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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season2 ダンジョンマスター
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王都出発1週間前

「ロウゼ様、王都への招待のお手紙が届いております」

「ああ、そろそろと思っていたところだ」


 ソレイユ様が戦後処理をした後しばらく滞在してテルノアール領の様々なものに感銘を受け、王に話して発注をかけるという話を聞いて2ヶ月ほど経ったころだ。

 学校の建設作業も順調に進み後は完成を待つのみとなって丁度手が空いたタイミングだった。


 孤児院は先に場所だけは用意していたので移動してもらい始動したが、今のところ大きな問題もなく食料状況が改善されて皆大喜びだった。


 しかし結構色々なことに金を使ったので懐具合はあまりよろしくない。ここらで一発ドカンと稼ぎたいと思っていたので大口の注文を受ける為にも王への心象は良くしたいところだ。


「では用意して出発は3日後に」

「はい。同伴者はどうしますか?」

「そうだな、長旅になるしそれなりの大所帯となるから料理人はある程度連れて行きたい。社交で料理を振る舞う機会もあるだろう」

「そうですね、エッセンはどうします?」

「うーん、商会や冒険者ギルド周りの仕事が滞ると困るし連れて行くのはあまり良いとは言えんが商談もあることを考えると連れて行くべきか」

「引き継ぎ作業をしておけば大丈夫かと。エッセンに仕事が集まり過ぎているので分担することを覚えてきましたし」

「そうだな、まあ大変とは思うが領地にとって千載一遇の機会だ、他の者にも頑張ってもらおう」

「となると、トゥルーネ様は当然必要ですし、ディパッシの護衛、ゲオルグは連れて行きますよね」

「ゲオルグは発注に関して要望などがあった時に必要だからな。王族のもとにあいつを接近させるのは非常に怖いがあちらがお望みだ、仕方ない」

「各担当分野の首脳陣は全員行くと思った方が早そうですね」

「ああそうだな、それとニンジャの一部に情報を集めさせたい。後は旧フィッツのやつらも多少は連れて行く必要があるだろうな」

「……ですね、レモンド様ですか?」

「いや、あまり気は進まんがオーガだ。あいつは実質的なフィッツ派閥のまとめ役だし、既にテルノアールの貴族だからそれなりに立ててやらんと軋轢が生じるからな」


 社交のタイミングでフィッツの方面の顔合わせもあるだろうしそこでどうしても派閥の代表者が居ないと交友関係を繋ぐのも難しいだろう。

 そもそもフィッツがどこの貴族と繋がっているのかを把握するためにも連れて行くしかない。


「となると、準備に時間がかかりそうですね」

「そうだな1週間くらいは見ておくか」

「そうですね、各方面の連絡と準備を考えたらそれくらいは欲しいです」

「分かった。私は旅に必要なものを作らなくてはならんから行ってくる」

「また何か作るのですか?」

「いや、注文を受けるのに石鹸やシャンプーの試供品はいくらか用意しておいた方が良いだろう。それと旅の食事の事情を改善したいのでコンロを持ち運べるように魔道具で作ってくる。仕組みは簡単だからな」

「はい、分かりました」

「では後は頼んだ」


 さて、ゲオルグに進捗確認をさせるか。機材もそれなりに投資してアシスタントも雇った。小さな研究の為の小屋ではそろそろ無理があるし今回の機会で金が入ったら、大きめの研究施設を作ってやるか。

 王都に輸出するとなると、それなりに量も大量生産が必要になるしどのみち必要そうだ。

 ゲオルグの研究小屋に一人で向かっていく。屋敷からは少し離れているので軽い運動には丁度良いくらいの距離だ。

 学校は比較的近くの場所に建設中で今は丁度プールを作ってもらっているが、先に公衆浴場を作っておいて本当に良かった。大型の水を貯める場所というものを作るノウハウが職人に無かったので、皆頭を並べて色々問題を洗い出しながらなんとか作ることが出来た。主に排水が課題だったが魔道具との併用で上手くいった。

 そのおかげでプールは水を貯めるだけなので比較的簡単らしくスムーズに建設出来ている。

 子供達もまだ完成はしていないが簡単な勉強は教えてもらえるほど生活に余裕が出て来ているので良い調子だ。


 ただ……金を本当に使い過ぎた。いくら先行投資とは言え本当にギリギリの貯蓄だ。今戦争が始まって徴兵されたらテルノアール領は滅ぶ。

 冒険者全体のレベルが上げればもう少し質の高い魔石や素材が安定して仕入れられるがまだ時間がかかるだろう。ハットウ村という小さな村出身の冒険者たちが一番稼いでいるらしいが現状一番の団体で、平均くらいにしてもらわないと現状厳しい。


 特に利益さえ出ればと何も考えていなかったがトゥルーネにオルレアン派に入って無かったら魔石の権利関係で絶対に嫌がらせされたはずだから運が良かったですねと言われてヒヤリとした。

 貴族は単純な利益だけでなく貴族同士の繋がりも考えておかなくてはならないし恐らく、今回の利益でどこかしらと衝突するだろうとある程度予測はしている。

 まあ、新しいものだから直接ぶつかることはなくても美容関係のものが無いことは無いだろうし、それで商売している貴族がいるかのリサーチもしておかなくてはならない。

 ニンジャに王都で諜報活動を頑張ってもらうしかない。


「ゲオルグ、私だ」


 ドアをノックすると助手の男が出てきてこちらを見てギョッとした表情を浮かべた。

 貴族だから恐縮されるのは分かるが毎回この反応は流石にこちらも困る。

 研究でここにこもってるから日常的に会う機会が少なくなれないのだろうが。


「あ、ロウゼ様どうされました」

「王都に行く予定が決まったので試供品の確認に来た」

「あー、そうですか。準備は大方出来ていますよ」


 ゲオルグに促されて小屋の中に入り木箱に入ったものを一つ一つ取り出して説明される。


「シャンプーですが香りは3通り。バラの香り、オレンジの香り、無香料のものです」

「コンディショナーも香りは3通りか?」

「いえ、コンディショナーは香りで差をつけても仕方ないと思いましたので仕上がりの質の違いで2種類です」

「まあ、シャンプーで香りは既についているしな」

「はい、精製する薬剤の希少さ、効能の高さで値段が変わっていますが下の方のものでも十分な効果があるのでわざわざ高い方を買うまでもないかと思いますが」

「いや、貴族は特別という言葉に弱い。上位の者ほど見栄を張って高いものを選ぶだろう。下の者は上の者より質の良いものを使うのは何かと力関係に問題が出るので質の差は必要だろう」

「まあ、貴族のことは良く分からないので需要があればそれで良いのですが」

「ああ、需要は間違いなくあるので問題ない。石鹸はどうだ?」

「石鹸は公衆浴場でも使われてるように獣臭さを消すことには成功してますのでそこにシャンプー同様に香りをつけてその分費用がかかってる程度ですね」

「よし、量はどの程度確保している?」

「そうですね……100人が3ヶ月程度使えるくらいはあるかと思います」

「試供品としては十分だな少ないくらいで価値を釣り上げておいて反応が良ければ一気に供給しよう。王都から帰ったら大量に作る必要があるだろうがそれは覚悟しておけよ」

「はい、最近は人に頼ることも覚えましたし楽をさせてもらってますよ」


 ゲオルグはちらっと助手たちがあくせく働いているのを見てニヤリと笑った。


「ああ、そうだお前は王都に連れていくぞ薬品の説明をする必要があるかも知れんからな」

「え〜⁉︎研究してたいんですが……」

「いや、王都で薬に関する情報収集も行なってもらいたいし、出来れば他の研究も勉強して欲しい。王都には書物が沢山あるが貴族でないと読むことは出来んからな。私の紹介が必要だろう」

「ぐっ……確かに……研究の資料は読みたいですね」

「王都には賢者もいるからな何かしら得るものはあるだろう」

「しかし、薬品の説明しても良いんですか?製法は秘匿しておいた方が良いのでは」

「誰が製法を教えろと言った。例えば既存の薬品の効能の違いだとか皮膚に影響があるのかとかそういう話をしろと言っているのだ」

「ああ、そういうことですか」

「製法や材料に関しては言うなよ、分かってると思うが」

「わざわざ手の内を見せる薬師はそう居ないと思いますよ」

「お前は研究や薬剤に対して興味を示されると興奮してどれほど凄いのかを丁寧に説明しようとする癖があるので非常に不安だ」

「そう言われると返す言葉もありませんね」

「では、頼んでいた品は出来たし王都に持っていく分はリストを作成しておけ。私は用事があるのでこれで失礼する」

「あっ、ちょっと待って下さい。忘れてました」

「どうした?」

「薬剤と髪の毛の研究をしている間に出来たものなんですが、毛が抜ける薬剤が偶然生まれました」

「毛が抜けるだと?」

「はい、まあ貴族にとって髪の毛は重要なものなので全く役に立たない代物ですが」

「それは……髪の毛以外でも抜けるのか?」

「ああ、それはそうですね毛なら抜けますね」

「皮膚が焼けるような痛みなどはするのか?」

「いえ、成分の濃度調整はしたので毛だけに作用します」

「それは売れるぞ」

「えっ毛が抜けて嬉しい人なんているんですか?」

「そうだな貴族女性は肌を美しく保つのが重要なことは分かっているか?」

「はい、それくらいは知ってます」

「なら、腕に生えてる毛が無くなれば?」

「……より綺麗な腕に見え、カミソリで皮膚を傷つける心配も無い……」

「そういうことだ」

「なるほど、髪の毛でなくそれ以外に使うことを考えれば良いのですね」

「ああ、脇の毛も無くせば匂いがすることも減るだろうし毛を無くすことが貴族としての身だしなみとして提案する事が出来れば……」

「莫大な需要が発生する……」

「よし、その除毛剤……と、呼ぶが除毛剤は出来るだけ作っておけ」

「わ、分かりました。忙しくなりそうです」

「頼んだ」


 よし、意図せずこちらが欲しいものを作る謎の才能があるゲオルグは普通に不気味で怖いが思わぬ収穫だった。

 後は携帯用コンロだな。長旅で簡易的な食事は前回で懲りてるし旅と言えど贅沢な食事をしたい。

 魔道具を作れるのは自分とトゥルーネだけだが頼んだら作ってくれるかな。正直忙しいのでそこまでやってられる余裕は無いのだが……


「トゥルーネ入るぞ」

「はい……」


 アポ無し訪問はいつものことでもう順応してきて何も言われない。むしろアポを入れた方が不気味がられるかもしれない。


「王都への旅路でコンロを携帯出来るようにしたいので魔道具の作成を頼みたい。私は他にも用事があるのでな」

「あの……私に仕事がないみたいな言い方はやめてくださいませんか?」

「いや、悪いな。それで火力を調整出来て出来れば3つほど火が出る口を作りたいのだが」

「私が作る前提で話を進めるのもやめてください」


 ハア、良い加減にしてくださいと怒りながらも仕様を聞いて作ろうとしてくれる彼女には頭が上がらない。

 その時、通信の魔道具に連絡が入った。


「ロランかどうした?」

「平民が至急ロウゼ様に連絡を取りたいと」

「ふむ、それで要件は?」

「街の子供が消えているそうです」

「何⁉︎」

「人さらいでしょうか、どうします?」

「町の治安を守るのが貴族の役目だ、至急門と関所に通行止めを要請、街の外に連れ出されたら面倒だ、兵士には荷物を改めをさせろ」

「はい」


「すまんが、魔道具の作成は頼むぞ急用が出来た」

「はあ……いってらっしゃいませ領主様」

「悪いな、この借りは後々」

「返してくれた試しが未だありませんが……」

「では行ってくる!」

「もう……」

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