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 夜のとばりがわずかに揺らぎ始める。夜明けの最初の光がもう間もなく射し込もうかという時分に至って、ようやく意味のある言の葉が寝台の上に紡ぎ出された。


「陛下は、わたくしを信じてくださいますか……?」


 愁いを帯びて潤んだ声音。熱を孕み項垂れる肢体。

 零れ落ちた宝玉は冷たく皮膚に滲む。


「どうか、どうか信じてくださいまし……」

「俺がお前を信じなかったことがあったか?」

「ああ、陛下……わたくしは貴方様にお仕えできることを、これほど幸せに思ったことはありません……」

「翡翠の髪飾りの件だな?」

「はい、そうです、陛下……みな、わたくしが盗ませたと言っておりますけれど……」

「分かってるよ。お前はそんなことしない」

「陛下……!」

「俺は分かってる。だから安心しろ。な」

「ああ……っ!」


 涙を流して縋りつく女を、男は誠実な態度で抱き締めた。

 鼓膜を擽るように囁く。


「知っていることを全部話してごらん。俺はすべて信じるから」

「はい……すべてお話しいたします。二日前、わたくしの部屋にこれが――」

「ふむ」

「誓って盗み出した物ではございません、陛下」

「ああ、分かっているとも。噂では、お前の女官が盗んだとされているが?」

「ええ。ですがそれも間違いです。わたくしの女官、今まさに警吏(ケイリ)に拘束されている彼女には、弟がおります。十年以上かけてようやく官吏になった者で、合格した時には大層喜んでおりました。きっと彼になにかあって、それで仕方なくこのような真似をしたのでしょう。わたくしはそう信じております。最近、彼女の様子は明らかにおかしかったものですから……」

「うむ、そうか。それは心配だな」

「ええ……どうか、陛下、この件、陛下のお力で収めてくださいませんか……?」

「ああ、任せろ。だいぶ見えてきた」

「まぁ……ありがとうございます、陛下……」

「安心しろ、泉妃。もう何も心配しなくていい」

「はい……はい、陛下。わたくしは貴方様にすべてお任せいたします……」


 白い光が細く射し込み、室内を横切った。しかし彼らを包むとばりを切り裂くには力及ばず。

 再び、意味をなさない言の葉の欠片に、部屋は埋め尽くされていく。



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