表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season2 ダンジョンマスター
73/101

会議前日

 面倒な情報が入ってから数日、王都に向けて再び出発したロウゼ一行はその後特にトラブルなどは無く無事に王都に到着した。

 今回寝泊まりする拠点は王宮の一室ではなく、王都内にある貴族街の小さな屋敷だ。それぞれの領主は一応王都に別荘のようなものを与えられるらしい。

 もっと領主としては最下級に近い格なので街を見た感じかなり他の屋敷よりランクが低めだ。

 日本に住んでた感覚からすると豪邸だから全然気にならないが。


 流石に長旅はそれだけで疲れるな……転移門とか転移陣とかあったら便利なんだが、流石に防衛の観点から危険過ぎるし、自分の領地に転移してこられたら普通に怖いから無理だな。

 輸送なんかの問題は一気に解決出来るし、あると便利だが誰も彼もとなると実現は難しいか。

 せめて自領の一部の人間だけとか、自領内では自由に行き来出来るとか制限をつきで出来たら楽なんだが、そうなると個人の身分証明をもっとはっきりしないとな。

 しっかり身分や所属が分かってそれが保証出来るようなシステムが必要だ。現状は一人一人帳簿に記録されてるだけで、こちらが発行してる身分証を一部の人間が持ってるだけだし権力があるものしか身分証明の方法が用意されていない。

 識別番号のカードとかコインとかを全員が持って、街や関所を通る際は必ず確認して、誰がおおよそどこにいるかを把握出来ればセキュリティ性も上がるが。

 そういう身分証明がきちんと出来れば社会保障や福祉の充実がより進みそうだ。健康保険や銀行の利用、家や土地の購入、開業の届けが実現可能だ。

 その手続きに無駄が多いせいで日々の書類仕事に忙殺されるのだ。自分が楽をする為にも今後の課題として一つ頭にいれておくか。


「なあカズ、人間一人一人を識別する方法ってないか?」

「顔と名前がその役割を担っているのではないか」


 カズキュールは当たり前だろと言いたげな顔をした。実際は表情に変化は殆どないがそういうニュアンスだった。

 普通に考えたらそうだ。今のは質問仕方が悪かった。


「いや……そうじゃなくて表面的なものではなくどうやっても偽れない何かって意味だが」

「何を求めてるのかは知らんが偽れないという観点では契約魔術は絶対に破れないな」

「契約魔術……そうか、血か」

「血には様々な情報が含まれている。名前や顔を変えようとそれだけは変えることが出来ない。故に絶対の拘束力を持つ。神が生き物を分別出来るようにそう作られた」

「では、血の情報から個人を特定することも可能ということか?」

「理論的にはそうだな。個人を特定する為に契約魔術で血を使うのだから、血を使えば逆に個人は特定出来るだろう」


 ふむふむ。写真はこの時代には無いし、写真があったとしてそれを身分証明として使うのは問題がある。

 というのも種族の違うものの顔を識別するのは多分無理だからだ。自分は人間だから、亜人種の顔はかなり同じように見えてしまうし、亜人種も人間の顔は同じように見えるらしい。

 となると知性を持つ生きものである限り絶対に持ってて誤魔化しの効かない血の情報というのは絶対だ。

 科学とは全く違う仕組みが働いているのだろうけどそれでも個人を特定出来る要素があるならば利用出来る。

 契約魔術自体は比較的シンプルで、故に誤魔化せない。

 血を使って情報をインプットした何かを常に持っていれば、それをスキャンする装置か何かに近づけると個人の情報が出てきて確認が出来る。治安維持にも効果的だ。


「ならばこういうことは可能か?」


 カズキュールに思いつく限りのアイデアと身分証の説明をしてみた。


「ふむ……聞いてみればそれは昔似たようなのがあったな」

「本当か?」


 昔の人ハイテクだな。めちゃくちゃ文明進んでるじゃないか。そういう便利な知識とかは完全に失われてしまってるけどなんでだ?一回何かしらの理由で滅びてしまって歴史の途絶があるのは感じていたが。


「私の知っている限りでは人間は常に首にメダルのようなものを下げていたな。罪人は門をくぐると反応するのですぐに分かったから街には住めなかったはずだ」

「凄いな」

「しかし何故いきなりそんなことを?」

「ああ、長旅で疲れたから転移出来るような魔道具とかあれば良いなと思ったが警備上の問題があるから個人を識別出来ないとまずいなと」

「罪人は転移門を利用出来なかったな」

「転移門あったのか」

「当たり前だろう」

「当たり前なのか。どういう理屈なんだ?まだ使える……というか残ってるのか?」

「破壊されたり埋もれていなければあると思うが魔力を久しく通していないから利用は無理だろうな。そういった公共の為の装置だ。それらに魔力を注ぐのは神官の役目だったが、今はそれが忘れられてしまっている。君が魔法を教えるつもりはないのなら、全てを魔術でまかなっている現状を鑑みれば、そんな余裕はないだろう」

「というかパニックになるだろうな」


 魔法に関することを公開したら貴族の専売特許、既得権益、地位全てひっくり返してしまう。

 自分が便利だからという理由で転移門の復活はどう考えてもヤバイ案件だ。何かするにしても自領内で便利程度に留めておくべきだろう。


「中々身分制度社会ってのはままならんものだな……」


 しがらみに辟易しながらすっかり冷めてしまった紅茶をすすった。


 屋敷では現在従者が大忙しだ。大して管理されていない屋敷を総出で掃除したり、会議に向けて売買する品の数や状態のチェック、料理の買い出しなどやる事が多くて領主の自分を構っている暇がない。

 貴族はそういう手伝いに手出ししてはいけないので、部屋で座って皆の働きを見守ることくらいしかやることがないのだ。


 テルノアールから輸出する品のリストを今一度整理してみようと思う。何を輸出するか領主が把握していなければ明日からの会議で恥をかくことになる。

 輸出品目は以下の通りだ。


 ・ジュアンドル

 ・ジャガイモ(税の役割を持つ)

 ・ポテトチップスやポップコーン等の新しい菓子

 ・シャンプー、リンス、脱毛剤等の美容製品(貴族女性向け)

 ・ゾートロープのベース(絵はソレイユ様に任せる為描かれていない)

 ・魔石(ダンジョンで獲得したもの)

 ・魔獣の牙や皮等の素材(同上)

 ・木(本来の産業)

 ・紙(領地内では普通に使われつつあるが羊皮紙等の既得権益の軋轢があるので比較的少量。大量生産低コストよりも白い紙という珍しさが売り)


 食料や医薬品(?)、嗜好品、魔術関連と思いの外手広くやってるなと思う。全体的に高級品の傾向があるが収入を得るには金を持ってる人間がお得意様になった方が良いし手っ取り早い。テルノアールブランドの価値を上げるのもやりやすい。そして財源は複数あった方が良い。投資でも一つのカゴに卵を全ておくなと言われているし分散させて収入を得た方がリスクが少ない。


 しかし問題点もある。ポテトチップス、ゾートロープは仕組みを少し詳しい者が考えれば分かってしまう。

 シンプルな仕組みだからこそ真似がしやすい。そうなるとこちらの利益が減ってしまう。

 会議にて自分がしないといけないのはそれらの作成、販売の権利の主張だ。特許や著作権などがないこの世界では売れるものは誰しもがすぐに真似をする。

 魔道具に関してはそれに近い権利(というか貴族の誇りとして、してはいけない不文律みたいなもの)があるが制作フローを考えると不可逆なものなので、まず真似が難しいという点でアドバンテージがあるだけで、明確なルールではない。


 オーガにも確認を取ったが、そういうパクり行為はお互いやられているので、自分たちもやるというスタンスだが実際のところ真似されると経済的なダメージが結構あるので、迷惑しているというのが本音らしい。そこで会議では製作者の権利という概念を提唱したいと思う。そういう王への嘆願なども行われる場である為、認められれば法が改正されていくらしい。


 勿論、会議の場でいきなり発言する訳はない。しっかりとオルレアン卿に手紙にて手回しはしている。貴族の共通認識というか問題だったのでその点に関しては割と色よい返事がもらえた。

 同じ派閥には販売などを認めるなどがあれば派閥に入る利点も生まれて勢力を拡大出来、自分の派閥の下の者の権利も守れるし良い考えだと言ってもらえた。

 大規模な領地の生み出したものは中小規模の領地がすぐ真似して利益が分散してしまうし、中小規模の生み出したものは生産量など数や権力で上から潰されてしまう為、経営者としては双方にメリットがあまりないのだ。

 貴族は自分たちの権利や利益を守るのが大好きなのでそういう提案は別の派閥でも賛同されるだろうということで問題なさそうだ。

 強いて言うなら発案者として王の前でその説明をしっかりとこなさないとならないというところだが、プレゼンの練習や資料の用意はしっかりしてあるので準備に抜かりはない。緊張で胃がキリキリしているが領主だから逃げようもない。仕方ないことだと諦めている。


 それに魔術大会や他の貴族の妨害も頭に入れておかなくてはならない。身分が低いからこんなに面倒なのか、上には上の懸案事項があるのか、王様はもっと大変なのか全く見当もつかないが地位を向上させておきたいな。領地の大きさだけが格付けの基準じゃないし実際領地のサイズだけなら中級だ。フィッツを吸収してるからな。

 同じくらいの領地規模で上級貴族が統治してる領地もあるしとにかく国と王への貢献度をガンガン上げないとダメだ。


 一番確実な方法のアイディアは一つあるが影響力や今後のことを考えると良いやり方とは思えない。

 まあ、手短に言うと新聞、映画を作ってプロパガンダで王の思い通りに情報操作をすれば民衆のコントロールは可能だろう。ただ、過去にそれらがどういう使われ方をしてきたかということを考えれば安易にやっていいことではない。

 間違った方向に走り出したらその連鎖はもはや自分の制御下にはなくなるだろう。そうなれば大勢の命を奪ってしまうリスクをはらんでいる。

 法の整備などをしてある程度暴走しない仕組みを先に作っておく手回しが必要不可欠だ。そしてこればかりは自分だけでなく他の多くの貴族の協力がないと実現出来ない。

 まだその時ではない。今は商売やダンジョンでコツコツと領地の底上げをしていく時期だ。まだ一年しか経っていないんだ。5年後くらいで考えても全然遅くないだろう。ゆっくりと、しっかりと確実に定着させていかないといけない。


 その為にはまずはとにかく顔を広くして人脈を作らないとだな。仲のいい貴族の知り合いが少な過ぎる。と言っても貴族の親交を深める方法って一体なんだ?

 女性はお茶会をするのが相場だが、立場上男性貴族と仲良くなる必要性の方が高い。そしてそれの有効な手段が分からん……何か……貴族、社交……あ、サロンとかどうだ?貴族は教養が高い人間の集まりで芸術鑑賞や学問が趣味だ。それについて語らう場所があれば交友も深められそうだ。

 プラスでシガーバー、コーヒーショップ (コーヒー売ってる店じゃなくて大麻を楽しむ店)を混ぜたような感じの場を作ればそれっぽいか。うん、割とありじゃないか?個人的に学問の話とかしたいから欲しいし。


 取り敢えずそういうのが需要あるかっていうリサーチから始めるか。学問……と言えばデモンディか、新しいもの珍しいものが大好きなあの人なら食いつきそうだし主人のギーズにも話がいくだろう。

 店を始めるにもデカイ名前の後ろ盾があった方がやりやすいだろうしな。リュンヌの父や弟の問題はあると言えど、本人は武よりも文の方だから賛同は得られるかも知れない。

 となると、オルレアン卿にも当然話した方が良いな。しかし派閥にとらわれず自由に言論出来る場の方が面白いだろうし、両者の合意を取り付けられないとダメって課題もある。

 明日からの会議、忙しくなりそうだ。

剣や魔術で語らう交友方法もあるのですがロウゼには向いてないので無理です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ