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 とっくに燃え尽きた香の甘ったるい匂いと、汗のにおいが混ざっている。


「陛下」


 女の声は気だるさを押しのけるような涼しげな響きを持っている。


「んー? どうした、翠妃(スイヒ)

「もうお聞きになって? 泉妃(センヒ)の悪行」

「悪行? 初耳だな」

「あら、そうでしたの? まったく、あの女狐、陛下の前ではいい子の振りしてるのね」

「こらこら、悪口はよくないぜ。それに、翠妃、いい子の振りは君だってそうだろ?」

「やだ、そんなことありませんわ」

「それで、泉妃が何をしたって?」

「女官に命じて、宝物庫から翡翠の髪飾りを盗ませたんですって」

「へぇ、そいつは豪胆な」

「もう、呑気になさってる場合じゃありませんわ」


 わざとらしくむくれてみせた女の頬を、男は両手でそっと包み込み、唇を合わせる。

 魂を交換するように絡み合った舌が、やがてゆったりとほどける。


「しかし、困ったな……」


 男はふいに眉尻を下げた。


「あの翡翠の髪飾りは、いずれ、翠妃、君への贈り物にするつもりだったのに」

「っ、そんな!」

「一生懸命探してみよう。見つかればいいんだが」

「泉妃のところにありますわ。絶対に、そうに決まってます」

「売ってしまったりしてないかな」

「してません」

「断言か。女の勘、ってやつ?」

「ええ、陛下。女が金を求めたならば、真っ直ぐに金を盗みますもの」

「なるほど、一理ある」

「絶対取り返してくださいましね、陛下。それに厳正な処罰を」

「ああ、当然だよ。任せてくれ」


 男は軽々に頷いて、再び唇を、今度は胸元に寄せた。

 香は薄れ、汗のにおいが濃くなってゆく。



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