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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season2 ダンジョンマスター
70/101

人さらいの捜査

 人さらいがいるほど治安が悪かったとは。

 一昔前ならいたかも知れないがディパッシ族が来て以降彼らの絶対的な暴力によって最終的には解決してしまうので犯罪者はめっきり減った。

 経済も活性化してるし食糧事情も改善して犯罪に手を出さなくてはならないほど貧しさにあえいでいる平民はほとんどいないはずだ。

 そもそもこの街に奴隷商人はいない。急に無くすのは軋轢を生むので商売するにあたって、色々と規制や法の配備をしてきたので、商売が難しいと思った奴隷商人は他領に移っていったと聞いている。

 だとすると奴隷商人ではなく単純にもっと闇ルートの取引をする犯罪者と考えるのが妥当だろうか?


 取り敢えず訴えに来た平民に話を聞いてみるか。

 本来ならアポなしで来た平民の話をすぐに聞くというのは貴族的にはあり得ないのだが散々トゥルーネにやってる手前偉そうなことは言えまい。


「話を聞かせてくれ」

「ロウゼ様……⁉︎」


 門の前で訴え出た兵士と一緒にいた平民の女性のもとへ直ぐに向かい声をかけた。

 領主が直接出てくるとは思っていなかったのだろう驚きの声を上げた。


「息子を……息子を助けてください!」

「待て待て、詳しく事情を聞かせてくれ」

「はい……私はいつも通り家事をして、息子は広場で他の子どもたちと遊んでいました。食事の時間なので声をかけに行ったら広場には子どもが一人もおらず、おかしいと思い近くの兵士の方に話を聞いても街の外に出たということは無かったみたいで森に採集に行くとも聞いていなかったので他の親同士でも騒ぎになり始めました」


 森の採集とは野草やキノコを取ることだ。食料事情が改善しているとは言え豊かとは言えないので平民の子どもたちが森に食べ物を探しに行くのは珍しいことではない。しかし森に行くには街の門を通って行かなくてはならないので必ずそれを目撃した兵士がいるはずだが、それがいない。


「ふむ、確かに奇妙だな」

「人さらいとしか考えられません!どうか子どもたちを……」


 平民の女は泣きながら自分の服をつかみ必死の形相で訴えた。


「おい、下がれロウゼ様に向かって無礼であるぞ」

「いや、良い……」


 兵士を制して女の顔を見つめる。

 街を守るのがそれを統括する領主である自分の役目。それを未然に防ぐことが出来なかったのは自分の手落ちだ。


「最善を尽くす……彼女を応接室に連れて行け」


 兵士に命令したのち、すぐに通信の魔道具で連絡を回す。まずは門に設置された魔道具からだ。


「私だ」

「ロウゼ様!事情は伺っております」

「通行は停止したか?」

「はい、荷物もあらためておりますが子供はいません」

「子供の集団が門を出たという目撃もないのだな?」

「はい、担当の者に確認を取りましたが今日は来ていないと」

「そうか……では至急空いてる人員で街の者に話を聞き情報を集めろ、普段と違ったことや怪しい人間を見かけたなど些細な情報でも構わんからそのつもりでやれ」

「はい!」


 次はニンジャ部隊の詰所に連絡を入れる。


「ロウゼ様どうされましたか?」

「街で人さらいが出たようで多数の子供が行方不明。至急鳥人には街の外に怪しい馬車や人間がいないか上空から調査してもらう必要がある。犬人には親のところに行き子供の持ち物なとがあればその匂いを嗅いで追跡せよ。残りの人員は街で秘密裏に情報収集だ。兵士が街の人間に聞き取りをしている裏で何か怪しい動きをする者がいれば連絡しろ。詳細はロランから聞け。以上だ直ちに行動開始!」



 取り敢えず現状やれる事はやった。後は情報が集まるのを待つばかりだ。執務室に戻り集まってきた情報をまとめていこう。


「訴え出た平民はライカ率いる犬人族とともに居住区に戻り追跡を開始しました」

「よし、何か他にはあるか?」

「数時間前、伝書鳩が放たれたという目撃情報が入ってきました」

「何?それは奇妙だな」


 テルノアールでは連絡用に遣い鴉を使用するが鳩は使わない。しかも平民が使用するのは禁じられている。


「どこかの貴族が関わっている可能性が出てきたな。しかも他領の貴族だ」

「しかし他領の貴族が入ったという情報は来ていませんし平民に紛れるのは無理があるでしょう」

「となると、貴族の手下か」

「現在、領内にはいくつもの他領の人間が入ってきていますのでその中にいる者かも知れませんがあまりに人数が多い為特定は不可能かと」


 経済が活発になる反面よそ者がルールを無視して勝手なことをしでかすリスクは承知していたがあまりに大ごとだ。

 毎日大量に人と荷物が行き交う現状ではそれを防ぐ手段は無い。

 その時、ロランに通信の連絡が入り報告を聞いているのを待った。


「ロウゼ様、偵察に出ていた鳥人からの連絡で街から離れたそれぞれの地点に3つ馬車がありましたが全てに他領の印が入っている為手を出すことが出来ないと」

「どこの領地だ」

「オート領です」

「……そうか」


 貴族の所有物であるものには大体家紋が入っており、それを勝手に確保すると領地間で深刻な問題となり得る為下手に手出しが出来ない。

 犯罪をした確たる証拠もなく荷物をあらためたり、逮捕することは出来ない。現状、馬車が領地の中を走ってるだけで通行証も当然持っているだろうし引き止める術がない。


「馬車はどこに向かっている?」

「一つはフィッツ方面、一つはダンジョン街方面、一つはオート領方面です」

「もし、仮に誘拐された子供たちがオート領に向かっている馬車に乗っているとするとまずいな」

「はい、オート領に入った時点でこちらは手出し出来ません」


「やむを得ないな、鳥人たちに馬車を強制的に停止させよ」

「しかしそれでは他領の貴族関係者への武力の行使になりかねませんが……!」

「直接的なことをしなければ良い。先回りして道に穴を掘り馬車を停止させられるように工作させよ。出来れば馬車を破壊して出来るだけ時間を稼げ」

「はっ……!」


 まずは本日街を出た馬車の通行証を確認せねばならんな。貴族の家紋を使った馬車はすぐに特定出来るし、荷の中身も書いてある。もしそれと異なったものが入っていれば逮捕出来るが……。


「ロウゼ様、ライカです」

「私だ、どうした」

「子供たちの匂いをたどっていたのですがどうやら川に向かったようで途切れていますわ」

「……船を使ったのか」

「恐らく」

「分かった、また何か分かれば報告してくれ」

「はい」


「船を使えば門を使わずとも街から出られますしその後で馬車に乗せたとすると門の監視もくぐり抜けられますね」

「ああ……これは組織的かつ、計画的に実行されている。愚かな犯罪者が思いつきで子供をさらったとは思えんな。入れ知恵してる貴族が居るんだろう」

「しかしまた何故この街の子供を狙う必要があったのでしょうか?テルノアールは奴隷売買を禁止していますし警備も目を光らせているので目立つ危険もある。よその街なら子供が減ったくらいで貴族は動きませんしその方が良いはずです」


「恐らく、平民の訴えを一々聞く貴族は居ないからそこは誤算であったのだろう。本来ならば発覚するのはもっと後だったはずだ。ただ、目的は分からんな」

「オート領はフィッツと親交のある領地ですしフィッツを奪ったことによる反抗としてフィッツの貴族がオート領の貴族にかけあって元奴隷を奪い返そうとしているという可能性は……」

「無い、とは言い切れんが……たかだか平民の奴隷を奪う程度のことでは割に合わんだろう。もし発覚すれば責めを受けるのはオートだ」

「それはそうですね」


 もしかすると別の狙いがあるのか……?これは陽動で本来の目的はもっと重要度の高いものなのかも知れない。


「失礼します!」


 ドンドンと扉を叩いた音が聞こえたと思った矢先、兵士が慌てた様子で部屋に入ってきた。


「報告します!地下牢を警備していた兵士が何者かに気絶させられフィッツ卿が殺害されています!」

「何っ⁉︎」


 これが狙いか……。しかし、一体誰が何の目的で?


「すぐに行く。屋敷中に警戒を促せ、敵が侵入しているはずだ。兵士は使用人を全て一箇所に集め点呼を取り見慣れない顔がいれば直ちに捕縛せよ」

「はっ……!敵が侵入!繰り返す敵が侵入!警戒せよ!使用人は一箇所に集まれ!」


 兵士は部屋を飛び出して指令を出していった。


「リュンヌ!」


 部屋の前に居たリュンヌに声をかける。


「お前は護衛としてついて来い、他のディパッシには兵士と同様警戒させておけ」

「おう、ところで何事や」

「侵入者、もしくは裏切り者がいる」

「侵入者って……俺らの目盗んでそんなこと出来るやつがいるとは思えへんけど」

「それもそうだ……ロラン本日屋敷に入っている客などはいるか」

「確かエッセンと商談する為に商人が……」


 ロランが書類をまくりながらチェックしていく。


「……ロウゼ様……オートの商人です!」

「今すぐエッセンのところへ向かう!」


 急いでエッセンが商談しているはずの部屋に向かい様子を探った。


「部屋の中に人の気配は1つ……いや、2つか」

「見張りの兵士は殺されているのか?」

「……いや、多分眠らされてるな」

「よし、では部屋に突入するぞ。リュンヌが先陣を切れ、他の兵士はリュンヌの援護だ、注意しろ」

「おう」


 扉の横に静かに移動してタイミングを見計らう。


「オラアアアァッ!」


 リュンヌが扉を蹴破り部屋に突入した。続いて兵士が部屋に入っていく。


「ロウゼ!」

「どうした……っ⁉︎」


 部屋に入るとそこには喉を切られて殺された商人と恐らく従者である男3人が倒れており、エッセンは椅子の上でロープで縛り付けられて猿轡をされていた。


「エッセンの猿轡を外せ」

「ハアハアッ!ロウゼ様!」

「落ち着け、何があった?」

「商談をしていたら外から音がして何かと思った途端、商人の従者が商人の喉にナイフを突き立てて殺し一人は部屋を出た後、僕のことを縛って猿轡をさせた後薬を飲んで死にました」

「自殺したのか?」

「多分そうです」

「もう一人はどこにいったか分かるか?」

「いえ……」


 一人の兵士が部屋に駆けつけて報告をする。


「ロウゼ様!他領の者と思われる格好をした男が部屋で死亡しているのを発見しました」

「そいつをここに連れて来い」

「はい!」


 しばらくした後、部屋に死体が届けられた。


「こいつか?」

「はい、間違いありません」

「どうやら連中はフィッツ卿の暗殺が目的だったらしい。情報を得ようにも薬を飲んで自殺している。口封じも完璧だ」

「しかし分かりません、何故オートの者がフィッツ卿の暗殺など……」

「ロラン、オートは利用されてるだけかも知れんぞ」

「と言うと?」


「現状、フィッツ卿を暗殺することによってオート領がどう得になるのかが不明だ。子供をさらい、自領の家紋をつけた場所を使い、屋敷に侵入して捕虜を暗殺。普通、こういうことをするならひっそりとすべきで自分たちに関係する家紋や商人を堂々と使わないはずだ。これではオート領を責めてくれと言わんばかりで計画自体は貴族的な策略だが、使っている人材や馬車が単純過ぎる」

「では第三者の関与があると?」

「今はまだ分からん、ただこれは私の屋敷に侵入したのだからオートに関係する者を逮捕する口実は出来た。鳥人部隊に直ちに馬車の中身を確認させ尋問をさせろ」

「はい、直ちに」


 後は死体から何か分かることを探すべきだが……となるとあいつに頼むしか無いな。


「ゲオルグを呼んでこい」


 ゲオルグを呼び待っている間に死体の遺留品を探ってみた。出てきたのは小型のナイフ、液体が入っていたと思われる小さな瓶、羊皮紙と筆記具だ。


「エッセン、お前から見てこいつらは商人の従者として何かおかしい点はないか?」

「そ、そうですね……まず立ち居振る舞いがしっかり躾けられていない感じがしました。商談した商人自体は大きな店の店主でしたから、それ相応の教育の行き届いた従者がいるはずですが、急ごしらえというか慣れていない感じで違和感を覚えました」

「では商人を殺す様子はどうだ?慣れていたか?躊躇する様子や怯えなどは感じられたか」

「いえ、殺すのは本当に一瞬でナイフの扱いにも慣れていると思います。毒を飲むのも怖がったりなどはしていませんでした」

「となると、何者かに雇われた暗殺者でそいつらを従者にさせられた商人は利用されている可能性があるな」

「でも最後に自殺することも計画のうちなら普通は戸惑ったりすると思うんですがそんな様子も無かったですし……」


 ならば、毒ではないと思っていた可能性は無いか?不可解な事に部屋の前で見張りをしていた兵士は殺されず気絶しているだけ。特に目立った外傷も争った形跡もなく完全に不意をつかれている。

 そんな事を考えているうちにゲオルグが到着した。


「何か御用で?」

「屋敷に侵入した暗殺者が毒をあおって自殺したと思われるお前なら何か分かると思ってな」

「ああ、それで薬の臭いが扉からしてる訳ですか」

「何?」

「いえ、職業柄薬の臭いはすぐに分かりますので……ちょっと失礼」


 そう言ってゲオルグは死体の方に歩いていき死体の口を開けて匂いをくんくんと嗅いだ。


「おや、奇妙ですね死体の口からは確かに薬の臭いがするのですが、外から嗅いだ薬とは別物のようです」

「どう違うか分かるか?」

「死体が飲んだのは液体の毒でしょう。しかし外から嗅いだのは気体ですね……何か燻したりしましたか?」

「エッセンどうだ?」

「多分それです!お茶を飲み相手の用意してくれた菓子を食べた後、商人は香りの良いお香が入ったので良かったらどうかと試しに火をつけました。貴族のもとで働く兵士の汗の匂いを消してくれるので人気があると言って扉の前に居た兵士に嗅がせてました」

「しかしそれでは兵士以外が気絶してないことの説明がつかんな」

「あの〜多分なんですがその用意されたお菓子に眠らせる薬の毒消しの作用があったのでは無いかと」

「そんな事が可能なのか?」

「まあ少なくとも私なら作ること自体は可能ですね。遅効性の眠り薬を焚いてその効果を阻害する薬を先に飲んでおけば」

「では、その液体も眠らないようにする為の薬と思わせて飲めば即死か」

「まあ、薬で人を救うのは難しいですが殺すのは非常に簡単ですので」

「そうか……」


 周到に準備された計画、薬の調合、フィッツとオートの関係性、貴族の関与は明らかだ。

 王都に行く準備もあるのに面倒なタイミングだ。

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