第117話「まるで、自慢昔話をする前世の社長、部長と一緒」
果たして、ギルドからはどのような話があるのだろうか?
トリッシュさんに誘れ、俺は幹部達が待つ、大会議室へ向かった。
当然魔導昇降機に乗り、階上へ。
大会議室は、本館の9階。
会議専用フロアにある。
ちなみに本館最上階の10階は、ギルドマスター専用のフロアだ。
さてさて、やはりというか、9階フロアは通路と扉ばっかりという印象。
前世でリーマンをしていた時のオフィスと同じ構造。
まあ、構造の趣きは当然現代風でなく、中世西洋風なんだけど。
トリッシュさんと、ともに少し歩き、大会議室前に……
そして、
とんとんんとん!
トリッシュさんが扉をノックする。
「業務部のパトリシアです。ロイク・アルシェ様をお連れ致しました」
と『本名』と、俺を連れて来た旨を告げる。
成る程。
室内に居るのは、幹部職員。
ギルドマスター、サブマスターだから、トリッシュという『あだな』はまずいのか?
そんな事を俺が考えていると返事があった。
「ふむ、入りたまえ」
言葉を戻した低温の声は、ギルドマスターに違いない。
「失礼致しま~す!」
トリッシュさんが、扉のノブをつかみ、回せば、
かちゃり!
と音がして、扉が開いた。
ここですぐに室内へ入らず、トリッシュさんが振り返る。
「ロイク様」
「はい」
「私が先に室内へ入ります。後について来て頂き、指示があったら、お席へお座りください」
「了解でっす」
「では、行きます」
トリッシュさんはそう言うと、ゆっくりと歩き出す。
俺も同じ歩様で後に続く。
大会議室の中へ入れば……
逆この字型に置かれた長テーブルが見えた。
それに向かい合う形で長テーブルがひとつ置かれていて、
椅子がふたつ。
多分、この椅子に俺とトリッシュさんが座るのだろう。
もう少し見れば、
正面にひとり、左右にふたりと3人が、それぞれ座っているのが見えた。
うん!
アラン・モーリアだった俺は全員知っている。
正面がギルドマスター、左右の計5人……男3人、女ふたりがサブマスターだ。
ちらっと見れば、5人のサブマスターのひとり、
剣聖と謳われたエヴラール・バシュレさんと目が合った。
エヴラールさんは、俺へアイコンタクトし、
何故か、にっこり笑っている。
俺にはその笑顔の理由が、すぐに分かった。
先日聞いた話だと、エヴラールさんは模擬戦でド新人の俺に負けて、
「散々突っ込まれた」らしい。
「手を抜いた」とか「油断していた」とか、
挙句の果てには「寝ていた」とか。
でも今回、俺がノーマルタイプのドラゴン10体を倒すというとんでもない事をやらかし、実力を知らしめたから、
「さもありなん」という話になっていたのだろう。
俺が室内へ入ってから、すすすと、トリッシュさんが背後へ行き、
扉を「がちゃり」と閉めた。
それが合図であるかのように、
ギルドマスター、サブマスターが全員一斉に立ち上がったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺とトリッシュさんへ向かい、
正面に座っていたギルドマスターが声を張り上げた。
「初めまして、ロイク・アルシェ君。私が冒険者ギルド、ギルドマスターのテオドール・クラヴリーだ」
う~ん。
そうは言われたけれど、初めまして、……じゃないんだよね。
俺はギルドマスターのテオドールさんを良く知っている。
テオドール・クラヴリーさん、65歳。ランクSの冒険者。
クランの中での立ち位置は、盾兼攻撃役のパワーファイター。
魔法は使えないが、とにかく頑健。
まあ、65歳だから、さすがに現役から一線は引いた形でいるけれどね。
「うむうむ! ロイク君! 本当によくやった! というか、とんでもない偉業を成し遂げてくれたね! 私も解体作業場のノーマルタイプのドラゴンを見た。見事なものだ!」
「はあ、まあ、何とかって感じです」
「何とかだって? 謙遜だな!」
ケルベロスと連携して倒したけれど……
その件は、今はとりあえず伏せておくか。
俺の使い魔の正体は、冥界の魔獣とか、
またややこしい話になるから。
「いえ、まあ……」
「うむ、パトリシア君から報告があったが、残り9体のドラゴンは、空間魔法で保存しているという事だな?」
「はい、そうです」
「一度にドラゴンを10体も倒した者など、世界広しといえど、伝説の英雄以外、誰もいないぞ!」
テオドールさんは20代の若い頃、ノーマルタイプのドラゴンを数体倒した事がある。
その為、ドラゴンスレイヤー、竜殺しの称号を持つ。
だからなのか、ドラゴンを、それも10体を一度に倒した俺に対し、
満面の笑みを向けて来る。
「まあ、座りたまえ! パトリシア君も! 今回は、トレゾール公地における依頼を完遂した上、ドラゴンまで倒してくるとはな」
「はい、では失礼して、座らせて頂きます」
「失礼致します」
こうして、全員が着席し、打合せが始まった。
しかし、しかし!
打合せはすぐに始まらなかった……
実は、テオドールさん、とんでもなく話好き。
ぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺら……
自分の昔話……
つまりは、ドラゴンを倒した自慢話が続いた。
嬉しい気持ちは分かるけれど……
これじゃあ、ちょっち引いてしまう。
まるで、自慢昔話をする前世の社長、部長と一緒。
そんなこんなで……約30分。
……ようやく、テオドールさんの昔話が終わった。
「うむ……という事で、本題へ入ろう」
「はあ」
さあてさて!
ギルドマスターのせいで、だいぶ引っ張られてしまったが……今度こそ!
果たして、ギルドからはどのような話があるのだろうか?
ふうと、軽く息を吐いた俺は、
テオドールさんからの話を待った。
するとテオドールさんは、
「ロイク君、君が倒したドラゴンの死骸の販売先に関して、出した希望は基本的に受け入れよう。加えて君のランクアップも行う。……但し、条件がある!」
と言い、にやりと笑ったのである。
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