武闘大会トーナメント表 076話 試合結果
「一回戦第十五試合。メルラド・フィッシュハーバ選手とローラン・ボウデン選手が舞台に上がりました。Aランク冒険者のメルラド選手と、元Aランク冒険者のローラン選手の戦いです。現役冒険者が勝つのか、それとも、経験豊富な引退冒険者が勝つのか!?」
「それでな。ローラン選手はクレバーの町の冒険者ギルドのギルドマスターなんや。同じAランクでも、格が違うかも知れんで」
「そうですか。経験豊富なローラン選手が、どのような手を使ってくるのか。注目していきましょう」
格が違う。そんなことは、オルレディ、既に分かっているさ。
俺はこの戦いで、自分の実力がどの程度の物か知りたいだけなのさ。
「おい、メルラド! この間は世話になったな! だがな、ここは俺が勝たせてもらう。これだけは譲れねえ!」
この間世話になったって言うのは、フルッコの森深層調査の指名依頼を受けたことだ。
あのときは、雷光の魔法使いパンダって新人に出会うことができて、俺の方が感謝したいくらいだぜ!
そのパンダは、魔法使いのくせに、この武闘大会に出場してやがるんだ。
アンビリーバブル! 信じられねえぜ!
しかも、一回戦を突破しやがった。
これも、時代の流れってやつなのか?
相手をしていた槍使いも、一端の腕前だったってのに、パンダの奴は攻めをしのぎ切ってビクトリー、勝利した。しかも、曲がる魔法を使って。
仲間のニキシでも、曲がる魔法なんて撃てやしねえ。Aランクなんだぜ、俺たち。
Aランクにできないことが、新人にできる。
あいつは、新人のくせに、いろいろ見せつけてくれるぜ!
「メルラド、何呆けてやがるんだ? 試合が始まるぜ!」
「ソーリィ、すまんな。あんたも、時代の流れを堰き止めている石ころなのか?」
「は!? 何訳の分からんことを言ってやがるんだ?」
「あんたの時代は、フィニッシュ、終わったってことだ」
「両選手の舌戦の中、今、銅鑼が鳴りました。試合開始です!」
「ローラン選手は、モーニングスターの鉄球をぶん回して、メルラド選手に近寄らせないようにしとるな」
鉄球なんて、回しているだけじゃあ、攻撃にはならないんだぜ!
「メルラド選手が真っ直ぐローラン選手に迫る!」
さあ、鉄球を放ちやがれ! そのときが、あんたの負けるときだ!
「ローラン選手は、それまで水平に回していた鉄球を、斜めにし、まるでそれを盾のように使い始めたで。これやと、もう、接近できへんで。どうするんや?」
盾代わりにするのなら、鉄球の鎖ごと切り刻んでやるぜ!
「切れろ! ダブル・スライス!」
「ここでメルラド選手が先に攻撃しました! 二本の剣閃が、水平に走って行きます!」
「小癪な! イージス!」
ちっ!
盾の有効範囲を鉄球の前まで広げて、俺の剣戟を受け止めやがったぜ。
「おっと! 剣技の終わり際の隙を狙って、鉄球が放たれた! 受ける! メルラド選手が盾で受けた!」
「正面からまともに受けたで! あれはきついんちゃうか?」
左手が痺れて盾を握れなくなったぜ。
盾技の使えない俺は、本当にただ受けるだけだ。盾技による軽減作用なんてものは無い。
剣技発動後の硬直時でなければ、受け流して俺の反撃が入るはずだったんだ。
うまくやられたぜ!
「メルラド選手、盾を落とした!」
もう、攻めるしかないってことか。
鉄球を引き戻している今がチャンスだ!
「ビクトリー・ソード!」
「メルラド選手が一瞬で間合いを詰め、捨て身の剣技を放ちました! V字に輝く剣閃がローラン選手に刻まれます。ローラン選手、盾で受けきることができなかった!」
「……ヒール!」
リアリー? まじか?
俺の捨て身の攻撃を、クリーンヒットでは無かったとはいえ、回復魔法で癒しやがった。
でも、それなら攻め続けるだけだ!
「連撃行くぜ! ファルコン・ラッシュ!」
「メルラド選手が攻め立てる! しかし! ローラン選手が引き上げた鉄球により、メルラド選手の剣に、鎖が絡みついた! そして、そのまま剣をぶん盗った!」
うお! 盾に留まらず、剣まで無くなってしまったぜ!
どうする、俺!?
「ここぞとばかりに、ローラン選手が鉄球で殴りつけます! 接近していたメルラド選手、避けきることができない! 鉄球を胸部に喰らった!」
「ふん! シールド・チャージ!」
「うわっ、えげつないな。鉄球の追い打ちに盾での突進体当たりや。こりゃあ、勝負あったんちゃうか?」
「今、レフェリーがカウントを取ります!」
「……、8、9、10!」
「レフェリーが、ローラン選手の手を掲げます! 一回戦第十五試合は、ローラン選手が制しました!」
「現役を退いても、まだまだ戦えるっちゅうことやな」
「そうですね。ここまで、どの試合においても、ギルドマスターは勝利しています。それもあって、今大会は、レベルの高い試合が繰り広げられています。次回戦も楽しみですね」
「せやな。ローラン選手の次の相手は、シード選手が来る可能性が高いしな」
「ローラン選手の、次の試合を楽しみにしましょう」
ちっ。時代を堰き止める石ころ同士の戦いは、古い石ころの勝ちってことか。
俺の実力は、そんな古い輩にも及ばなかった。手も足も出ねえ。そんな感じだ。
こりゃあ、本当に、身の振りを考える時になっているのかもしれねえな。




