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 久々の訪れであったが、相手は慣れ親しんだ床と女である。肌はすぐに彼女らを思い出した。


「あんまり来てくださらないから、忘れられたかと思いましたわ」

「まさか」


 男は軽く笑い、煙管を手にした。左手で燐寸(マッチ)を擦り、火を灯す。

 紫煙がふわりふわりと室内を巡る。


「何かと忙しくてね」

「悪だくみに?」

「や、酷い言い方だ。これでも真面目にやってるんだよ。……まさかあんな風に収められてしまうとは思わなかったけれど」

「上手くいかなかったのですね」

「予想外だったんだ」


 まさかあそこまで甘いとは、と男は紫煙に紛れ込ますように呟いた。


後ろ(・・)の崩れは全体に至ると思ったんだが……ま、それぐらい、分かっているよな」


 すぅ、と女の細指が男の眉間に触れた。


「皺になってしまいますわ」

「なったらまずい?」

「有るより無いほうがかっこいいもの」

「そう。じゃ、皺が出来てしまう前に、早いとこ精神的苦痛(ストレス)の源を崩さないとね」

「急いではなりませんよ、陛下」

「うん。分かってる。ありがとう」


 男は煙草の火を皿に落とした。


「次はいかがいたしますの?」

「うーん、そうだなぁ……そうだ」


 片側の頬をつり上げて笑う。


「俺を“山査子(サンザシ)の君”とか呼んでくれた馬鹿を、ひとつ嵌めてみるか」

「まぁ。赤土の大君を指して山査子とは。なんて不躾な」

「だろう? ……その辺り、やはりあの男は抜け目がなくて、恐ろしいんだけどね」


 本当に油断ならない、と呟いた男の眉間に、しかし皺は刻まれていない。

 剥き出しにされた犬歯は獰猛に、しかし今はまだ獲物を捕らえていないのだから、と、女の首筋を甘噛みする。

 煙に溶かされたように、二人の輪郭が滲んで一つになってゆく。



            おしまい


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― 新着の感想 ―
[一言] お見事です\(^o^)/! 面白かったです(〃∇〃)/! ……山査子の赤土サン♪ 陛下はまるっとお見通しですぞ〜〜♪ (ΦωΦ)フフ… その後が気になります〜 山査子はいつの間にか呼び水…
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