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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season2 ダンジョンマスター
84/101

センタクル戦その3

拷問表現ありますので苦手な方は注意してください。

 月夜が照らすセンタクルの城から少し離れた小屋にて、男が目を覚ます少し前の事だった。


「こ、こいつらイカれてやがる」

「まさかこんな事になるとは」


 亜人四人による忍者部隊は、とある命令を受けていた。

『イェルマ王国の総大将、ガッサムの位置と警備体制の調査をせよ』


 テルノアールの応援軍による総大将、オーガ・フィッツによる命令。

 諜報活動を主とする忍者部隊に敵本陣の位置を把握させるという任務自体には何ら疑問を抱かなかった。

 どれだけ兵が死のうと、結局のところは総大将が落ちるかどうかが戦いを決するということは誰もが知っている常識であり、総大将の動向を事前に知ることが出来れば戦争を優位に進められる。そんなことは至極当然で、疑う余地すらない。


 よって、空から場所を俯瞰し、指示の内容などを盗聴する。そして情報をこちらの本陣に持って帰り、判断材料を増やすという極めて重要な任務に当てられたものだと思い込んでいた。


 しかしだ、しかしながら今四人が目にしている光景と、それまでの推測では全くの別物。

 その総大将がこちらの陣地内にある小屋にて拘束され、気絶している様子を眺めている。それが正しい結果だった。


「いやあ、テルノアールの領主様はこんなにも便利で有能な配下を持っているとは驚きですねぇ」

「ああ、本当に。良い『職場』を見つけることが出来た」


 つい先日、いきなり現れたロギーとズギーというディパッシ族には見えない奇妙な兄弟はニヤニヤと笑う。


 貴族のような喋り方と仕草、それに上等な服。ディパッシ族のイメージからはおおよそかけ離れた姿からして、これまでの屈強なディパッシ族とは違い過ぎて強そうだという印象が弱かった。

 だが、総大将の場所を教えるなり出て行き、彼を気絶させて担いで夕方にはここまで運んで来たのだから誰もが驚いた。

 何万という単位の敵兵の目を欺き、本陣まで侵入してなんということもない顔で帰ってきたのだから驚くなという方が無理だろう。実質、戦争は既に終結してしまっていると言っても何ら過言ではないのだから。


 そこまで出来るのであれば、本陣に侵入した時点で殺せば良いのではないか?とも思ったが、彼らは違った。


「さあて、どんな情報が出てくるのやら。私たちの働きぶりで今後の信用にも関係しますから張り切らないといけませんねえ」

「じゃあそろそろ起こしますか」


 ロギーは懐から栓のついた手のひらに収まる程度の小さな瓶を開け、その中の匂いをガッサムに嗅がせた。

 すると彼は少し嫌がったような顔をした後に目を覚ました。その眼前に広がる異常な景色を見て混乱を極めていた。


「な、何者だ貴様ら!ここはどこだ!?」

「おはようございます、私はロギー、こちらはズギー。テュロルド王国、テルノアール領より此度の戦に参加している次第でございます」

「早速ではありますが、拷問を始めさせて頂きます。質問をするのはこちら。貴方はただ、こちらの質問に答えることしか許されません」

「……舐めるなよ小僧ども。この私がこちらの情報をペラペラ喋るとでも?」


 ガッサムは戦の総大将と認められるだけの武力、勇敢さ、忍耐力、あらゆるものを兼ね備えた屈強な人間であり殴ったり、焼きごてを当てたり鞭を打った程度では情報を吐くとは思えない。それが亜人四人に共通する印象だった。


「それが私どもの仕事であり、今までのお相手皆そう言って最後には泣き叫び許しを乞いながらペラペラとお話ししてくれます」

「という説明も毎回こうやってしていますので早速始めて行きましょう」


 一体どんな残虐な拷問が始まるのだと亜人たちは生唾を思わず飲み、ゴクリという音が部屋に響いたように感じた。


 ガッサムは寝かされている状態から椅子に座らされ、両手は肘掛にしっかりとくくりつけられている。

 ロギーはガッサムの首筋に人差し指、中指を当てた。

 ズギーはガッサムの正面に座って、椅子の背もたれに腕を乗せて、そこに顎を置いた。


「昨日の夜、何を食べました?」

「……は?」


 ズギーの意外過ぎる質問にロギーを除く全員が思わず口から出た。

 優しい言い方で取り入ろうという作戦なのだろうか?


「…………」

「思い出してください、思い出さず、答えないならまずは爪を一枚剥ぎます」

「!?」


 全くの意味不明。明らかに関係のない場違いな質問。その答えに窮しているガッサムに思い出し答えろと命令する。そして爪を剥ぐという。

 あまりにも理不尽、あまりにも奇妙。こんな拷問の出だしは誰も聞いたことがないだろう。


「……パンとスープ、それに肉だ」

「もっと詳しく!スープの具材は?何が入っていました?」

「……豆、緑の豆に、ニンジン、玉ねぎ、それに塩漬けの豚肉だ」


 ガッサムも、国の重要な機密に関しては何枚爪を剥がされようと答える気は無かったが、こんなにも馬鹿げた質問で爪を剥がされたとあっては堪らない思ったのか正直に答えた。


「ではその時の周囲を思い出して……どんな会話がされていて、どんな音が聴こえていましたか、出来るだけ鮮明に思い出してください」

「……」


 一体何が起こっているのか?このシチュエーションは何なのか、貴族のような服を着たディパッシ族以外は何も理解出来ずにいた。


「ふむふむ、では理想の将来を想像してみてください。この拷問が終わった後に生きて国に帰ったら何がしたいですか?」

「近くで鳴く虫はどんな姿だと思いますか?」

「あなたの持つ一番上等な布の手触りは?」

「今夜の月の大きさは?」


 などなど、次々に誰も理解出来ない意味不明な質問が続いた。



「…….いい加減にせよ!これは一体なんだ!さっさと拷問を始めれば良かろう!」

「質問をするのはこちらだけです」


 そう言ってロギーは首に当てた手とは反対の手で彼の爪をむしり取った。


「ガアアアアアッ!?」

「それに拷問は既に始まっていますよ?」

「今のは料理でいうところの下ごしらえ。これから本格的に調理を始めます」

「必ず質問に答えてください。最も許されないのは沈黙です」


 そこからは戦争や国に関する重要な情報の質問が始まり、流石にそれを答える訳にはいかないガッサムは下手なことを言うまいと沈黙を貫き、その度に爪を剥がされていったが、国の総大将というだけあって大した根性で激痛に耐え抜いていた。


 その拷問に気分を悪くした亜人が次々と小屋を出て外で嘔吐をした。しかし役割として彼らから目を離すことは許されないので引き続き、拷問を監視する任務を遂行しようとした。


「爪を全て剥がされても答えない。大した精神力ですが、安心しないでください。むしろ貴方は恐怖するべきだ」

「爪十枚は言わばあなたへの本当の痛みを伴う拷問までの猶予。十回の質問に答えなかった過去の自分の行いをこれから後悔することになるでしょう」

「ハアハア……な、何を……」

「私は職業柄、人体の構造には詳しくてですね。仕事を繰り返していくうちにあることに気がつきました。人間は言わば木の様なもの。枝をいくら折られようと枯れはしない、幹や根が切られない限りは。では人間ならば?手足は枝と同じ、切られたところで傷を防ぎ、血を流し続けなければ即死はしないんですよ。ニョホッ!ニョホホホ!」


 ロギーが笑う中、ここまでの話で粗方、これから何が起こるのかは全員が予想出来た。


「でもですねぇ、不思議なことに痛みは胴体の幹の部分よりも手足の方が敏感なのです。致命傷になり得る胴体部分の傷よりも致命傷になり得えにくい手足の方が痛みが強いなんて不思議じゃありませんか?」

「ニヒッ!ニヒヒヒ!」


 今度はズギーが嬉しそうに笑い出す。


「さあ、始めましょう!」


 ロギーは懐から今度は大きなハサミを持ち出した。


「この戦争の本当の目的は?」

「グッ……」

「時間切れです」

「あっ!チョキン♡!」

「ガァ!グアアアッ!?」


 ロギーは嬉しそうな声を出しながらガッサムの左親指を関節一つ分ちょん切った。

 ズギーは先程から暖炉で火を焚いてしっかりと熱せられていた焼きごてを切られた親指に押し付ける。


「アアアアアアアアッ!!!」

「失血死しては困りますのでね。一回の沈黙につき同じ長さを切っていき、その度に傷を焼いて血を止めます。なお、沈黙を続けるならばあなたの手足が完全になくなってしまいますよ?」



 その後の小屋では

「あっ!チョキン♡チョキン♡!」


 という声とガッサムの悲鳴が繰り返し響いた。


「もう良い!分かった!話ず!話がらやめでぐれ!やめでぇ!」


 先程までの気丈なガッサムは既に存在せず、そこには哀れに拷問の中止を懇願する赤ん坊のように泣きじゃくるやつれた男がいるだけだった。


「よろしい。ではあなたの国で一番の権力を持つ人間は?」

「こ、国王に決まっている……います」

「嘘ですね、ロギー」

「了解、チョキン♡!」

「ウアアッ!!?ど、ド……ジテ……」

「私には嘘は通用しませんよ。何の為に最初に長々と質問していると思ったのですか、さあ正しいお答えをどうぞ」



 ガッサムはそのズギーの恐ろしい視線とオーラに圧倒され、国に関する知りうる限りの情報を開示していった。


「はあ、終わりましたね。なかなか時間がかかりました」

「流石は敵軍の総大将というだけのことはありましたね」


 とロギーとズギーは仕事を完遂させ満足げに月を見上げていた。


「あ、あの……ズギー、殿」


 犬人の男は、いや、他の三人も気になっていたであろうことを質問しようとした。数時間前までは煙たがっていた男二人に咄嗟に殿とつけてしまうほどに恐ろしかった男の不可思議な行動に答えが欲しかったのだ。


「なんですか?」

「最初に行なっていた一見無意味な質問。あれに何かしらの意味があるのは分かったが、あれは一体何をしていたのでしょうか?」

「ああ、あれですか。んー本来は職業上の秘密と言いたいところですが一々質問されては面倒ですしこれからも仕事を頼みたいので良いですかね」

「構わないでしょう」


 一応の確認をロギーに取ったズギーは質問に答えていく。


「ま、あれは要するに相手の反応を見てるわけです。言葉以外の反応をね」

「言葉以外……?」

「そうですね、人によって反応は様々ですが一定の癖はあるわけで、何かを思い出そうとする時の目の向きとか。例えばあなたの昨日の朝食は?……なるほどあなたの場合、過去の記憶を思い出す時は右上を向くのですね。他にも考えることによって目の向きや他の仕草が違います。それを利用して質問した時に相手が嘘をついているのか、記憶を辿り思い出そうとしているのか、話を作ろうとしているのか、そんな判断出来る材料を集めていたのですよ。ニヒヒヒッ」

「な、なるほど……」


「ですから、相手はむしろ最初の無関係そうで大丈夫そうな質問にこそ答えてはいけなかったのです」

「そ、そんなことが」

「可能です。もちろんそれ相応の訓練を重ねないと真似出来る芸当ではありませんが」

「ということは……ロギー殿の首にずっと手を当てている行動にもやはり嘘を見抜く為の仕掛けが?」

「おお、あなた中々鋭いですね。あれは脈を測っていたのです。嘘をつく時なんかは大抵脈に乱れが生じますからね。生理的な反応……これは自分でコントロール出来ない体の反応ですね、脈など目に見えない反応を私が監視し、目に見える反応をズギーが監視しているのです」


 ディパッシ族だから相当な暴力的な拷問なのかと思っていたが、完全に知識と経験に裏打ちされた合理的で確実な拷問方法。どれだけ口をつぐもうと頭の中を強制的に覗かれるような恐ろしさ。

 この二人の持つ技術の価値の高さは必ずロウゼ様にお伝えしなければいけない。亜人四人はそんな使命感がふつふつと湧いてきた。


「あ、そうですね、ズギー。亜人は我々では感知しにくいことも出来るではないですか。犬なら嗅覚、猫なら聴覚、蜥蜴なら体温、鳥は……方向感覚とかですかね。拷問に利用出来ますね」

「なるほど、では彼らを我々直々の配属にさせられるようにロウゼ様に頼みましょう」

「名案ですね」


 勝手に自分たちの人事移動を提案する彼らであったが誰一人異論を挟もうという気にはなれなかった。むしろ、他の者との差をつけられる特別な教育を得られるという機会を逃したいとは思わなかった。

 部隊の中でも実力差というのは勿論あるし、リーダークラスのライカ、ネフェル、セベック、フォールスとはどんどん差をつけられていく一方で悔しさもあった。生まれつきの能力がそもそも高く、そこで勝てないなら別の方向で知識と経験を積み、種族としての強みを更に活かせる形を提案されたからだ。


「さて、我々は彼を敵本陣までお返ししますので戻っていていいですよ」

「ではまた後ほど」


 武闘派ではない彼らの移動速度でも亜人よりはよっぽど早く、追跡は不可能な為、大人しく四人は本陣に戻り、起こったことの報告をどうするかと相談しながら歩いていった。

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