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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season2 ダンジョンマスター
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尋問

「ロウゼ様、2人を乗せた馬車が着きました」

「よし、地下牢に繋いでおけ」


 フィッツとクシーが屋敷に連行された。しばらくは事情聴取、尋問をすることになる。事件の詳しい背後関係を知っておく為にも丁寧にやっていこうと思う。特にフィッツの事情に関しては今後統治する上で詳しく聞いておかなければならないだろう。フィッツ領の貴族全体がああいう思想の持ち主なら骨が折れる作業になりそうだ。今から気が重い。


 そしてクシーだ。テルノアールを裏切りフィッツを領内に招き入れる為に兵士を殺害した。あまりに浅はかな行動に擁護の余地はない。フィッツは曲がりなりにも領地全体のことを考えた行動だった。利益は自分のものにするつもりだったが、領地が行き詰まっていればそういう手に出ることも考えられる。しかし、クシーは自分が保護するべき自領の民を害し、他領に侵略させるというのは余りに愚かな行為だ。自分勝手が過ぎるし、貴族という統治する側の人間の気概も感じられない。急な変化が気に入らないという幼稚な理由だ。


「全く、呆れますね」


 トゥルーネは、ハアとため息をついて言った。


「ああ、実に馬鹿馬鹿しい。こんな事に時間を取られるのが癪だが仕方ないな」

「領主にしか裁けませんからね」

「急な改革には反発が出るとは思っていたがこのような結果になるとはな」

「ロウゼ様はもう少し人の気持ちを考えた方が良いでしょうね」

「ん?」


「まるで分かっていないようですね」

「どういう事だ?私は皆の生活が向上するように努力しているつもりだ、それに普通に考えて私とともに領地を改革した方が良い暮らしが出来ることは最近の成果を見ても明らかだろう」

「それです、ロウゼ様は合理的で理屈に則ってあらゆる判断をしていきます。結果としては良い成果を収めています。しかし、人間はそれほど簡単ではありません。人間というのは愚かなのです」

「つまり、理屈では分かっていても感情で動くということか?それが明らかに自分に都合の悪くなるような結果になったとしても?」

「自分がその場でやりたいと思ったことを優先してしまうのです」


「訳が分からんな……」

「ロウゼ様のように合理性を重視して理屈で行動する人には分からないでしょうね、しかしそういう人間の存在を知り、そういう人間がいると理解して統治していかなければなりませんよ」

「……勉強になった。人の気持ちが分かっていなかったようだな。クシーにしてもこちらを裏切ることにメリットを感じるというよりは裏切るということ自体が重要だったのかも知れないな。完全に盲点だった」

「今後はこのようなことが無ければ良いのですが……」

「ああ、それを未然に防ぐ為にもニンジャにはより一層情報収集をしてもらう必要があるな、あれを組織していなかったら侵略されていた」

「もう少し人員が欲しいですね、各地に分散させるのは数に限りがありますし」


 確かに亜人の数はそう多くない。他領で潜伏してもらうにはまだまだ人的資源が豊富とは言えない。より多くの有利な情報を集めるには増員しないと手が回らないだろう。そうなると大量の人員を育成する施設もしっかりと作らないといけない。


「うむ、フィッツにそういう人材がいれば教育しよう。教師も雇ってもう少し学校の仕組みをしっかりさせたいな」

「またそんな事を……急な改革には手回しが必要ですってさきほど理解したのでは無かったのですか?」

「いや、これはただの予定だ。実際やる時は手回しはするさ」

「もう、本当ですか……? ちゃんと私に報告してくださいよ、その為に私がここで働いているのですから」

「分かってる分かってる、頼りにしてるさ」

「非常に心配で信用出来ませんね」

「なっ、領主を信用出来んとはなんて家臣だ」

「家臣に信用されないとはなんて主でしょう」

「……くっくくく」

「ふふっ」


 トゥルーネと顔を見合わせて笑いがふつふつとこみ上げてきた。こんな風に冗談を言い合えるくらいには親密度が上がったことは素直に喜ぶべきだろう。


「さて、仕事に取り掛かるか」

「ええ、ロウゼ様ここからはふざけないでくださいよ」

「私がいつもふざけているような言い方はよせ」

「はいはい……」


 トゥルーネと一緒に屋敷の地下に向かって歩く。コツンコツンと靴の音が反響する。空気がひんやりとしていて少し肌寒い。夜に1人では来たくない場所だ。

 そしてその奥にある牢にはうなだれた男が見えた。


「フィッツ、牢の居心地はどうだ?」

「テルノアール……貴様このようなことをしてフィッツの貴族が黙っていると思うなよ」


 こんな真似は許さないと、怒りの炎が目に灯っているのを感じる。


「うるさいのであれば黙らせるまでだ。さて、フィッツ領は財政難らしいな。それを立て直す為にジュアンドルで儲けようと思ったのか?」

「ああ、うちの領地は作物が育たんのだ。税収も限界まで取っているがそれでもうちの規模にしては苦しいものだ。自領内でどうにかするのにも限界が来ていた。そこに隣の小さな領地で珍しい薬が出回っていることを耳にした。しかもそこはかなり儲かっていると聞いてな。テルノアールくらい簡単に潰せると思ったのだ」

「それで侵略したと」

「そうだ」

「簡単に潰せるとは舐められたものだ。ディパッシ族が武闘会で優勝して私のもとで働いているという話は聞いていなかったのか?それに侵略したところでお前たちには作れないだろう、そもそも原料すら知らんはずだ」

「だから調べさせた。テルノアールの領地では農民が見慣れない植物を大事そうに育てていたという報告が上がっている。それを見てジュアンドルの原料だと思ったのだ。それにディパッシ族など少数だ、数で押せば勝てるはずだった」

「それはただの勘違いではあったがな。奇襲でなければディパッシ族が負けることはない。お前がうちにちょっかいをかけることは事前に察知していたので用意が出来た。お前の敗因は情報不足だ。何しても曖昧でいい加減な情報で判断して行動している。それに巻き込まれた兵に同情する……貴様のせいで関所の兵が死んだのだこのままここで朽ち果ててもらう」

「同情だと? 何故平民が死んだくらいで貴族の私が罰せられる!?」

「貴様が罰せられる理由は不当な戦争の開始と私への名誉毀損だ。兵士の死でお前を罰することは出来ないが罪の意識を背負えと言っている」

「ふん、知ったことではない。ここで朽ち果てる気もない。そのうち私を助けに臣下がやってくる」

「それはどうだろうな」

「何!?」


 味方が助けてくれると踏んで偉そうな態度を取っていたようだが途端に不安が顔を出す。


「今、フィッツの街がどうなっているか教えてやろう。貴様のやったことを平民は知っている。そして街では批判の声が高まりそれを抑えるので貴様を助けにいくどころの話ではない。助けるのは当然『平民』の兵士なのだからなあ?」

「ぐっ……貴様何をした!?」

「同じ手を使わせたもらった。私を誘拐犯にしたてあげて平民を操っただろう、だから私も平民を操ってお前たちフィッツの貴族に対して都合の悪い噂を流した。うっかり城が火事になってしまう、なんてこともありえるかも知れんな?」

「ぐぬぅ……ふざけよって!!」

「そうだな、話を正直にすれば待遇を良くしてやろう、しなければ拷問してでも洗いざらい吐いてもらう」

「くっ……」


 その後、フィッツは領地の様子や貴族の関係性、様々なフィッツの事情を話した。やはり領地の状況はかなり悪く少し前のうちよりも酷いくらいだった。人口がうちより多く、その人口に対して食料が全然追いついていなかった。改革は手回しが必要だがかなり早めに手をつけないとまずそうだな。トゥルーネと改革の打ち合わせをつめながら地下牢を後にした。

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