参
夕方から降り始めていた小糠雨が止んだ頃、夜を憚らない嬌声もまた止んで、しっとりと濡れた大地に静寂が戻ってきた。
「あのねぇ、陛下ぁ」
濡れた寝台にはとびきり甘ったるい、間延びした声。
「嗇ねぇ、怖いのぉ」
「俺がいるのに?」
軽薄な返しに、明るい笑いが響く。
「陛下がいらっしゃる間はヘーキ! 怖いもの、なぁんにもないわ!」
「俺がいない間は、何が怖いんだ?」
「んとねぇ、あのねぇ……翠妃と泉妃がねぇ、怖いの」
「嗇をいじめるのか?」
「ううん。違うけどぉ、でもねぇ」
と、女は縋りつくようにしながら語る。
「翠妃はぁ、泉妃のこと嫌いじゃなぁい? だからぁ、嗇と一緒にね、泉妃を追い出そうって言ってきたの」
「へぇ、物騒だな」
「でしょぉ」
「それで、嗇はどうしたんだ?」
「怖いからぁ、またね、ってだけ言ってる。でもねぇ、うちの女官、翠妃のとこの女官たちと仲良いから、もしもなんかやってたりしたらぁ、嗇、困っちゃうなぁ」
「ふぅん、確かに困っちまうな」
「でねぇ、泉妃はねぇ……ねぇ陛下、泉妃に子どもが出来た、って本当なのぉ? 泉妃が子ども産んだら、陛下、あたしのところに来てくれなくなっちゃう?」
「まさか。そんなことを怖がるなんて、嗇は可愛いな」
軽く笑いながら、女の尻を抱え込むように抱き上げる。額に接吻をして、それから強く抱きしめる。
「もっと可愛がってあげたら、俺がいない間も怖くならないよな?」
「うん!」
大地はやがて乾くだろうが、寝台が乾く間は与えられそうになかった。