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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season2 ダンジョンマスター
58/101

緊急会議

「ではこれより緊急の会議を始める」


 クシー卿の裏切り、フィッツの侵略未遂の顛末の報告とこれからの身の振り方について領内で意思統一をしなくてはならない。その為、フォワ卿とアヴェーヌ卿、トゥルーネで会議をする。


「さて、まずは簡潔に報告をする。フィッツの謀略により私が娘のレモンドを誘拐したと汚名をきせられた。それにより娘を奪還すべくフィッツが侵攻しようとした。クシーはその手引きをするためにこちらを裏切り関所の兵を殺害。クシーの兵とこちらの兵が交戦している間にフィッツを捕獲し、クシー、フィッツ両名を現在地下牢にて監禁中」

「フィッツ卿の目的は何だったのでしょう?」


 フォワ卿が手を挙げて発言する。


「ふむ、それがジュアンドルを手に入れてその利益を奪うことが目的だったようだ。フィッツ領は少し前のうちと同様土地が痩せており作物が育たない上に人口が多いのでかなり苦しかったようだ。正直、ジュアンドルを奪った程度では解決出来ないが少しでも利益が欲しかったようだな。クシーは私の改革が気に入らんかったらしい」

「……呆れますな」

「全くだ」


 よくそんな無謀なことをと良いだけにフォワ卿は目を丸くする。


「領地が富んできているうちにつく方がどう考えても利口でしょう。あのような馬鹿者をテルノアールの貴族と思われるだけでも心外です」


 アヴェーヌ卿は嫌そうにそう言う。確かに今回の事件でテルノアールに要らぬ汚名がついたのは間違いない。今後の社交にも問題が出てくるかも知れない。


「うむ、それでクシーの処罰に関してだがどうするのが良いと思うか意見が聞きたい」

「領主への反逆ですし普通ならば一族諸共処刑でしょうな」

「ロウゼ様はそれが分かった上で意見がお聞きになりたいのではなくて?」


 察しの良いトゥルーネが発言する。


「そうだ、ただでさえ少ない貴族を減らせば領地の力が落ちる。それは望ましくない」

「しかしクシーの家族にも何らかの罰がなければ示しがつきません」

「それは分かっている。良い落とし所を探りたいのだが……」

「仮に家族にも処罰を与えるならばクシー卿の処刑は悪手でしょうな、反逆の芽を生むことになるでしょうし」

「ではクシーを監禁し定期的に面会する程度には許し金銭的な罰則を与えるのはどうか」

「それくらいが妥当かと」


 アヴェーヌは不承不承という感じで答える。


「財産の一部没収と魔力の定期な提供で反乱の力を出来るだけ削いでおいた方が良さそうだな」


 豊臣秀吉は刀狩りで農民の武器を取り上げ、徳川家光は参勤交代で出費させて反乱することを防いだ。

 こちらに反抗するための軍事力や財力を出来るだけ落とすことで上手く統治していた。歴史に学ぼう。


「ほほう、魔力の提供とは面白い」

「今後様々な魔道具を運用する上で魔力は不可欠だ。それを動かしてもらうのに協力してもらうつもりだったが魔力は貴重なのでそう易々と提供してもらうのは難しかった。罪人と魔力の提供量を差別化することで罪の重さを感じるというのはありだと思う」

「我々も魔力を提供するのですか?」

「領地の運営規模となると私個人では限界がある領地の為、領民のためにお願いしたい」

「ハガール・フォワ、しかと拝命しました」

「……ロウゼ様のこれまでの実績を考えれば魔力を投資した方がその後に良い見返りがありそうですね。ルーク・アヴェーヌ拝命致しました」


 アヴェーヌ卿はイタズラっぽく笑う。信頼関係ではなくあくまで損得でこちらについている、旗色が悪くなれば乗り換えるぞと言いたいのだろう。気を引き締めていかなくてはならない。


「分かっているではないか。既に領地は改善され始めている。フィッツの貴族にもこちらにつく方が利点が多いと周知していかなくてはならぬからこそ、出来る限りテルノアールを栄えさせていく必要がある」

「と言うと何か策をお考えで?」

「ああ、まずは魔法契約で口封じをしておきたい。この情報について知っているものには全員契約を結んでもらっている」


 アヴェーヌ卿とフォワ卿は互いに顔を見合わせて一体何だろうと不思議そうな顔をする。トゥルーネは既に知っているので、まあ知ったら驚くだろうなという顔をしてお茶を飲んでいた。


「ほっほっ、さぞ凄い内容なんじゃろうて。構いませぬ」

「私も、秘匿するべき情報を開示して頂けれるのは信用して頂いている証拠でしょうし有り難くお聞きさせて頂きます」

「ロラン、準備を」

「はっ」


 契約の流れに行くことは事前に決めていた事なので準備は整っていた。契約内容をアヴェーヌ卿とフォワ卿がしっかりと確認した後血をインクに混ぜてサインをしていく。


「それで、どういった話なのでしょうか?」

「テルノアールのある場所にダンジョンというものを発見した」

「ダンジョン……? 聞いたことがありませんね」

「ダンジョンとは、魔力が集まる土地のことだ。そしてそこには魔獣が沢山いる。と言うよりもダンジョンから魔獣が生まれる。そしてそこでは魔石が手に入る」

「魔石の鉱脈と言ったところかの」

「ある種の鉱脈だな。そして、魔石だけでなく魔獣から肉や皮、爪などを採ることが出来る」

「そ、そんなところがあればうちは大量に稼ぐことが出来るのでは!?」

「そうだ、価値は計り知れんだろうな。これを上手く使えば金銭面での心配は無くなるだろう。問題は魔獣が強く簡単には倒せないというところだ」

「確かに魔獣は貴族の騎士が討伐するようなもの、平民では中々倒すのは骨が折れるだろうて」

「……実は私の兵は既にダンジョンに通い魔獣を倒して訓練を重ねている」

「なっ!?」

「えっ? へ、平民がですか?」


 2人とも口を開けて驚きを隠せていない様子だ。騎士が倒すものと思い込みがあるものを平民が倒していると知れば貴族はこれくらい驚くものなのか。

 まあ、ディパッシ族の引率あって初めて成立することだが。


「そうだ、ディパッシ族と共に遠征に行き最初は弱い魔獣から初めて少しずつ強くなっている。ダンジョンは普通の鍛錬とは違い魔力を帯びた魔獣を倒すことで潜在的な力が底上げされるようで、強くなるということが分かっている。同じ体格の者同士でも、ダンジョンで訓練を重ねている者の方が力が強いのだ」

「そ、そんなことがありえるのですか」

「私も驚いたが事実、私の兵は明らかに強くなっているので信じざるを得ないだろう」

「にわかには信じられませんな」

「ええ……」


「私はダンジョンで金儲けをしようと思う」

「というと?」

「まず、ダンジョンを他領の者が利用出来るようにする。そしてダンジョンで得た魔石や魔獣の一部を買い取る。それを他領に売る。ダンジョン利用には手数料を取りそこでも収益を得る。大勢の者が来れば関所では通行料が稼げる」

「おお……!」

「なるほどのお、腕に覚えがあるものはそこらへんの狩りや用心棒なんかをするよりもよっぽど一攫千金の機会があるし挑む価値はあるということじゃな」


「そうだ、これは大っぴらには言えないが、私兵の武器の消耗はこちらが面倒を見なくてはならんが、よそから入って来る分には責任を負わなくていい。死んでも自己責任の契約書を書いてもらう。こちらは一切懐を痛ませず座っているだけでダンジョンに一攫千金を夢見て腕に覚えがある者が押し寄せるだろう。自動的に金が入ってくるという仕組みだ」

「恐ろしい……こんな方に歯向かったクシー卿は哀れとしか思えん」

「しばらくはこちらの軍事力を底上げする為に独占して訓練する。それが粗方終わった辺りで他領へダンジョンを解放する。他領の軍関係者の使用は禁止、あくまで平民が使用するものとする」

「素晴らしいではありませんか!やりましょう!」

「待て待て、その為に私はそこに街を作る必要があると思っている」

「街ですか」


 アヴェーヌ卿はまた突拍子もないことをと言いたげにこちらを見る。


「多くの人間が行き来することが予想される。すると食事や宿、武器屋の需要が高まる。うちはその手の商業が盛んではないだろう。だからそこで店を構えて更に経済を回してもらう」

「確かに外貨の周りが悪いうちでは何かしらの商業が盛んな方が良いじゃろうな」

「一体どれほど巻き上げるのですか」


 そう言いながらも2人はニヤニヤが止まらないようで、経済効果の皮算用をしているようだ。


「其方たちの街から職人を集めてくれると非常に助かるのだが……?」

「もちろん、手伝いましょう」

「これほどの金儲けの手段は未だかつてなかったから乗らん訳には行きませんな」


 よし、食いついたなダンジョンとセットの温泉街計画は順調だ。戦えば汗をかく。それを流すには風呂が一番だ。風呂の喜びを知れば誰もが金を払うだろう。ここで新しい需要を作り消費させてやる。


「既に準備の手続きは殆ど完了している。街の建設と並行しながらそちらの兵の強化訓練もこちらで引き受けよう。ディパッシ族の引率あって初めて安全に訓練が出来る。その分手数料は頂くが兵の命や武器に比べれば安いものだろう?」

「もちろん、出させて頂きます」

「こちらも、問題ありません」

「よし、ではダンジョン街の計画を本格的に実行に移すことにする」

「「承知しました」」


「それで、フィッツの処遇についてだが、しばらくは監禁しておく。フィッツ領は領主を捕らえた時点でこちらの勝ちは決まっているのでそのまま頂く。フィッツの貴族との衝突は避けられないだろうがこちらにつく旨みを流して懐柔させるつもりだ。あちらの態度次第で処刑するかは決めるので一先ずは放置しておく。戦争処理は王族が関わるのですぐにどうこうなる訳ではないしな。こちらが有利に働くように情報操作やあちらの貴族との外交を任せたいのだが良いな?」

「はっ、もちろんですフィッツには馴染みの貴族もいますので出来る限りの調整を致します」

「わしも派閥の人間でフィッツに繋がっとる者がいますのでやってみます」

「よし、任せた。後は……そうだ、クシーの空いた席はフィッツの娘のレモンドを就任させようと思う」

「ロウゼ様!?」

「座れアヴェーヌ卿。何も考えていない訳ではない」


 我に帰ったアヴェーヌ卿はコホンと咳払いして椅子に座った。


「クシーはフィッツと隣接した土地だ。テルノアールとの衝突が予想されるのでフィッツに所縁のある者を置いた方が良い。フィッツの者がコンテ伯となればあちらも自分たちを無下に扱うことがないと安心させる効果もあるはずだ。それにレモンド嬢は父親とは全く似てないくらいかなり友好的でまともな人間だ。彼女を利用する形とはなるが緩衝材となってもらい、彼女を我々が対等な扱いをすることであちらの貴族を信用させたいと思っている」

「しかしそれでは他の者に示しがつきません罪人の娘など……」

「アヴェーヌ卿、分かっている。が、感情に身を任せて道理を捨てた貴族がどうなったかは分かるな?割り切れぬ問題ではあるが今後のことを考えてもそれが最善だと理性的な判断を期待するが……」

「それは……おっしゃる通りです……」


「よし、では最後に其方たちにこれを授ける」

「これは……魔道具ですかな?」

「ああ、これは通信の魔道具だ。遠くにいても会話が出来る。今回のような緊急を要する事態が発生した時に迅速な対応をする為にも必要だろう。魔力を込めるか、魔石を使うことで通信が可能だ。機体別に番号が振られているのでそれを入力することで通信する相手が変更可能だ」

「ああ、トゥルーネから聞いていましたあれですね」

「私が開発したのだ、これがあれば戦場などでも随分と優位な立場に立てるであろう?ゆっくりと普及したいと思っている」

「これは……時代が変わりますのお。手紙なんぞ廃れてしまうのでは?」

「いやいや、複数の通信手段があること、文字を保存することが大事だ」

「それもそうですな」


 使い方を教えて歓談をしたのち、会議は終了となった。

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