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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season3 動き出す国内
99/101

ガルグイユの過去

 フラームは重い口ぶりでとうとうと喋り出した。


「俺は一族を抜けた。名を捨て、裏切り者と呼ばれている。だが、理由がある。そこまでした理由が」


 そこからフラームのいや、ガルグイユのこれまでのことが明らかになっていった。


 ガルグイユはディパッシ族の頭領、ザンギの息子として生まれた五人兄弟の長男だった。

 圧倒的な戦闘センス、リーダーシップから成人してすぐに一族のトップになった。


 だが、ディパッシ族は貧しいままだった。蛮族、人殺し、あらゆる汚名において迫害され差別されテルノアール領の隅で盗賊紛いのことをして猟をしてと常にギリギリの生活をしていた。

 まず、ディパッシ族に交易というルートは無かった。誰も商品を売らないし、売れるほどのものも無かった。今でこそジャンガ草から作られたジュアンドルは高値で取引され嗜好品、薬品あらゆる用途で使われているがそれを売るという発想も技術も信用もなかった。


 ガルグイユもリュンヌと同じく、このままでは駄目だという漠然とした焦燥感、それに快楽的な殺人行為をする一部の危険なものたち。それらをまとめるのでやっとの毎日だった。


 戦闘を好む、好戦的な部族という性質もありながらもディパッシ族はつまるところ戦う以外の娯楽がなかったのも一因だろう。捌け口となるのがそれくらいしかなかったのだ。他民族に対する恨みもあったのは確かだが。

 それが彼らの生きる術であり、生き方だった。それを頭ごなしに否定することは出来ない。実際、略奪や殺人によってなんとか一族は生き永らえていたのだから。


 ある日、遠くに狩りに出かけた。五人兄弟でテルノアール領、テュロルド王国から外れた山奥に向かっていた。

 元々国民として扱われていなかった彼らは国という概念がなく、村から遠いか近いか程度の違いしかなかった。


 そして出会ってしまった。魔族に。


 魔族は定期的に王国の偵察を行なっており、その軍の拠点とかち合った。


 そこから交戦が始まり、ディパッシ族の精鋭五人と軍の部隊は殺しあった。初めて見る姿の者たちによる未知の戦い方、彼らは苦戦し、気がつけばガルグイユ以外の兄弟は死んでいた。

 怒りで我を失いながらも彼は戦い続け、なんとか軍を全滅させてボロボロになりながら帰った。


 そして村はガルグイユの見たことを信じなかった。圧倒的な戦闘力を持ったディパッシ族を殺すことが出来るのはガルグイユだけだと誰もが思った。

 まして、見たこともない魔族なる種族のことなど殺したことを正当化する嘘でしかないと断罪され、村八分となり、出て行った。


 飢えの限界で行き倒れていたところを偶然ギーズが拾い、その強さを重宝したギーズはガルグイユを教育して新たな貴族フラームとして腹心の部下とした。

 魔族に対抗する一族ギーズ家と魔族に兄弟を殺され復讐に燃えるガルグイユとの数奇な出会いがあった。


「じゃあ村の皆が言ってたことは……」

「それは違う!俺は断じて兄弟を殺すような真似はしない!」


 ガルグイユは鬼気迫る表情でリュンヌの言葉を遮った。


「我々には魔族に対抗する強さが必要だ。そしてそれが可能なのは現状、ディパッシ族しかいない」

「だが、今のお前たちでは無理だ」

「何やと?やってみんと分からんやろうが!」


 ギーズ、ガルグイユの発言にリュンヌは怒る。


「無理だ、私に親父と二人がかりで勝てんようではな」

「ちっ……」

「良いかいリュンヌ、魔族には最強の王と王を守る七人将という者がいる。そしてその七人将はフラームと同じくらい強い」

「んな……アホな、ガルグイユと同じ強さのやつが七人もおるって言うんか!?」

「いや、王もいれたら八人だろう、いい加減計算出来るようになれよ」

「分かっとるわ!」


「ギーズ卿、それでは我々にそもそも勝ち目などないのではないですか?」

「だから言っただろう。そこで『試練』だ」

「その試練ってなんやねん!」

「リュンヌ落ち着け、黙って聞いてろ」

「落ち着いてるわ!ったく!」


 リュンヌは慣れた手つきでイライラを抑えつけようとジュアンドルに火をつけてふかしはじめた。


「ふー、んで、その試練ってのはなんや?」

「試練とは君たちの言うダンジョンの攻略だ」

「ダンジョンの攻略?」


 それがどう関係してくるんだ。


「ああ、元々あの遺跡は古代の人々の食糧調達に加え、訓練の場であるということは石板の化身たちから聞いているね?」

「それは聞いていますが、話がどうにも見えない」

「あの遺跡には神からの試練を受ける設定があるんだ。古来よりその試練を乗り越えると努力次第で神に匹敵する実力を与えられる。人間の限界を超えられるんだ」


 ギーズの話によると人間には成長の限界というものが存在しており、その枠を試練を突破することで外すことが出来るという。

 恐らくだが、ゲームで言うところのレベル99でのカンスト状態から100以上いけるということだろう。


 エクスパータに聞くと実際、ディパッシ族の中でリュンヌ、ザンギ、マノン、テルツァ、コンテヌは既にカンスト状態でありそれ以上は強くなれないと言う。

 ただ、それは飽くまでポテンシャルの話であり、技や経験による立ち回りの上手さとはまた別のものらしいから成長出来ないということはないそうだ。


 また、個々のステータスに関しては生まれつきのものがある為、同じカンスト状態でも強さは異なるらしい。


「なるほど、で魔族と戦うには俺らがその試練を突破しなあかんってことか」

「そうだ。だが簡単ではないぞ」

「はっ!上等や、やったろうやないけ!ロウゼ早速ダンジョンに行くで!」

「待て待て、色々準備がいるだろう」

「なんやと!?」


「その試練というのは突破するのにどれくらいかかるんですか?」

「フラームがリュンヌと大体同じ歳の頃に挑戦して約1ヶ月かかった。それくらい困難なものだ。ダンジョンに1ヶ月篭り、戦い続けなくてはならないからね」

「主、29日と半日だ」


 いや、そこの微妙な見栄はなんなんだと言いたいところだがグッと堪えた。やはり父親息子の前では少しでも良い格好をしたいものなのだろうか。


「なら俺は1ヶ月で終わらせたるわ!」

「いや、リュンヌ、1ヶ月は30日だから1ヶ月じゃフラームより早く終わったことにはならないぞ」

「……」


 ガルグイユの息子がこんなに馬鹿だったとはと、少し残念のそうな顔の沈黙が広がった。


「まあ良い、とにかくガルグイユより早く終わらせたるわ!」


 試練について詳しく説明を聞いて今後の予定を検討することとなった。その間の護衛のシフトなどを考え直さなくてはいけないからだ。

 リュンヌは自分が騎士の爵位を持った名誉貴族で主人を護衛する仕事にあるということを忘れてはいないだろうか?


「とにかく、試練に関しては出来るだけ早く突破するべきだ。君が前に進めば進むほど時間はなくなるぞ」

「どういうことですか?」

「ああ、ちゃんとした説明するのを忘れていた。さっきも魔族が攻めてくる要因は君だ。君が文明を発達させればさせるほど魔族は焦るからね」

「?」

「魔族は魔力が命の源だと言ったろう?そして魔族が人間を負かし間接的に支配しているのは文明のコントロールをする為だ」

「文明のコントロール?」

「厳密には人口の、かな。文明が発達すれば生活は安定し、餓死や病死などが減る。平均寿命が伸びる。そして出生率も高くなる。魔族との違いはここだ。人間は繁殖するのが早い。人間が増えればどうなる?当然エネルギーが必要になる。そしてそのエネルギー源はなんだ?魔力だ。消費される魔力が増える。だから限られた一部の者が魔法を行使統治する世界の進化を魔族は常に監視している。魔力が人間に奪われるということは魔族が死ぬと言うこと。我々が繁栄するということは魔族が衰退することを意味する。同じ魔力という資源を異なる使い方をしていも魔力自体は同じだ。我々は彼らと共存なんて出来ない。それが魔族と人族の殺し合いの歴史だ」


 天才的な君が良かれと思って発展させた近年の人間社会は君自身の手によって破滅への危機が迫りつつあるということを本質的に理解していないようだ。

 ギーズのそんな言葉に冷や汗が流れた。


 人間同士の争いのあった元の世界とは決定的に違う価値観。決定的に違う種族の垣根。

 この世界に転生したロウゼ・テルノアールはまだその言葉の意味を完全には理解出来ていなかったのだ。


 だが、納得も出来ていなかった。だからと言って魔族が栄え、人間が貧しい低い文明の中で生きていくしかないのだろうか?

 戦争に負けるというのはつまるところこういうことなのか?

 考えがまとまらない。

 本当に共存は無理なのか、今は何も分からない。

 ただ、誰かに為にやれることを尽くして毎日睡眠不足で頑張って街の人々の笑顔が増えてきたこの順調そのものだった日常が間違っていたというのか。


 一人、思考の海の中を溺れないように必死でもがきながら耽っているところに報せが入った。


「ご主人様、お客様とのお話中申し訳ありませんが緊急です。奥様に出産の兆しが……」

「マリアがっ!?ギーズ卿、すみませんが今日はここまでで」

「ああ、構わない。私は一度自分の領地に戻る。こちらとしてもやることが多いのでね、それでは失礼する」


 気を遣って足早に帰っていくギーズを見送りながら、妻のいる寝室へ向かった。

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