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悲しき深淵

評価を……、評価を下さればやる気メガ盛りMAXです(欲しがりお化け並感)

レーヴェンマルク子爵家 ゼウス寝室



「……ここハ、何処ダ……?」


 目覚めれば、そこは見覚えのない殺風景な白の一室。

 私は微睡から徐々に解放されて、周囲をゆっくりと確認し始める。


 十分な弾力性があり、全身を優しく包み込むかのようなふかふかベッド。

 白の肌着だけにされた身体には、高級感溢れるシルクの艶やかな掛け布団。

 洒落た小窓からは朝の柔らかな日が差し込み、そこから見える景色は緑が一杯で、さぁっと木々の間を駆けてゆく風の音、心地の良い小鳥のさえずりが目覚めを良くする一助を担う。


 私はしばらくぼーっとして、美しい景色をただただ眺め続けた。

 それから思わず笑みが溢れた後、名残惜しんでからゆっくりと、寝起きの頭を徐々に回転させて、現状把握に勤しんでゆく。


(どうやラ一晩明けテ、何処かの館の寝室に連れてこられたようだナ……。肌着だけにされていることから察するニ、奴隷商に売りさばかれる前ニ身を清められると言ったところカ……。それにしてハ、魔力を奪われた様子もないガ……?)


 そこまで私が思考しているとーー


「やっと、気がついたか」


 私はばっと振り向いて、声の主を確認する。

 突如私に声をかけたのは、小窓と反対方向にいる齢12歳程の目付きの悪い少年だった。

 白のシックな椅子に足を組んで腰掛けており、片手に持っていた難しそうな洋書をぱたりと閉じて此方に微笑みかけてくる。

 その優し気な表情は、とてもではないが幼い少年が出来るものでは決してなかった。


(気にくわない奴ダ……)


 私はこの少年には見覚えがなかったが、奴の声と台詞で、状況的に先程まで対峙していたトーリスとかいう奴と同一人物だと瞬時に判断した。

 しかし奴の私に対する態度は、交戦中と一変していたーー


「……殺セ」


 --だからこそ。

 私は隣で椅子に腰を掛けている奴に対して、目を伏せながら静かに、そう言い捨ててやったのだ。


 信じられないことだが……帝都も危険区域に指定している暗晦の森の主であるこの私相手に、おそらく奴は実力の半分、いや一割すらも力を出していなかっただろう。

 だからこそ私は、一度は底が知れない奴の実力に怯えてしまった。

 しかし奴の手に完全に堕ちた今、そういった感情よりも先に、自尊心を損なう振る舞いを理性で抑えることができた。

 そうさ、このまま辱めを受けるくらいなら、あっけなく命を絶たれたほうがずっとマシじゃないか。

 

 そんな風に思っていた私は更に一言、凛としてしなやかに言い放ってやったのだ。

 

「何をしていル悪人面、さっさと殺セ。辱めを受けるくらいなラ、我は躊躇なく死を選ブ」


 そうして私は奴を睨みつけながら凄むのだがーー


「そりゃまた、幼い見た目に反して大層なご覚悟だな」


 奴の煽るような台詞に、つい苛立ちを覚えてしまった。

 私を馬鹿にするな、なめるなと、目にモノを見せてやると言わんばかりに、私は舌を噛み切るため口をかぱっと開けたのだがーー


「流石ーー」


 この後、奴の口から出た言葉に身動きが取れなくなってしまった。



「流石ラドルフシュテット帝国の名門、誇り高きキュラス侯爵家の元御息女といったところか」



xxx



(コイツ……どうしテ……ッ!?)


 私は奴の思わぬ発言に驚愕して、目を丸くしながら奴に視線を送った。


「すまんな。当初は君の口から話を聴きたかったが……君がうなされて口にしていた言葉があまりに衝撃的だったものだから、色々と君について勝手に調べさせて貰った。君がラドルフシュテット帝国の侯爵家の娘という立場でありながら、母親が妾だったために正妻やその子息達から、口にするのも憚るような酷い扱いを母親共々受けていたこと」


 そんな私の様子など気にも止めず、奴は淡々と、私の知られたくない過去を口にしてゆく。


「やめロ……ッ!」


「そして君の母親の、あまりに凄惨な最期まで」


「やめロッ! やめロと言っていルッ!! 貴様……調べたとはよくも抜け抜けト……ッ! よくモ……よくモ我の記憶ヲ……我の忌まわしき記憶ヲ、勝手に覗き見たナ……ッ!」


 私は奴が事情を知りすぎていることから、何らかの記憶操作系の魔術を使用されたことに気がつき、奴の胸ぐらを思い切りぐいと掴み上げながら糾弾する。


 ーーが。


「趣味が悪かったか? 見た目通りに」


 私の糾弾に対して、奴は少しも悪びれる様子もなくそう言ったものだから、頭へ急速に血が上ってしまった。


「殺ス……ッ、絶対に殺スッ! 殺してやルッ!!」


 頭に血が上りきった私はベッドから瞬時に飛び出して、入り口に立てかけてあった私の大鎌を乱暴に手に取り、奴に向かって右斜め上から斬りつけた。


 ーーだが。


 奴は私の斬撃に対して、驚くことに回避行動など一切取らずに、微動だにしなかったのだ。

 奴の胸から脇腹のあたりにかけて、勢いよく真っ赤な鮮血が吹き出してしまう。

 そのせいでびしゃりと生臭い返り血を浴びた私だったが、そんなことよりも目の前の異様な奴の態度に心を囚われてしまっていた。


(何故ダ……何故避けンッ!? それにその眼ハ……その眼ハ何ダ……ッ!?)


 片膝をついて、勢いよく血が溢れ出している傷口を抑えながら、重症であるはずの奴の眼光は全く衰えることはなかった。

 だからこそ、私は自分自身の行いの結果にも関わらず、情けないことにただただ狼狽しながら奴を見つめることしかできなかった。

 

 そんな私の様子を確認した奴は更に追い打ちをかけるかのように、息も絶え絶えの様子になりながらも、あろうことかふっと私に微笑みかけてくるのだ。

 奴の到底理解できない行動で、もう私の頭の中はぐちゃぐちゃだった。

 まともに機能など、もはやどうしようがしてくれるはずもなかった。


「例え……」


 そんな私の状態など気遣うわけでもなく、奴は震える唇をゆっくりと動かして、更に私が予想だにもしていない言葉を口にしてゆく。

 そしてこれが、これこそがーー


 私と奴の運命の出会いになるとは、この時の私は知る由もなかったのだ。


「例え……殺されることになるとしてもだ。俺は……君を救わなければならない。打ちたければ、好きなだけ打て。刻みたければ……好きなだけこの身を刻み尽くせ。しかし、そんなことでは……君の心の叫びはいつまで経っても、少しも止んではくれないことを俺はもう知ってしまっている。そしてーー」



 ーー実は君がそうなった原因、君の母親の死はまさに俺の責任なんだ。

もうすぐ第一章が終わります!

次回は恐らく明日明後日中にアップできると思います!


作者の励み・モチベーションアップになりますので、少しでも面白い・続きが読みたいと感じていただけたならばブクマ・評価【特に評価は是非!】の程よろしくお願いいたします

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