時、既に修羅場①
新作です!
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帝立ラドルフシュテット魔術学院高等部 1-Fクラス教室内
「ゼウス君! な、なあっ? あの話、考えてくれたか!? 我がルーデル公爵家の婿養子になってもらう話なんだが……? レーヴェンマルク子爵家にとっても悪い話ではないだろ……?」
「いいやアタシだ! こんな家柄しか取り柄のないまな板ムッツリ女なんてゼウスに相応しいわけねーじゃん!!」
この名門帝立ラドルフシュテット魔術学院高等部には、どんな男も忽ちに虜としてしまう美貌と家柄を併せ持つと謳われる才色兼備の三人がいる。
一人はスレンダーな身体付き、美しい黒髪に切れ長の目、凛とした面持ちのクール系超絶美少女、ラドルフシュテット帝国の三大公爵家の一つ、ルーデル公爵家令嬢キリカ=シュナイツァード=ルーデル。
もう一人はナイスバディ、美しい金髪のゆるふわセミロング、大人びた顔立ちと鋭い目付きに黒の大きな瞳、透き通るような白い肌のギャル系超絶美少女、これまた三大公爵家の一つ、カッセルフェルト公爵家令嬢エミリア=ジーゲンルーベック=カッセルフェルト。
最後の一人は華奢な身体付き、薄茶色の完璧に整えられたエアリーボブ、太眉に愛くるしい眼と妖艶な口元のほくろを併せ持つ小悪魔系超絶美少女、またもや三大公爵家の一つ、メルツィーナ公爵家令嬢ルルイ=フリードマン=メルツィーナ。
三大公爵家というほかにも、三人には大きな共通点が2つあった。
ひとつは、ラドルフシュテット魔術学院高等部一年で最も優秀なクラスである1-Aに所属しているという点。
もう一つは、これまで浮いた話の一つもなく、色恋沙汰など無縁とばかりに一切の興味を持たなかったことだ。
勿論、彼女達はイヤミなほどモテていたので、あの手この手で告白をされることなどは星の数ほどあった。
しかしいずれも秒殺どころか瞬殺だった。
ただの一度として、相手がどれほど立派に見える男であれ、歯牙にすらかけることはなく、男達は揃いも揃って死屍累々と化していた。
「剣術修練の時間が勿体ないだろうが!」
「あー、悪いけどアタシの中で完全に脈ナシだから」
「ん~、ごめんね、キツイ……かな?」
と、三者三様の方法で、勇気を振り絞った男達の渾身の前口上を悉く完膚無きにまで屠り去ってきた。
それもそのはずだ。単に彼女達のお眼鏡にかなう男がいなかったというのもあるだろうが、その前に彼女達のお互いの家はそれぞれがライバル同士。
三大公爵家として、少しでも功績が下がれば追い付き追い越せとこれまでやってきた。
色恋沙汰に現など抜かしていられるはずもない。
実力の拮抗しているあの女達に負けてなるものかと、日々血の滲むような努力を重ねて精進してきたのだ。
しかしそんな彼女達の実態とは裏腹に、噂というのは怖いものだ。
ひょっとして彼女達は男に興味がないのではないか、果てにはフラれた腹いせに、女色ではないかという輩も少なからずいた。
ーーだというのにだ。
そんな男に興味がないとされていた彼女達だというのに、今は豹変したように一人の男へと迫っているのだ。
しかも冴えないやられ役悪人面の、家柄も大して良くはない没落子爵家の、更にはこのラドルフシュテット魔術学院高等部において最下層クラスの1-Fに所属するしがない男に対してである。
全校生徒、否、全ラドルフシュテット帝国民の憧れの的である三大公爵家。
それも三人が三人とも最下層クラスに集ってしがない男を取り合う光景に、周囲から
「えっ……? あれって三大公爵家の御三方だよね……?」
「何故最下層クラスの1ーFなんかに……?」
「遠くからしか見たことなかったけど……近くで見るとやっぱり飛び抜けてかわいいよなぁ」
などなどとどよめきが起こる。
ある者はただただ呆然と立ち尽くす。
ある者は我を失い、半狂乱状態に陥っている。
そしてある者は羨望と嫉妬の眼差しを向けてしまっていた。
しかし、三人が三人とも、さして周囲の反応を気にする様子はなかった。
キリカは普段の凛としたいで立ちからは想像も出来ないほどにきょどきょどとしながら顔を紅潮させ、余裕のない必死な童貞のように、自身の家柄をエサに男へと迫る。
一方エミリアは、見た目など気にせず、好きなものは好きだと、仕方がないんだと公言するが如く男へと迫る。
最後にルルイは、内心は男を取られてしまうことへの焦りで仕方ないのに、自身のキャラ付けを崩壊させないように、なんとか余裕の表情を見せながらもちらちらと機会を伺っているのだった。
「何を言うんだ! そのように大きくて品の無いモノをぶら下げて! あまつさえ淑女には程遠い言葉遣いと立ち振る舞い、目に余って仕方がない! それに私はムッツリなどではないわ!!」
自身の身体的特徴を取り上げられたキリカは、ずびしと効果音がつく程にエミリアへと指差しながら否定するがーー
「あぁ、品は品でも貧相の貧がないからな! 家庭とは真逆で胸部は極貧まな板暮らしじゃ生まれてくる赤ん坊も愉しみがねぇよ!」
エミリアは少しも反省する様子がなく、寧ろ得意げに、貧乳美少女に対して古今東西最大級の暴言を言い放ち、ふんと鼻を鳴らしてしまう。
「なっ!? なっ、なっ、な、な、な、なんだとこのデカ乳馬鹿女!! いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるわ!!!」
エミリアの指摘に対して、キリカは見たこともない程にかぁっと顔を赤らめながら、ちらちらと横目で男を確認しながら取り乱し、喚き散らしてしまう。
それは恋焦がれる男の前では乙女でありたいと願う、微笑ましく可愛らしい彼女なりの気持ちの現れだったのだがーー
「なにを~っ!? お前こそ家柄を鼻にかけてお高くとまる、ヒンチチ高慢女じゃねーか!」
そんなキリカの気持ちなど理解するわけもなくエミリアが言い返すと、どちらが先だったか、ぐにっとお互いの頬を両手で掴み、「ふぐぎぎぎぎぃっ」とくぐもった声を上げながら、野生的にぐいぐいと引っ張り合いだした。
高貴な身分であるはずの彼女達が、なんとも低レベルな口論をわぁわぁと繰り広げながら悪ガキの如く喧嘩する様子を見て、1-Fクラスの生徒達は皆が皆、ポカンと口を開けて茫然と立ち尽くすのも仕方なかった。
「随分とモテモテだねぇ、ゼウス君?」
そんなキリカ、エミリア両名の低俗な争いをよそに、表面上ではなんとも涼し気な笑顔を携えていたルルイが口を開く。
その一見にこやかな笑顔と優しい口調の裏には、恐ろしい程の怒気がたっぷりと含まれていたのだがーー
「ふっ、俺は天賦の才、いいや天そのもの! 万物の創造神ゼウス様だから当然よォ!! クハハハハハハ!!!」
渦中の人物である冴えない面の男。
レーヴェンマルク子爵家、ゼウス=アヒム=レーヴェンマルクは気付かないフリをして、いつもの如く道化に徹して、なんとか難を逃れようと試みるのである。
そうして今までやり過ごしてきたのだ、今回も問題はないはずだ。
そうゼウスは考えていたがーー
女心、否、乙女心はテコでも動かないのだ。
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