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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season2 ダンジョンマスター
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忙しい毎日

領地を大きくするために色々奔走する毎日です。

 紙の作る方法はある程度分かっているのだが、パルプ、つまり紙の元となるものを木からどうやって加工するかというのが問題だ。方法は大きく分けて2つある。化学的な方法で繊維をほぐす、化学パルプ。物理的に木のチップを細かく裁断する機械パルプだ。化学的な方法は木を溶かす薬はゲオルグが作れるかが問題で、機械で裁断するのは機械が作れるのかというところが問題だ。


「ゲオルグ、木の繊維をバラバラにする薬は作れそうか?」

「また難しいことをおっしゃいますねロウゼ様は」

「で、出来そうか?」

「分かりませんね、やってみないことには。要するに木の繊維をほぐせばいいんですよね?それを元にして水に混ぜてその液体を薄くすくって羊皮紙のようにする。理屈は分かりますよ。ただ、最適な加減が分からないのですぐには不可能です」

「となると、先に道具の準備をしておいた方が良いな」


 木の繊維が混ざった水を漉いて層にして重ね紙を作る。その道具が必要だ。


「ああ、それと出来たらで良いんだが、木の繊維を脱色したい白に色が抜けるように出来るか?」

「ああ、それなら可能です。以前シャンプーの研究をしてる際に偶然発見したのですが、これが面白くてですね……」

「製法の説明はしなくて構わない。出来るならそれで良い。では後は頼んだ」

「はい、頑張ります……」


 説明がしたかったようでゲオルグは元気がない返事をした。忙しすぎるのでそこまで聞いている暇はない。

 ゲオルグも色々な納期があるので忙しくないはずが無いのだが……


 部屋に戻りロランと報告をする。


「ロラン、紙を作る道具を用意したいのだが」

「以前説明されたものは商人に発注用に既に書類はまとめてありますのですぐにでも」

「そうか、では発注を頼む。最初は1つだけ試作機を作り、良ければ量産する手はずで頼む」

「はい、既に見積もりと職人の確保はしてありますので1週間もすれば出来上がると」


 相変わらず素晴らしい段取りだ。ロランがいなかったらあらゆる仕事が回らなくて大変なことになっていただろう。


「うむ。浴場の工事はどうなっている?」

「水道は現在、専用の水道を引いて水が流れることは確認済みです。建築系の工房総出でやっていますので建物はおおよそは出来ています」

「もうか?随分早いな」

「領主主導の工事なので皆必死なのですよ」

「まあ、それもそうか」

「私としては急ぎ過ぎて雑な仕事になることが心配ですが」


「そうだな、職人たちにはその点注意しておけ。早く出来る分には良いが質が低いのは認められん」

「と言っても余計に必死になるだけかと……」

「そろそろ労働法を規定しておかないとだめか」

「労働法、ですか?」


「領主だから好きに法を決められるしこの際利用しておくべきだろう」

「一体何をなされるのですか?」

「労働法は基本的に平民の為の法だ。例えば1日に働く時間を法で決めておけば無理な労働はしないし、雇う側もさせられない。疲弊した状態では良い仕事が出来ないし産業が盛んにならない」


「なるほど、労働に関する揉め事は非常に多いですしこの際決めておいても良いかもしれませんね。将来的なことを考えればロウゼ様のお仕事が減りますね。今でも多過ぎるくらい調停の依頼が毎日来ますし」

「そうだ、決まりがないとどうしても主観的な判断で沙汰を下すしかなくて困っていたのだ」


「エッセンにも連絡しておかなくてはなりませんね。では叩き案を作成していただけますか」

「また仕事が増えてしまった……」

「先のことを考えてやるしかないでしょう」

「分かってる。分かってはいるのだが……」


 墓穴を掘ったような気もするが不当な雇用などは見てて気持ち良いものではないからな。仕方ない。領主、頑張ります。


「ああ、働く関係で思い出したのですがフィッツが抱える大量の奴隷はどうしますか?痩せたあの土地では奴隷商売がかなり盛んだったようで、売る用の奴隷が動けずに無駄になっていると報告を受けていますが」

「ああ確かこちらに送られてくるんだったな……そうだ、紙を作らせる人員に使ってしまおう。奴隷出身だと職を得るのも難しいだろうしな」

「それは良いですね紙は働き手が一番の問題点でしたし」

「後、奴隷は解放する。平民だ」


「それは何故です?奴隷の方が楽に扱えると思うのですが」

「奴隷制には問題がいくつかある」

「と言いますと?」

「まず、人を財産と見なして取引するのが奴隷で、商品になる。しかし人は生きている。これは当然だな。つまり死ぬ可能性がある。死ねば財産が失われる。これは購入した場合損だ。雇用も基本的に終身となるし、歳を食えば食うほど価値は下がる。商業として成立しているのかすら疑問だ」

「たしかにそうですね」


「そして、奴隷は一生奴隷のままがほとんどだ、そうなると奴隷が意欲を持って働いてはくれない。つまり生産性が下がる。長期的に見て合理的とは思えない」

「なるほど」

「そしてここで働いている亜人への差別は禁止しているし、人種による優劣など無いと皆が認識している状態が保たれていて良い環境だ。そこにまた新たな差別の対象を作れば逆戻りになる。身分差を作れば統治はしやすいかもしれないが一般的に差別される側の人間を多く抱えたこの領地が差別を助長することをしては自分たちの評判も下がるだろう。奴隷、亜人の土地とな。だからこそ奴隷制は少なくとも自分が手を出せる範囲では利用しない」


「そうですね、下に見るものがいれば人は安心しますが美しいとは言えないでしょう」

「美しい、良い表現だな。テルノアールは美しくいきたい」

「それで、奴隷たちの住む場所はどうしますか?」

「街の外れに空き家が集まっているだろう。他の平民の目もあるし少し離れた場所の方が良いだろうしそこに住まわせろ。紙と浴場に必要な人員を計算してそれに合わせて奴隷たちは配属させよ」

「かしこまりました」




 2週間後、紙の試作機と、ゲオルグの薬剤が完成したので試しをすることになった。


「ワクワクしますね〜」

「ワクワクというよりドキドキするな、これからの主産業になるものが失敗では困る」


 執事たちにやらせて既に下処理を終えた木を薬剤につけていく。混ぜ込んでいくと見事にバラバラになっていく。崩壊の魔道具を試しに組み込んでみたが相互作用で良く効いているようだ。


「出来てるようですね」

「ああ、では早速機械を使って紙を作ってみてくれ」


 紙を掬っては水を戻しを繰り返していくと半透明だったものがどんどんと不透明度が上がっていき紙らしくなっていく。


「よし、それを慎重に外して壁に貼り付けろ。時間が惜しいので魔法で乾かす」


 温風を出し紙を乾かしていく。上手く行ったと思ったのだが……


「これは……カチカチになってますね。糊が多かったのかな?」

「では、こちらの少ない方でやってみよう。もう一度頼む」


 糊が少なめの船水で挑戦すると今度は上手く行った。


「よし、糊の配分はこちらのものを使うように」

「信じられないですが紙が出来ましたね」

「まだまだだ、紙は確かに素晴らしいが紙をどう使うかが重要なのだ」

「そこらへんは私は良く分かりませんし興味もありません、木が変化して紙になるという現象の方がよっぽど感動出来るもので……」

「いや、良い。聞いてない。お前の話は長いから聞いてられぬ」

「そんな、酷いですよロウゼ様」

「私は忙しいのだ」


 興奮してうるさいゲオルグをおいて次の用事を済ませる。奴隷たちがテルノアールに到着するのだ。


 迎え入れる準備をして街はずれの住宅地へと向かう。

 檻のついた荷馬車が何台もゾロゾロと入ってきて奴隷たちが降ろされていく。


「注目!テルノアール領主、ロウゼ様よりお言葉を賜ります。静かに!」


 貴族ということにビクッとして怯えながら一体どんな無茶ぶりをされるのかと身構える様子が伝わってくる。


「私がロウゼテルノアールだ。君たちは本日をもって奴隷を卒業する。テルノアールの平民だ」


 シンとして一体どうなっていると互いに顔を見合わせる。


「混乱しているようだな、それも無理はない。だが事実だ。領主の権限で君たちの奴隷の身分は格上げされ平民だ、この土地では平民として扱われる。当然、他の平民からは元奴隷として嫌な思いをすることもあるだろう。不当な扱いを受けたら私の屋敷に報告しにくると良い。君たちが元奴隷だからといって無碍な扱いをすることはない。テルノアールの名に誓おう」


「奴隷が終わるのか……」

「いや、何か裏があるんじゃ……」

「でも俺たちを雇うところなんてないんじゃないのかどうやって生きていけば……」


「落ち着け、私が君たちに与えるのは身分と職と住む土地だ。人員が足りなくて困っている仕事がある。そこで働いてもらう。もちろん奴隷のような扱いはない。この土地では働く者を守るための法があり領主と言えどその法を守って働かせなくてはいけない。待遇は労働は1日8時間まで。給料あり。週に2日は休みだ。その給料で食事や生活をしてもらう」


 わっと割れるように声が上がり住宅街の広場は大盛り上がりだ。泣いて抱き合うものもいる。


「この土地にはこの土地の決まりがある。それを守る分には君たちは自由だ。しかし自由には責任が伴う。自分の行動に責任を持て。生活は自分たちでしなくてはならない。その点は注意せよ」


 皆真剣に頷き話を聞いている。まあ奴隷上がりで無茶するやつはいないだろうが念の為だ。


「まずは水浴びからだな、ここには水を自由に出すことが出来る装置が設置されている。そこで身を清めよ。ここでは清潔にすることが義務付けられているので慣れるように」

「あ、あの……領主様、水は貴重なのでは……我々はそれを支払えるだけのお金は……」

「ここの水は無料だ、自由に使え。今日だけではない。毎日だ。飲むことも出来るし、料理に使うことも出来る」

「す、凄え……」

「水が無料だってよ」


「1週間ほど生活の準備期間を与える。家はそれぞれが話し合い好きな場所に住むように。生活の資金だが1ヶ月分はこちらで用意するのでその後は働いて給料からやりくりせよ。しばらくは生活を確認する為に兵に見回りをさせるので彼らの言うことを聞くように。元奴隷ということで不当な扱いを受ければ報告せよ。以上だ」


 彼らからは絶望していた時のような暗い表情は見えず、希望に満ちた目をしている。まだ領地全体の奴隷を解放出来てはいないが足がかりにはなった。奴隷というシステムの非合理性を説いて少しずつ広げていくしかないだろう。


「ロウゼ様、次はエッセンとダンジョンについての会議です」

「ああ、分かっている屋敷に戻るぞ」


 仕事が残っているのでこの場を退散して屋敷に戻る。領地を大きくするのは大変だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いよいよ紙ですな。 [気になる点] 労働基準法から奴隷解放につながる流れが良いです。 けど、8時間労働+週休2日制を貧乏領地が最初から採用するのは、労働力不足を助長しそうなのでちょっと心…
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