ゼウスは少女の涙を許さない①
評価を……、評価を下さればやる気メガ盛りMAXです(欲しがりお化け並感)
忌まわしい一夜が完全に明ける前から私はというと、朝早くに起きて一人でせっせとお菓子作りに励んでいた。
一日遅れの誕生日祝いとなってしまったが、何もしないよりは遥かに良いし、私自身少しでも早く旦那様の誕生日をお祝いしたかったからだ。
(昨夜はミリアム様達のせいで、母上と共にお祝いできなかったが……今日は違うぞ。母上は朝早くのお祈りのため、聖堂へ向かわれたようだが……私だけでも旦那様をお祝いしなくては)
そんな風に調理中も考えていた私は、早起きでいらっしゃる旦那様の寝起きのタイミングを見計らって、目覚めの珈琲のお茶請けにと、出来立てのワッフルをお届けしたのだった。
一日遅れとはなったが、私がお祝いの言葉を申し述べた際の旦那様のぱぁっとした、なんとも幼子のような笑顔は今でも忘れらない。
それから旦那様は中腰になり私に目線を合わせて、どこまでも優しい笑顔をにこりと見せた後、私の頭を撫でながらこうおっしゃった。
「ありがとうキョウカ、いやはや私は本当に幸せ者だよ、お前のような娘を持ててな。父として誇りに思わずにはいられんくらいだ」
旦那様のその言葉を聴いた瞬間だった。
私は嬉しくて、感動して、つぅっと嬉し涙が一筋頬を伝ってしまうのを感じた。
父としてーーこの言葉の持つ意味がわからない程、私は世間知らずではなかったからだ。
「馬鹿な奴め、このめでたい時に涙を見せる奴が何処にいる?」
旦那様はにこやかにそう私をお叱りになったが、私の嬉し涙は少しも止まることはなく、私はただただ何度も自身の手の甲で溢れ出る滴を拭い続けた。
一般的に妾の子は、父親のことを父と呼ぶことは許されない。
何故ならば、身分の低い母体から生まれた子というのは同様に卑しい身分とされ、かつ正妻の子と厳格な身分差をつけるためにも必要な風習とされていたからだ。
その他にも酷い話だが、正妻以外の女性との情事、特に身分の低い女性とのものは、所詮は戯れの域を出ないものであり、たとえ子が成されたとしても実子として認めないという考えも古くから根付いていたのだ。
だからこそ、私も父親であるはずのユリウス様のことを旦那様としかお呼びしたことは無かったし、お呼びすることが出来なかったのだ。
しかし旦那様はいついかなる時でも、私の父として常に接してくれた。
貴族でも何でもない妾サギリの子キョウカを娘として、その父として、常日頃正妻の子であるヘニッヒ様と全く遜色ない程には接してくださったのだ。
(旦那様の娘としてこれ以上に……これ以上に嬉しいことがあろうか……)
だからこそ、私は深く感慨に耽っていたのだがーー
これが吹けば消し飛ぶような、まさに泡沫の如き儚い幸せでしかないと知るのは、そう遠くない未来だったのだ。
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ーーバンッ!!!
「失礼します! 大変です……ッ、大変です旦那様、キョウカ様……ッ!」
突如ノックもなしに、勢い良く木製で高級感溢れる扉が開かれた。
私と旦那様は一斉に扉へと視線を向けると、そこにはキュラス侯爵家の老執事であるクリストフがいた。
それも普段の冷静沈着さを微塵も感じさせないほど悲壮感漂う表情で、肩でなんとかぜぇぜぇと息をしながらだ。
相当に急いでここまで来たということは、旦那様も私もすぐに見て取れた。
「一体、どうしたというのだ?」
だからこそ、ただ事ではない気配を感じ取った旦那様がすぐに事情を問いただすがーー
「サギリ様が……サギリ様が……ッ!」
その後クリストフの口から出た言葉が衝撃的で、私はふらっと血の気が引いてしまった。
「単身で聖堂に向かわれる際……森で何者かに襲われましたッ!」
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(お供の者も付けず単身で……ッ!? そんな……そんな馬鹿なことがあるかッ! 母上が……母上が……ッ!)
そこまでクリストフの報告を聴いた私はいてもたってもいられず、すぐに部屋を飛び出して厩舎へと向かい、馬を引いてばっと飛び乗った。
飛び出した私の後を追った旦那様とクリストフもすぐに馬に飛び乗り、聖堂に通じる森へと急いで走らせた。
その間私の胸騒ぎは少しも鳴りを潜めてはくれず、はやる気持ちでいっぱいで、どうしようもなくて、ただただひたすらに馬を急がせ続けた。
(どうかご無事で……ご無事であってくれ……ッ!)
そしてーー
森の入り口から数百メートル程の地点に、赤と黒を基調とした立派な装束の集団が十人ぐらいで、何かを取り囲むように調査する姿を私は確認した。
私は特徴的な衣装に身を包む彼らが、何者であるかを知っていた。
彼らはラドルフシュテット帝国民ならば知らない者がいないと言っても過言ではない程のエリート集団であり、帝国警察組織の頂点を担うラドルフシュテット帝国憲兵隊だった。
つまり、そんな彼らが出動しているということはーー
彼らが取り囲む対象は、何事かの大事件に見舞われたということに他ならなかった。
私は母上のような敬虔な信徒ではなかったが、この時ばかりはいるかどうかも疑わしい神に対して、藁にもすがるように祈りながら、馬から降りて必死に彼らをかき分けた。
(神よ……私はどうなってもいいッ! だからどうか……どうか母上を私から奪うことだけはしてくれるな……ッ!)
心の中で何度も何度も泣きそうになりながら、私はそう願い続けた。
--しかし。
そこで私達を待っていた光景はーー
首から下げた十字架を両の手でひしと握り締めながら、無残にもナイフで左胸を一突きにされた母上の姿だったのだ。
キョウカ魔物化の理由が次回に続きます。
書きすぎて1partに収まらなかった、、
次回は書きだめがあるので数日以内にはアップします!
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