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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season3 動き出す国内
98/101

歴史の秘密

「この世界の真実……?」


 突如現れたギーズは、やけに意味深なことを言い出した。

 その表情はいつもの余裕のある上品であり、胡散臭くもある笑みとは違い真剣なものだった。


「こんなところで話すような内容ではないのだがね」

「では、館へどうぞ」


 事後処理は兵士たちに任せ、館に戻る。

 ギーズ卿の突然の来訪に従者たちは大慌てだが、非公式な訪問なので大層な歓迎の準備などはさせず、自分、リュンヌ、カズキュール、エクスパータ、ギーズ、フラームの六人で後は人払いをした。

 カズキュール、エクスパータを賢者として雇用していると表向きには言っているが、彼らを残すようにさせたのはそういった者たちの知恵を必要だという事だろうか?


「今日は貴族的な前置きはなしだ、テルノアール卿」

「差し迫った問題、異常事態だとは理解していますが……さっきのアレは一体なんですか?」


 ギーズは話が早くて助かると小さく頷く。


「アレは魔人だ」

「魔人?」

「この世界には高度な知性を持った生物は三種類いる。人間族、亜人族、魔族……つまり魔人だ」

「人間でもなく、亜人でもないものが魔人……ということですか」

「簡単に、雑に言うとね。しかしそれは正確ではない」


 ギーズは指をピンと突き立てる。


「亜人は魔人と人間の血が混ざった存在、いや、これも正確じゃあないな。そもそも、魔人とは何か?魔人とは古代より存在した高度な知性を持つ人間とは別のもう一つの生物。そしてその魔人の一部、獣種の祖先を持ち、人間と血が混じり、人間の姿に限りなく近付いた魔人だ」

「では亜人とは人間であり魔人でもあると」

「魔人と人間では身体の仕組みが全く異なる。そういう点で言えば亜人は非常に人間的だ。だが、祖先の非人間的な要素も継承して新たな生物となった。亜人は人間や魔人に比べると新しい種だ」


 それは知らなかった。そんな歴史があったのか今まで聞いたこともなかった話だ。


「それで、その魔族、魔人というのは人間とどういう関係に?」

「魔人と人間は敵対している。何千、何万年と戦い続け、人間は劣勢だ。最後の戦いからおよそ500年が経っている」

「500年……過去のことは記録に殆ど残っていないし知らない訳だ……しかし何故敵対しているのですか?」

「さっき言ったのように身体の仕組みが違うからだ」

「身体の仕組みで争っているのですか?土地の奪い合いや教義や信仰、思想などではなく?」

「ああ、身体的な問題だ。ある種、資源の奪い合いとも言える」

「資源?まさか人間が食糧とか……」

「はは、いやそれは違う。資源とは魔力だ。魔力を糧に生きている、存在そのものが魔力の塊、知性を持った魔力生命体、それが魔人だ」


 ギーズ曰く、地上に流れる魔力を体内にとどめて活動力、生命力とするのが魔人で、身体そのものが魔力なので人間とは異なった魔力の扱いをするらしい。

 そして魔力の核となる部分が破壊されなければ時間が経てば魔力を吸収して回復していく生き物とのことだ。


 そして人間は地上に存在する魔力を利用して文明を発展させて生活しているので、彼らの命の素を奪っているということで邪魔な存在と認識している。


「それって……つまり、魔獣と同じ原理なのでは」

「そうだ。魔獣とは魔族の一部だ。魔力を糧に生きているのが魔族で、特に人間と同等に知性を持ったものが魔人と呼ばれている。厳密な定義はないが、人間が判別するのに使っている便宜上のものだ」


 なるほど、魔獣と基本的な仕組みは同じなのか。魔獣は人間に比べて非常に強い。それが同等の知性を獲得したと考えると厄介なのは明らかだ。


「しかし……あの魔人は何故枢機卿に化けていたのでしょう?敵の密偵か工作員といったところか……しかし何故500年も前についた決着から未だに密偵など……」

「随分と呑気なものだなテルノアール卿。その原因の一部は君だぞ」

「私ですか?」

「ああ、君だ。君の調査が目的だろう」

「何故私が魔人に調査されるのですか?」

「はあ……自覚がないのか?君、これほど地上の魔力を利用しているのだから魔人たちが警戒するのは当然じゃないか」

「!?」


 ギーズは知ってるんだ。魔法と魔術の違いを。貴族だけが体内に持つ魔力の縛りによる魔術と地上にある魔力を利用して使う魔法とを。


「ギーズ卿……あなたは一体何者なんですか」

「……私は歴史の番人。この世界の歴史を保存し継承する者。これまで何が起こったかを代々記録するのがギーズ家の役目だ」

「ほう、歴史の番人。この国の歴史が王都の図書館になかったのは……いや、この国は異常に情報を記録するという習慣がないのと関係がありそうですね」

「御明察。というのも、過去の大戦でこれまでの人間の知識を魔族が奪ったのだ。知識、知恵というのは人間の最も強みである部分。それを奪い、より支配しやすくする為の措置だ」

「別に契約魔術で禁止されているという訳ではないんでしょう?今まで不利益を被ったことはないので」

「ああ、記録して伝える習慣を奪い、口伝による継承にし向けたというのが正しいな」


 なるほど、だから魔術に関する知識が体系的にまとめられておらず、教える学校のようなものが存在していないのか。

 単に秘密主義でそれぞれの独自の魔術に関する知識で領地間の優位性を維持したいからと考えていたが、そんな裏話があったとは。


「今までの歴史、知識は口伝で代々伝えられて……いや、あなたのことだ、何かしらの媒体に保存しているのでしょう?失われたのではなく、静かに受け継がれているのならば、その膨大な情報があれば立ち向かえるのでは?」

「いや、そう簡単な話ではない。国を揺るがすほどの情報だ。情報の扱いは慎重に行わなくてはならない。そしてその下準備を何代にも渡ってしているのが現状だ」


 ただでさえ不安定なこの国に更なる混乱を招くような事態になってはそれだけで魔族との敗因になりかねない。それに強力な武器ほど奪われるのが何より怖いとギーズは言う。


「だが、状況が変わった」

「それが、私ですか」

「ああ、やっと現れた。この世界のバランスを崩し新たな局面へ導くこと可能性のある者が。石板を使いこなす者が」


 ドクンと心臓が高鳴る。今、石板と言った。ギーズは言った。

 ニヤリと笑みを浮かべながら手を入れた懐から2枚の石板を取り出した。

 今まで考えたことはある。自分以外にも石板を所持し、使う者の存在を。何も自分だけのもので、自分が特別なんて思ったことはない。

 しかし、石板は強力だ。明らかなオーバーテクノロジーであり、使い方によっては国を滅ぼすことも可能かもしれない。

 そんな石板をこの男が2枚所持しているという事実。その事実は俺を動揺させるのに十分なものだった。


「ふ……これを持っているのは君だけではないさ。さあ、出よ石板の化身たち!」


 ギーズの持つ石板が光り、この部屋に二人が姿を現した。

 一人は老獪さを持つように感じられる食えない気配を漂わせる枯れ木のような老人。

 一人は10歳にも満たないようなあどけなさの中に色気がひそみ、イタズラが好きそうな幼女だ。


「なるほど、そういうことですか」


 エクスパータが嫌そうに声をあげる。


「よお!鑑定の。まあまあそう嫌そうな顔するなよ」

「チッ……ギーズ卿を私が察知出来なかったのはおかしいと思っていたのです、偽装の。あなたの力ですか」

「なるほど、ワシの知識にはない魔法が増えとると思ったったが計算のがおったか」

「君か、記録の」


 エクスパータとカズキュールは偽装、記録の石板の化身と思われる二人を嫌そうに見る。

 鑑定に対して偽装は確かに嫌だろう。エクスパータの天敵と言ったところか。

 計算に対して記録の相性が悪いとは思わないが、カズキュールは記憶とか知識に関して無頓着で与えられた情報を処理することに特化しているようだし、石板の化身というものについて詳しく知ってそうな記録の石板は昔のことを知っている顔馴染みという感じで嫌なのだろうか?


「ロウゼ、気をつけたい方が良い。この石板は我々と相性が悪い。味方のうちはいいが敵になれば厄介だぞ。いくつかある石板でも最悪の組み合わせだ」


 カズキュールはいつも無表情ではあるが珍しく眉をしかめる。


「どういう能力があるんだ?」

「いや、他の石板の情報を主人以外の者に無断で話すことは出来ない」

「ああ、そうだったか」


 どんな石板があるのか、どんな力があるのか、それは何よりも知りたい情報だったが幾つもの禁則事項があり中々情報を開示してくれなかったのだ。

 基本的には自分に与えられた力を使うべきで、人間に対して混乱をもたらしかねない情報や干渉は避けるというルールがあるらしい。


「能力についてはお互いに情報交換でどうだい?」

「やむを得ないか……」


 ギーズを100%信用するわけにはいかないがひとまずは人類共通の敵である魔族と戦うのに協力関係になるべきだし、分かっている名前だけでも強力だと分かる石板の情報は必要だ。


「まず、記録の石板。彼はルジストール。見たこと聞いたことすべて記録しいつでも正確な情報を伝達出来る。さらに対象に触れ目を見るとそのものの記憶を読み取ることが出来る。歴史の記録は彼が保存し主人である私が利用している。ああ、さっきの答えだが、記憶は唯一奪われないものだろう?だから全て重要なものは頭の中だ。よって何かに書き記してなどはいないし、探すだけ無駄だ。私を除いてはね。」


 後で探してやろうと思っていたのだが釘を刺された。

 てか、記憶を読むって反則だろ。いや、分かってはいた。石板の能力がバランスブレイカーのチートだってことは分かっていたが異世界人ってバレたら困るし絶対に触れられないようにしないと。


「次に偽装の石板。彼女はデギズモント。見た目、音、匂い、手触り、味、なんでも偽ることが出来る。人間が知覚できるものなんでも幻を作れるといった感じだ……こんな風にね」

「なっ!?」


 ギーズの姿が変わった。そしてその姿は自分も知っている人物だった。


「デモンディ・ミステル……」

「これは王宮内をウロウロするのに便利でね」

「では、彼は」

「ああ、私だ。つまり、彼との会話も筒抜けだ」

「驚きました…いや、まさかそんなことが」


 変身だと?これって誰にでもなれるのだから王に成り代わることも可能じゃないか?

 しかも記録の石板と併用すれば相手の記憶を全て読み込み、その者しか知り得ない知識を持てる。姿形だけ同じではなく、本当に成り代われる。

 これならどこにでも潜り込めるし、こちらも防ぎようがない。疑心暗鬼になるだけだ。


 極めて危険。なるほどエクスパータとカズキュールが言うだけのことはある。この一瞬でこれだけの悪用方法を思いつくのだから使い方は無限だ。

 この組み合わせは危険過ぎる!

 武力はなくとも国を操るのに十分なだけの能力がある。これが敵に回れば脅威だ。敵対的な行動をとってなくて心底ホッとしている。


「私の持つ石板の能力は……」


 計算と鑑定についておおまかに話した。

 どのように応用して魔法を創造しているかは言っていない。これは隠し玉であり、切り札だ。そう簡単に教える訳にはいかない。


「なるほど、私には君ほどの使い方は思いつかなさそうだ。これまでの歴史でも知らない効果のある魔法も多いし君の才覚もあるのだろう。だが、そうでなくては協力者として困るからな。実に頼もしい」


「そして、教会もまた、裏にいるのは魔族だ」

「……ちょっと待ってください、教会は魔族をいや、亜人を忌避するような姿勢ですがそれじゃあ辻褄が合わないじゃないですか」

「あれは意図的にやってるのだよ。人間と亜人を対立させ、来たる次の戦いに魔族の陣営に組み込む為にね」

「そこまで人間は魔族に支配されているのですか……教会の教えは我々人間の思想の基本となり生活に根付いている。信徒も多い。それらが魔族陣営によって操られているのだとしたら相当不利な状況に置かれていますね」

「そうだ。そしてこの危機的状況を知る者は限りなく少ない。更に君の急激な台頭によりその時間は短くなったと考えて間違いないだろう。後10年……いや5年以内に戦いは始まると考えていい」

「5年……」


 先ほどの戦いを思い出す。人間にはない特殊な力で戦闘能力を上げたりする謎の技、あれは厄介だ。


「とにかく時間がない、そこで戦力を引き上げる」

「引き上げる?」

「ああ、フラームの力を見ただろう?」


 リュンヌとザンギ、二人合わせてもフラームを倒すことが出来なかった。だが、そんなことあり得るのだろうか?


「それや、そこが気になってるんや、なんぼ親父でも強くなり過ぎやろ」


 リュンヌは待ってましたとばかりに口を開いた。


「当然だ、彼は既に試練を終えている」

「「試練?」」


 リュンヌと思わずハモってしまう。


「ああ、あれをやったんですね、道理で」

「なるほどな」


 カズキュール、エクスパータは頷く。

 おいおい二人で納得してないで説明しろ。


「それは俺から説明したいのだが……良いか主?」


 フラームことガルグイユはギーズに許可を求める。


「当然だ。君には話す権利がある。いや、やっとその時が来たと言っていいだろう」

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、メディアの敵としてはこれがしっくりきますね
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