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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season2 ダンジョンマスター
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統一会議フィナーレ

 王都に帰還した応援軍は上層部への戦果報告を数日にわたってさせられた。帰りは馬車に乗って帰ったのでクタクタだというのに容赦がない。


 会議を抜け出してセンタクルまで行った訳だが、表向きの理由はディパッシ族の管理と火事の対応の為だ。実際、迅速にセンタクルへ向かい、森の大火事を止めることが出来た者はいないだろうし、仕方のない緊急的な措置だった。

 それに関してはセンタクルから来た者たちも証言しており会議を抜けた事に関するお咎めはなしで、むしろ褒められた。

 また、ディパッシ族の管理も圧倒的な戦果を誇り、むしろそれを制御出来るのであれば行くべきで会議は一時的に中断しテルノアール領主が不在となってでもセンタクルへ行き現場の管理をさせるべきだったという意見が強く、立場上当初は行けなかった、行かせなかったことによる判断が非難された。

 つまり、それだけディパッシ族というのは貴族の中で脅威とされており、そのディパッシ族と友好な関係にあり、ある程度の指示と管理が出来るロウゼ・テルノアールはその点だけでも必要な人材とされている。


 こっちが武力をチラつかせて我を通す感じになってしまっているのは不満ではあるが、この国の人たちの率直な反応はまだ『怖い』が本当のところなのだ。

 戦果を聞いてより怖さは増すが、その分国への貢献度も高く種族が認められる方向に徐々に進んでいることに関しては悪くない結果だと感じている。

 少なくとも知らないという恐怖から知っているが故の恐怖には変わった。そして更に知ってもらい、彼らは別に邪悪な存在ではなかったのだと認識してもらいたい。

 乱暴な行為があったのは事実だが、結局は生き残る為であり、彼らなりの小規模な戦争をしていたと解釈するとこの国だけならず、他の国もディパッシ族以上に野蛮ということになる。

 その単位が国から種族になると何故か差別に繋がってしまうところに人間の業の深さを感じる。



 さて、会議の残りも順調に消化していく毎日が過ぎていき、締めとなる表彰で統一会議は終了する。


 表彰は王座の間にて大勢の貴族が集まり、国に貢献したものが称えられる神聖な場だ。ここで褒賞や陞爵など、あらゆる貢献に対する感謝を王より直々に頂けるという貴族の晴れ舞台となる憧れの空間だ。

 誰しもがここで王より褒美の言葉をもらうことに命をかけ、それを誇りに思う。


「ロウゼ・テルノアール子爵前へ」

「はい」


 そして、現在の階級は子爵。貴族の階位は公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士で、領主の爵位は世襲制だ。平民がのし上がれるのは騎士までで、それも一代に限られている。

 貴族のみに使える魔法という秩序がある以上、魔法に関する知識が無い、成り上がりの平民が貴族になり貴族として国を支えるというのは、システム上不可能なので当たり前と言えば当たり前だろう。


 子爵は男爵になって初めて許可される領主の爵位で、10年以上の統治が無事に出来て陞爵出来る。

 それで世襲してる現在は子爵ということになる。

 といっても爵位のグレードイコール権力の強さというほど単純ではなく、所属している派閥での地位や領地の影響力など様々な要素で成り立つのであまり爵位をかさにきて威張るとロクなことはない。


 あくまで、公に扱う時の区分として存在しているだけだ。爵位のグレードで幅を利かせられるのは貴族社会の内情に明るくない平民くらいだ。だからこそ、爵位と実際の影響力とか違う貴族を相手にした時に対応の仕方が気に入らずトラブルになるということは多々ある。

 まあ、大会社の社長一族の人間と、零細企業の社長では、後者の方が社会的な立場が上としても実際のパワーは家族に凄い社長がいる、一般人の方が強かったりする。みたいな話だ。

 自分が領主だからと言って態度の悪いガキに説教したら「うちの父上に言いつけてやる!」捨て台詞を吐き、デカイ領地の領主が出て来るなんてことはあり得る。

 よって、爵位を敬称として呼んでいた頃はそれにコンプレックスを感じて要らぬ軋轢を生んだこともあるので、現在はお互いを呼ぶ時には『卿』という呼び方で統一している。


「ロウゼ・テルノアール子爵、此度のイェルマ王国の襲撃、センタクルの城が落ちる寸前による助力が無ければ戦火は更に広がっていただろう。ディパッシ族がいくら強くとも今までは其方のような関係を構築することが出来なかった。彼らとの関係を深め、国を守る戦に参加させ、センタクルの森の火事まで止めた。その活躍に最大限の敬意と感謝を。今回の援軍にて必要となったものの補填及び、活躍に見合った報酬と土地を与える」


「おお……」

「火事を止めたという噂は本当であったか」

「しかし何故そこまでの魔力量が……?」


 他の貴族たちがざわめき始める。ルーキー領主がここまで王に褒められることは極めて稀である。


「そして、本日より伯爵の爵位を与える……」

「誠に有難きお言葉、光栄にございます」


 跪き、こうべを垂れ、王への忠誠と感謝を示す。


「……そして、ディパッシ族よりリュンヌ、テルン、コンテヌ、マノツァの四名に騎士の爵位をあたえる」

「!?」


「な、なんですと!?」

「ディパッシ族を国が認めるのか!?」

「貴族の地位を与える……?」


 こればかりは自分も驚いた。そして他の貴族はもっと驚いている。この場で騎士に認めると発言するということは、今まで侮蔑の対象であったディパッシ族を公に国が認めたということなのだから。

 そして他の貴族と同等の権利を持つことになる。同じステージに彼らが立つということだ。


「王のお話はまだ終わっていません、皆様お静かにお願い致します」


 王の言葉を遮られた宰相は苛立ちながらも冷静に沈黙を促す。神聖な場でこれ以上発言して不興を被り、場を汚そうというものは誰も居なかった。


「皆の思いは重々承知の上の決断である。少し異例の事態であるため説明をさせてもらう。まずリュンヌに関してだが、武闘会で既に貴族を凌駕する実力を公の場で見せた。会議中の魔獣が逃げた件に関しても多くの貴族の命を守る活躍を見せた。他の貴族の騎士が何も出来ずにいた間のことだ。テルン、コンテヌはセンタクルにて現場を指揮していた将たちを次々と倒し城を守り抜いた。マノツァはその間の留守を託されたもので同格の実力と貢献をしている。

 国とは、民を守る為のもの。王とはその国を守った者へ褒美を与えるもの。貴族とは民を守るだけの力があるもの。であれば、国として、王として、貴族として彼らの活躍を無かったことに、無視するとこは許されない。それが義務なのだ。私は彼らの活躍、存在を誇りに思い、ただ純粋に国への貢献に感謝したい。そして現在の彼らにもっとも相応しく、必要なものは地位だ。よってこのような判断を下した。異論のあるものは前に出でよっ!!」


 有無を言わせぬ圧倒的な荘厳さ。そして一つ一つの言葉の重み。国への深い愛情。それに水を差すようなことは誰も出来なかった。

 あるものは跪き、あるものは拍手をする。次第に王座の間ではまばらな拍手の音が大きくなり、それは喝采へと変わった。


 統一会議は全ての予定を終え、四人の騎士と伯爵は王座の間から出て行った。






「それでは、戦の終結と会議の打ち上げと陞爵と四人の騎士就任を祝って……今夜は宴だ!本日は無礼講だ、立場など気にせず騒げ!歌え!踊れ!」

「「「うおああああああ!!」」」


 会議がフィナーレを迎えたことで街全体でも大きな宴が行われそこら中で声が聞こえる。今夜ばかりは周りの目など気にせずにどんちゃん騒ぎだ。

 領主も、ディパッシ族も騎士も、商人も、薬師も従者も長い間の緊張から解放されたことによる喜びをそれぞれ表現する。

 序列を考えた座席の順番もない。最高の料理と酒を振る舞った立食パーティーだ。


「まさか、俺が貴族の仲間入りとはな。ジジイに話したらディパッシ族の誇りはどうしたとか言ってボコボコにされるんやろうな」

「意外と喜んでないんだな」


 と言いつつリュンヌは大きなグラスにワインをたっぷりと入れてガブガブ飲んでいる。


「いや、嬉しいは嬉しいで。国がディパッシ族を認めたんやからな。でもこっからやろ?やっとここまで来たんや。王が認めたって言うても全員が「はいそうですか」って納得するわけない。俺らはまだまだ嫌われもんや。貴族になったんが嬉しいっていうか、ディパッシ族が認められつつあるって結果が嬉しいんや。今までのことを考えるとな……」


 昔のことを思い出しているのだろう、この場には相応しくないシンミリとした面持ちでグラスを眺める。


「ジジイも、そのまたジジイのジジイも苦労してた。その話は何回も聞かされた。このままじゃこの一族はそのうち終わると思ってた。でもロウゼ、お前が現れて何かが変わる気がした。で、実際テルノアールのやつらはちょっとずつやけど、仲良くやっていけてる。礼を言ってくれる奴もいるし、店に行ったら物も売ってくれるようになった。数年前じゃ想像も出来んかったことや。だからジジイに殴られようと誇りを捨てたと言われようと、一族を守ることに繋がるなら何でもやる。これからもお前についていく……」

「リュンヌ……大人になったな、いや、酔ってるだけか?」

「アホか!真面目に言ってんねん茶化すなや」

「そうだな……悪い」


 普段は冗談を言って漫才のような掛け合いをしているだけにふとした時のリュンヌの真面目で素直な言葉にはどうにも照れくさくなる。気持ちをそのまま言葉にして言い合うというのがどうにも日本で育ってきた自分としては恥ずかしいのだ。


「ま、これからもやることは色々ある。お前にも任せようと思うこともあるし、しばらくは領地をしっかりと整えていく地道な作業が続くだろう。ディパッシ族のリーダーとして、俺の護衛としてよろしく頼む」

「ああ、任せとけ」

「よし、じゃあ他の者とも交流してこよう。行ってくる」

「って俺が一応護衛やねんからお前の側離れられへって……」



 目隠しをして食べ物を当てるゲーム、一気飲み勝負、腕相撲、隠し芸など色んな遊びに参加した。

 普段あまり接することのない者たちは領主も遊びに参加してきた時はビビっていたが、次第に打ち解けて楽しく時間を過ごした。

 ロランには「あなたは立場を弁えてください」と予想通りのお説教をくらったが今日に限ってはその説教すら楽しく感じた。


 そんな楽しいお祭り騒ぎの宴会は夜明けまで続き、昼には全員が二日酔いによる吐き気と頭痛を我慢しながらテルノアールへの帰りの支度をしていたのだった。

これにて2章は終わりです。不定期更新ながらもお付き合い頂きありがとうございます!

現在は次章の準備を進めています。もし良かったら感想などもらえると嬉しいです。

※他の方が不快となるような攻撃的なコメント等はご遠慮下さい。

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