ゼウスは少女の涙を許さない③
評価を……、評価を下さればやる気メガ盛りMAXです(欲しがりお化け並感)
「キョウカ」
「…………ッ!?!?!?」
私は背後からの懐かしいその声に、確かに聴き覚えがあった。
私の大好きな、耳に心地良くて低い、それでいてどこまでも澄んだ声だ。
だけど、そんなことがありうるはずがない。
そうだ、そんなはずがないじゃないか。
たとえ、たとえあるにしてもだ。
目の前の奴が私を動揺させるために、幻術の類でも施しているのだと私は自分に言い聴かせた。
--でも。
そう言い聴かせたはずなのにーー
もしかしたらありえなく破天荒でデタラメな強さを誇った奴の話は本当かもしれないと、私の身体は振り向くことを少しも自重してくれなかったのだ。
そうして振り向いた先にはーー
驚くことにあの時のまま何一つ変わらぬお姿で、心底悲し気な表情を浮かべた旦那様と母上が佇んでいたのだった。
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「だ……旦那様……それに母上……? これハ……こんなことガ………? 嘘ダ、そんなことがありうるはずがなイ……。私は何ヲ……一体何ヲ見せられていル……?」
放心状態で涙しながらも、なんとか言葉にしてゆく私に対して、目の前の男は治癒魔術を自身に施しながら口を開いてゆく。
「どうした? 君は母親の言葉を、あの時確かに聴いたじゃないか。天は必ず私達を見ていてくださると。だからこそ天の温かな加護をひたすらに待つべきだと。それに君は願いもしたはずだ。どうか母親だけは奪ってくれるなと」
奴は言葉を続ける。
「あまりに遅い処置となってしまったが……君をこの上なく大切に想う心優しいご両親との、何者にも邪魔をされることのない、これからの幸せいっぱいの生活でどうか手を打ってくれないだろうか? 幸いご両親のお骨は大切に埋葬されていたから、蘇生魔術自体は難なく、完全完璧に施すことができた。だから安心して欲しい」
「……ッ!」
私は奴の言葉に驚愕しながら考え込んだ。
(馬鹿ナ……何ヲ……何ヲ言っているんだこの男ハ……!? あろうことカ、禁呪の蘇生魔術を唱えきってもなんともなク、しかも完璧にやり遂げただト……ッ!? とっくに身を滅ぼしていてもおかしくハ、おかしくはないというのニ……ッ!?)
突拍子もない奴の発言からの旦那様達の登場、しかもそれが蘇生魔術をいとも簡単に施したからだという奴の主張に対して、私の脳内はもうぐちゃぐちゃだった。
この状態から頭の整理など、今更どうやって、どうしてつくはずもあろうか……!
そうこう私が慌てふためいているうちに、旦那様はよろよろと私に近づいてこられた。
そして私の目線の高さに腰を落とし、肩を両手で掴みながら、ゆっくりと口を開かれる。
「すまなかったキョウカ……ッ! ミリアム達がまさか、あのような外道極まりない行いをしているとは思いもしなかったのだ……ッ! 私がようやくお前達が受けていた数々の仕打ちについて知ったのは、クリストフにサギリの死について調査させた後のことだった……ッ!」
旦那様は頬に一筋つうっと涙を伝わせて、さらに言葉を続けられる。
「何も知らなかったではキュラス侯爵家当主として、いや一人の娘の父としてとても済まされる話ではない。父の罪を許せとは言わぬ。だがどうか、お前とサギリには詫びさせて欲しいのだ……ッ! 辛かったのだろう、苦しかったのだろう……ッ! お前は……お前は母親の仇を討ったとはいえ、ミリアムとヘニッヒは私の妻と実子だった……。お前は先程、自身の行いに後悔などしていないと言ったが、私はお前が誰よりも優しい子だということを知っている……ッ! 心の底ではミリアム達の死を私が悲しむのではないかと、きっと罪の意識に苛まれ続けたのだろう……ッ!?」
「……ッ!」
私は図星をつかれて、言葉に詰まってしまった。
旦那様のまったくもっておっしゃる通りだったのだ。
「旦那様……私もキョウカに何もしてやれませんでした。この子のことを本当に考えれば、もっと早くになりふり構わず旦那様に報告すべきでした」
それまで静観されていた母上が涙しながら、静かにそう口にされた。
魔物化した私を見つめるその瞳は、慈愛に充ち溢れているような気がした。
「いいや違う! 全ての過ちは、お前達の扱いに気付けなかったこの私の無能さが原因だ! 優しいお前のことを少しでも考えれば、こうはならなかったはずだ! キョウカがこのような姿には……ッ!」
そんな母上の言葉を旦那様は涙ながらに、すぐに否定された。
旦那様と母上の、互いを本当に想うからこその美しい言葉のやりとりに、身も心も魔物化したはずの私でも、だんだんと心温まってゆくのを感じているとーー
「禁呪の戒を破り魔物化すれば、莫大な負の力と引き換えに人の心を失ってしまうのが通常だ。渇きを癒すための血に飢え、強い殺戮衝動に駆られ、人殺しをこの上なく愉しんでしまう」
突然の奴の言葉に、私ははっと気付かされた。
そうだ、私はもはや化物だ。
完全に魔物と化して、どうしてこの人殺しの親不孝者が今更旦那様と母上の前にでられようかと。
--しかし。
「--だが」
そのような私の考えを見透かすかのように、奴はすぐに口を開いてゆく。
「だが君はーー完全に人の心を失うことはついになかった。それは君自身の強い意志の表れだ。最期の一握りの優しい心だ。だからこそ君はミリアム親子を手にかけた後、人の寄り付かない暗晦の森を選んだ。それでも魔物と化した君を殺すため足を踏み入れてきた人間ならば致し方なしと、苦渋の選択だったのだろう? 君は何も気に病む必要はない。君が手にかけた森に踏み込んだ彼らも、一度は死を覚悟したはずだ」
奴の話の通り、確かに殺す覚悟の人間には殺される覚悟がつきものではあるがーー
それでも、私には簡単に割り切れる話ではなかった。
だって、それでも、人殺しには変わりはないのだから。
ーーしかし。
その後の奴の発言に対して、私は今日何度目かわからない驚きをみせてしまったのだ。
「それでも気が引けるというのなら……すべてはこの無力な神のせいにしてしまえばいい。このオリュンポス十二神、主神ゼウスのせいにしてしまえ」
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--ッ!?!?!?
私を含め、旦那様達も奴の発言に驚きを隠せないでいた。
「ゼ……ッ!? ゼウ……ス……!? ゼウスだト……!?」
--オリュンポス十二神、その名を聴いて知らぬ者はいない。
(神々の中でも頂点に君臨する存在ダ……ッ!? しかも奴は主神ゼウス……その中でもさらに頂点の存在だト……ッ!? とても信じられる話ではないガ……しかシ……なんの後遺症もなク……禁呪の蘇生魔術を完璧に施している奴ヲ、他にどう理由をつけられル……ッ!? それに森で私を魔眼で制したのモ……それが神眼だったのならば納得ができてしまウ……ッ! それでハ、まさか本当ニ……本当ニ奴は……主神ゼウスなのカ…………ッ!?)
そんな私達の驚く様を少しも気にかけることなく、奴はふっと笑みを浮かべた後、旦那様の方へと視線を向けた。
「さて、元侯爵家の貴方達には物足りないかもしれないが、小洒落た一軒家を用意しました。よろしければそこで是非、これからの余生を家族中睦まじく過ごして欲しい」
「ほ……本当に、貴方はゼウス様なのですか……? 確かに、先程事情を話して下さった時も、随分と大人びた子だと印象を受けましたが……」
母上がそう問いかけたがーー
奴はやっぱりにやりと笑みを浮かべるだけで、こう一言残して部屋を後にしたのだった。
「俺の正体は決して誰にも口外しないでください。さて、感動の再会に邪魔者はいらないな。あとは家族で仲睦まじく、ゆっくりとお過ごしください」
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レーヴェンマルク子爵家 廊下
「これで本当によかったのか? ハーデスからの天罰はいかにお前とて容易には避けられまい?」
部屋のドアをパタリと閉めた途端、ケラウノスちゃんが心配そうに声をかける。
それでもいいさ、いや、のぞむところだと、俺はすぐに力強く言葉にしようとしたがーー
懐かしい凛とした美しい声に、阻まれてしまったのだった。
『--本当ね。あいも変わらず、とんだ大馬鹿者よ貴方は。お義兄様の怒りを甘く見すぎではないかしら?』
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