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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season2 ダンジョンマスター
59/101

王女、襲来

 会議も終わりしばらくゆっくりという訳にもいかず、ダンジョン街の書類仕事とフィッツ領の貴族との話し合いの準備を進めながら繁忙な毎日を過ごしていた。


「ロウゼ様、王都よりお手紙が来ております」

「やっと来たか」


 領地に関わることなので領地間で争いが起きた時は王族が戦後処理をして調停をする。それが王族の仕事の1つだ。王族と関わるのは面倒だが仕方ない、領主の仕事だ。まあ、あちらも面倒だと思っているだろう、こんな辺境の土地にわざわざ喜んで来たがる王族などいない。

 気が重いなとため息を漏らしながら手紙の封を切って読んでいく。


「何ぃっ!?」

「ん?どうしたんや」


 いつも通りソファで寝そべりながら護衛をしていたリュンヌが目を開ける。


「ソレイユ様が来る……」

「げぇ〜っ!? ソレイユってあの俺の絵が描きたいって言ってた女やろあいつ来んの?」

「ああそうだ」

「マジかよ〜なんか怖いねんけどあいつ」

「あいつって言うのをやめろ王族だぞ」

「何て言ったら良いんや」


「ソレイユ様だ、本人の前でお前とかやめろよ。俺の首が飛ぶぞ」

「それは困るな〜ソレイユサマ〜」

「敬意がこもっていないやり直し」

「ソ、ソレイユ……様」

「本人が来るまでにちゃんと言えるようになっておけって……後3日しかないじゃないか!ロラン!」

「はっ」


「今すぐ3日後にお越しになるソレイユ様を迎える為の準備をしろ、恐らくフィッツの貴族にもこの手紙は来ているはずだフィッツの家族も来ると思われる、抜かりなくやれ!大急ぎだ!」

「かしこまりました」


 指示を出してふうと息を吐いて椅子に深く腰掛けて力を抜く。


「何故もっと前もって連絡をしないのだ……こちらにも準備があると言うのに……」

「お前がトゥルーネのところに気が向いたら行くのとおんなじやろ」

「ぐっ……王族が来るのと屋敷の中で用事があるのは全然程度が違うがおおよそはあっているので反論しにくい」

「お前も前もって連絡することやな」

「お前に説教されるのは納得いかんが善処しよう……」


 嫌な予感がする何かロクでもないことが起こりそうな予感だ。具体的に何がどうなるとか根拠は一切ないのだがとても不安だ。無茶な要求をされて困り果てる自分の姿が目に浮かぶ。王族の命令は拒否できないのが厄介だ、変に歯向かえば王族に反意を持ったと見なされて反逆罪で処罰されてしまう。マジでそんな馬鹿みたいな話が本当に成立してしまうのが階級社会だ。あー、頼むから何も起こってくれるなよ本当にお願いしますよソレイ様……


 と、祈って胃が痛い思いをしながら必死で準備して3日が経った。いよいよソレイユ様がいらっしゃる日だ。

 フィッツの貴族は既に到着しており自分と一緒に屋敷の前に出てソレイユ様が来るのを待っている。

 先触れの伝令係が先ほど見えたから、もうすぐ到着するだろう。ここにいる貴族全員が緊張しながら一体いつ来るのかと待ちわびている。この緊張状態から今すぐに解放されたいと思っているのは俺だけじゃないだろう。


 その時馬車が見え始めた、来た、やっと来た。この待つ時間が一番辛かった。馬車は屋敷の門を通り越して停車する。従者や騎士がぞろぞろと出てきた後にソレイユ様は最後に優雅な作法で出てきた。

 まず、代表者として自分が挨拶をしなくてはならない。彼女の前までいき跪く。


「ソレイユ様、遠路はるばるお越しくださりまことにありがとうございます、我々の問題を処理すべくご足労頂いたことに関しては誠に申し訳ありません。何卒、よろしくお願い致します」

「構いません、私は私の仕事を全うするだけのこと、お気になさらず。皆様、面を上げることを許します」


 ……あれ? 意外とまともな感じだぞ? 公務中だから貴族としての顔をしてるのか? それならそれの方が助かるがちょっと近寄りがたくて冷たくて怖いな。


「では、中へご案内致します、どうぞこちらへ」


 ロランが扉を開けると玄関には屋敷の使用人全員が並びソレイユ様を歓迎する。


「ようこそお越しくださいましたソレイユ様」


 うむ、うちの屋敷の使用人は見ない優秀だな。


 談話室へと招き入れ茶の準備をする。今回は味の異なった3種のアイスクリームを出すことにした。


「ソレイユ様、こちらはうちで流行っているアイスクリームという冷たい甘味でございます、お気に召されればよろしいのですが」

「まあ、見たことのないものですね、頂きましょう」


 毒などが入ってないことを示す為に自分が一口食べてみせる。それに続いてソレイユ様が口に入れ、その後に他の者が食べ始める。フィッツの貴族に少しでも心象を良くしてもらうためにも気に入ってもらいたい。


「とても美味しいですわね、口の中で溶けていくのが心地よい舌触りです」

「ほっ……それは良かった、お褒めの言葉ありがとうございます」

「これはどうやって作っているのです?雪とは違うようですし……」

「ものを冷やす魔道具で作っているのです」

「まあ、わざわざその為に魔道具を?随分と変わった甘味ですわね、気に入りました」

「他の味もあるので良かったらどうぞ」

「味に変化をつけることが出来るとは応用の効くものなのですね」


 感心したように次々と優雅に口に入れているので好感触だ。他愛もない雑談をしばらくした後お茶を改めて入れてソレイユ様がキリっとした顔をしていよいよ本題に入ることに気付き皆真剣な表情となる。


「さて、今回の件ですがまずはテルノアール卿から申し開きを」

「はい、まずフィッツ卿からお誘いの手紙があり私はフィッツ領の城へ行きました。そこでフィッツ卿から娘のレモンド嬢への婚約の打診があり、お互いを知ることを目的にテルノアールに一時的に滞在するという話をした後に彼女はこちらへ来ました。その数日後、私が彼女を誘拐したという噂が立ちました。これはフィッツ卿が企てた策略で私の地位を落とし、娘を取り返すべく侵攻する口実となっておりました。真の目的はジュアンドルで、その利益だったと本人の口から聞いております。我が領のクシー卿が手引きをして関所で兵を数名殺害し領内に入る寸前のところでこちらが奇襲をかけて阻止しフィッツ卿、クシー卿の両名を拘束しました。現在は地下牢にて監禁中です」


 出来るだけ簡潔に感情が入らないように事実のみを説明する。ここに感情が入れば主観的なものになってしまうだろう。


「説明感謝しますテルノアール卿。さて、フィッツ領の者からの説明をお願い致しますわ」

「はい、フィッツ卿の息子、次期領主候補でした、オーガ・フィッツよりご説明させて頂きます。今回の件につきまして、フィッツ家としては寝耳に水の事でした。レモンドがテルノアールの領主の屋敷に行くという話は聞いていましたし何の問題もありませんでした。しかし数日後街ではレモンドが誘拐されたという噂が流れていました。一体どういうことなのかと困惑したというのが正直なところです。そして、父上は何故かレモンドを助けると言い出し兵を率いてテルノアールまで進軍しました。こちらの制止を振り切り強引にことを進め、後はテルノアール卿のおっしゃる通りです」


「では、フィッツ領としてはフィッツ卿の行いの非を認めるということですね?」

「はい、言い逃れのしようがありません」


 おや? てっきりこちらが悪いと難癖をつけると思っていたがやけに従順だな。非を認めるということはこちらが自由に処罰しても良いということになるが本当にそれで良いのだろうか?普通に考えれば保身に走り自分たちは関係ないから見逃して欲しいとか、こっちが悪い父は不当に拘束されているとか喚き散らすものだと覚悟していたが……何が目的だ?ただ単純に従順になっているはずがない。何か裏があるはずだ。


「おかしいと思っていますねテルノアール卿」


 オーガが笑いながら話しかけてきた。この状況で何故笑っていられるのだろう。


「弁明しなくて良いのか? とは思っているが普通なら其方たちは連座で処刑されるのだぞ?」

「オーガ、どういうつもりなのですか?」


 ソレイユ様もオーガの様子が奇妙だと思っていたらしく質問した。


「テルノアール卿は我々を処刑しません。というより出来ません」

「ほう、威勢が良いな。命は私が握っているのだぞ」

「威勢などではなくこれは単なる事実です。テルノアール卿はフィッツの領土を治め、新たにテルノアールを大きくすることでしょう。そうなれば我々は同じ領地の貴族です。我々フィッツ家がこれまで治めてきた土地で我々を失った貴族たちと円満な関係を結ぶのは不可能です。コンテ伯を他のテルノアールの貴族にすげ替えるのも不可能です、何故ならテルノアールに貴族は少ないからです。結局、どう足掻こうとフィッツ家の家臣となる貴族と仲良くするしかありません。テルノアール卿は非常に論理的で優れたお方と聞く。ですので理屈で考えれば我々を処刑するという判断はあり得ないでしょう」


 余裕を持った笑みでオーガはそう言った。実際痛い所を突かれている。貴族の頭をすげ替えるほど貴族がいないし、友好的にしていくには反感を買うのは悪手だ。それらを全て考慮して自分たちが殺される訳がないと言う余裕を見せているのだ。

 中々優秀なやつだ、手駒にするには使い勝手が良さそうだ。こいつは危険な匂いがするが放置するのはまずいだろう。友は近くに、敵はもっと近くにおけ、か。


「ふむ、面白いな。確かに我々はフィッツ家を処刑することは大した得がない。それに元々その気もなかったからな」

「ではテルノアール卿、犯罪者の家族には沙汰は下さないということかしら?」

「いいえ、ソレイユ様、財産の一部没収、私に奉納する税率を他の貴族に比べて高く、そして魔力を提供することを条件とするつもりです」

「なるほど……何の文句もございません」

「……では、現フィッツ領はテルノアール領に吸収し合併、フィッツ卿は監禁のまま、財産の一部没収、税率の引き上げ、魔力の提供これで双方問題ありませんね?」

「「ございません」」


 これにて戦後処理は終了、もう少ししたら晴れてフィッツ領はテルノアール領になる。さあ忙しくなるなと気合を入れ直した。


「皆さまご苦労様でした、フィッツの方々はこれでお帰りなさい、私はテルノアール卿とお話がありますので」


 ギクゥッ!? 何だかめちゃくちゃ嫌な予感がするのだが……


「テルノアール卿、私はしばらくここに滞在します」

「えぇっ!?そのような事は手紙には書いていませんでしたが……」

「これは……そう、視察です。領主としては若く何やら色々と問題の渦中にいるあなたの動向を王に報告する為の視察です」


 おいおい、ソレイユ様、俺の後ろのリュンヌに視線が泳いでるし今適当に考えただろ絶対! 嫌な予感が考えうる中でも最悪の結果になってるじゃないか勘弁してくれ!


「……喜んでお受けいたします」


 断ることは当然出来なかった。

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