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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season3 動き出す国内
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未知の存在

「やはり来たか」


 夜になり、ヨーネンの動きをチェックしていたが案の定、罪人を拘束する建物に向かっていることが確認された。付き従っているのはフラームただ一人だ。


「で、どうするつもりなんや?牢ぶっ壊して探すつもりか?」

「どうだろうな、そもそもの目的が亜人というのは嘘で、何か別の目的があるのかも知れないぞ」

「昼間あんだけ亜人がどうこう言ってたのに芝居やったんか?だとしたら大したもんやで」


 リュンヌの言うことも、もっともだ。亜人に対する嫌悪、怒りは本物だった。顔を赤くして怒りでブルブルと震える演技まで枢機卿に出来るだろうか?演技なら役者にでもなった方がいい。


 それにしても、同行しているのはフラームだけ。隠密行動をしたいのか。別の理由があるのか。

 亜人を強奪し、ギーズ領まで戻るのは長旅だがそれまで何事もなく成功させられるほどの何かしらの自信があるのか。

 とにかく分からないことだらけだ。ただ、拘束するにはそれなりの理由がいる。現行犯で逮捕するしかない。

 この辺を散歩していただけという言い訳もまだ成立する。散歩していただけで逮捕となればこちらも立場上よろしくない。


「まあ、待ってみよう。何かしたらすぐに出るぞ」

「何かしたらって……何か起こってからじゃ遅いんちゃうか?」

「まあそうなんだがな」


 法律上、怪しいというだけで事前に逮捕は出来ないし、結局は出来るだけ未然に防ぐ仕組み作りで対応するしかない。何か起こってからでしか行動出来ないのは歯がゆい問題だというのは領主である自分が一番分かっている。

 人が傷つけられてからでしか逮捕は出来ないのだ。悪いことを考えていただけでは捕まえられない。

 下手すれば魔女狩りになってしまう。


「おっ?」


 リュンヌが反応した。


「どうした?」

「ガルグイユが扉破壊したぞ」


 留置所の入り口を破壊して侵入した。念の為事前に兵士などは移動させており無人となっている。


「思っていたより堂々としているな」

「あいつ連れてるって時点でコソコソすんのは無理やろ?盗賊みたいな真似は出来ひんしな」

「はあ……無駄だとは思うが……起動しろ」


 通信の魔道具で留置所で問題が起こった際に封鎖する為の魔道具を起動の指示をした。これで鉄の檻があらゆる出口を塞ぎ逃げられないようにする。普通の罪人ならこれで良いのだが……。そんな上手くいく訳もないと思いながら留置所に急いで向かう。


「あれ?暴れて壊すと思ってたんやが」

「中で何をしているのやら」


 留置所は静かだった。檻を破壊するような音は全く聞こえない。


「何者だ!テルノアールの施設に無断で侵入、及び破壊は重罪にあたる!姿を見せよ!」


 兵士が外から大声で誰何する。ヨーネンだと断定する前にただの犯罪者に対する様式的な対応だ。

 蓋を開ければびっくり、枢機卿のヨーネン猊下ではありませんか!?という茶番にしなくてはならない。


「クックック……本当にあなたという人は面倒だ」

「これはこれは猊下、驚きました。まさかあなたがこんな事をするとは……どう申し開きするつもりですか?」

「申し開き?そんなもの必要はない。申し開く者がいれば、の話だが、半刻もせぬうちにここは亜人が暴れてテルノアールの領主に兵士、住民を惨殺して逃亡しているのを私が捕らえギーズ領に帰るのですから」

「やはり亜人が貴族を殺したというのは嘘ですね」

「いいや、事実に『なる』。フラーム殿頼みましたよ」

「……御意」

「!来るぞリュ……」


 リュンヌ。そう言い終える前にフラームは檻を破壊し一瞬で接近していた。それをリュンヌが庇うようにしてガードした。速すぎて反応が出来ず、状況を確認して2秒ほど遅れて理解したに過ぎなかった。


「お前、どういうつもりや、ああ!?」


 フラームは答えない。


「警戒!警戒しろやつに近付くなリュンヌに任せてフラームには手出ししてはいけない!危険だ!」


 他の兵士たちは第一に領主の命を守る。それが何より優先される命令。つまり領主にとって危険な存在の排除もしなくてはならない。

 だが、フラームにとって並の兵士や多少魔道具で強化した亜人など紙切れ同然だ。下手に手を出せば即死する。ここで無駄な被害を出さない為にも距離を取り、護衛を最優先とし、迎撃してはいけない命令を出した。


「あ、ああ……」


 しかしフラームのあまりにも速い攻撃、ガードしたリュンヌの足が地面にめり込む様子、それらを見て腰を抜かした者もいた。


「アホがっ!」


 別方向で控えていたザンギが動けなくなった者を引っ掴んで遠くに投げ飛ばした。それによって打撲しグェッと声を出すものもいるが、そこまで面倒を見切れないほどに緊張状態だ。ザンギにも余裕はない。


「リュンヌ!一人で戦おうとすんな!」

「分かってる!」


 リュンヌが汗をかいている。しかも冷や汗だ。いつもの余裕や笑みはない。命を賭けた戦いの目だ。


「フンッ!……チッ!」


 ザンギがフラームに拳を放ったが僅かにスウェーで上体を動かしただけで避けた。つまりフラームには攻撃がしっかりと見えているという事だ。


「ロウゼ……!もっと皆を離れさせろ俺らが動けへん」


 そうか、思いっきり戦ったのでは巻き添えがあるから遠慮していつも通りに戦えないのだ。何かを守りながら戦うもの、ただ好きなだけ暴れることが出来るものでは戦いやすさに差がある。


「退避!全員退避せよ!出来るだけ離れろ!許可があるまで戻ってくるな!テルン!マノツァ!コンテヌ!私を囲むように守れ!」


 一刻も早く全員をこの場から離れさせなくては……。


「ロウゼ様何言うてんねん!あんたも離れなあかんやろ!危ないって!」

「いや、私はこの場に残る必要がある。枢機卿は貴族ではないが教会の上位の役職にある人間は特殊な魔法が使えると聞く。それに対抗出来るのは私だけだ。後方支援しなくてはいけない」

「聞いてないってそんなん!」

「いや……前に説明したが。したよな?テルン?」

「してますね。コンテヌが忘れてるだけかと」

「俺も聞いたことある」

「ホンマかいな!お前ら調子良く合わせてるだけちゃうん?」

「「……」」


 テルンとマノツァは黙った。おい!


「お前ら本当に勉強出来ないんだな……とにかくフラームを支援するようなら私が対処する。それをフラームに邪魔されないように守ってくれ」


 全員が退避した後、戦闘はさらに激しくなった。三人がほぼ残像のような速度で戦っているがぶっちゃけ良く分からない。サイヤ人の戦いを見てるヤムチャになってしまったような気分だ。


 だが、今のところ拮抗している。お互いが時々攻撃をヒットさせてやり返しての繰り返しだ。だが、まだ本気ではないのだろう。


 そして、ヨーネンだが……ん?何をしている?先ほどから手をかざして詠唱を行なっているようだが何か攻撃しているようには見えないがただ神に祈っているだけか?


「やはり何かする気か、キャンセル!」


 指をパチンと鳴らし魔法を阻害する。魔法は大抵初見殺しのこいつで動揺させられる。魔力の波をぶつけて相手の魔力を乱す効果がある。


「……何をした?」

「こちらのセリフだ!」


 ヨーネンにキャンセル魔法が効いた手応えはなかった。


「まあ、良い……」


 ヨーネンの詠唱が終わるとフラームが薄く光った。その瞬間、膠着していた戦闘の均衡が崩れた。フラームの動きが良くなり回復しているようだった。


「グヌッ!?」

「ジジイッ!」


 ザンギはフラームによって脇腹を蹴られて吹っ飛んだ。


 リュンヌは一人でフラームの猛攻をかろうじてガードしている。


「まさか……教会の魔法は遠距離からのバフなのか!?」

「バフ?バフってなんやロウゼ様」

「バフというのは筋力、体力などを上昇させる魔法……といえばいいか……いや、しかし」

「そんな魔法があるならリュンヌにも使ったってくれ!」

「出来ない」

「何でや!」

「そんな魔法は知らん、誰一人使えんはずだ……」


 回復の魔法は基本的に術者が対象に直接触れて行う必要がある繊細なものだ。ものの耐久度や移動速度を上げることは出来ても人間に直接干渉する魔法は実現が難しい。だからこそ、空を飛ぶ際でもホウキに術式を組み、それの上に乗ることで間接的に高速移動を実現しているのだ。それを遠隔でやるだと!?


「そ、そんならあいつを攻撃や!魔法で攻撃したらええんや!」

「しかし下手したらヨーネンが死ぬ。そうなったら困る」

「死なへん程度に加減したらいいやろ!」

「やってみるが……」


 空気を圧縮して固め、後方に吹っ飛ばす程度の威力に加減して発射した。

 しかし空気砲はヨーネンの前で威力を失い霧散した。


「効かない!何故だ!?」


 まさかあいつもキャンセル魔法が使えるのか?しかし詠唱してジャミングしているような素振りもなかった。ただ、あいつの前で消えたかのように感じた。


「無駄だ、テルノアール卿。私に魔法は効かない」


 魔法を打ち消す魔道具とかを持っているのか?それが神具として用いられている的なやつなのか!?


「枢機卿!もう少し支援を!」


 その間にリュンヌが少しずつフラームを押し始め、苦戦しだしたフラームが支援を求めた。


「させるか!」


 とにかく出来るだけ、使える限りのあらゆる魔法を繰り出した。しかしそれらは全てヨーネンの手前で無効化され消え失せる。


「クク!無駄だ無駄だ!」


 そして再びフラームの体が光る。まずいこれ以上フラームの動きが良くなればリュンヌは負ける……何か手は無いのか、ヒヤリと嫌な汗が首筋を伝うのを感じる。


 その時だった。


 フラームはリュンヌに背を向けたのだ。


「な、何の真似や……」


 呆気に取られたリュンヌが動きをピタリと止めた。

 そして……フラームとヨーネンを結ぶ距離を火が走った。ゴウッ!!という爆音がしたと思えば、その後にパチパチ!チチチッ!という火花が弾けた様な軽い音がして地面に火がついたのだ。


 ヨーネンが目にも止まらぬ速さでフラームに殴り飛ばされた。それだけは分かった。

 だが、奇妙だ。フラームが味方であるヨーネンを殴ったことも勿論奇妙だ。だが、気になったのはヨーネンの方。

 普通、あれだけの攻撃を食らえば吹っ飛ぶのではなく、衝撃で爆散するはず。肉の塊が辺りに撒き散らされているはずなのだ。

 だが、ヨーネンは形を留めたまま、遠くに飛ばされた。それだけだ。それが異常なのだ。


「お……おいどういうつもりや……」


 事態を飲み込めないリュンヌが口をついた。


「まだ終わっていない……ついてこい」

「は、ハァ!?」


 フラームはヨーネンを飛ばした方向へ走って行った。


「ちょっ……待て!」


 リュンヌがフラームを追う。


「大丈夫か、ザンギ」

「あ?ああ……」

「どうした?」

「あいつ、どう言うつもりか知らんが加減しとった。わざとワシらと互角に戦っとったんや」

「わざと?」

「何のつもりかは分からん。せやけどな、本気なら全員とっくに死んどるで……」

「ヨーネンを殴り飛ばしたのにも意味がありそうだ、とにかく追うしかないだろう」

「ああ、ほんなら行くで……お前らは自力でついてこい」

「え?」


 ザンギは立ち上がり俺を抱えてダッシュした。半端ないスピードでガタガタ揺れることで俺の三半規管はお釈迦になりキラキラを空中に撒き散らしながら移動していった。


 到着した先にはヨーネンが落下したと思われるクレーターとその前に立つリュンヌとフラーム。


「どういうことだ…….うぷっ」


 自らに治癒魔法をかけて酔いを戻しながら状況を説明させる。


「な、なんやこいつ……ガルグイユ!おい!どういうことやねん!」


 クレーターの中心にいるのはボロボロになった布衣を纏ったヨーネン……いや、ヨーネンではない!


「グッ……ギギギ!フラーム……貴様一体いつから……」


 ゆっくりと立ち上がったのはヨーネンの皮を被った『何か』だ。少なくとも人間ではない。紫の肌、目は虫のような複眼にギザギザした牙。人間でも亜人でも魔獣でもない何かがそこにいた。


「初めから分かっていた。ギーズ卿を甘く見るなよ害虫」

「な、なるほどだからわざわざお前をつけたのか……ということは支援魔法を使わせたのも」

「ああ、貴様に力を使わせ俺の力を上げる為だ」

「自分を殺す刃を自分で研いでいたとは……だが、これは我々への宣戦布告だぞ?分かっているのか!」

「もう良い、黙って死ね」


 爆発音とともにフラームの移動した後に炎が走りヨーネンだった『何か』は今度こそ爆散して液体が飛び散った。


 あまりの攻撃の速さにより摩擦と空気の圧縮によって熱が生まれ、動いた後には火が走る。これがフラームがフラームつまり炎の名を冠する所以。

 これがディパッシ族最強の男。


「何が起こってんのかさっぱり分からん……」

「時は来た。我が息子……リュンヌ……お前はこの世界を何も理解していない、何も知らない。真の敵が誰なのか分かっていない」

「な、何の話や」

「何故俺がディパッシ族を捨てたのかという話だ」

「何ッ!?」


 ガルグイユが村を出て、フラームとなりギーズ卿の配下となった。それには並々ならぬ理由があるというのはなんとなく察していたがギーズはそれについて話そうという気が無かった。難しい事情があるのだろうと敢えてノータッチだったが……。


「そこから先は私が話そう」

「誰だっ!……ギーズ卿っ!?」


 どこからともなくギーズが闇の中から現れた。


「リュンヌ、そしてテルノアール卿。全てを話す時が来たようだ。長きに渡って守られた我々の秘密を、この世界の真実を、歴史を、敵の存在を」

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