第126話「悪いようにはしないって……微妙な言い回しだ」
「単なる勇者ではなく! ドラゴンを10体も倒したなら! 伝説たる! 救世の勇者の名を賜る事となるだろう!」
拳を突き上げ、どや顔で叫ぶグレゴワール様の声は、
人払いした大闘技場に、大きく轟いていた。
しかし、さすが一国の宰相。
すぐクールダウン。
グレゴワール様は、少ししかめっ面。
そして、ひどく冷静となった。
「誠にめでたい事だ。しかし、先ほど言った通り、困った事ともなった」
「困った事ともなった……そうですよね」
「ああ、ロイク君。とんでもない事態になったと言える。早急に対策を立て、実行しなければならない」
やはり俺が懸念した事と同じ事をグレゴワール様は認識している。
「書斎に戻り、話を整理した上で相談しよう」
「はい、分かりました」
という事で、書斎へ。
再び、長椅子に座り、向かい合う。
グレゴワール様が、口を開く。
「まずは論点を整理しよう。ロイク君としては、冒険者ギルドからのサブマスター就任のオファーを固辞したい。『現状のまま』を希望しているのだな?」
「はい、あくまでも『フリーの自営業者のまま』で行きたいです」
「まあ、ギルドのオファーは、必ずというわけではない。私やルナール商会の契約を優先し、断って構わないとは思う」
「ですか」
「ああ、ロイク君の言う通り、ギルドのオファーは、報酬、権限を抑えた形の名誉職という落としどころで、折り合うとは思う。何だったら、私から口添えしても構わん」
「ありがとうございます」
「うむ、だがロイク君が希望する現状のままというのは厳しいぞ」
「ですよね」
「ああ、問題はな、勇者認定された場合の、王国によるロイク君への強制的な干渉だ。つまり囲い込みだな」
「勇者認定された場合の、王国による強制的な干渉……囲い込み」
「ああ、勇者たるロイク君が、他国に流出し、国益を損ねないよう、住居、仕事、報酬、果ては結婚相手などを王国で決め、順守するよう、勇者法という法律を定めてしまうのだ」
はあ?
勇者法?
そんなの、ステディ・リインカネーションの世界にあったっけ?
唖然とする俺。
「げげっ、グレゴワール様。もしもそんな事になったら、俺、絶対に他国へ行きます。別人になって、今のロイク・アルシェという名前も捨てますよ」
俺の言葉を聞き、グレゴワール様は、渋い顔である。
「ううむ……私は立場上、今のコメントを聞かなかった事にするが、ロイク君の気持ちは理解するよ」
「参ったなあ。いい気になって、ドラゴン10体も倒して、完全に失敗しました」
「ははは、まあそう言うな。討伐の実績自体は素晴らしいんだから。最悪の事態にならぬよう、私もいろいろと考える」
「はあ……」
グレゴワール様は、力づけてくれたが……
打開策はあるのだろうか?
俺は深いため息を吐いたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
重苦しい雰囲気。
書斎を沈黙が支配する。
グレゴワール様が苦笑する。
「ふふふ、この議題は、我がファルコ王国の景気対策より難度は遥かに上だな」
「はあ……」
軽口を叩いている場合ではないのだが。
しかし、グレゴワール様は何かを思いついたらしい。
「うむ、こうなったら仕方がない。逆手で行こう、ロイク君」
「え? 逆手……ですか?」
逆手とは、いくつか意味があるが、
ここでは相手の攻撃を利用して、逆にやり返す事だ。
「うむ、私に考えがある!」
「考え……ですか?」
「ああ、とりあえず宿泊先のホテルでスタンバイをしておいてくれ」
「スタンバイですか?」
「ああ、冒険者ギルドにもルナール商会にも、君から連絡をする必要はない。こちらから連絡を入れる」
「はい、了解です」
「商会の方は私の意向に合わせると言ったな」
「はい、そう言われました」
「ならば問題ない。私が調整し、意見統一をする」
「分かりました。でも一体どうするおつもりですか?」
「ははは、だから逆手さ。いや先手必勝かな」
「逆手、先手必勝って……」
「まあ、任せておいてくれ。悪いようにはしない」
悪いようにはしないって……微妙な言い回しだ。
「大丈夫。もしも折り合わず、ロイク君が国外流出などとなったら、私はジョルジエットとアメリーに一生、口をきいて貰えなくなる」
う~ん。
グレゴワール様の考えている『逆手』『先手必勝』って何だろう?
不安にかられる俺だったが、妙案が思い浮かばないから、お任せするしかない。
ただ最後の、私はジョルジエットとアメリーに一生、口をきいて貰えなくなるという物言いは、とても切実に聞こえた。
また、グレゴワール様が俺の為、親身になって考えて頂いているのは伝わって来た。
深く深く感謝するだけだ。
「グレゴワール様には、お手数をお掛け致しますが、何卒宜しくお願い致します」
「分かった、私に任せておけ!」
こうして……
グレゴワール様との打ち合わせは終わり、
俺は、ホテルへ戻り、スタンバイする事となったのである。
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