表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season3 動き出す国内
96/101

水掛け論

「テルノアール卿、犯罪者をお引き渡し願いたい」


 その後、教会のギーズ領の周辺を統括する枢機卿のヨーネン及び炎の軍団ことギーズの騎士団が兵を連れてテルノアールの屋敷にやってきた。

 一応、彼らはそれなりに地位のあるゲストということで屋敷に招いたわけだが、本音を言うとさっさと帰って欲しい。


「これはこれは猊下、『犯罪者』では具体性に欠けますね、何しろ大勢いますので」


 と言っても、テルノアール領の犯罪発生率は国内では極めて低い。ディパッシ族による警備にそもそも領地内がかなり豊かで貧困は解消されつつあるし、何らかの救済措置を手厚くする方針で、わざわざ罪を犯すやつが少ないのだ。

 強いて言えば勝手の分かっていない余所者や酒場での喧嘩、不法入領などだ。

 まあ、せいぜい『揉め事』と言える範囲だ。


 トラブルが発生すればすぐに鎮圧。逃げても忍者部隊による追跡、拷問屋による嘘が不可能な取り調べ。

 領主である自分が主要な凶悪犯は全て認識しているくらいに犯罪が少ない。


「……忌々しい亜人だ、ここに貴族街で殺人を犯した者が流れ着いたのは分かっている」

「亜人?それもまた具体性に欠けますね。亜人と言っても色々種類があるでしょう?」

「ふん、白々しい。ヘビ面の亜人だ」

「ヘビ面?それはヘビの蜥蜴人族ではなくヘビ面と?となると、ヘビのような顔つきをした犬人族や猫人族かも知れませんねぇ」

「いい加減にして頂きたい!テルノアール卿!」


 ヨーネンは机をバンッと叩き苛立ちを隠せない。


 もうキレたのか煽り耐性のない奴だ。


「いえ、なにしろね、この領地にいる者は私の管理下にあるので『正確な』情報を頂きたいのですよ。この領地には多くの亜人族がいるもので、外見だけは一致するような亜人もいるかも知れない。ただ外見が似ていたというだけで犯罪者扱いして他領の者にそう簡単に引き渡すというわけにはいかないのですよ」

「下等な亜人を領主が庇うというのか!?どうかしているぞ」

「下等な亜人……それは少し間違っている。いや、『かなり』間違っていらっしゃる」

「何?」


 ヨーネンはこいつは一体何を考え、何を言うのかと警戒して続きを促した。


「私にとって種族というのはどうでも良いのですよ。ルールを守り、勤勉に働き、他者を傷つけていないのならね。種族ごとに得意不得意はありますけど、それなら人間だって男と女、老人と子供それぞれ出来ることは違う。そこに上下はないでしょう?いや、むしろお聴きしたい。亜人を下等と考える根拠は何ですか?人間に出来ることは大抵彼らにも出来ますが?」


「はっ!何を言うかと思えば。変わり者とは聞いていたがここまでとは。良いか、我々の神は人と獣をハッキリと区別し、人が生きる上での糧と考えられた。つまり、獣から発達した亜人とは人間とは全く存在が異なる!そしてその一部は太古に滅びた邪悪な魔族となった。良く見ろ!奴らは獣そっくりであろうが!」


「ほほお、それはまた面白い話だ。その理屈なら人間と猿は非常に似ていますが、我々も猿から発達した獣なのでは?」

「な、何っ!?貴様!神の教えを愚弄する気か!?」

「いえ、ただの感想ですよ。似ていると思っただけのこと。そして似ているというのは事実。猊下、あなたの仰ることと同じでしょう?」

「か、か、神の教えを、我々の信仰を感想だと!?」

「だってそうでしょう?一体どこの誰が神の言ったことを証明出来るのです?その神が本当に神だと言う証拠は?亜人を支配したいだけの人間が作った方便かも知れませんよ、何か具体的にそれが神の言った言葉だと証明出来るものがあるのですか?」


 実はある。石板の化身は神が作ったのだから。彼らに聞いたところ、神が人間の生き様に直接干渉したり決まりを作ったりはしていないそうだ。作るだけ作っておいて放置もどうかと思うが。まあ、化身の言うところ神が本物と証明するのは無理だが確かな歴史と人間離れした技術はある。


「当たり前だ!聖典が存在しているのだぞ!」

「聖典、神が教えを羊皮紙に書いたのですか?そもそも羊皮紙が生まれたのは割と新しいでしょう。それまでは聖典は無かったということですか?それとも石にでも彫ってあったのを最近書き写したのですか?その石があるのなら場所を教えてください」

「ふざるな!神を愚弄するとは……罪深い者め!神の裁きかあるぞ!」

「その神は愚弄の他に殺人なども裁くのですか?」

「当然だ!命を奪う行為は重罪で審問にかけられ神の使徒である我々に処刑される!」

「ほう、では神が本当にいるのであれば罪人は勝手に裁かれるでしょうしそもそも神の使徒の出番などないのでは?」

「神の手を煩わせる訳にはいかぬ、故に我らが裁きを下すのだ!」

「ではそれは神の裁きではなく教会の裁きということではないのですか?」

「……?何を言っておるのだ……教会は神の意志を理解し代行して…………」


 意味が分からない、まるで話が通じない、なんなんだこいつは……と、ヨーネンそしてロウゼも思う。


「だから、神の意志というのはどうやって知るのですか?聖典に一々貴族を殺したヘビ面の亜人を処刑せよとでも書いてあるのですか?」

「そんな事は書いておらん!人殺しは罪だと書いているのだ!」

「で、その罪人を処刑するのは人殺しなのでは?」

「違う!処刑は神聖な行為であり人殺しと同じにするのではない!」

「しかし、結果的に人の手によって人が死んでいますが……」

「もう良い!これ以上話していても埒があかぬ!フラーム殿!街をひっくり返してでも罪人を探せ」


 ヨーネンは怒りが爆発し、後ろに控えていたフラームに指示をしたことで部屋の空気が一気にピリついた。

 何かすればここで叩き切る。ここにいるディパッシ族全員が警戒する。特にロウゼの後ろにいるリュンヌ、そして召集したザンギの殺気は振り向かずともチクチクと感じる。

 実力行使に出ることは想定していた。その為のフラームだ。

 しかし、予想は裏切られた。


「ふむ、ヨーネン猊下それは出来ません」

「何故だ!?」

「我々はその貴族殺しをした亜人とやらを見ていません。見ていたのはあなたと御者と側仕えのみです。先ほどテルノアール卿が仰ったように、大量にいる亜人から見つけることは不可能ですので」


 意外!武闘派で血の気の多いディパッシ族の元首領の男は非常に知性を感じる理路整然とした弁だった。


「それこそ、何か決定的な証拠などが無ければ探すのは我々には出来ませぬ。ヨーネン猊下がこの領地にいる『ヘビ面の亜人』を一人一人見ていき記憶と一致するものがいるか判断して頂く他ない」

「何を馬鹿なことを!奴らは金や書状があるわけがない。つまり不法移民であればどの領地でも捕らえられる。この領地の罪人だけを調べれば良いのだ!」

「テルノアール卿、誠に失礼ながらお聴きしますが、亜人の罪人を最近捕えましたか?もしいるのであれば、猊下に顔を確認して頂き一致すれば引き渡してもらえるだろうか?」


 不気味だ。礼儀正し過ぎる。明らかにこちらに味方している口ぶりだ。ギーズとの交友があり領地間の仲も良いとは言え教会の枢機卿を前にこれだ。一体何を考えている?何が目的だこの男は。


「……それは猊下がその者を確かにその罪人だと証明出来る証拠があればの話だ。取り敢えず収まりがつかないので人相の似ているだけの者を犯人だと言うかも知れぬ」

「この私が神に仕える私が嘘をつくと言いたいのか!?」

「嘘をつかないと証明出来る手段がない以上、絶対に信じるということは出来ませんな、嘘をつかないと嘘をついているかも知れないでしょう、猊下」

「このっ……どこまでもふざけよって……!」

「因みに、最近捕らえた罪人は全て人間であり、亜人の罪人はおりませんので顔を確認することが元より出来ませんが」

「くっ……!もう良い!帰る!神を!教会を侮辱したことを後悔するぞ!テルノアール卿!」

「左様ですか、おい、猊下を出口まで案内せよ」

「よい!要らぬわ!」


 そう言ってヨーネン、及び騎士は帰っていった。これはあれだろうか、先生を怒らせて職員室まで皆に謝りにいく不毛なイベント的なものだろうか。

 この俺が菓子折り持って後から「さっきは冷静じゃなかった、すみません猊下。気の済むまで罪人をお調べください、この街にいる限り出来る限りの配慮をさせて頂きますので失礼をご容赦頂けないでしょうか?」

 とでも言うと思ってるのか?言うわけがない。

「死ね!このインチキカス野郎!」と言わないだけマシだと思って欲しい。


「これで終わりか?」

「ガルグイユの奴め、更に強くなっとるのは分かったが何もしてこんとは思わんかったなあ」


 待機していたリュンヌ、ザンギは呆気に取られていた。


 そんなはずない。このまま黙って引き下がるほど物分かりが良い人種じゃないだろう狂信者というのは。

 不意をついて力技で来るに違いない。


「いや、何かしてくるだろうフラーム……ガルグイユは危険だ、近づかず遠くから監視を続けさせる。何かあるとすれば闇に紛れてだ。夜に何かあるだろう」

「まあ、揉め事はごめんやが……あのクソオヤジと戦えると思うとゾクゾクすんなあ」


 リュンヌは血走った目でそう言う。先ほどの昂りがまた戻ってきたのだろう。


「なーにがゾクゾクするや、このアホ孫が!ワシら二人がかりでやっと戦えるぐらいの力の差やろうが!」

「いってえ!」


 ザンギにボカンと頭を殴られたリュンヌが呻く。あの頑丈なリュンヌが痛いと思うほどの拳、いってえ!じゃ済まないだろってレベルの拳速で見えなかった。

 怖すぎるわこの一族。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ