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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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ディパッシ族 後編

 リュンヌの唐突な提案に面食らいながらも彼に協力をしてもらう他ないと思った。


 「とは言ってもどうするんだ?族長をお前が説得出来るのか?いくら孫でも族長に異を唱えるのはまずいんじゃないか」

 「そんなことせんわ。反論してみろどつき回されるぞ」

 「どつき回されるって……」

 「せやから、お前を逃して身代金要求するより、この場で殺すより、価値があると思わせることを俺が唆して自分で判断したように思わせたらええんや」

 「そうか……ならば俺を解放することによる利点は3つだ」


 自分とリュンヌ、それに執事のロランの助言を交えながら作戦会議が始まった。

 様々な点で互いの認識や身分の違いを再確認することが出来、この作戦会議自体有益な時間だったと感じた。


 「じゃあ、ちょっとジジイのところ行ってくるわ」

 「頼んだぞ」

 「任せんかい」


 そう言ってリュンヌは手を振りジャンガ草の葉巻を吸いながらその場を後にした。

 彼の陽気な素振りから漠然とした不安を感じる。


 「ロラン、あいつが俺たちの腹の中を探ることが目的で族長のスパイだったらどうする」

 「その可能性はあり得ますな。その場合殺されるやも知れません。あの男、陽気ではありますが頭は悪くない。何を考えているかその真意は分かりますまい」

 「だな……だが、嘘をついてるとも思えない。何かを隠してはいると思うが。まあこっからどう転ぶかは後は運命に身を任せてあいつを信じる他ないな」

 「左様でございます……」


 リュンヌの成功を祈りながら自分とロランは緊張しながらであったがしばしの休息を得た。

 いつの間にか眠ってしまっていたのだが戻ってきたリュンヌに起こされた。


 「族長の呼び出しや。さあ、腹括ろうや」

 「ああ、後は運任せだ。やるだけはやってやるがな」


 再び族長ザンギのいる建物の中に連行された。さっきは多くのディパッシの人間がいたが今度は族長のザンギ一人だけだった。人払いをしたのだろうか。


 「連れてきたでジジイ」

 「おう、お前は下がってろ。こいつからお前らの事情は聞いた。もう一回だけチャンスやる。それでワシを納得させられたらお前はこっから生きて帰れる。無理ならお前は人質になる。そんで殺す。分かったな?」

 「いいだろう……」


 スーっと息を深く吸い込みゆっくりと息を吐く。大丈夫だ。やれることを最大限やるだけ。


 「私、ロウゼ・テルノアールはテルノアール領の領主としてディパッシ族族長ザンギ・ディパッシに提案する。貿易と軍としての雇用にて協力関係を築きたい」

 「ほう、それでワシらに利益があるとしたらなんなんや」

 「紙の生産に関してはまだ完成品すらない上に本当に出来るのかすら不明だ。だからこの産業へ協力することは現段階では要請しない。それに他の種族と共に働くことが無理なのも理解した」

 「なら、貿易ってのはなにを売るんや。商売になるようなもんはここには……」

 「確実に利益を得ることが出来て既に製品として完成しているものがある。これはさっきリュンヌと話していることに気付いたのだがな」

 「それで、それはなんなんや?」


 ザンギにはまるで心当たりがないというようにこちらを訝った目で見ている。

 口角をやや上げながら再び口を開く。


 「ジャンガ草だ。あれは莫大な利益を生む価値がある」

 「あんなんどこにでも生えとるやろうが」

 「ああ、どこにでも生えている。しかしこの国ではあれはただの雑草としか知られていない。痛みを和らげたり気持ちを落ち着かせる効果があるということは知られていないということは知っていたか?そしてその加工方法は恐らくディパッシ族しか知らない」

 「なんやて?お前ら知らんかったんか?」

 「ああ。そして他国や国内で争いの絶えないこの国の兵士なんかにはとても需要があるとは思わないか?一度売れば間違いなく国中に出回るだろう。それにこれは将来的な話だがそのジャンガ草をディパッシ族を差別しているやつらにとって無くてはならないものとなったら痛快じゃないか?」

 「ふんっ……確かにそれは面白い話や」


 厳しい顔をしていたザンギにも僅かばかりの表情の綻びが見て取れた。

 よし、いける! 確信したように続けて提案する。


 「リュンヌやあんたから聞いた話ではディパッシの未来が明るくないことは何となく分かる。そしてあんたもそれを憂いているんだろう?どうだ?新しいことをして未来を変えないか?ディパッシ族の文化と製品で部族を復興させる。そして部族のものが重宝され、尊重されれば地位を取り返せるんじゃないか?」

 「ふん、美味い話には何かあるはずや。さっき言ってた軍の雇用の話も聞かせてもらおか」


 案外冷静な判断が出来るようでホイホイと食いつくわけではないのが侮れない。流石に部族をまとめ上げるだけの実力はある。


 「ディパッシ族をテルノアールの兵士として雇いたい。有事の際は最前線で戦ってもらうことになるが給料は払う。我が領地は戦力が足りない。他領に侵略されたら防ぐ術は現状ほぼないので絶対に軍事力は欲しいのだ。これには給料以外にそちらに利益があると私は考えている。一つは戦う場を提供することだ。ディパッシ族は戦うことを何より大事にする部族でその場がないというならこちらで与えよう。そして名誉だ。領地を守ることで領民からの信用を取り戻すことは不可能ではないはずだ。好きな戦いで金をもらい名誉を得る。どうだ悪い話ではないだろう?」


 「なるほどな……確かに悪い話ではない。お前の言うことを信じてお前らが約束を守るならばな。せやけど貴族は嘘つきやそんな簡単には信用出来ひんな」

 「確かに。口の上では約束しても信用出来ないだろう。だから監視をつけていつでも私を殺せるようにして構わない。護衛という名目で常に私の近くにディパッシの人間をおいていつでも殺せるようにしろ。それが私の出来る証明だ。ディパッシの人間なら私など一瞬で殺せるだろう?」

 「監視か、ええやろ。そういうならお前の言葉がホンマかどうかしばらくは様子見させてもらうわ。リュンヌ・ディパッシ!」

 「はっ!」

 「お前がこいつを監視せえ。ディパッシを裏切るようなことがあったら即殺せ。分かったな?」

 「分かりました。リュンヌ・ディパッシ一族の名の下にここに誓います」


 族長による直々の命令を下されたリュンヌは先ほどの陽気な姿とはうって変わって真剣で緊張感の張り詰めた面持ちとなった。


 「ちゅーわけでや、取引は成立や。死なんでよかったな領主様よ。ガハハ!」

 「全然笑えん……さてここからは細かい契約の打ち合わせをしようか」


 ロウゼがリュンヌの方に目をやると彼は少しばかりの笑みを浮かべていた。小さく口が動きありがとうと言っているように見えた。


 細かい契約の打ち合わせが終わり兵士も無事に解放された。リュンヌと他に護衛という名の監視係のディパッシ族が10人程度ついてくることになった。

 ジャンガ草は後日に仕入れることになった。売ることはこれまで考えていなかったのでディパッシ族は大量に加工すること、それを持って帰る用意がこちらになかったからだ。


 「はあ、なんとか生きて帰れそうでよかった」

 「それにしても監視とはよお考えたな。どうやって俺を連れ出すのかはどうしても思いつかんかったからな」

 「いや、本当に俺の行いが正しいかお前は後ろから見ていろ。そして間違っていると思ったら刺せ。お前が俺に力を貸すならお前の一族を変えたいという願い俺が叶えてやる。俺も無意味に人を殺すという考えは気に食わん」

 「……ふん、了解や」

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