無茶振り
久しぶりの投稿です。ペースは遅いけど一応続けるつもりですので時々確認してもらえたら嬉しいです。本日は2話連続投稿です。
緊急の会議が行われ状況が共有された。逃げた魔獣は全部で四頭、それぞれ異なる種族のようだ。
「テルノアール卿はダンジョンの管理者ですから、一番魔獣について詳しいでしょう。それぞれの対処法を皆に共有して頂けるか?」
「では、一つずつ説明していきます……」
全体的に雰囲気が自分の責任みたいになっている。これは良くないな。
「それに魔獣を運んでいた商人に直接会い、どのような管理をしているのか確認した方が良いでしょう。魔獣の持ち出しに関してはテルノアールでは厳しい規制をかけていますので何かしら違法な手続きがされている可能性がありますので」
一体誰が雇った商人だと声を荒げたいところではあるが、雇い主が王族や上位の貴族だった場合王族批判などと言われたら面倒だ。しかしセキュリティの問題上、杜撰な管理ではまた同じことが繰り返されることを考えるとその商人を詰める必要はどうしてもある。まあ、貴族のことだから責任は商人におっかぶせておしまいだろう。適当な運搬方法をしている方が悪いし擁護しようとも思わない。それで人々を危険に晒すというのは許されない行為だ。
その時、伝令係の者が入室し宰相に耳打ちをした。
「今、連絡が入ったところによると当該の魔獣二体は既に確保されたとのことだ。残り二体の所在は現在不明」
見た目や攻撃の仕方などを聞き仕入れる予定であった残りの魔獣を絞っていき、弱点や特徴などを伝えて発見された場合の対処法を準備していった。
魔獣は魔力が満ちたダンジョンや地脈がある場所でしか長くは生存出来ない。となると、必然的に魔力を発するもの、場所に行く可能性が高い。
それはどこだ? この街に張られた結界の礎となる部分?いや、それは地下深くと聞いたことがある。侵入するには場所が限定的過ぎる。魔道具や魔石の集まる宝物庫?あり得ない。特にセキュリティの高い場所で魔獣を引き寄せるリスクのある場所には魔力を遮断する素材や術が使われている。では魔力の高い個人に?いや、いくら高い魔力を持っているとしても五人分以上の魔力を持っている貴族など殆どいない。それならば集団か?貴族の多く集まる場所、この街で今現在最も人口密度が高い場所か。城内やお茶会の部屋……いや、緊急なのでそういった集会は解散して安全の確保に努めさせられている。
……貴族、人口密度、魔力量、ここか?
その時だった、背後から強い殺気を感知し魔獣の襲撃と戦闘態勢に入ろうとしたが何もいなかった。少し油断しかけたところで頭上から魔獣の雄叫びが聞こえた。会議室の天井は吹き抜けになっており、空が見える構造になっているが丁度その穴から翼を持った魔獣が一直線に滑空してきていた。
それに気付いた周囲の護衛騎士が武器に手を伸ばそうとした時既にリュンヌはその場所には居なかった。ジャンプして吹き抜けの穴から屋根に着地し急所に一撃を食らわせて大惨事を未然に防いで見せた。
見事だ。見事だが、護衛騎士が護衛対象から離れて飛んでいくのはどうなんだ。もしここで俺が攻撃されたらまずいだろという気持ちもわずかながらにあったが王族に何もなかっただけマシとしか言えないだろう。
これで誰か怪我でもしたらテルノアールやダンジョンにケチをつけるやつは絶対に出てくるはずだ。
「リュンヌ、よくやった」
「他の奴ら気付くの遅過ぎるやろ、この程度でよく護衛つとまるな」
自分にしか聞こえない程度の声量でため息をつきながらそう言った。
普段ならお前がそれを言うのかとツッコミを入れるところだが、お偉いさんたちの前だから何も言えず護衛を褒める主人の姿に徹した。
他の貴族は展開の早さに目を白黒させていたが王、宰相、そしてオルレアンとギーズは面白そうにこちらを見ていた。
「皆の怪我が無くて何より、テルノアール卿良い働きであった」
「はっ!お褒めの言葉ありがたき……」
「しかし、これでは食材の確保が出来ぬ。明日の祭典は急遽中止せざるを得ないのではないでしょうか、宰相」
ギーズ派閥の領主たちがまた余計なことを言い出した。こちらの不手際であるということを印象づけたいのだろう。
「テルノアール卿が先ほど説明した通り、決まった手順で倒せば食材として利用出来るが、戦い慣れぬ魔獣を殺さずに適度に弱らせるというのは相当な手練れでないと成立しない話。その点で言えば既に確保された二体が食材として利用可能かどうかは現時点では不明である。少なくとも今しがた確保した魔獣は問題あるまいが」
予想されていなかった事態、それを踏まえて。と宰相は静かに言った後
「それを踏まえたとしても中止はあり得ぬ。他国に侵略され現在戦争中である国の中枢で行われる祭りが中止されるなど国権に関わる問題。国の防衛ばかりか魔獣の管理すら出来ない国家だと民衆に思われればどうなるか、ということくらい想像出来ぬはずがあるまい」
と、安易な発言をしたものをこの場で処刑するかと思うほどの、静かではあるが鬼気迫る口調でたしなめた。
そして王もそれに同調するようにゆっくりと厳かにうなづいた。
「何か良い方法はないだろうか?テルノアール卿よ。当初の予定通りに進めるのは難しく、中止も不可能だがその上で可能な限り実現可能な案はないか?」
その時周囲がざわついた。それもそうだろう。王が一介の領主に助言を直接求めるということは非常に稀有なことだ。
「……では、残りの魔獣に関しては我々の慣れたものに対処させ食材として利用可能に出来るだけ努力しますので至急手配させてもよろしいでしょうか?」
「許可する。宰相、他の兵が発見しても手出しせず城内、街の貴族や市民が危険のないよう保護を優先させ、討伐はテルノアールのものにされるよう連絡を」
「かしこまりました」
宰相、ロランと共に配下に連絡を開始した。
「予定したよりも食材が足りぬ場合、一人当たりの割り当てる量を減らす、または食べる人数を減らすのどちからでしょう」
「うーむ。で、あるか……」
王は何かを憂慮されている様子で椅子の肘掛を指でトントンと叩いている。
「テルノアール卿、無理を承知で言うが予定していた人数を減らすと貴族からの反発があるでしょう、そして量を減らしても国力の低下を感じさせる為よろしくない。肉の量を減らしても見栄えが悪くなるのは都合が悪いのだ」
「宰相、どのような料理が今回の課題だったのでしょうか?」
「ふむ、本来課題の内容は前日に発表され、料理人には参考の食材を与え、準備させる為極秘であるが今回の場合は事情が事情であるし……よろしいでしょうか、王よ」
「構わぬ」
「今回の課題はオーソドックスなステーキとそれに合う付け合わせ、ソース。肉の量が確保出来ないとなるとステーキは難しいであろうが、ステーキ以上に贅沢な印象を持たせる料理はないであろう。ダンジョン街では王都では知られていない魔獣の料理も多くあると聞く」
「宰相!ダンジョン街で平民の食べるような料理を貴族に食べさせるおつもりですか!?」
「ふむ、知らないものがいても仕方あるまいが、テルノアールの魔獣料理というのは非常に格式高い料理であり、そこでは貴族向けの食事処も存在し、お忍びで食べに来る周辺地域の貴族も少なくないのだ。むしろ、平民が貴族の食べるような料理を食べる場所だ」
「そ、それは……しかし……」
「黙れ、テルノアールの料理の質の高さ、上品さはギーズ、オルレアン卿が保証する。王都にて店を出そうと言うくらいだ。そうであろう?」
「は、我々が質は保証致します」
恐らくどちらかがサロンに関する手回しを宰相にしていたのだろう、これで指示が得られれば今後もやりやすいだろう。宰相の後押しが怖いくらい丁寧だが一体何を考えているんだ。
それはともなく、肉に何かを混ぜてカサ増しさせつつも贅沢な印象のあるものか。かつ、上品で料理人が再現出来るもの……芋やスープでカサ増し?パンに挟んでバーガーとか?白く柔らかいパンは高級品で貴族か金持ちの商人くらいしか食べないし抵抗感も少ないかも知れない。
他に名案も思い浮かばないし、取り敢えず提案してダメだったら謝ろう。自分は貴族であって料理人ではないのだからそこまで無茶振りすると言うこともないだろう。今回の件だってそもそも自分の落ち度は無かったし。
「一応、思いつくものはあるですがそれが城内にて受け入れられるかは田舎者の私には判断しかねますので私の料理人に作らせて判断を仰ぎたい」
「構わぬ、度々の尽力感謝するテルノアール卿」
「いえ、国にとって良いと思う出来る限りのことをしているだけであります」
「ふむ、普通は貴族は料理のことなど聞かれても困るというのが予想される答えだが変わり者であるな」
宰相に言い訳とほぼ同じ内容の返しをされてしまった。というかそれで良かったのか。本当に言ってみるものだなという顔をしているあたり余計な注目を浴びて薮蛇だったのかもしれない。政治難し過ぎるわ。
その後、魔獣はテルノアールの兵たちの活躍により死傷者を出すことなく無事に確保することが出来た。
杜撰な管理で手配していた者たちは逮捕され、それを指揮していた貴族がどうなるのかは統一会議の後に沙汰が下されるそうだ。会議中に貴族の不祥事で水を差されるのは体裁が良くないという王の思惑が感じられる。