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考察・随筆・エッセイ集

個人商店の息子達が、漫画のガキ大将に成長した経緯の考察

作者: 大浜 英彰

本エッセイには、著者である私の主観や個人的見解が多分に含まれております。

はじめに


 私は前回のエッセイ「漫画のガキ大将の家業についての考察」で、「個人商店の息子」という肩書きが、ガキ大将というキャラクターを構成する上で重要な特徴になると主張しました。


 八百屋に魚屋、酒屋に荒物系の雑貨店。

 ガキ大将の実家が営む店は、子供が能動的には訪れなさそうなお店ですが、生活には欠かせない食品や生活雑貨を取り扱うので、主人公達のママを始めとする近所の奥様方が日常使いすると考えられるお店です。


 今回は、こうした町の商店の子供達がガキ大将に育っていく理由と経緯について、考察していきたいと思います。

 なお、小学生時代の私の周囲には「商店の息子で子供達のリーダー」という典型的なガキ大将がいなかったので、この考察には私の主観と個人的見解に満ちた想像が多分に含まれております。

 尚且つ、実在のガキ大将ではなくて、児童向けの生活ギャグ漫画やアニメに登場したガキ大将への考察となっております。


第一の理由 地域社会に根差した個人商店の特性


 児童向けの生活ギャグ漫画が主に書かれていた昭和四〇年代の日本には、今日のような大型ショッピングモールはネット通販は、まだ存在していません。

 そのため、町の商店街を構成する個人商店は今日以上に重要視されており、地域に根差した存在なのでした。

 店主である両親と来店客の交流を目にした商店の息子は、自分の家族が経営する店のある地域を、自ずと意識するようになります。

 古くから住む住民が常連客である場合、彼らに成長を見守られながら育っていく事もありますね。

 店番や配達などの時には「ほんの少し前まで、こんなに小さかったのに。もうお店の手伝いが出来るようになったのね。」という具合の会話もある事でしょう。

 要するに、郷土愛が育まれるんですね。

 こうした郷土愛が、自分の住んでいる地域への帰属意識や近所の子供達への関心へと繋がっていったのではないでしょうか。


第二の理由 家業の手伝いによる大人社会との接触


 実家が商店をしている子供は、店番や配達といった形で店の商売に関わる機会が、小学生のうちから少なからずあるんですね。

 そうして家業の手伝いをしていると、「来店客」という形で近所の大人と接する事もあるでしょう。

 両親や先生以外の大人と関わる機会が、他の子供達より多くなるんです。

 子供でありながら両親と一緒に働く事で、自営業者の子供達は、大人社会と子供社会の両方を見る事が出来るんですね。

 そのため、「自分は他の子達よりも大人びている」という自意識を持つようになった事も考えられます。

 ガキ大将となった商店の息子達が他の子供達の兄貴分みたいに振る舞う土壌は、ここで培われたのではないでしょうか。


第三の理由 サラリーマン家庭とは異なる、個人商店のバイタリティ


 さらに言えば、ガキ大将の実家が商売をしている場合、大抵が個人商店です。

 個人商店は自営業なので、日々の客足や売り上げの多寡は、そのまま生活に直接影響が出てきます。

 そして自宅が店舗兼住宅の場合は、親が働いている姿を間近で見る機会も多いでしょうね。

 そうして働く事の大変さや親の苦労を目の当たりにする事で、商店の息子達にハングリー精神が養われていったのです。


 ここで一旦、ガキ大将が登場する児童向け生活ギャグ漫画の主人公に着目してみたいと思います。

 藤子不二雄先生の漫画を思い出して頂きたいのですが、ガキ大将は主人公ではなく、主人公の少年の同級生として登場する事が大半です。

 そして児童向け生活ギャグ漫画の主人公は大抵、一般的なサラリーマン家庭で生まれた、平凡な小学生の男の子です。


 スポーツは遊びとして楽しむけど、飛びきり運動が得意という訳ではない。

 優等生な美人のクラスメイトに憧れているけど、本人の成績は大した事がない。

 怠け者だったり気弱だったりと、色々と欠点はあるけれど、おっとりと大らかで、親しみのある男の子。


 児童向け生活ギャグ漫画の主人公像の最大公約数は、大体こんな感じなのではないでしょうか。

 そして、教育熱心で口うるさいママと温和な中年サラリーマンのパパで構成された、平均的なサラリーマン家庭なんですね。

 東西冷戦や公害、そして受験戦争という具合に、社会問題は山積みだけど、誰もが明日を信じられた昭和後期。

 年功序列制と終身雇用制に守られたサラリーマン家庭の子供達は、自営業の子供達に比べてノホホンと過ごせていたのではないでしょうか。

 そのため、個人商店の息子達が見せるハングリー精神と熱量の強さには敵わないのでしょう。

 ましてや、社長一族や資産家の令息として苦労知らずに生まれついた金持ちの御坊っちゃんなど、商店の息子達に圧倒されっ放しで、子分や弟分的ポジションに甘えざるを得ないのかも知れません。

 御坊っちゃん程では無いにしても比較的裕福な家庭の娘であるマドンナ的女子生徒も、他の男子生徒以上に一目置かざるを得ないでしょうね。


終わりに


 こうしてガキ大将の持つ「商店の息子」としての肩書きに着目した所、彼らがガキ大将として育った理由と経緯が、何となく見えてきました。


 第一に、地域に根差した「町の商店」という経営スタイルで養われた郷土愛。

 第二に、家業の手伝いで大人達と交流する事で育まれた、大人びた自意識。

 第三に、経営状況が生活に直結する環境で培われた、タフなハングリー精神。


 そのどれもが、実家が個人商店であるからこそ育まれた気質であり、彼らは成る可くしてガキ大将になったのですね。

 漫画のガキ大将を通じた考察ではありますが、家庭環境は子供の成長に大きな影響を与えると、改めて実感した次第です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なかなか興味深い考察でした。 昭和の漫画ではガキ大将キャラは定番でしたよね。 個人的にはゴリライモとブタゴリラが特に酷いニックネームと 思います(笑)。 でもブタゴリラってブタゴリラと呼ば…
[良い点] 自営業で育った子供と、サラリーマンの親を持つ子供では、ハングリー精神が違うということですね。育った家庭環境が性格を形成しているとしたら、なるほでです。 親が金持ちの子供でも、権力と迫力に…
2021/01/09 00:05 退会済み
管理
[一言] 確かに!と頷ける考察でした。 そうそう、昭和後期の空気感てこんなだったよね〜と思いましたし、商売やってるおうちの子たちって、大人慣れしてるなぁと思ってましたもん。 読ませていただき、あり…
感想一覧
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