪漢どもから救って頂きました」
「むう……」
「帰りの馬車の中で、私達いろいろお話して、すっかり打ち解けましたから」
「はい! ロイク様は誠実で優しくお強い。素晴らしい殿方ですわ!」
美少女ふたり、速射砲のような反撃にグレゴワール様は沈黙する。
「…………………」
「既に衛兵から詳しい報告があったはずです。今回の経緯は認識されていますわね、お父様」
「じゃあ、ロイク様の今回の功績もお認めになりますね、グレゴワール様」
「…………………」
「それなのに……まだお礼の一言もないなんて」
「まあ、それは大問題ですわ、グレゴワール様」
「…………………」
「どうせ、お父様の事だからロイク様の事、全て調査済みですわね?」
「うわ! グレゴワール様! ぜひ私達にその調査結果、教えてくださいまし!」
「…………………」
沈黙は肯定の証である。
俺の事、調べ上げられているのだろうか?
「お父様! 教えてください!」
「グレゴワール様! ぜひに!」
「むうう……まず、礼を言おう。初めましてロイク・アルシェ君。私はグレゴワール・リヴァロル。リヴァロル公爵家の当主だ。我が娘ジョルジエット、そして寄り子サニエ子爵家の娘アメリーを救って貰い感謝する」
グレゴワール様は座ったまま、仕方なくという感じで俺へ礼を言い、頭を下げた。
対して俺は、ジョルジエット様とアメリー様へお願いし、一旦離れて貰うと、
立ち上がり、直立不動で頭を深く下げる。
「初めまして! 公爵閣下! ロイク・アルシェと申します! 冒険者になったばかり、16歳の若造です。今回は、たまたま通りすがりで、ジョルジエット様とアメリー様をお助けしました! 閣下からお礼をおっしゃって頂くなど恐縮ですが、光栄に思います!」
俺がはきはきと、シンプルな自己紹介をすると、
グレゴワール様はびっくり。
そしてジョルジエット様とアメリー様も驚き、まじまじと俺を見たのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺の挨拶を聞き、グレゴワール様は大きく息を吐いた。
「ふむ……確かにセドリック・ルナールの言う通り、16歳とは思えない若者だ」
え?
セドリックさんの言う通り?
何故、グレゴワール様は、セドリックさんの事を知ってる?
やはり……かあ。
ジョルジエット様の言う通り、俺の事はいろいろ調べがついているようだ。
「ジョル、アメリー、私の下へ入った報告書の内容を告げよう。この少年はロイク・アルシェ16歳。元農民でシュエット村の出身。両親は病で亡くなり、身よりはなく孤児。1か月と少し前、勤めていたよろず屋を退職し、ルナール商会の馬車でこの王都ネシュラへ来た。道中、山賊に襲われたが見事に数十名以上を単独で倒した。そして王都で冒険者登録の際、模擬戦とはいえ、剣聖と謳われたエヴラール・バシュレに勝利している。その勝利もあり、若干16歳の若さでランクBに認定された」
うっわ!
俺の素性は、ほぼ調べ上げられてる!
グレゴワール様は、眉間にしわを寄せる。
「ロイク君の噂は以前から聞いていた。だが、あまりにも話が出来過ぎていて、胡散臭い。だから私は、おおげさな話だと信じず、聞き流していた」
成る程。
確かに『がわ』が普通の16歳少年なのに、とんでもない能力を秘めているとか、
普通は、ありえないものなあ……
グレゴワール様は元々、冒険者がお嫌いだし。
縁もゆかりもない、平民で孤児の冒険者など、興味全くナッシングというところか。
つらつら考える俺。
そしてグレゴワール様の話は更に続く。
「しかし! 今回のジョル誘拐未遂事件が起こった。そこで私は先ほど、リヴァロル公爵家御用達商会の会頭であるセドリック・ルナールを急遽この屋敷へ呼びよせ、改めて問いただしたのだ」
ああ、セドリックさんを知ってるのはそういう事か!
ここでジョルジエット様が、父へ尋ねる。
「それで、お父様……セドリックの答えはどうだったの?」
「……手放しで、絶賛していたよ。出来ればルナール商会専属にしたいとね」
「へえ! 凄いじゃない、お父様。あの頑固爺さんが、そんなにほめるなんて」
「そうなんだよ、ジョル。セドリックは既にロイク君へ仕事を発注し、返事待ちだと言っていた。だから私もロイク君への謝礼を用意し、セバスチャンへ託したのだ」
グレゴワール様は、そう言うと改めて俺を見つめたのである。
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