開校に向けて
孤児院に訪問
孤児院を新たに作ることとなり調べていくうちに分かったのだがこの街の孤児は教会で保護されていることが分かった。一応先代の領主、父が創設したらしいのだが個人的に支援していたので死んで以降援助が打ち切りとなり非常に厳しい経営だったようだ。
そこで担当者と話し合いをして移動してもらおうと会談の場を設けた。
「本日はお招き頂きありがとうございます領主様」
「うむ、まあ座れ」
教会の神父は初老の男性で貧相な服を着ていた。本当にギリギリの生活をしていたのだろう。茶を飲んで軽く雑談をした後に本題に入る。
「まずは謝罪をしておこう、知らぬこととは言え父の思いつきでやっていて孤児院の支援が出来ていなかったことに心苦しく思う。これからは新たにこの屋敷の近くに孤児院を設立しそなたが保護している子供達をこちらに移動してもらいたく思うのだが」
「子供たちが今よりも良い状況になるのであれば私はそれで良いのです、しかし子供たちと離れるのが寂しく私を雇ってはもらえないかと相談させて頂きたく……」
「それは構わんが何か教えられることはあるか?」
「教師として雇うということでしょうか?」
「ああ、深刻な教師不足なのでな」
「読み書き、計算、神学なら教えられますが……」
宗教か……ナンセンスな教義などがあれば面倒だから出来るだけ子供に触れさせたくはないのだが。
「神学か……信仰は自由だ。だが他者に自分の信仰を強制するならば雇えんな」
「教会で暮らしている子供たちにも別に強制はさせておりませんよ私が信じたいので信じている。それだけの事ですので」
「では孤児院における生活は全て一般的なもので問題ないのだな?」
「はい、私が教義に沿った行動をする分には目をつむって頂ければ」
「その教義とやらを先に聞いておこう」
神父の言う教義はお祈りや休みの日など割と普通で特に1人だけ実行していても問題の無さそうなものばかりで拍子抜けだった。
「では神父よ、今保護している子供たちを新たな孤児院に移動させそこで教師として働くということで良いのだな?」
「はい、子供たちの生活の面倒を見る者は他にいらっしゃるのでしょうか?」
「いや、人員はまだ確保出来ていない。そなたが先導して面倒を見てくれると助かるのだが負担が大きいだろう」
「いえ、お話を聞く限りそれなりに人がいるようなので教師と孤児院の仕事は両立出来るかと。今までは1人でやってきましまのでそれに比べれば大した事はないかと思います」
「では、任せよう」
孤児院の指揮を執る人材が確保出来たので後は孤児を集めるだけだ。と言うことで早速孤児院に来てみた。貴族を招くのに相応しくない場所と院長に止められたが現状を知りたいので変に取り繕った場所を見せられても今後の為にならないと言って跳ね除けた。
「院長先生!誰ですか?」
「こら、失礼なことを言ってはいけない」
院長は無邪気な子供たちの質問に慌てて叱りつけた。まあ、孤児たちに礼儀作法など求める方が無理な話なので『気にするな』と言っておく。
「初めまして、私はロウゼ・テルノアール、領主だ。これから君たちの住む場所が変わるので挨拶に来た」
「住む場所が変わる!?」
「僕たちどうなるの……?」
子どもたちは心配そうにこちらを見ている。奴隷にでもされると思っているのだろう。
「安心しろ、ここより生活環境が整った場所に住むから今よりは楽しいはずだ。約束しよう」
「楽しくなるの!」
「ご飯も……?」
「ご飯増える!?」
子どもたちにとって楽しいとは食事が増えることなのだろう。
「ああ、もちろん増える。今まで放っておいて悪いと思っているのでな、本当は君たちを保護するのも領主である私の仕事なのだからな」
子どもたちは良く分からんというように頭に疑問符を浮かべている。
「君たちに聞きたいのは、これからどうなって欲しいかだ。自分がやりたいことはあるか?どういう仕事をしたい?出来るだけ叶えよう」
「僕は兵士になりたい!」
「私は料理人、私がここでは一番料理するのが上手なんだよ!」
「僕は院長先生みたいに先生になりたい!」
1人が答え出すと我も我もと自分のやりたいことがあるようで手を挙げて元気に答え出した。しかしその一方で下を向いてじっとしている子どもが何人もいることに気がついた。
「そこの子どもたちはやりたいことはないのか?」
「僕は分からない……」
「私も」
「僕も」
やりたいことが見つかっていないのが悪いことかのように落ち込んでいる。
「何も悪いことじゃない、まだ皆幼いんだからやりたいことはこれから見つかるし、見つけるものだ。私がこれから行うのはやりたいことを見つけるために勉強する場所だ。そこでしっかり勉強して自分たちの生きる道を見つければ良い、焦らなくて良いんだ」
小学生くらいの貧しい子どもには選択肢が少ないから視野を狭いのは当然だ。手を挙げて発言した子どもたちも自分たちの生活に近い職業しか挙げていない。
「君たちには家も食事も服も教育も与える。その代わり将来的には私の元で働くことになる。大人になった時には私を助けれてくれるとありがたい」
「はいっ!」
「頑張る!」
生活環境が変わることに希望を感じているのだろう、子どもたちは目を輝かせながら返事をしてくれた。
子どもたちに将来的にやって欲しいことの一つとしては公務員だ。街のインフラとなる仕事を頼みたい。お役所仕事も多いので読み書きが出来る人員が必要だし、それなら最初からこちらでそういう人材を育ててしまおうという考えだ。
公務員の仕事も様々なので彼らの希望するような仕事もあてがうことは出来るだろうし、途中で変わって、やっぱりこの仕事が良いと思うこともあるだろうから問題ないだろう。
公務員と言えるのは現状兵士と屋敷で働いてる人間くらいなものだから結構な書類仕事があり他にやるべき事の可処分時間が圧迫されているので公務員は必須なのだ。分業をしなくてはならない。
さて、学校の工事の監督もしなくてはいけないし屋敷に戻らなくては。作りは本当に小学校のようなものを目指していて、学年ごとの教室や特別教室、運動場、プールなど作る予定だ。ニンジャ養成学校は高等部みたいな扱いにして見込みのあるものがいれば進学させるという感じだ。
この世界の書類は小学生レベルまで出来れば本当に十分なので義務教育という均一な教育を与えるということ凄さを改めて実感しているところだ。
問題は指導者、教師の人員だが……理科の先生にゲオルグはどう考えてもまずいな。体育の先生リュンヌ……論外だな。
となると、やはり外部から引き抜きをしないとダメか。旧フィッツから教師のような人材がいれば寄越してもらえないだろうか。しかしそれにはオーガと連絡を取る必要がある。
正直、苦手なんだよなあいつ。腹の底が知れない危険な匂いがプンプンしている。いかにも貴族と言った感じだからな。
でも院長だけではどう考えても回せないし教科ごとに特化したものに教えてもらった方が質は高いだろう。
いっそのこと公募かけてみるか。学校の先生だって就活で募集してる学校に面接に行く訳だから、こちらが条件を提示してそれにマッチした人材がくるのを待とう。
一応来なかった時の為にオーガに連絡を取らなくてはならないのは確定だろうけど。
気が進まないな……