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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season2 ダンジョンマスター
75/101

夕食の誘い

 会議も終わり少しホッとしたところでまた面倒な案件が舞い降りた。遡ること、十五分ほど前の話だ。



 会議も終わり王が退出した後に各自解散の運びとなり周りの貴族たちは雑談をし始めた。自分はとにかく今すぐ家に帰りたいと思っていたが皆なかなか帰ろうとしない。

 この既視感の正体はなんだ……と思ったらあれだ、放課後に教室で駄弁ってなかなか帰らない人たちだ。自分は終業後、挨拶をした後に最速くらいのスピードで教室を出て駐輪場へ向かい帰宅していたので全く理解出来ない感覚だが、こういう非公式な『ここだけの話』みたいなのが意外と重要な情報が回ってくる場所なんだろうな。誰々が付き合ったとか別れたとか全然知らなくて後から驚いたことが割と多かった。

 結構顰蹙買ってるってネットニュースで見たことあるけど重要な話を喫煙所でして情報交換する的な。となると、サロンはやはり割と需要ありそうだな。


「はあ、何とか会議も終わったな」

 小さくロランにしか聞こえない程度に声を漏らした。


「はい、この後はどうされますか?」

「そうだな、屋敷に戻るか」

「パーティには出席なさらないので?」

「うーん……」


 パーティというのは会議が終わった後毎日城で行われる踊りと食事をしつつ社交を深める場だ。

 正直、行きたくない。めちゃくちゃ面倒くさい。社交と言っても、顔を繋ぐ程度で代わる代わる色んな人と挨拶をして中身のない世間話をするだけだ。もっと深く語り合えるのならやる気も出るが完全に上部だけの形式的な場なのでモチベーションが湧かない。

 一応出席は自由ではあるが、皆割と暇なのか大抵の人は行くらしい。行かないのは人嫌いか変わり者か忙しい人かそれくらいだ。忙しさで言えば忙しい人なので行かなくても良いのだが、皆には行った方が良いと言われている。


「「テルノアール卿!」」

「む?」

「なに?」


 こちらに同時に声をかけてきた二人の貴族だ。タイミングが被ってしまったことに面食らっている様子だ。


「如何しましたかギーズ卿、オルレアン卿」


 呼ぶ順番は一応序列順だ。


「……ギーズ卿からお先に」

「では、お先に失礼する。テルノアール卿、もし良かったら私と夕食でもどうかと思ったのだ、久しぶりなので色々話したいこともある。オルレアン卿も夕食の誘いですかな?」

「む……その通りである。テルノアール卿は『私』派閥の者だから派閥の頭が食事を誘うのは当然のことであろう」

「これは困りましたねテルノアール卿、序列『一位』であり『歳の近い』領主同士の『友人』の私と同じ派閥のオルレアン卿から同時に食事の誘いとは」

「あー、その……」


 困った。非常に困った。全然いらない。男同士で自分の取り合いの修羅場とか全然求めてない。明らかに二人とも張り合ってるしどっちを取ってもどっちかに失礼になる。最悪だ。

 なんなんだこの面倒くさい男たちは。しかも他の領主の目よ。めちゃくちゃこっち見てるし絶対嫉妬とか要らん恨み買ってるし。マジでやめてくれ。


「ギーズ卿、序列をかさにきてテルノアール卿に圧をかけるのはやめて頂こうか。私の派閥と争いたくはあるまい?立場上派閥の頭から誘いを受けて断ることが出来ないと分かっててその言いようか?」

「何を言うか、私の方が上位なのであるから優先するのは貴族なら当然。しかし派閥を言い訳に序列の秩序を乱すのかなオルレアン卿。ほらテルノアール卿が困っているではないか」

「あなたは普段から序列など関係なく忌憚なき意見を言うことが国の為であると言っているではないか。こんな時だけ序列を持ち出すのは一貫性がないのでは?」


 貴族らしい取り繕った笑みを浮かべ基本的には穏やかに見えるがその後ろではバチバチと火花が飛んでいるように見える。もう嫌だ、おじさんたち俺に構わないでくれ。何で同じタイミングで来るんだ。


「それでは……間を取って三人で食事、というのは……」

「「!?」」

「さ、三人でだと……?」

「……ハハッなんと大胆な発想だテルノアール卿」

「私にはどちらかを選ぶという立場にありませんのでこれ以上の合理的な提案は思い浮かびません。無理でしたら今日は残念ながらお二人ともお断りさせて頂くのが無難かと存じますが……」

「い、いやそれで良いぞ!どうだギーズ卿」

「合理的……まさかそんな理由で三人で食事とは面白い発想だ。仕方あるまいなオルレアン卿」

「となるとだ、どちらかの屋敷で食事ではホストが決まってしまう。これはテルノアール卿の屋敷に行くしかあるまい」

「えっ!?ああ、そう、なり、ます……か」


 後ろからヤバイくらい視線が刺さっている。ロランの顔を見るのが怖くて振り向くことが出来ない。どうしよう上級貴族で領主のツートップを迎えるほどのパワーはうちには無いのだが提案してしまった手前やっぱり辞めますはもう無理な段階だ。


「しかしながらお二人のような身分の上の方を我が屋敷に招待するのは些か憚られるものがあるのですが……流石に失礼でしょうし」

「構わん。領主同士だ身分など気にしていてはこの国は良くならぬ」

「其方またこんな時だけ身分は関係ないなどと……」

「そうか、オルレアン卿は無理かそれならば仕方ない。私たちだけで食事にしようではないか」

「いや行く!テルノアール卿を独り占めされてなるものか!」

「では……できる限りの歓待をさせて頂きます。何分急な話の為、食事に少し準備がかかると思うのでお時間を頂ければと」

「では準備が出来次第遣いの者を寄越して頂ければ」

「うむ、そうだな。貴族街は狭いからすぐに向かえるだろう」


 いや十分デカイと思うが、この人たちの領地のスケールからしたら狭いんだろうな。こういう連絡なんかがスムーズになるように、王都の貴族街は意図的にこじんまりさせているようだが、それでもテルノアール感覚で言えばデカイけど。


 と言うことで屋敷に領主二名が来ることになってしまった。


「ロウゼ様」


 ギクッ!

 ギギギと油を注してない機械のようにぎこちなくロランを見る。


「屋敷に戻ってからお話がございます」


 信じられないくらいの笑顔だ。しかし自分は知っている。これはめちゃくちゃ怒っているロランだ。他の貴族がいるから表情を取り繕ってはいるが、ブチ切れ寸前だこれ。

 仕方ないだろ、どうしたら良かったんだよあんなの。


 かなり急ぎで屋敷に戻り先程の顛末を屋敷中の人間に伝え、阿鼻叫喚となり従者からあり得ないくらいなんてことだと暗に責められいつもの十倍くらいの速さで全員が各自の持ち場に走っていった。

 そして自室。はい、分かってます。すいませんでした。


「ロウゼ様、何か申し開きたいことは」


 裁判か何かか?被告人じゃないか完全に。いや自分はむしろ被害者だと言いたい。


「……その、悪かった……」

「悪かった……一体何が?」

「は、はい……三人で食事という提案をしたら流石に二人とも折れるという甘い考えで安易に言葉を発してしまったことを」

「はあ……あの場は、それではパーティでお話しましょうとか、互いの従者に予定などを確認してから相談するべきでした」

「あっ……そうかパーティで話せば良かったんだ帰りたいって思ってたからパーティという選択肢が無かった」

「…………」


 ブルブルとロランが肩を震わせている。笑いではない、怒りだ。


「パーティで社交を繰り返し顔を繋ぐのが領主の仕事であるというのに帰りたいので頭になかった。と?」

「あ、ああ」

「ロウゼ様は返事をするだけですが、働くのは従者ですよ?それで満足な準備も出来ず主人に対して不甲斐ない思いをする従者の気持ちは?それで結果的に軽く見られるご自身の立場は?あまりにお粗末な考えなのでは?」

「返す言葉がない」

「良いですか。次からは必ずこのロランに確認を。これはロウゼ様の為に言っているのですよ?」

「分かった、本当に悪かったと思っている。しかしもう確定してしまったのだ、テルノアールの力を見せるチャンスと思うしかあるまい。苦労かけるが最高の持てなしの準備を頼む」

「勿論でございます、これから準備をするのでロウゼ様を構っている時間はありません。申し訳ありませんが湯浴みや着替えはご自分でやってください。貴族が一人で身の支度をするなど言語道断で筆頭執事としては大変恥ずかしく思いますが……ああほらこうやって従者が不甲斐ない思いをしてしまうのです」

「分かった、分かったからやめてくれ本当に反省しているから」


 では失礼します。とロランは勇み足で部屋を出た。

 あのチクチク攻撃精神にくるからマジで勘弁して欲しい。


「いやあ……流石に馬鹿やろとしか言えんわな」

「お前に馬鹿など言われたくない」


 ロランに怒られまくっているリュンヌは自分よりロランを敵に回すのが恐ろしいらしく自分をフォローする気が全くない。食事を減らされたりしては困るのでロランには逆らえないのだ。完全に餌付けされた犬だ。


「会議とやらは中々に面白かったがな」

「何が面白いねんお前は頭おかしいんか」


 カズキュールは実体化せずに会議の様子を聞いていてもらった。他の領地のデータなどを数字で分析してもらう為にだ。

 最近は、と言っても転生する前の話だが、プロスポーツチームなら大体一つの球団や組織に一人は情報を分析するスペシャリストがいる。野球なら球種やコースなどの大量のデータから統計的に高い勝率となる戦法を組んでいくのだ。

 全く法則が無いように思える無秩序な並びでも数字で見ていけば見えてくるものがあったりする。数字の神みたいな存在がいるので、言わば分析のプロだ。利用しない手はない。


「それで、何か分かったのか?」

「そうだな、領地の成長率とでも言えば良いか?上位の領地ほど安定していて伸び幅も小さい。しかし確実に伸びているな。逆に小さい下位の領地は上り幅、下がり幅が大きく不安定だ。上位の上がり幅が5%前後で、下位は5〜15%。そしてテルノアールの成長率は40%程度。この数値がどれだけ異常なのかはすぐに分かるだろう。大領地の領主がその秘密が知りたくて仕方ないのは当然だ」


 株でも同じ感じだな。大型株は値動きが少ないが安定している。中小株は上がり下がりが激しく不安定。うちはテンバガー株みたいなところなんだろう。

 そりゃ一枚噛みたいし投資して後から大儲けしたいと思うわな。

 この世界に株式は無いけど平民が成り上がるには投資ってのは割と良いかもな。もっとベンチャーの店が出てきて面白い商品出てきた方が活気づくだろうし。


「そんな凄いんか?」

「お前……最近私があれほど百分率の説明をしていたのを聞いていなかったのか?」

「聞いてたけど理解はしてないな」

「聞いてないのと同じではないか」

「全然違うやろ!」

「同じだ」


「やめてくれ屋敷まで喧嘩するのを聞いていたくない頭がおかしくなりそうだ」

「あ、そうやここ風呂無いけどどうしたら良いん?」

「あー、風呂は俺のと、従者の浴槽のない湯浴みする場所しかないのか」

「すっかり風呂入るのにも慣れてしもうたからな。しばらく布で身体拭くのはスッキリせんわ」

「まあ、それもそうだろうな。よし屋敷の庭の裏に作ってやろう」


 屋敷の庭の裏側に行き魔法を使って土で壁と浴槽を作る。男女別でそれなりに大人数が入れるようにしてお湯を注ぐ。少し面倒だが温度を一定にキープ出来る術式を組んでいつでも入れるようにする。これならわざわざ風呂を沸かす為に大量に薪が必要なこともない。


「よし、じゃあ一番風呂するか」

「はあ?ええんかここで風呂して」

「だってロランとか俺の世話してる余裕ないし一人で入らないとダメだからせっかく作ったし部屋まで戻って入るの面倒なんだが……」

「お前、流石に貴族としてヤバイことしてるって俺でも分かるで。外で風呂作って一人で入るって……」

「じゃあ皆で入れば良い」


 ピィッと指笛を吹くとどこからかニンジャたちが影の中から現れる。常に数人は屋敷の周りにいるし情報を集めて回っている。


「ロウゼ様、どうされましたか」

「本日の報告を聞きたい、領主が屋敷に食事にしにくるので他の従者たちは忙しいから直接聞く。今から風呂にするので共に入りながら報告しろ」

「ハッ!……は?」

「なんかこいつが一人で入るの嫌やねんて付き合ったってくれ」

「そ、それは勿論ですが……本当に良いのですか?」


 何を言ってるんだこいつら?と信じられないものを見る目で様子を伺いながらも忠実なので命令には従っている。


「良い、では報告を」


 一日の疲れと汗を流しながら風呂に入り報告を受けた。王都は珍しいものが多かったのか報告も割と私的な感想が多くて面白かった。


 報告を聞いて雑談をしていたらいつのまにか時間は過ぎていき屋敷の中も準備が整ったようなので着替えて部屋に戻った。

 外で風呂に入っていたのはロランに当然バレており、また怒られた。

 そしてしばらくしてギーズ、オルレアンが屋敷に到着した。

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