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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season3 動き出す国内
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マリアノアとの出会い

3章のプロローグとなります。

 あなたは公平と平等という言葉を聞いてどう思う?同じような意味だと考えるだろうか?

 自分の考えでは、似て非なるものだ。分かりやすく例えてみよう。


 ある村では、皆が飢えており十分な食料が無かった。そこに物資が届いたとする。しかし全員が満足するほどの量はない。こんな時、それをどう分配するのが正しいのだろう。

 では、平等に分配した場合のことを考えてみる。全員に全くの同じ量を等しく分け合った。これは確かに平等で、ケチのつけようがない。

 そして、公平さを考えて分けてみる。すると女、子どもの一人当たりの量は減り、男の一人当たりの量は増えた。


 それは何故か?この場合、一日に必要な摂取カロリーという基準を以ってして、分配したからだ。当然、男女差や体格で必要な量は変わってしまう。


 もう分かっただろう。平等と公平はニュアンスが似ていても本質的には全然違うものだ。

 ここまでを聞くと、公平の方が良いのではと感じる人もいるだろう。しかし、これはあくまで摂取カロリーを基準にしただけで、村の貢献度や今まで食べて来た量などと基準を変えるごとに分配の仕方、割合も変わってくる。

 つまり、真の公平を求めるというのは難しいのだ。一つの基準を使えば必ず不満が出てくる。悪いやつはこのトリックを理解して利用する。自分に有利な基準で分配すれば一見公平に感じてしまうのだ。

 その答えが出ないまま、結局平等という無難な選択が最も妥当な答えになるのかも知れない。


 平等というのは楽なのだ。公平ではないにしろ、全ての人間に等しく分け隔てなくすることで表面的な平和は生まれる。

 だが、人間の個々の条件が同一であることはあり得ない。生まれながらにして不平等であり不公平というジレンマが生じている。


 もしかすると答えなんてものは存在しないのかも知れない。だが、そこで思考停止しようとは思わない。

 より良い答えに間違いながらも辿り着く努力をしなくてはならない。

 俺は、ロウゼ・テルノアールは公平な世界を作る努力を今日も続けていくしかない。それが領主の務めだろう。




 伯爵へと陞爵した統一会議から2年が経過した。仕事に忙殺され、あっという間に時間が過ぎたがその分テルノアールも変化していった。


 個人的な変化と言えばやっと結婚したことだろう。貴族にしては随分と遅い結婚だ。相手はマリアノア・バルセロナ。バルセロナ家の次女だ。宰相の姪にあたる人物。

 多くの打診があった中、何故彼女を選んだのか。彼女との出会いはどのようなものだったのか、マリアノア・バルセロナはどんな女性だったのか。まずはそこから語らないとこの変化には誰もついてこられないだろう。



 統一会議が終わり、二ヶ月後再び王都に戻り見合いの場をセッティングした。事前に集めた情報からある程度の候補は絞ってたいたが、懸念していたのは婚姻による領地間のパワーバランスの問題と性格的に合うかどうかだ。

 ギーズ派の女性との婚姻をすれば彼らとは仲良く出来るが、オルレアン派との折り合いが悪くなり、オルレアン派の女性と婚姻すればオルレアンが強くなり過ぎるばかりか、こちらのフットワークの軽さが死んでしまう。

 したがって、どちらにも所属していない派閥の女性に候補を絞った。その中で一際目を引いたのがマリアノアだった。


 婚姻の打診がある相手側から手紙が送られて、その手紙には自分にどれだけ興味があるのか、褒め言葉などが並べられていて要するにご機嫌伺いの内容なのだ。

 詩的な表現が散りばめられ、その手紙の出来で相手を選ぶことも珍しくはない。


 だが、マリアノアの手紙は異質だった。詩的な表現はほぼなく貴族として失礼のない最低限の時節の挨拶程度。中身はほぼ履歴書で、経歴や特技、テルノアールの領地の所見、とにかく客観的な情報に徹していた。

 他の貴族なら可愛げのない女だと思うかも知れないが、自分はもう既にこの手紙だけで彼女のことを相当気に入った。



 王都にある別荘にて食事を用意して彼女を待ち、少し雑談をして親交を深めるのがおおよその手順だ。

 何故領地に呼ばないかというと機密漏洩を避けたいからだ。



「ご到着されたようです」

「では、手はず通りに」


 マリアノアが別荘に到着したので迎えに行かせ、自分は部屋にて待機しそこで挨拶をする。

 そして彼女は部屋にやってきた。随分と護衛が多いようだがディパッシ族のいるテルノアールのテリトリーに入ってくるのだからそれくらいの警戒は必要だろう。



「ようこそ、マリアノア様。今回はこのような場に来て頂きありがとうございます。初めまして、テルノアールにて領主をしているロウゼです」

「こちらこそお招きいただきありがとうございます、マリアノア・バルセロナでございます、本日はよろしくお願い致します」


 この世界に写真はないので外見上の特徴は話に聞くだけだが、とても上品で美しく落ち着いた雰囲気だ。


「食事が間もなく出来ますので、お茶でもいかがですか?お好みは?」

「ありがとうございます、では砂糖とミルクを少々お願いします」


 従者にそのようにと合図を送り紅茶をお出しする。

 先に飲み、毒は入っていない事を示した。

 さて、何を話したら良いのやらと困るところだが、ロランと事前に話す内容に関しては打ち合わせをしてある。聞いて良い事、まずい事、そこら辺の仕来りがよく分かっていないからだ。


「食事ですが、何か苦手なものや体に合わないものはございますか?」

「苦手なものというのは特にありませんが、いくつかの魚はどうにも身体が受け付けないようでして、体調を崩すことがあります」

「なるほど、それは味自体は問題なくとも例えば吐き気や痒みなどの反応が出るということですか?」

「……ええ、そうです」


 なるほど、やはり魚介類のアレルギーを持ってるみたいだな。この世界にアレルギーという概念がなく、食べた部位が悪かったり、好みの問題だと思われているので聞いて正解だった。これで毒を盛ったなどと言われてはかなわないからな。


「それはうちの領地ではアレルギーと呼んでいます。人によっては毒となり得る食べ物や植物などがありますので、好みとは別のものなのです」

「アレルギーですか、聞いたことがない言葉ですね。しかし、原因が分かって安心しました。これからは口にしないように致します」

「適切な言葉が無かったので言葉を作りました。毒とはまた違う意味ですからその方が分かりやすいかと。人によってはそれで死ぬほどの反応を見せてしまうこともあるので最近それを周知させているところです」

「テルノアール領では随分と薬や魔法などの研究がされていると聞きますが流石ですね。帰ったら皆に教えましょう。ただの好き嫌いだと思って無理に食べて死んでは大変ですからね」


 割と柔軟性があるな。それに情報の価値感もかなりしっかりしていると言える。雑談の中に相手を探るようなワードをいくつか用意していたのは正解だった。


「研究、といえばバルセロナ領でも多くの学者が素晴らしい成績を残していると聞きますが、マリアノア様も研究熱心な方らしいですね」

「ええ、私は複数の属性の相性や効果について研究を専門としています」

「ほお、それは私も関心のある分野です。光属性はまだ未知の部分が多いですから、光属性と他の属性の反応を調べるのに苦労しています」

「特に魔法の研究は家ごとに秘匿することが多いですから中々研究が進みにくいですしね。情報を共有出来れば多きく発展していくでしょうが難しいですね」

「その点については統一会議で提案したばかりです。権利などを守りつつ、魔法の発展が出来るような仕組みが必要なのではないかと。あまり賛同されませんでしたが」

「一つの国と言えど、領地防衛は領地間の問題な以上、敵となりえる他領に情報を公開するのは難しいでしょう」

「とは言え、イェルマ王国の侵攻もありましたし、国力を底上げする為にも魔法の研究は必要不可欠ですし、その点はあまり先延ばしにも出来ないと考えています」

「それはバルセロナ家でも特に案じられている問題ですね、領地同士での争いをしていれば他国に付け入られる隙が生まれますのでどうにか団結出来ないかと」

「国にとって無視出来ない共通の敵がいない限りは難しいでしょう。テュロルド王国は現在周辺の大陸の中では最も強いですからね」

「それは宰相の叔父様もかねがね言っております。強いが故に協力出来ておらず、いつか足元をすくわれると」

「流石宰相殿ですね、国のことが良く見えてらっしゃる」

「それはロウゼ様もですよ。若い領主としてそこまで大きな視点で国のことを考えていらっしゃる方はあまりいませんもの」


 中立領地の娘なだけはあるな。かなり客観的に国の状況を理解しているし、特定の貴族を擁護するような素振りも全くない。自領よりも国としての機能を重要視していることが発言の節々から感じられる。

 考え方はそれなりに近い部分があるし、理論的に考えられる。気が合うのかも知れない。


「さて、食事の用意が出来たようです」

「楽しみです。テルノアールの料理は美味と噂を聞いておりますので」

「光栄です。お口に合えば良いのですが」



 食事の解説や相手の普段の食事などを聞いて雑談をしながらも腹の探り合いは続いている。

 見合いというよりは面接だ。これから結婚するかもという男女がするような内容の会話はほとんどない。

 だが、楽しかった。楽しませてくれるだけの高い教養と思考力、妙に気を使っておだてるようなことを一切しない正直さ。こんな貴族女性がいるとは思わなかった。

 事務的な手続き、領主としての役目だと思っていたが、存外彼女のことをいつの間にか気に入りもっと彼女を知りたいと思うようになっていた。



「本日は大変楽しく過ごさせて頂きました。またお会い出来ることを楽しみにしております」

「いえ、こちらこそ……女性と話すには少し非常識な内容もあったと思いますが」

「私はむしろそういった話の方が好みです。ロウゼ様が領主となってるテルノアールが栄えているのも納得しました」

「それはまた……ありがとうございます。ではそろそろ時間ですので、ご案内を」

「はい……失礼します」



 光陰矢の如く、楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、アインシュタインの相対性の説明を思い出す。因みにこれはただの相対性の例え話で、相対性理論とは全然関係のない話だ。


 彼女を見送り、シンとした部屋でロランに話しかける。


「彼女、面白いな。明らかに今まで会ってきた貴族女性とは違う」

「恐らく宰相の入れ知恵でしょう。ロウゼ様が気にいるような人物を選んだのですね」

「ああ、だがそれを含み気に入っている。合わせようと思って合わせられるような内容ではない。彼女自身が優秀で間違いなく自分に合った性格をしている」

「それは……そうですねとても見合いの席とは思えない内容でこちらは大変ハラハラしましたが」

「私は貴族の中では普通ではないと自覚している。であれば一般的な会話では自分に合う相手は見つけられんだろう。とにかく妻として上手くやっていけるかどうかを重視したいし、家の格としても十分過ぎる相手だ」

「それも宰相の計算でしょう。とても優秀な方です。だからこそ妻にするにしては少々危険なのでは?」

「確かに……宰相としてはこちらを管理出来るようにしたいのだろう。ならばこちらも宰相を上手く扱う為には彼女の存在が重要だ。ロラン、お前ならそういった手回しは得意だろう」

「……ご命令とあらば。それにしても宰相を相手取ろうとは、普通の貴族なら絶対に考えもしないことを」

「だから普通の貴族ではないと先程言っただろう?どの道、これから領地はどんどん大きくなる。そこで調整役の宰相に干渉を受けるのは明らかだ。ならば先んじて手を打っておこうじゃないか」

「全く……あなたというお方は」

「よろしく頼む」


 やれやれ困った人だとロランは言うが、難しい課題を与えるほど嬉々として達成しようとする性格なのは分かっている。現在の仕事はやりごたえのある楽しい仕事なのだろう。



 そして何度かの見合いを繰り返し、マリアノア・バルセロナとの婚姻を次の統一会議で発表、王への承認を受けた。


 これが2年前に起こった出来事の顛末だ。


「何をもの思いに耽っているのですか?」

「マリー、君との出会いを思い出していたのだよ」


 領主の部屋でともに仕事をしている彼女が手が止まっていた自分に気が付いた。


「あらあら、懐かしいですね。あれからロウゼ様は随分と変わりましたね」

「それを言うなら君の方こそだ。最初は私のことなど大して好いていなかっただろう?」

「それはそうですね。恋愛や色恋沙汰など微塵も興味ありませんでしたから」

「この変わり様だ。これを宰相が見たら心底驚くだろう」


 マリアノアはいつしか愛称でマリーと呼ぶ様になるほど仲良くなり互いに惹かれ合い、彼女は自分を大切にしてくれている。

 二人きりの時はかなりひっついてくるほどの甘えっぷりだ。


「ふふ……まだ恥ずかしいのですか?」

「ああ、未だに接触されるのは慣れん」

「まあ、可愛い人ですね」

「……なあ、そろそろどいてはくれんか?やりにくいのだが」

「もう、仕方ありませんね」


 首に腕をかけて密着する彼女の匂いや胸の感触にはどうにも調子が狂う。どう対応したらいいのか分からなくて硬直する。それを彼女にからかわれるのがこの一年間の日常だ。


「やれやれ……」


 そう言いながら新設された学校に関する書類に判を押した。

3章が始まりロウゼはやっと結婚しました。

ここまでお付き合い頂きありがとうごいます!

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