第129話「……これは裏で話が通っているという事だ」
「うむ!! 大儀である!! すぐ中へ通してくれ!!」
と、書斎から、ファルコ王国第81代国王、アレクサンドル・ファルコ陛下の声が、
大きく大きく響いていた。
「では、バジル。後ほどまた呼ぶ。王宮内で待機していてくれ」
「は! かしこまりました!」
直立不動で敬礼するバジルさんの返事を聞き、大きく頷くグレゴワール様。
警護の騎士へ、
「聞いての通り、陛下からお許しが出た。中へ案内してくれ」
と命じた。
警護の騎士は、
「は! かしこまりました! どうぞ! ご案内致します!」
と言いつつ、
「陛下! 失礼致します!」
と声を張り上げ、扉を開ける。
ああ、やんごとなき方への接し方って、
いろいろな手順を踏まなきゃいけないから大変だ。
でも本来はグレゴワール様だってそうなんだよな。
王族じゃないけれど、ファルコ王国貴族の頂点に立つ人なんだから。
ジョルジエット様、アメリー様との一件から、とんでもなくフレンドリーに接しているけど。
さてさて!
警護の騎士が扉を開けると、広い応接室が見えた。
向かい合ったふたつの豪奢な長椅子。
その上座に、ファルコ王国第81代国王、アレクサンドル・ファルコ陛下がお座りになっていた。
アレクサンドル陛下は若い。
去年、先代の父王が亡くなり後を継いだばかりの26歳。
グレゴワール様ほどの偉丈夫ではないが、金髪碧眼の凛々しい男子。
陛下は座ったまま、右手を挙げた。
そして手招きし、にこにこ笑っている。
とても上機嫌のようだ。
「おう、全員、近う寄れ。遠慮なく座ってくれ」
「お許しが出た。先ほど屋敷で話した並びで座ってくれ」
グレゴワール様の指示により、
俺達は、アレクサンドル陛下の座った向かい側の長椅子に、
座る。
陛下の対面にグレゴワール様。
その隣に俺。
右端にテオドールさん、左端にセドリック会頭という並びだ。
ひざを突き合わせて座るという言葉がある。
一国の王とこのような至近距離で座り合うなど、本来はありえない。
念の為、アレクサンドル陛下が誰にでも気さくというわけではない。
忠実な腹心であるグレゴワール様と、普段ざっくばらんに打合せているから、
今回もそのスタイルでという話なのである。
「失礼致します。何か、御用があればお呼びください」
そう警護の騎士が言い、パタンと扉を閉めた。
ここからようやく、謁見……話し合いが始まる。
アレクサンドル陛下と話し慣れたグレゴワール様に進行役を務めて貰い、
請われたら、発言する。
という方針が、グレゴワール様から俺達3人へ周知されている。
「陛下! この度は私達3人によるロイク・アルシェの推挙を受け入れて頂き、深く感謝致します。ありがとうございました。」
グレゴワール様は深く一礼し、笑顔でアレクサンドル陛下へ話しかけたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
対して、アレクサンドル陛下は、にこやかにおっしゃる。
「ロイク・アルシェは、本当に良くやってくれたぞ! 我が国有地、トレゾール公地で金と宝石を大量に採集し、持ち帰ってくれた」
おお、アレクサンドル陛下へ、今回の話は全て伝わっているみたい。
「加えて、討伐したドラゴン2体を王家に、そして特注で造らせるドラゴンメイルを私へ、それぞれ献上してくれるなど、とても喜ばしい!」
「!!??」
アレクサンドル陛下のお言葉を聞き、俺は驚いた。
ここで念の為、補足しよう。
今回の依頼で赴いたトレゾール公地はファルコ王国の国有地。
俺は金と宝石を採集し、持ち帰ってギルドへ納品。
ギルドは、俺へ褒賞金を支払い、金と宝石を売却。
手数料を取った残金を王国に納金するシステム。
だからその件に関し、王国への収入がある事を、
アレクサンドル陛下がお喜びになるのは納得出来る。
だけど、ドラゴン2体を王家に、
そしてアレクサンドル陛下へ特注のドラゴンメイルを献上する?
どういう事だろ、それ?
先ほど馬車の中で、グレゴワール様は、
「それでだな。今回のドラゴンの売却先に関しては、私に任せてくれないか。金額等、悪いようにはしない」
と言ったが、本当にどういう事?
俺のプランでは討伐したドラゴンの死骸を、冒険者ギルドへ7体、
ルナール商会へ2体売却、自分で1体貰うつもりだった。
でも、王家へ2体献上するという……
そしてアレクサンドル陛下へはドラゴンメイルを贈る。
俺はさりげなく、テオドールさん、セドリック会頭をチラ見した。
しかし、グレゴワール様の言葉を聞いても、ふたりが驚く様子はない。
平然としている。
……これは裏で話が通っているという事だ。
結局、どうなるんだろうか?
まあ、良いか。
俺はグレゴワール様を信じたんだ。
売却と言ったし、ドラゴンの死骸が実入りゼロの、
『没収』という事にはならないだろう。
つらつらと考える俺へ、アレクサンドル陛下は更におっしゃる。
「ドラゴンスレイヤー、竜殺し……否、伝説の勇者に匹敵するロイク・アルシェを、絶対に国外流出させてはならない。グレゴワール、お前はそう言った。もしもそんな事になったら、ファルコ王国の国益を大きく損なうとな。私もそう思う」
大きく頷いたアレクサンドル陛下。
更に声を張り上げる。
「それゆえ! 今回のグレゴワールの発案は誠に見事だ。先んじてロイクを説得し、冒険者ギルド、ルナール商会の賛同も得て、私直属の王国執行官に推挙。更に王国に貢献して貰うというのは、本当に名案だ」
グレゴワール様をほめちぎるアレクサンドル陛下。
対して、控えめに言葉を戻すグレゴワール様。
「もったいないお言葉でございます、陛下」
「いやいや、グレゴワールよ! 宰相として、今後もロイクとともに、王国へ貢献してくれよ」
「ははっ! 仰せの通り! 私も! ロイクも! 王国の為、粉骨砕身して参ります」
「うむ! 当然ながらロイクの働きに対し見合うよう、権限は勿論、充分な待遇と報酬も考えるぞ」
「はい! 宜しくお願い致します」
「うむ! そして、冒険者ギルドマスター、テオドール・クラヴリー、ルナール商会会頭セドリック・ルナール」
「ははっ!」
「ははっ!」
「片田舎に住む少年だったロイクを見出し、大きく成長させたお前達の貢献も非常に大きい。いろいろと協力し合い、これからも、我がファルコ王国と共存共栄で行こうぞ!」
「ははっ!」
「ははっ!」
成る程。
そういう事か。
アレクサンドル陛下と、各自のやりとりを聞き、
俺にも、『今回の話の筋書きと落としどころ』が、見えて来たのである。
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