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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season3 動き出す国内
92/101

閑話 リュンヌの1日

 今日は珍しく休みをもらったから遊ぶで!

 リュンヌは久しぶりの休暇に息巻いていた。


 ロウゼがダンジョン街に来て、お偉方と打ち合わせの仕事をしている間、ずっと護衛の仕事をして中々休暇を取ることが難しいリュンヌに気を利かせて護衛を半日だけ交代させた。ストレスも溜まっていることだろうしたまには羽を伸ばしてやりたいのだが、リュンヌの単独行動には些か不安が残る。

 という訳で、カズキュールとエクスパータを同行させた。それでも不安だが、一人よりはマシだろう。


「さあて、まずは飯やな」

「待て、我々はロウゼがいないと味が楽しめない。一人だけ食事というのは不合理だ」

「はぁ!?今日は俺の休暇やっちゅうのに。お前ら普段から好き勝手にウロウロしてるやろうが!」

「まあ、リュンヌの言い分にも一理あるでしょうカズキュール。今日は私たちは彼の足りない脳となり行動するよう言われていますし」

「……君は彼と一緒に行動したことがないからそんなことが言えるのだ。何かしらの利がないとやってられんぞ」

「お前らほど無茶苦茶な奴らおらんわ……せっかくの休みやのに」


 リュンヌは二人のやり取りにうんざりして、耳を塞ぎながら歩いていた。

 取り敢えず街を適当に歩いて様子を見ることにした。ここは来る度に変わっていき、その変化を楽しむことが出来る。

 ダンジョンが広く有名になってからはよそからも商売人や職人、冒険者が多く訪れて日に日に大きくなっている。

 中でも、冒険者が多くの利益を生むので武器や防具を売る店が増えている。有名な職人が競い合い魔獣の素材を使った高性能なものが日夜開発されているのだ。

 今では鍛治職人の聖地となりつつある。


 そして何よりも治安が良いのがウリだ。ディパッシ族やダンジョンで訓練した兵や亜人部隊。そんじょそこらのゴロツキでは手も足も出ない屈強な者たちが街を警備している。よって多少のトラブルはあっても大きな罪を犯す者はおらず極めて安全な街だからだ。

 問題を起こすのはこの街のルールを知らない新参者で、良く知っているものは哀れな目で彼らを見る。


「ところで、君は金を持っているのかね?ここのものは高価だぞ?」


 エクスパータはリュンヌの懐具合を確認する。


「ああ?俺、一応領主の護衛やで?金ならたっぷりある」

「いや彼は全然持っていない。何故ならもらったそばから食事に消えるからだ」

「ちっちっち、カズキュールちゃん。ところがどっこい、ここはダンジョン街。金がないなら魔獣を倒して稼いだら良いだけや」

「一度に持って帰れる魔獣の量は限りがある。君は戦うことで腹が減り、稼いだ額以上に食べるだろう。そろそろ金を貯めることを覚えたらどうだ?」

「俺の金やし良いやろうが!」

「それはどうでしょうねリュンヌ。例えばあなたが食事以上に欲しいものが出来た時に金が無ければ手に入れることは出来ませんよ」

「……飯より欲しいもん?全然思いつかへんな。例えばなんや?」


 まるでピンと来ないというようにリュンヌは首をかしげた。


「さあ、そうですね……あなただけの家とか魔道具などは買えないでしょうね」

「いや、そんなん要らんやろ」

「そうでしょうか?あなただけの家ですよ?あなただけの武器を並べたり、好きな食料を保存しておく蔵に、料理人、それを保存する為の魔道具、誰にも邪魔されず自由に過ごせる場所というのは人間ならば誰もが欲しがるものかと思っていましたが」

「俺だけの俺が自由に出来る家……?」

「まあ、下働きなどの人間を雇う必要もありますのでそれなりの大金は必要でしょう」

「た、確かに!要するにロウゼみたいに自由に命令したり飯作らせられて好きなもんを置いとけるんか……」

「まあ更に話を大きくするのであればあなたの店を持つことも出来るでしょう。」

「エクスパータ、あまり彼に夢を見させるな巻き込まれるのは我々なのだぞ」

「彼には食事しか今のところ価値を感じてないようなので教えてあげたのですよ、我々は彼の脳として行動しているのですからってどこに行きました?」

「ん?いつの間に」


 カズキュールとエクスパータは突如消えたリュンヌを探すべく、周囲を見回している。


「いた」

「いつの間にあんなところに」


 リュンヌはどうやら店の前のガラスで出来たショーウィンドウを眺めているようだった。


「何をしている」

「か、カッコいい……」


 子供のように目を輝かせて眺めていたのは魔獣の彫刻だった。


「魔獣の彫刻、こんなものまで売られているのか」

「これは……随分と手の器用なものがいるようですね中々の質の高さ。相当な値がします」


 鑑定の能力を使い妥当な価格を分析するエクスパータが言う。


「ああ、これを作るのにかかった手間と時間。ここまでの質にするまでの修行の時間。それらを計算してもこの街で売っている高級な服や宝石、魔道具程度の価値はあるだろう。諦めろリュンヌ、君では買えない」

「欲しい!なんやこれ!魔獣が小さい石で出来てる!?どうやったらこんなもんが作れるんや……見ろこの牙と筋肉!めちゃくちゃ本物みたいや」


 リュンヌはブツブツとその彫刻の素晴らしさに感動して良いところを褒めている。


「……そうか!これを買う金もないし、買ったところでおく場所がない。その為には俺の家が必要なんや!」

「趣味の芸術品を保管する為……なるほど、そういう使い方もあるでしょうね」

「だが、そんな金は持っていないし今日買うことは出来ないぞ」

「お金を増やすには……ロウゼにお願いするか」

「無理だ、自分で考えて貯金しない方が悪いと言われるしそう簡単に優しく増やしてくれるような人間ではないことは君が一番知っているだろう」

「じゃあどうしたら良いんや……」

「ふむ、あなたが金を増やす方法は金貸しから借りる。何かしらの仕事をして稼ぐ、賭博をするかでしょうね」

「待て待て、エクスパータ。彼が賭博で稼げると思うか?良いカモにしかならない」

「そうですねぇ……」

「リュンヌ、今日のところは諦めて金を貯め、街を散策して帰ろう」

「嫌やあ!欲しい欲しい!帰ったらもう売れてしまってるかも知れん!」

「子供のようなワガママを言うな。買えないものは

 買えない。これからは浪費を抑えて貯めるしかない」

「うう……畜生!ダンジョンで暴れて金稼いで飯食って帰る!」

「そうした方が良い」


 グズグズと文句を言いながら一行はダンジョンのある方へと向かった。


「ん?なんか騒がしいな、なんや?」

「ふむ、大道芸のようですね……」


 人だかりの山をかき分けて何が起こっているのかを確認した。


「さあ!誰か挑戦者はいないか!?俺にパンチを当てられたやつには挑戦金額の10倍支払うよ!」


 男が観客たちに声をかけている。


「なるほど、殴られ屋か。時間内に攻撃出来れば報奨金がもらえ、無理なら参加費が取られる。それに安くない値段だ」

「恐らくダンジョンでレベルを上げて、それを利用して稼いでいるのだろう。面白い発想だ」

「へえーケンカで金稼ぐなんてあいつ賢いなあ。でもここに俺がいるのが運の尽きや……おい!俺が挑戦するわ!」

「おっ!?威勢の良いやつがいるなって……リュンヌさんじゃないですか、ダメですよディパッシ族じゃ勝負にならない。書いてあるでしょディパッシ族お断りって」

「はぁっ!?それ、ずっるー!」

「大体、殴られたら俺が死にますよ勘弁してください」

「おもんな……じゃあ逆はどうや?俺に当てることが出来たらお前の勝ち!」

「いやいや……無理ですって」

「なんや、張り合いないなあ。報奨金はお前の倍払うってならどうや!?」

「に、20倍ですか……」


 殴られ屋の男は考える。今日荒稼ぎした金を20倍に膨らませられれば、しばらくは遊んで暮らせる額が手に入ると。


「俺がやる!」


 腕っ節の強そうな男が人混みをかき分けて入ってきた。


「金だけじゃねえ、あのディパッシ族に一発当てられればそれだけの価値がある。出来れば証明に一筆書いてもらうぜ!良いよなリュンヌさんよ!」

「おお、かまへんかまへん。当てられるならな」

「ちょ、ちょっとリュンヌさん……」


 リュンヌは殴られ屋を乗っ取ってしまった。


「やれやれ……これは後でロウゼに叱られるぞ」

「もしくは我々は何も見なかったということに」

「いや、形だけでも止めておいたことにしよう」

「そうですね、どのみち我々では彼は止められませんから」

「おい、リュンヌ……やめておいた方が良いぞ?私は言ったからな?」

「金が楽に稼げるチャンスや、これを捨てるわけない!」

「知らんぞ」


 カズキュール、エクスパータは後ろの方に行き我関せずというように見守った。


「じゃあこの砂時計の砂が全部落ちるまでの間ってことやな」

「はい、そうです……あの、リュンヌさん、これ私の商売ですので一部もらいますよ」

「あ?ああ、そうかそうやな分かった」


 殴られ屋の男は窮地に立たされたが、逆にラッキーな状況に転じた。自分の代わりにリュンヌがやってくれて、その一部をもらえるならこんなに楽な話はない。ダンジョンに潜り、レベルを上げていく中でディパッシ族の桁外れな強さは身にしみて分かっている。

 そして、リュンヌはそのディパッシ族の中でもトップクラスの実力だ。負ける訳がない。自分はただ突っ立って、金が渡されるのを待ってるだけで良いのだ。殴られ屋は彼がバカで本当に良かったと思った。


「んー、流石に俺が有利過ぎるし……そうやな、ハンデで目隠しするか」

「はぁ!?」

「ちょ、ちょっとリュンヌさん、目隠しはいくらなんで不利過ぎませんか?」

「何言うてんねん、これでも俺が勝てるわ」

「は、はあ……失敗したらリュンヌさんが払ってくださいよ」

「分かってる!」


 勝ったら一部もらえるのに、失敗したら彼の責任。そんな不公平なルールでも文句も言わない。やはり彼は強いが頭は弱い。しめしめと悪い顔が出そうになるのを必死に我慢した。


「目隠しだってよ!それならいけるかも知れねえ」

「俺も挑戦しようかな」

「あのディパッシ族に一発当てられたら傭兵や用心棒でそこそこ良い暮らし出来るぜ」


 観客も破格の条件に興奮を隠せなかった。


「それでは……はじめ!」

「賞金は頂くぜ!うおおお!」


 男は大ぶりのパンチを目隠しをして、腕を組み、仁王立ちのリュンヌに食らわせようとする。

 リュンヌはそのパンチを一歩だけ引いて紙一重でかわした。


「何!?」

「ははは、そんな殺気丸出しの大ぶりパンチ目隠ししてても分かるわ」


 挑戦者は小回りの効くスピード優先の攻撃に切り替えたがまるで当たる気配は無く、彼の息がドンドンと上がり終いにはフラフラになって時間が来た。


「はい!終了!挑戦ありがとうございました!」

「ち、チクショー!なんで当たらねえんだ!」

「無駄な動きが多過ぎるから見えんでも丸見えや。ダンジョン行って出直してこい!」


「次は俺がやる!」

「いや、俺だ!」

「順番を守ってください、並んで並んで」


 殴られ屋は挑戦者を並ばせ捌いていく。なんて楽な1日なんだとこの偶然に感謝した。

 その後もリュンヌにパンチを当てることが出来たものはおらず、そこそこの金を荒稼ぎしてリュンヌは去った。


「へへへ、結構稼いだなあ」

「知らんぞ本当に」

「ロウゼはあれで結構怖いところありますからねえ」

「大丈夫大丈夫、俺が責任取るから」

「ギャンブルなどして、あいつが許すとは思えんが」

「はあ、今のがギャンブルやったんか。ギャンブルってええなあ、こんなに楽に金増えるんか。これなら家買えるのもすぐかもな」

「全く……調子に乗るな」

「で、ここで一番稼げるギャンブルって何?」

「おいまさか……」

「この金をもっと増やすんや」

「冗談だろう?」

「いや、大真面目やが?」

「良くない予感がしてきた」


 リュンヌ一行は一番倍率の高い店のサイコロの目を当てるゲームに参加していた。


「……半!」

「旦那……丁ですぜ」

「あああああ!?」


 殴られ屋はリュンヌにとって最適だったが、これに関してはディパッシ族の戦闘力は関係なく、負けまくり良いカモとなっていた。それなりに金を持っていたので彼らもリュンヌを追い出すことはしなかった。


「やばい……やばいで!?」

「もう、辞めておこうリュンヌ」

「この調子だと有り金全部巻き上げられますよ?」

「いや、次は勝てる!そんな気がする!」



「カズキュール、まずいのでは?」

「ん?こいつの金が無くなろうと我々は関係ないだろう」

「いえ、領主が稼いだ金を彼はもらってる訳ですし、その収入は平民たちが命をかけて働いて得たものと言っていい。それをギャンブルで全部失ったとなれば一緒にいた我々は何の為に同行しているのかということに……」

「!?まずい、それはまずいぞ。ロウゼを怒らせるのは面倒だ。何とかしなくては」

「そこで、提案ですが……あなたの確率の計算と私の鑑定の能力を使えば結果は当てられます」

「し、しかし、それはイカサマなのでは?」

「イカサマとはバレなければイカサマではないのです。リュンヌの所持金を今日ここに来た時より少しだけ増やす程度まで取り返して辞めさせましょう」

「なるほど。そうだな。それが良い……おい、リュンヌ。我々が出る目を予測するからその言う通りにしろ。このまま負けて帰ってはロウゼの反応が良くないだろう」

「そ、それもそうやな。勝てるんやな!?任せるで?」

「大丈夫だ、我々は神の創造物だぞ。人間の戯れに踊られることはない」

「では行きますよ……」

「頼んだ!このままやとヤバイ!」



 カズキュール、エクスパータの活躍により、リュンヌは連戦連勝。なんとか取り戻した時点で彼を引きずるように撤退させた。勝ちが続くとまだやると言って聞かない時はどうしようかと二人は思ったが、このまま店を出禁になってロウゼの耳に入る方が危険だと諭してなんとか上手くいった。



「ふう、今日は色々あったなあ」

「君は二度とギャンブルをするな。してはいけない人間だ。金の管理は今後ロウゼに任せろ」

「私もその方が賢明かと思います」

「分かった……お前らがおらんかったら俺は一文無しで帰るところやったからな」

「とにかく、今日のことは内密に」

「俺らだけの秘密やな」


 そして三人は口裏を合わせて、ロウゼのいるところへ戻った。ロウゼはいつも通り資料を眺めて何かを書いている。


「ロウゼ、今戻った」

「ああ、遅かったじゃないか」

「街が色々変わっててな、散策してたら時間があっという間に過ぎたんや……」


 ロウゼは書類から目を離し、リュンヌを見た。


「ほお、そうか……ところで、何か申し開くことがあるんじゃあないか?三人とも」

「え!?いや、別にないけど?」

「それはおかしいな。報告ではお前が勝手に大道芸の店を乗っ取り金を稼ぎ、その後他の店で金を全て失いかけていた。何故か、その後運の神が味方したように次々と勝ち店を出たと聞いたが?これは間違いなのか?」

「そそそそ、そんな事ないって」

「リュンヌ、いつも言っているだろう?嘘をついちゃあいけないと。信用が何より大事だってことを。俺の信用を失ってまで守りたいものがあるって言うんなら話は別だが……そうなのか?どうなんだ、ええ?」

「……はい、その通りです」

「よし、お前は一応騎士の爵位を持つ貴族だ。貴族としてあるべき振る舞いをせず、いくつかの決まりを破った。だが、正直に話したのだから大目に見てやろう。今日稼いだ金全て出せ。今後、金の管理は全て行う……同行していた二人の行動も筒抜けだ。二人はしばらく外出禁止だ!」


「「「そんな……」」」


 三人は誓った。ロウゼを怒らせたり、騙したり、誤魔化そうと二度としないと。

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