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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season2 ダンジョンマスター
80/101

ゾートロープのお披露目

 センタクルへ行く準備期間があっという間に過ぎ、誰が行くかの選別も終わった。

 指示系統のトップにオーガ、身の回りの世話は彼の直属の従者が行うことになった。

 しかしながら、オーガの部下だけで行かせることは不可能なので、こちら側からエッセン、ゲオルグ、ロギーとズギー、ディパッシ族、そして忍者部隊を行かせることとなった。

 エッセンには後方支援で食料の管理や各種補給作業を担当させるのに適任で、戦地では怪我人の治療の為にゲオルグの薬草の知識が必要だった。

 そして、非常に頭が痛い問題ではあるが、ロギーとズギーも同行する。

 準備期間にゲオルグと色々話していくうちに、仕事半分趣味半分でやってたことから研究という考え方を獲得したようで、随分と人体についての議論を盛り上げていた。

 戦地に行き怪我人の治療に関する勉強や死体の腑分けによる観察を記録したいと言い出した。まだ知り合って日が浅くイマイチ信用出来ないので目が届かない場所に行かせるのは嫌だったが、彼らのお得意の作戦でまんまと丸め込まれてしまい許可した。実際有益な部分もあるので打算だ。

 絶対に勝手な真似はしない、知的好奇心から非人道的な研究などをしないという条件を元に同行を許してしまった。何もないと良いが……。


 それよりももっと大変だったのはディパッシ族の説得だった。ロウゼ・テルノアール自身には協力関係を持っておりある程度の信用はあるが、他の貴族の下につけとなると話が変わってくる。

 ある程度の理解を示すものを選び、戦いのルールを教え込んだ。オルレアンの兵とも連携しなくてはいけない為好き勝手にさせるわけにはいかないし、個人プレーで逆に危険に陥る可能性もある。

 ブーイングの中、オーガとの顔合わせとブリーフィングでなんとか説得させられた。

 この『なんとか』という部分が肝だ。

 オーガは彼らの性格を理解しており、妥協するラインを決めて言葉巧みに誘導することに成功した。

 というかほぼ騙してると言っても過言ではないが、作戦遂行の為には黙っておくほかない。多分騙されていることにすら気付かないと思うが、それならそれで良いだろう。


 本人たちが望む戦いに行けるのは取り敢えず間違いないのだから。


 準備を行いながらも統一会議は続いていた。国の威信のかかった会議であり、国の運営に欠かせない会議なので中断することはあり得ないからだ。

 共通の敵の出現により協力姿勢が出来るというのは良くある話で、それを期待していたがどうやら貴族、政治というのはそれほどシンプルではないらしい。

 足の引っ張り合いしかない連中だ。


 物資の融通をする代わりに自分たちに都合の良い案を通そうとしたり、またその逆で物資の融通をさせる為に裏工作をしたりと謀略であふれて情報が飛び交う。

 スパイを各所に配置させているお陰で便利な情報を集めることも出来てはいるのだが、人材に関しては一度失うと代えが効かないということもあり、部下を戦地に行かせる身としてはあまり喜ばしい状態ではない。


 貴族は平民の命をなんとも思っておらず駒とした考えていない。これは別にやつらがクズだとかそういった話ではなく、もっと単純にそういうものだと教えられてきたので考え方そのものが違うのだ。

 だから亜人を戦地に行かせて足止めさせたら良いとか、食料が今後貴重になるのでその口減らしには丁度良いとかそういう発言が普通に行き交っている。

 反対する人も命を尊重して言うのではなく、労働力として減ると困るとか人の所有物の使い方を勝手に決めるなとか利権やメンツの問題ばかり気にしている。


 そんなことに一々反論したり道徳を解くことの無意味さも嫌という程学んだ。

 この国にある考え方を根底が覆さない限り全く意味のない話だ。

 デモや反対運動などは絶対的な身分の違いが国の法として存在している以上、一方的に処罰されるだけで誰も起こすはずがない。だからこそ貴族は絶対的な立ち位置にいてその地位を失うという発想もなく言いたい放題なのだ。


 準備を整えている間にセンタクルから報告が届いたと会議で伝えられた。

 宰相が書簡を読み、内容を要約して皆に向かって話し出した。


「ふむ、国境の門は破壊され大勢の兵が流れ込んでおり、もはや国境の警備は不可能になっている模様。仮に敵を押し戻したとしても修復にはかなりの時間がかかる。今後一つの領地として統治するのはかなり難しいであろう」


「そんな……」


 センタクルが事実上、領地を失ったことを知らされ絶望の表情を浮かべる。


「幸い、城は守りが堅く逃げ込んできた平民を可能な限り入城させ、籠城しているとのこと。しかしながらいずれは食料が尽きるので時間の問題。幸いなことに会議にて貴族がかなり出払っている為その分平民に分ける余裕があると」


 それはそうだろう。貴族と平民は一日で消費する食料の量が全然違う。貴族がいれば自分たちの食料を切り詰めて平民に分け与えることなどあり得ない。

 少しずつ分けて出来るだけ長く持たせて応援を待つのだろうし、そうするべきだ。


「防衛は平民も合同で戦闘に参加し、なんとか城を守っている状態であり、城内は秩序を一応保てているようだが食料の不足、死者の数が増えれば維持は難しく持つのは良くて一月……とある」


 ここからセンタクルまでは約二百キロメートル。早馬で三日程度のタイムラグがある。第一報からセンタクルが襲撃を受けておよそ一週間は経過していることになる。

 多くの兵や、馬車を連れてセンタクルへ向かうとしてかなり急いでも一週間はかかる。ヘトヘトの状態で到着したとしても戦いにはならないのである程度の余裕が必要だ。そう考えると二週間かかってもおかしくはない。


 あらゆる要素から考えても救出可能かどうかはかなりギリギリのラインと見てまず間違いないだろう。


「うむ……オルレアン卿、テルノアール卿準備は既に出来ておるな?」

「はっ!万事つつがなく」

「では、予定通りすぐに出発させセンタクルに応援を向かわせよ!」


 正直なところ、もう少し準備期間は欲しかったし完全かと言われると全然そんなことはないが「もう少し待ってください」など王にお願いすることなど出来ないので、しっかり出来てますとしか言えない。


 それでもオルレアンに先んじて手を打った。気が進まなかったが忍者部隊をフォーマンセルで一組、ディパッシ族にコンテヌとテルンを先遣部隊としてセンタクルに送った。

 彼らは体力もあるのでそろそろ到着することだろう。

 情報収集に適したメンバーを選んだので仕事はしっかりやってくれるはずだ。


 その件はその件として、他にも貴族としての仕事が山のようにある。主に社交だが、それもないがしろにするわけにはいかない。本当なら戦地に乗り込んで敵を蹂躙してさっさと帰ってきたいところだが立場があると出来ることも増えるがその分フットワークが重くなってしまうのも考えものだ。


 兼ねてより用意していた、ソレイユ殿下へのゾートロープの贈呈とそのお披露目会という名目でのお茶会だ。貴族の夫人や女性貴族が集まるらしい。その中に単身乗り込むのだからこちらもある種戦場と言っていいだろう。一般的な貴族女性が喜ぶようなことというのは見当がつかないのでどうしたら良いかがイマイチ分からない。

 自分は今回は客人なのでホストに任せていればある程度はなんとかなるだろう。


「お待ちしていましたテルノアール卿」

「本日はお招き頂きありがとうございます、ソレイユ殿下」

「こちらこそ招待に応じて頂きありがとうございます。私のお友達を紹介しますね」


 想像していたよりもかなりの女性がお茶会に来ており、女性特有の甘ったるい香水のにおいが部屋を充満していた。女子校ってこんな感じなんだろうか?香水と制汗剤が混ざって凄いことになってると聞いたことがあるが、この世界の香水は制汗剤などの体臭を消す目的が強いからかなり強力で正直苦手なので、日常的に入浴し、シャンプーのほんのり優しい良い匂いの世界になって欲しい。

 おっと、匂いフェチの気持ち悪いやつみたいな感想を言ってしまった。


「まあ、こちらがあの噂のテルノアール卿ですの!?」

「まあまあ!」


 貴婦人の黄色い声がどんどん上がってなにやら盛り上がっているがどんな噂が轟いてるんだ。フィッツ潰したとか調子乗ってるやつとかそんな感じか。


「なんて綺麗な髪ですの!」

「本当に奇妙な黒い服を着てるんですわね」


 いや、そっち?女性だから権力云々とか領主でどうのって話じゃなくて見た目の話になるのか?


「皆さん、焦らずとも本日はゆっくりテルノアール卿とお話出来ますよ」


 うん、やっぱり公の場の彼女のキャラは自分の知ってるソレイユ殿下ではないな。この社交の顔は学ぶところがある。


 お茶菓子とお茶を出してもらい軽く世間話をしたが、ずっと領主と話すことばかりだったので、あまりにも話題が違うことに妙な感覚を覚えた。

 流行りの服や色、調度品の柄や職人など自分にはない視点だ。流行の感覚や市場の動きを読むためにも女性貴族との交流を増やした方が良いかも知れないな。


「さて、テルノアール卿そろそろ『アレ』を皆さんにお披露目しましょうか?」

「そうですね、準備させましょう」


 互いの側仕えにそれぞれのパーツを用意させる。と言っても回転する木の台と横長の紙に描かれた絵だけだが。


「一体何を始めるんでしょう?」

「ソレイユ様の新作の絵の発表かしら?」

「それとテルノアール卿に一体何の関係があるのでしょう?」


 女性たちがソワソワとし始めた。彼女たちはソレイユ殿下の絵のファンなのだ。


「あら……木の台の淵に紙を貼り付けているのかしら?」

「でも小さな絵がいくつか描かれているようですわね」

「よく見えませんわ……」


「コホン、こちらテルノアール卿が考案なさった新しい絵の表現方法と装置、『ゾートロープ』です」


 ソレイユ殿下が満を持して発表する。


「ゾートロープ?」

「聞きなれない響きですわね」


「テルノアール卿、ご説明を」

「はい。こちらゾートロープは簡単にご説明すると絵が『動き』ます。と言っても想像が難しいでしょうし、早速ご覧頂きましょう……ロラン、回してくれ」

「かしこまりました」


 ロランがゾートロープを回転させ始めた。


「あら、これでは絵が動いて見えませんわ」

「外側の小さな隙間から中の絵を覗いて見てください」


 女性たちがゾートロープの周りを囲むようにして机の上に乗った装置の窓を興味深そうに、そして自分の言葉を疑うようにしげしげと覗き込んでいる。


「まあ!絵が!」

「動いていますわ!」

「凄い……絵の中の男女が踊っているなんて」


「実際に動かしてみてちゃんと絵が動いて安心ですわ」

「素晴らしい出来映えです、殿下」


 ソレイユ殿下はホッとした様子で楽しそうにゾートロープを眺めている彼女たちを見ていた。


「羊皮紙に描く前に、動くかを確認する為に色々工夫をしたんですのよ」

「ほお、というと何をされたので?」

「まず、テルノアールの薄い紙で仮の大まかな動きを描いたものを描くんです。その後に発光する板の魔道具を作成させ、動きの始めの紙を乗せて、その上から次の動きの絵を描いた紙を乗せてパラパラとめくるのを繰り返すと確認が出来るんです」

「な、なるほど」

「それに、仮の絵を下に乗せてその上に本番の紙を乗せて上から線をなぞれば便利ですのよ」

「それは素晴らしいお考えです」


 スッゲー……この人、自力でトレース台と原画、動画の確認のパラパラ作業、通称指パラを開発してんじゃん。本当はアニメーターが異世界転生してるんじゃないの?


「色も載せられたら良いんですけど、線とどうも相性が悪くて現在の課題ですわ」


 もうほっといてもセル画とかアニメ塗りとか開発してそうだな。


「それで思ったんですが、これ彫刻や人形などの立体的なものでも応用出来んではなくて?」

「よくお気付きで……可能です。とても手間がかかってしまいますが、仕組みはもうご理解しているでしょうし色々面白そうなものが出来てきそうですね」


「ソレイユ様、こちらはどういった仕組みで出来ていますの?」

「皆さん、その前に一つ。こちらは私とテルノアール卿の共同の作品でこれから売り出していきこの国で新しい芸術として広めていくつもりです。私の許可なしに模倣品を作成、販売することは禁じます。私の名で広まっていくのですから私の名が下がるような低い質のものが出回ることは許されないからです」


 上手いな、著作物の説明や商売の利益を守るということよりも、ソレイユの名誉という点にフォーカスした方が彼女たちには危機感を覚える言い方で同情と理解もされやすい。


「それはそうですわね」

「芸術と言えばソレイユ様ですから、そのソレイユ様が広めていく流行の評判が悪いなんて許されませんわね」

「私たちはその素晴らしさを伝えるべきですわ」


 これで妙なコピー品が出ることもないだろう。お互いに監視し合っているし、抜け駆けするものが出たら酷いバッシングを浴びることになるはずだ。

 こういう感じでテルノアール製品のパクリ商品とかも防げたら良いんだけどな〜。

 会議でなんとか著作権についての概念を理解してもらえたら良いけど手回しが大変だな〜。


「仕組みは簡単ですの。少しずつ動きが違う絵を何枚も描いていき、それが素早く入れ替わると動いて見えるという仕組みを回転させて高速で入れ替えているように見せているのです」

「まあなんと画期的な表現でしょう」

「新しい魔道具かと思ったのですが、魔術や魔力は一切使ってないんですのね」

「貴族でなくとも絵の得意な平民の職人にも作らせられるのが素晴らしいですわ」

「ええ、今後広げていく為に私が監修をし、職人や絵が得意な方に制作をしてもらうつもりですの。皆さま良い作品の考えがあれば教えてくださいまし」


 うん、全部自分でやるのは無理だからと割り切って監督と、後進の育成まで考えててマジだなこの人。ほんと凄いです。そのうちアニメスタジオ建つな。


 その後、創作意欲が爆発して描かれた他のバージョンの作品も次々と披露されていきお茶会は大盛り上がりとなった。

 シャンプーやその他の製品の営業も良い感じで会議終わりの売り上げが楽しみになり有意義な時間を過ごしていた。


 しばらくすると室内に何人かの従者が入っていき何やら物々しい雰囲気が漂い出した。嫌な予感がする。


「ロランどうした」

「それが……王都内に魔獣が侵入したらしく街で一部被害が出ているようで現在も逃げていると」

「何故そんな事に?」

「明日の料理人の腕を競い合う料理の祭典の際に今年はうちのダンジョンから取れた魔獣を使う予定となっていたのですが、何分距離があるので鮮度の問題を考えて生きたまま輸送していたらしく、管理が杜撰で逃してしまったと」


 困ったことになったとロランもヒゲを少し撫でた。


「……それは問題だ。それは腕の立つディパッシ族がいて初めて成立する話だろう。まさかその部分を理解せず真似して?」

「はい、出発の時点ではダンジョン街にいるディパッシ族に気絶させて準備していたのですがその後の旅路ではディパッシ族はついておらずただの家畜を運ぶ商人が管理していたようで……それについて対応の為の緊急の会議を始めるそうです」

「貴族に被害が及べばテルノアール自体が非難される可能性もある。忍者部隊に至急捜索をさせて位置を割り出せ。屋敷の者たちを守るようにディパッシ達にも連絡を」

「はっ!」


 これはマズイ。オートとかギーズ派閥の策略なんじゃないかと思うくらい都合が悪い。


「テルノアール卿、少し良いですか」

「殿下、話は聞きました。ここでは皆さんの安全を保障出来ませんのですぐに安全な場所と護衛を。それと念の為うちのディパッシ族を数人つけておきます。魔獣の対処は特殊なので訓練を積んでいないと騎士でも相手をするのは難しいかもしれません。他の方にとってはディパッシ族はご不快かも知れませんが安全には変えられません。皆さんのご説得をして頂ければありがたいのですが……」

「はい、そうですね。よく知ってる方の話を聞くのが間違いありません。従った方が良いでしょう」

「では、私は緊急の会議がありますので途中で退席するご無礼をお許しください。本日は誠に有意義で楽しい時間でした。……それでは失礼します」


 挨拶を終えて足早に部屋を出ていき会議室へ向かった。早く対処しないと死人が出てもおかしくない。何とかしなくては。それに貴族が戦うのが良くないかもしれない。

 魔力を吸って強くなる魔獣もいるから物理の方が都合が良かったりする。ここの騎士の攻撃は武器に魔力をまとわせたものが多いし、決闘などでは単純に魔力をぶつける攻撃をするものもいる。かえって力を与えて事態を悪化させる可能性がある。


 さっさと片をつけなくては。どうしてこう色々とトラブルが続くんだ全く。

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