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窮鼠、竜を斬る  作者: 温水 波戸
プロローグ
1/2

第?話『主人公の定義』



 ――――やはり俺は主人公ではない。



 血で(にじ)んだ岩の床に服が濡れるのも構わず俺は仰向けに倒れていた。コヒュゥという車に胴を潰された蛇のような呼吸音を吐く。()()()()なら早急に救急車を呼ぶ必要がある。


 だが聞こえたのはサイレンの音ではなく、

 ズウゥゥン、という重低音が混ざった()()だ。


 ……鼓膜が破れていなけりゃ今のはあいつのだ。

 そいつは俺を瀕死まで追い込んだ怪物。そしてトドメも刺さず、悠々と下層への階段に向かい歩いているだろう。

 地面に倒れる寸前に見えた光景だ。

 トドメを刺さなかったのはヤツにとって俺はただの抵抗が激しいだけのハエだったからか。怪物の思考は分からない。

 ――弱いのはいい。自覚してるし、別に悔しくはない。

 だが―― 

 

「ダメだ…………」


 下層にヤツを行かせては…………っ!!


 下層には〝少女〟がいる。その子は俺が怪物と戦う理由だ。そうでなければとうに逃げてる。

 その子はただの少女だ。騎士でもなければ、剣士でも魔法使いでもない。戦う力どころか逃げる力も怪しい。


 俺が死ななかったからといって、安心なんて(つゆ)ほどもできない。ヤツは俺を〝死んだ〟と勘違いしてる可能性もある。そして下層はただ幅広いだけの一本道。ヤツは必ず見つける。


 そして最悪の場合――。


 ビキリと右手が数センチ動く。


 次々と浮かび上がる『最悪』。そんな『最悪』を打破しようと右手が剣に届く。

 剣を握り、足を持ち上げて、立ち上がる。


 ――ははッ、動くじゃねぇか………。


 片手で持ち上げた剣をシュピッと(くう)を斜め斬りにし、目標(怪物)を見据える。

 そして対敵に向かって疾駆する――


 という()()を見た。


 今のは理想だ。妄想と言い換えてもいい。なにひとつ実践できない野郎の妄想だ。現に――


 右手はピクリとも動いていない。

 両足は立ち上がる気配すら見えない。

 心は人生最大の痛みと恐怖にまともに動いていない。


 というか――


 このまま逃げてしまえばいいんじゃないか?


 そんな考えが、腐った脳から出てきた。更にその考えを肯定する意見が脳内からボロボロ溢れてくる。

 ……………ああ。



 ――――やはり俺は主人公ではない。



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