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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season3 動き出す国内
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ネイモンドという男

ネイモンドとの出会いの話です。今回は少し短め

 裏社会の大物、ネイモンドとはどういう人物なのか。何故ロウゼ・テルノアールは領地の為に彼に接近したのか。もちろんのこと、単に諜報活動の教育の講師として呼んだだけの存在ではない。


 センタクルの火事など、直接的な武力の衝突でない場面でのテルノアールは無力だという現実を見て、あらゆる攻撃の対処を学ぶ必要があった。


 そこで、ロギー、ズギーのかつてのクライアントであり恩師というネイモンドを紹介された。彼らの言う通りの人物像なら会うべきだ。


 数人の護衛とロギー、ズギーを仲介としてネイモンドのアジトに向かった。領主自ら犯罪者のアジトに行くのは常識的にはあり得ないが、誠意を見せるポーズとしても大事なことだ。また、犯罪者を客人として屋敷に迎え入れるのも難しく、お忍びでの来訪という形になる。

 アジトの所在は普通に歩いていても絶対に見つからない森の中にある村だ。


「ようこそ、テルノアール卿」

「本日はお招きに預かり感謝する」


 出迎えたのは余裕のある笑みを浮かべる穏やかな顔つきをした帽子を被った初老の男だ。

 彼が本当に王都で手配される大物犯罪者なのかと俄には信じられない丁寧さだ。


「お久しぶりです、ネイモンドさん」

「ロギーにズギー!変わってないようだ」


 ネイモンドは二人のクライアントであったと同時にディパッシ族を抜けてフラフラしていた彼らに教育を与え生活の仕方を仕込んだ人物でもある。

 二人の貴族じみた態度や服装はネイモンドの影響を多分に受けていると感じ取れた。


「立ち話もなんですので、どうぞ奥へ」


 村へ入るとまず最初に目に入ったのは多くの子どもたちだ。庭で追いかけっこをして遊んでいたり、本を読んでいる。パッと見でも分かるくらいに良い暮らしをしている。街の平民よりもよっぽど生活水準が高く、少々驚いた。


「貴族的な挨拶と扱いをすれば良いですかな?私の聞いた話ではあなたはそういうのはあまり好まないと聞きましたが?」

「ああ、長ったらしい挨拶や前置きは要らん。時間の無駄だ。これでもそれなりに忙しいのでな」

「では早速……私をあなたの領地の講師として呼びたいと?」

「そうだ。あなたのやっている事の善悪は置いておくとして、知識や経験、それらには敬意を持っている。そして我々に必要なものだと感じている」

「なるほど、それであなたは私に何をくれますか?」

「話が早くて助かる。欲しいものを言ってくれれば可能な限り手配する」

「ほお……可能な限りですか。私が欲するものが何か分かりますか?」

「そうだな、ここの暮らしぶりを見る限り金や武器、食料、目に見える物質的なものは必要ないだろう。既に自分達で手に入れられる力がある。だとすると、簡単には手に入らないもの……そう、例えば子供たちの市民権とか」


 ネイモンドはポーカーフェイスのまま話を聞いている。


「何故、大物犯罪者がここまで子どもをここに置いてるのかは知らないが、事情があると見える。それも個人的な欲望を満たそうとかそんな小さなものではない。ある種の奉仕活動に見える」

「やはり噂通りの人だ。貴族にしては貴族以外の人間に対する興味が違う。見えているものが違う」


 ネイモンドは感心するようにうんうんと頷いて笑みをこぼす。


「まずは私の活動について一般的には知られていない部分について話しましょう」


 そして彼は彼自身と組織について語り出した。


 そもそも何故ネイモンドは国でもトップクラスの犯罪者になったかと言うと完全に成り行きだった。

 根っからの悪党で犯罪者だったのではない。生まれは今は無き小さな領地の貴族だったと言う。それは先代の王の時代の話で、王の不興を買った領地が取り潰された。彼やロギー、ズギーの教養あふれる立ち振る舞いにも納得がいく。

 彼の一家や領地の人間は反乱分子とされ粛清されたのを奇跡的に逃げて逃げて生き残り身分を捨てたのだ。


 何の罪もない子どもたちは親を失い、家を失い、将来を失った。

 そんな光景を目の当たりにして、社会そのものに疑問を抱くようになった。

 行き場のない子供を保護して細々と生活をしているうちに必要なことを必要な時に行った。そして次第にその集団から組織となった。


 主な罪状である、拉致、人身売買、武器の密輸入、略奪、それらは恵まれない子どもたちを助ける手段だった。

 拉致や人身売買は酷い目にあっている子どもを奴隷商や虐待をする親から救う為のもので、その他の商売は悪人から巻き上げる。

 雑な言い方をすれば義賊だ。


 国の考える善悪というのは基本的に貴族を中心とした考え方だ。平民の視点からすれば公平性はなく現代の知識から照らし合わせると犯罪や野蛮だと感じることも多い。

 それを貴族から犯罪者になったネイモンドはよく分かっていた。

 絶対的な正義の法と貴族はある決まった方向からの視点で見たものに過ぎないと。

 だからこそ、自分の信じる正義を通してここまで来たのだと言う。それについては否定も肯定もしない。

 ただ、現状そうするほか子どもたちを助ける方法がなかった。それなりに良い暮らしをさせるには、真っ当に働くよりも金を持った悪人から奪うことが最も効率的だった。


「ですが、今の状態がいつまでも続くわけないし、現状に満足しているわけでもない。私はどんどんと老いていくが子どもはどんどん増える。そのうち管理が出来なくなる。あなたの話を聞いて、変わる時が来たのだと感じた」


 結局のところ、ここで育った子どもたちのまともな職場はない。組織の一員として犯罪者として、国としては許していない非合法の行為によって生計を立てている。常に死と隣り合わせの生活をしている。

 子どものうちに野垂れ死ぬことは避けられて、働くことを求めてられていない一時が彼らにとっての安息の時間で、そこから先に光はない。

 ただ、自分と同じような境遇の子どもたちの為にも脈々と負の連鎖が受け継がれているだけだ。


 だが、それもいつまでも続くわけでは無い。ここへ兵士たちがいつ乗り込んできてもおかしくはない。

 ネイモンドはこれからの先のことを案じている。現状を維持するには維持する為の努力が必要であり停滞とは全く意味が異なる。


「もし、仮にですが、子どもたちを今いる子どもたちだけで良い。彼らの身分を保証してくれるのであれば私の持つ、知識、経験、技術、権力、組織全てをあなたの自由にしても良い」

「なんだと?正気か?私がどんな人物かもまだ知らないだろう」

「ええ、確かに私はあなたがどんな人物なのか、何を考えているのかをまだ良く知らない……だが、これだけは分かる。あなたが今まで何をしてきたのか。それは間違いない事実。貴族のどれだけ耳障りの良い甘言や提案よりも信用が出来る揺るぎのない結果。ディパッシ族や亜人、個人に等しく仕事と住む場所を与えた。そこだけは信用出来る、それだけが信用出来る。限界が来たと気付いてからでは遅いのだ」


 ネイモンドはロウゼの目を見た。

 彼の条件は破格だ。テルノアールは常に働き手を求めているし、人口を増やしていきたい。孤児は多少の負担があるが、領主主導の教育が出来るメリットもある。


 そして、裏社会に関するコネや情報、技術あらゆるものが手に入る。組織の裏の頭は自分となり、彼らをある程度自由に扱うことが出来るようになってしまう。

 国としては相当な脅威となり得る大きな組織をだ。

 リスクがあるとすれば、領主が国の犯罪者を抱えているスキャンダルが明るみに出る可能性があると言ったところだろう。ここに関しては注意が必要だ。


「ネイモンド、あなた自身は既に名が通り過ぎているし匿える保証は無理だ。顔を変え、名を捨てない限りは無理だろう。だが、子どもたちをテルノアールの平民として扱うことは領主権限で可能だ。その条件で合意出来るならば出来るだけのことはするし、そちらにも出来るだけの情報を出してもらい協力を要請する」

「良いでしょう、契約成立だ」

「では、詳しい条件を詰めた後に契約魔法で契約をする。それで良いな?」

「……ふふ、犯罪者に口約束でなく契約魔法とは。本当に噂通りのお方だ。こんな適切なタイミングとは神の采配としか思えない」


 取り敢えずの合意の印として土産に持ってきたワインで彼と乾杯した。


 その後、テルノアールは裏社会のネットワークの構築と技術を身につける為の技術寄与が開始された。

 これで潜入が難しかったところへ入り込み、情報を手に入れる機会が増え、また有利な領地経営への歩を進めた。



「神で思い出しましたが、最近王都周辺や教会周りの動きがかなりきな臭いのはご存じで?しかもあなたの名前が頻繁に出ていますが?」

「……なぜ教会で私の名前が?」


 心当たりのない教会と自分の組み合わせに嫌な予感がせざるを得なかった。

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