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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season3 動き出す国内
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銀行とマジックカード

 兼ねてより計画していた領地のプロジェクトがある。それは、テルノアールにおける問題を解決するのに必要なものだ。

 まず、一つ。テルノアールは大きく改革が進んでいくにつれ、先行投資するものや、公共事業などが多くとにかく現金不足だ。

 もう一つは増えていく人口により、役所仕事が圧迫されて業務が回らなくなること。

 最後に、人種の幅が広くこれまでは人間族を優先とした社会福祉などの決まりの数々が時代にそぐわなくなっていること。というのも、働き手となる人々の40%程度は人間ではないからだ。



 そこで、それらの問題を解決するべく導入するのが、誰もが利用できる銀行と、転生前の世界で言うところの社会保障番号、マイナンバー的なものだ。

 計算と鑑定の石板が無ければ運用は出来ないが、電気による機械を使うことが出来ない以上、魔法という不思議テクノロジーに頼る他ない。


 この事業の利点について説明したい。

 まず、銀行だが、現金を集めることが出来る。今までは一部の金を持つ商店に個人で貸し借りの契約をすることが基本だったが、トラブルが多かった。その度に領主として裁判をすることもあり、無駄な仕事だと感じていた。

 そして、現金を安全に預けておける場所というのも無かった。これで常にスリやカツアゲの心配をしなくて済む。

 何より、亜人族、ディパッシ族にとってこの恩恵は大きいだろう。金を借りたり、預けておいたりすることが人種差別によって出来なかった。これが彼らの経済活動を貧弱にし、人間によって楽にコントロール出来ていた理由でもある。


 次に個人を識別することが出来るクレジットカードのようなものだ。この世界での身分証明ほどあやふやなものはない。誰々の紹介で来た誰々。何とか村の誰々。判子を押した書類を持つ自称誰々。とにかく適当で自分としては全然信用が出来ない。


 というわけで、個人個人に番号を割り振り、鑑定により本人の名前や生年月日、あらゆる個人情報を記載した魔道具を開発した。これによって相手の信用度や残高照会を可能とし、役所の仕事を円滑に進めることが出来るはずだ。金の引き出しも出来る。

 また、悪用対策に関しても魔法は優秀だ。契約魔法というこの世界の強制的なルールによって神を欺くことは出来ない。血の契約により、持ち主しかそのカードは利用出来ないようになっている。他人が持っていてもただのゴミだ。

 現在は魔法札(マジックカード)と呼称している。


 人が増え続け、各地から流入している現在、身元が分からない人間というのは防衛の観点からして非常に危ういのだ。まずは、元々管理していた住民の台帳を元に少しずつ血を採取して情報の照らし合わせを行い、領地内の人間か、そうでない人間かを判別出来れば十分だろう。

 これは領地内の人間であれば基本的に誰でも利用出来るようにするつもりだ。罪人や犯罪歴のあるものに関しては保留中だ。


 因みに、先日リュンヌがダンジョン街で勝手にギャンブルして大金を失う可能性があったのであいつはマジックカードの限度額をつけてそもそも大金を使えないようにしておいた。給料は銀行に振り込み少しずつ利子を乗せて増えていくからこの方が確実だろう。

 今は文句を言っても後で感謝するはずだ。



「という訳だが、質問は?」


 テルノアールの首脳陣による会議で、銀行とマジックカードについて一通りの説明をした。これまで何度も会議を行いあらかたの仕組みについても皆理解している。


「あ、あの〜」

「どうした、エッセン」

「とても便利だとは思うんですけど……現金が目に見えず移動というのはどうにも騙されているように商人は……いえ、商人じゃなくとも思うのでは?」

「ああ、分かっている。だからこいつがここにいる……ズギー」

「はい……ではご説明しましょう」


 人の心の難しさによる問題は詐欺師で拷問屋で心理学者のズギーに助力を願った。現代で言うところのコンサルタントみたいな役割だ。


「既に種は仕込み終わっております。噂をじっくりと時間をかけて流しています」

「仕込みとは?」


 ルーク・アヴェーヌがズギーの言い振りに質問する。


「まあ、色々とやりましたが、まずは利用しないと損をするという印象をつけました。自分以外の人間が得をするというのは中々許せないものなのですねえ。先着順に少しずつレベルを変えた特典があります」

「なるほど、それなら我先にと争うか」

「後は金持ちなものに率先して使ってもらうとロウゼ様は喜ぶし名前も覚えてもらえるかもと言いふらしてます。誰がどの程度預金するらしいという話もしてますので」

「貴様!ロウゼ様の名を使ったのか」

「いえ、かも知れないという私の想像を口にしただけで何の確約もありませんよ」


 なんて、不遜なことをとアヴェーヌは漏らす。


「いや、実際現金を多く持つ商人などが利用してくれるのは助かる。それに儲けているものが利用出来るものを自分も使えるのだ、真似するものも出るだろう」


 金持ちの特権となっていた金の貸し借りを自分たちが出来ると知ればやるだろう。金持ちも率先して名を売ろうと見栄を張り合うはずだ。



「後は領主主導の公共事業を取り仕切る店の給料の支払いを銀行にするという話はつけてますのでそこで働く者は必然的に銀行もマジックカードも使う必要があります。それが嘘じゃないと分かれば平民同士の噂で勝手に信用は得られるでしょう。領主の話を聞くより知ったものの話の方が信用しますしね」

「他には何かやっとるのか?」


 フォワも興味を示したのかまだあるのかと聞いてきた。


「そうですね、これは渡されてからしばらくした後の話になりますが、マジックカードを待つことがある種の自慢やステータスになるでしょう」

「ほう?」

「例えば、これから食事をする際に店に入ろうとすればカードを待っているものはそれだけである程度領主に信用されていることになる。であれば、食い逃げや金銭のトラブルになる可能性は低くなる。カードを持つものを優先的に店は扱うでしょう。一時的にですが、カードを持っているので良い扱いを受ける。持っているものはそれを自慢する。基本的に誰でも取得出来るマジックカードを持っていなくて扱いが変わるならそんな馬鹿らしい話はない。その日は役所へ駆け込み申請するでしょう?で、次の日はカードがなくて後回しにされた者に自慢する」

「なるほどのお、良く考えられておる。人の心を分かっておるな」

「いえいえ、これが仕事ですので」


 面白い!とフォワは膝をパチンと叩いた。


「しかし、マジックカードを作る為に使用した素材や魔石の数々、それにそれらを今後も維持するとなると莫大な資金がかかりますが採算取れるのですか?」


 オーガはそれで今後大丈夫なのかと心配をする。確かに安くはない金額を投資しているし、転ければ笑えない損失だ。


「その点は心配ない。ダンジョンに挑戦する冒険者は日毎に増え、魔石の採掘量が増えて余り気味だ。輸出して金を得るのも良いがまずは領地の底力をしっかりつけて経済をより回せるようにしたい。カズキュールに計算させてたがダンジョンがある日いきなり消失でもしない限りは利益は出る」

「そうですか、それなら安心です」


 まだ領地内にそれほど魔石を利用した魔道具が多くないので使い道がかなり限定されている。魔道具は貴族が便利に暮らせるように作られるものが多く、殆どの平民は使わない。しかし、人口のバランスで言えば貴族はほんの一部。多くの平民が使える魔道具でインフラを整えた方が後々役に立つことは明らかだ。平民でも魔道具がとても便利で、自分たちでも利用出来ると分かれば潜在顧客がどんどん増える。


「問題は現場の混乱だ。恐らくここにいる者は誰かしらに問い合わせをされるだろう。その対処を任せたい。しばらくは忙しくなるが、これが広く普及出来れば我々の仕事も減る。将来の自分を助けると思って協力してくれるとありがたい」

「「「はっ!」」」


「では、続いて学校の件だ。皆、資料を見てくれ」


 学校も随分と整備が整い、専門の校舎や寮が出来ている。カリキュラムも色々と考えられ、平民の子供でも既に読み書きが出来るようになってきた。

 これは領地の社会的なサービスで、基本的に無料で誰でも教育を受けることが出来る。今は親が仕事をしている間に学校に通うことで子供が多い。親はどうしても仕事や家のことで通うことが難しいのだ。

 子供が親に家で教えているところもあると言う。


 そして学校はもう一つある。いわゆる、士官学校で諜報部や軍としての知識、経験を教育するエリート向けの学校だ。各地から優秀な人材を集めて高度な教育をしている。

 様々な特殊な技能や知識が要するこの職では、それぞれの道の専門家を呼び特別授業をしている。


 今回はその講師となる専門家のリストアップだ。


「このリスト、大丈夫ですか?」


 並んでいる講師の経歴を書かれた資料を見てトゥルーネは慎重に意見を出す。

 無理もない。リストにいる人物は犯罪者や裏の仕事をする者が多いからだ。だが、裏の仕事をする人物の技術や経験こそが諜報や将校を生み出すには必要なのだ。

 武力はディパッシ族がいるし問題ないがテルノアールの弱点は搦め手に弱いことだ。別に暴力以外でこの領地を潰す方法はいくらでもある。

 その手段を学ばなければ防ぐことも出来ないという考えだ。


「とくにこの、ネイモンド……彼は裏の仕事では有名な犯罪集団の元締めでしょう?よく了解を得られましたね」

「ああ、彼の説得は大変だったが筋は通す男だし、犯罪者だからと言って根っからの悪党というわけでもないのだ」

「どういう意味ですか?」

「彼は犯罪者だが、その利益の殆どをある事に使っている」

「ある事とは……」

「彼のアジトに行き直接話して分かったのだが、利益は孤児や社会的に立場の弱い者の保護に使っている。方法は正しいとは言えないがやっている事自体は本来その仕事をやるべき貴族の怠慢と言われた。これに関しては彼の言うことはもっともだと思う。私の考える方針とも近いものがあるし、協力的な関係を築く約束が出来た。こちらが裏切らない限り特に危険のない人物だ」

「しかし……犯罪者の言うことを信用するのは……」

「もちろん、完全に信じている訳ではし、与える情報はごく一部だ。だが、彼のもたらす裏の世界の事情や経験は役に立つ。役に立つなら、なんでも使いこの領地を守る為に活かす。逆に厄介な敵に彼らを先に味方にされる方が厄介だ。友は近くに敵はもっと近くにおく。基本だろう」

「ロウゼ様がそこまで言うのなら……私はロウゼ様を信じます」

「ホッホッ、確かに我々は正攻法ではある程度戦えるでしょうが、手段を選ばないような戦い方をされれば苦戦するでしょうし、視野を広げるという意味でも良いのでは?」

「フォワ卿……しかしあまりにもリスクが高いのでは?」

「土地を守る為には多少手を汚すことも必要。どこの領地でもやっておる。むしろ我々は今まで清く真面目にやり過ぎた。結果的には痛い目にあってきた。考え方まで守りの姿勢に入ってしまってはいかんのでは?」

「うーむ……分かりました」


 それぞれがリスクやメリットを出し合い会議も十分に煮詰まったので決を取る。


「では、ネイモンド及び特別講師の提案に賛成の者は挙手を……全員一致だな。よし、これにて会議は終了する」


 テルノアールの貴族、それに幹部たちも徐々に変わってきている。発展し続ける領地を守る為には考え方を変え、時には汚れる必要がある。皆必死なのだ。

 意見が折り合わないこともあるが、全員が領地を守り良くしたいという考えで動いてくれている。


 その彼らの期待を裏切らないように精進するしかない。改めて気を引き締め直した。

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