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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
8/101

王都召喚 前編

 「お願いだ!これを譲ってくれ!いや、お願いします!どうか!」

 「ポムドテルをですか?こんなに欲しがる人がいるなんて驚きましたねえ。どうしてそんなに欲しいんですか」

 「これさえあれば我が領地の食料問題は解決だ……こんなものがあるとは……」

 「ポムドテルが……?外国の珍しい種だったので試しに栽培しているだけのただの花ですよ別に美味しくもないですし貴重なものでもないです。……しかし、ただで譲るというのはねえ」

 「そこをなんとか!」

 「そうですねえ……では代わりに何か頂きましょうか」

 「っ!ふふ、それならいいのが良いものがありますよ」



 遡ること五日前、領地視察から一週間後、王より新たな領主として就任したことを報告する為、召喚状が送られて来た。

 帰って来てからはディパッシ絡みで色々トラブルが発生したがどれもそこまで大きな問題にもならず落ち着いて来た。


 「あ〜、そりゃ挨拶しないとダメだよな〜色々あって全然頭になかった」

 「ロウゼ様、王に関する記憶は……」

 「あ〜覚えてないな……教えてくれ」

 「王のことまでも……そうですか」


 最近、記憶喪失という設定も結構限界が来ていてロランは怪しんでいるような気がするし可哀想なものを見るような目で見られる。どうしよう偽物とバレて謀反とか起こされた。マジで怖いんですけど。


 「はあ……基本的なことから説明しますと王の名はユニフィケス十世。厳格で歴代の中でも賢く強い優れた王と評価されています。他国との戦争は負けなしで好戦的とも言えます。そして効率的な広域魔法を発見したのが何より大きな功績でしょう。これによって戦争での戦力は大幅に上昇したと言えます」

 「なるほどな、それは凄い……えっ魔法!?魔法使えるのか王様」

 「……?確かに優れた魔術師ではありますが魔法自体はロウゼ様もお使えになるでしょう」

 「え、俺魔法使えんの?」

 「え、使えないのですか?」

 「いや知らないんだが」

 「私も知りませんよ」

 「えっ!?」

 「えっ!?……えっ!?」


 「なあ、お前ら何やってんだ」


 ロランとのコントにリュンヌのツッコミが入る。

 魔法の存在があるとは思わなかったのでつい領主らしからぬ態度に出てしまった。

 というか魔法使えるのか……


 「いや魔法は俺は使えないが……」

 「確かに記憶がなければ使い方が分からないの仕方ありませんね。単に念じればいいというほど簡単なものではないようですし」

 「というとロランは使えないのか?」

 「当然でございます、魔法は貴族のみが使える力。逆に言ってしまえば魔法という特別な力があるからこそ貴族という階級が成立しているのです。私は先代領主様の魔法を行使される様子を見守って来たので大体どのようなものかは分かりますが、平民には魔法を教えることは禁じられていますしそもそも魔力もありませんので」

 「つまり俺に魔法を教えるのは」

 「私には不可能でございます」

 「なるほど……ちなみに魔法が使えないのは貴族としては問題か?」

 「……かなり。貴族として失格と烙印を押されることは間違いないでしょうし、有事の際に自領を守れないと知られれば最悪他領に攻められることも考えられるかと。それに他国との戦争の際に魔法を行使して国を守る責任があるのでその義務を果たせないとなると……非常にまずいですね」


 つまり魔法とは武力であり戦力であり特別な力であるからこその貴族という身分。

 元の世界とは貴族の成立しているシステムが根本から違う訳だ。

 かなりノブレスオブリージュが徹底した世界だと言える。

 そしてこのことから貴族制度は揺るがないだろうな。


 「ほんなら魔法は普通はどうやって覚えるんや」

 「確かに、学校などがあるのか?」

 「基本的に代々親から子へ教わっていきます……」

 「親父死んでるじゃないか……」

 「はい、困りましたねえ」

 「よし、父の書斎で魔法に関する記述のある書物や木札があるかも知れない。あれば全て持ってきてくれ」

 「ロウゼ様王から召喚はどうされるのですかそちらの方が先ですよ」

 「当然行く。その道中自分で学んでみる」

 「……いや無理やろ」

 「分からないだろう」

 「基本となる最初の部分は普通誰かに教えてもらう。上達は自分で考える。こんなん当たり前の事やろ。基本が分からんのに独学なんか出来るかいな」

 「まあ確かに一理あるがどこでそんなことを学んだんだ」

 「アホか別に魔法やなくても狩りや道具の扱いでも同じことやろうが」

 「それはそうなんだが領主の俺にその口の聞き方はやめろと言ってるだろ」

 「ハッ!魔法も使えへんのに貴族ぶるんか?」

 「くっ……」


 痛いところを突かれてしまった。確かに魔法が使えるから貴族なのであって、魔法が使えなかったら貴族ではないのではないだろうか?

 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。


 「魔法が使えるようになったら覚えておけ」


 と、息巻いてロランたちに魔法に関する資料を集めてもらいそれを読みながら王都へと向かっているのだが相当難しく既に挫折しかけている。

 基礎を一から学ぶのではなく、応用された技術や知識が書かれたものから基礎となるものを抽出する作業だからだ。

 まず最低限分かったのは呪文を詠唱して魔力を使うことで魔法が発動するということなのだが、どういう呪文がどういう効果を発揮するのかということが理解出来ない。

 仕組みが理解出来ないと呪文がそれなりに長いので丸暗記をしなくてはならない。そして魔力を使うという感覚が分からない。

 運動する際に理屈だけ理解していても実際には出来ないのと同じで魔力という馴染みのない概念を操作するのは困難だ。そもそも魔力の存在を体内に感じることが出来ない。

 性感みたいに開発しないといけないのだろうか?


 王都への旅路に呪文を見ながらではあるが詠唱を行い魔法の練習をしてみたところ簡単な魔法を発動させることが出来た。空気を動かし風を起こすことが出来た。風といっても息程度で葉を揺らすことしか出来ない微風だったが。魔力を使うという感覚が理解できたのは大きい。

 呪文がこの世界の使われている言語ならまだ分かりやすくていいのだが完全に呪文用の言語のようで単語ごとの意味が分からないことが難しさの一因であった。分析しないとずっとカンニングしながら魔法を使わないといけないのは今後の課題である。


 「なあ、こんなクソ長いの戦闘で唱える前に殺されるやろ」


 ディパッシ族が暴れた時に使おうと少しは考えたがこの速度なら唱えてる間にやられてしまう。


 「確かに、これではまるで実戦には使えないな」

 「あの……無防備な詠唱の時に敵の攻撃が直接当たるような場所から魔法使う方なんていませんよ」

 「ということは対人で攻撃手段として使うことは想定されていないのか」

 「魔法案外不便ちゃうか」

 「国を守る防壁や儀式や治療など生活を豊かにするものが元々の目的で現在の王が本格的に軍事に転用したと聞いていますので本来の使い方ではないのですよ」

 「なるほど……」


 ファンタジー作品や魔法バトルの作品が元の世界にはあふれていたので無意識に戦闘に使うものと思っていたがどうやらそうではないみたいだ。

 もう少し魔法の歴史や基礎となる部分を学習出来る書物が欲しいな王都に行けばあるだろうか?


 王都につく当日、リュンヌには護衛の兵士たちと同じ服を着させた。


 「なあなんでこんなん着なあかんねや」

 「ディパッシ族がリザードマンの村に来ただけで大騒ぎになっただろ。わざわざディパッシ族だって分かるような格好をして無用な混乱を起こす必要はない」

 「ディパッシ族ってこと隠せっちゅうんか」

 「まあ、言い方は悪いがそうだ。いまだに差別が根強いんだから我慢してくれ。そしてお前は頼むから大人しくしてろ。大声出したり急に切れたりするなよ。他の貴族に挑発されても無視だ」

 「まあ、一族の中にバカが多くてイメージ悪いってのは分かるけど全員がそうやと思われるのは納得いかんわ」

 「いいか、一族に限らず集団の印象は一部の悪い奴が目立ち、そいつの言動で周囲からはそういう集団なんだと判断される。お前もディパッシ族の名を落とさないように慎重に行動する必要があるぞ。何故ならこの中ではディパッシはお前しかいない。つまりお前がすることがディパッシがすることと考えられる。注意しろ」

 「俺がディパッシそのものってことか……」


 トラブルを避けるため、コントロール出来る範囲が今はリュンヌでギリギリということもあり今回はリュンヌしか連れてきていない。代表となるくらいには一族の中で信頼は厚いらしく他のディパッシのものを納得してくれた。

 マナーの悪いファンの多いコンテンツはコンテンツ自体が良くても外部からは悪い印象を受けていたということが多々あった。作品のファンですらそんなことが簡単に起こるのだから馬鹿に出来ない。

 もっとも、自分はロウゼ・テルノアール。テルノアール領の代表なので更にうかつな行動は出来ないし配下のものの行動も自分のメンツに関わってくる。

 責任ある立場って大変なんだなあ。


 昼前には門にたどり着き、チェックを受けるなど手続きを完了させて王都に入った頃にはもうすっかり昼になっていた。


 「あ〜腹減ったな〜」

 「この後王に挨拶だから食事はそれが終わってからだ」

 「待てへんわロランなんか食うもんないか」

 「干し肉くらいしか……」

 「それでええわ!はよくれ!」

 「ロウゼ様を差し置いて配下のものが先に食事を取るのは許されません!」

 「は〜!?ええやんけ別に!」

 「いけません!」

 「はあ……ロラン食わしてやれ」

 「ですが……」

 「王の前で早く飯を食わせろとかソワソワされたらたまったもんじゃない。それなら今食わせておいた方がマシだ」

 「それならば……」


 ロランは渋々リュンヌに干し肉を与えた。肉に飛びついてガツガツ食べる様子はまるで腹を空かした犬のようだった。犬の中でもこいつは猛犬だが。


 詰所から王の配下の兵士が城まで案内をしてくれた。王都は周りを高い石の壁に囲まれて中央に

城が建っているという点は基本的にどこも同じような構造なのだが決定的に違うのは壁近くの空中にうっすらと色彩の変化するドーム状の膜が張られていることだ。恐らく防衛の魔法か何かだろう。


 「テルノアール卿こちらへ。王がお待ちです」

 「さあ行こうか……リュンヌ、干し肉をモグモグするのはやめろ」

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