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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season2 ダンジョンマスター
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オーガの策

 一体何が起こっているのだろうか。一日で目まぐるしく状況が進展していき様々な事実が明らかになると同時に謎も増えていく。


「ロウゼ様、使者が屋敷に来ました」

「何?こんな時に一体誰の使者だ?」

「それが……オーガ・フィッツです」

「まさかとは思うが今回の件に何か噛んでいるのか」

「タイミングなどを考えても十分あり得るかと」

「オーガめ、油断ならんやつだとは思っていたが何を考えているのやら」


 オーガも身分的には現状は自分が上だが屋敷に来た以上客人となるのでそれなりに貴族としてもてなす必要がある。屋敷の中は急いで直に到着するであろうオーガを接待する為の準備を始めた。

 先触れを使者にさせてるとは言え、本来はもっと前もって連絡するべきでオーガの突然の来訪は貴族的には些かマナー違反ではあるが、緊急の要件である場合は例外となる。

 今回の場合、タイミングを考えると緊急の要件であるのは間違いないが、不測の事態という訳ではないのだろう。


 準備や暗殺について情報を精査しているうちにオーガが屋敷に到着した。

 馬車は五台で、明らかに長旅を想定した荷物だ。火急の要件でテルノアールに出向くにしてはあまりにも多い荷物ということから王都に向かうことは知っているのだろう。どこから情報を仕入れて来ているのやら。

 貴族の横の繋がりによる情報網は甘く見ていると痛い目に合うだろう。


 オーガの待つ応接室に向かうと外には既に従者が並んでおり、物々しい雰囲気が漂っていた。

 扉を開けさせ入室すると、オーガは膝をつき恭順の姿勢を見せていた。


「ロウゼ様、今回は急な訪問にも関わらず受け入れて頂き誠にありがとうございます。急ぎの案件につきご無礼をお許し頂ければと存じます」

「それはお前の話す内容次第だ。今屋敷は客人にのんびり対応していられるほど暇ではないのだ。王都より召集がかかりその準備をしているのでな」

「はい、それに関しては承知しています」

「何故知っている書簡は本日届いたばかりだが」

「王都に友人がいるのでその伝手で情報は回って来ています。領主に関することを臣下が調べるのは当然のことですし我々も出来るだけロウゼ様の迷惑をかけぬように努力をしているつもりでございます」

「ふん、まあ良い。座れ」

「はい、失礼致します」


 いくら緊急の要件であっても今すぐ生き死にが関わってくる問題でないのならば貴族のマナーとしてはすぐに話題を出したりはしない。まずは客人を迎える為に茶を出しお互いに飲み合い軽く近況報告などを混じえてから人払いをして本題に入る。

 お互い、最も信用出来る護衛一名を残しその他の従者は部屋を出た。


「それで、此度は何用でこちらに来たのだ」

「はい、ロウゼ様もご存知の通り屋敷にて不穏な動きがありましたでしょう。率直に申し上げますとあれらを手引きしたのは私でございますので、その説明に伺いに参った次第です」

「それは領主に反旗を翻したととっても良い程の重大な申告であることを理解しているのだろうな」

「勿論にございます。しかし反意などは全くございません。むしろ臣下として為すべき事をしたまでの話。事情を説明すれば思慮深いロウゼ様ならご理解頂けると承知しています」

「私の為と申すか。それはどういった意味だろうか」

「旧フィッツではテルノアールの支配下に入ったと言え、未だに貴族の中では父の存在は大きく何とかして父を取り返し謀反を起こそうとする者が多数存在しています」


 罪人とは言え領主を捕らえられたのだから自領の貴族としては良い気はしないし、反抗的な感情を抱く者がいる事は当然理解している。


「ですので、その根を絶ったまでのこと。あのような愚かな父とロウゼ様を比べればどちらにつく方が利があるのかは明白。しかし人間というのはそれほど聞き分けのいいものではありません。ならば旗印となる存在を消してしまえば良い。そしてオート領ではテルノアール領を奪おうと考えているようですので、共通の敵を作り領内ではなく、外に目を向けさせオート領の手落ちとされるようなことをさせれば外交でも有利な手札が得られる」

「貴様の影響力を旧フィッツ内で高める為に行ったとも捉えられるが?」

「確かに、父が消えれば時点で統括している私の影響力が大きくなるのは明らかでございます。しかし私は感情ではなく利を見て判断する性分ゆえ、勝ち目のない戦はしません。領地の将来を考えれば一時的にフィッツが権力を取り戻したとしても困窮していくのは目に見えております。それならばロウゼ様と共に領地を成長させる方がよっぽど価値がある」

「忠誠はまるで感じられないが別に良いだろう。利を見て判断するのであればこちらが失態を犯さぬ限りは味方であるのだからな。忠誠心などという不確かなものよりはそちらの方がよっぽど信用出来る」

「流石ロウゼ様、お見通しでございますね。領地を奪われた縁もゆかりもない人間に忠誠心を抱くなど無理な話です。むしろそれで忠誠を誓うなどと言う輩は信用に値しませんしロウゼ様はそれを理解していらっしゃる。それならば最初から正直に申し上げておいた方がお互いの為になるでしょう」


「此度の騒動、目的は分かった……しかし手段が好まんな。私に無断でこのようなことを実行し屋敷に余計な混乱を招いた。当然自領内での政治的な策略だったと皆に伝える訳にもいかない。オート領の攻撃として判断し通告するしかないがそれに関して貴様はどう落とし前をつけるつもりだ」

「……如何様になさっても構いません」

「はっ、白々しい。対外的に分かる処罰など出来ないことを分かっていてそう答えるとはな。では此度の王都へは貴様も連れて行く。これに関しては最初からそのつもりであったがその旅費は貴様が持て」

「承知致しました。これからの領内への成長とそれに対する投資と思えばいくらでも元は取れると思いますので何の異存もございません」

「とことん己の利を考えているようだな」

「土地を守る立場ですので土地にとって最適な選択をしていくまでのことでございます」

「だが、次このような勝手な真似をしてみろ貴様の首をはねてやる。こちらの兵力ならばその気になれば一夜にして貴様の城を破壊するぐらいのことは出来るのだ。重々理解しておけ」

「今回は情報が漏れれば全てが水の泡になる危険のある計略でしたので次からはこのようなことはありませんのでご心配なさらず」

「どうだかな、次は言い訳も申し開きも許さぬと繰り返し言っておこう。あの馬車の荷から考えれば既に王都に行く準備はしてきているのだろうな。準備が出来るまで屋敷で過ごすことを許すが妙な真似をしてみろ。一瞬のうちにお前は死ぬ。ここでは何をしていても筒抜けであることを忘れるな」

「勿論でございます」


 オーガの存在は厄介ではあるが有能な人材であるのは事実だ。上手く手懐けられるかどうか自分の手腕にかかっている。こちらに利があると思わせるように常に気を配ってないといけないし臣下をコントロールするのも大変だ。

 現代日本とでは上下関係の考え方がまるで違うし通用しない。上司と部下という関係性と考えて対応するのは良くないだろう。流石に部下に背中から刺されるというようなことはないが、この世界ではそれがより多くの人間が動き実際に行われてしまう。領主という立場はその土地の人間全てを動かすことが出来るし、死ねと言えば死なないといけないルールの権力が絶対的な世界での立ち回り方を覚えていかなくてはいけない。自分の行動に多くの命がかかっているとなると安易な行動も失敗も許されるない。

 こんなに頭を悩ませるくらいなら、フィッツを吸収しなければ良かったと思ってしまうが、成長を考えるとそれを仕方ないし衝突は時間の問題だっただろう。それにこれからも起こるだろう。


 屋敷の人間にはオーガよりオートがテルノアールに対して嫌がらせをしているという情報が入りそれを伝える為ここに来たという説明をして騒動はなんとか収まった。


 誘拐された子供たちも無事に救出することが出来て街に戻ってくる手はずは整えた。街の様子を聞くと貴族が平民を助けるなど考えられないらしく、それは凄い盛り上がりとなって瞬く間に噂が飛び交っていたようだ。

 親たちは泣きながら感謝をしていたが自分たち貴族の政治の為に関係もないのに子供を誘拐されているのだから感謝されても喜ぶに喜べない。むしろ申し訳ないくらいだ。オーガは領地全体のことを考えて行動しているが、やはり平民に対しては命を軽視しており駒のように使っている感がある。貴族なのだから平民は貴族の為にあり、領地の繁栄の為ならば平民の子供数人の命など大したことではないのだろうがやはり自分はそういった価値観には馴染めないし馴染むつもりもない。

 今後はそういったトラブルから出来るだけ関わりを持たせないように更に目を光らせておくことを肝に命じた。


 その後、王都に持っていくものや装備などを整え連絡事項を共有しておき指揮系統を確認して領主不在となっても領地の運営に問題が無いようにしっかりと準備をした。少し前からそろそろ連絡が来ると分かっていたのである程度の準備は出来ていたし慌てる事はなかった。オート領に関しては王都にて情報を集めつつ処置に関しては保留で、手を出すには早いと判断し出来るだけ慎重に確実に対応するということで話はまとまった。

 そして三日後、様々な荷物が入った十台以上の馬車を従えて我々一行は王都へと出発した。

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