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異世界メディア論〜外れ領地でも情強なら無双〜  作者: ⅶ
season1 小領地の領主
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閑話 ゲオルグのシャンプー開発

今回はゲオルグの閑話です

「出来た、出来たぞ!」


 ロウゼ様から与えられていたシャンプーの改良が出来た。その喜びから部屋で大声をあげた。時刻は真夜中だが、離れにいるので誰の迷惑にもならない。というより異臭やら奇声を上げすぎて苦情が殺到し隔離されてしまったというのが正しい。


 どうもロウゼ様に使える薬師、ゲオルグです。ロウゼ様の元で働くようになってしばらく経ちましたがここは本当に素晴らしい環境です。ロウゼ様自身が薬というものの価値を正しく評価してくださるし、貴族には馬鹿にされる調合も魔法とは違った技術として必要なものだと認めて下さいました。死ぬまでついていこうと思います。ロウゼ様なら思う存分研究をさせてくれるはずです。薬師としての勘がそう言っています。

 研究に専念出来る環境を用意してもらったということは当然結果を残し、ロウゼ様に報いなくてはいけません。


 数ヶ月前にジュアンドルという薬が最近出回っているという噂を街で耳にした。なんでも、粉や液体ではない薬で吸うらしい。香の類かと思ったがどうやら違うようで、薬草を燃やして吸うというのだ。今まで色々な薬を作ってきたが、そんな使い方をするものは初めて聞いたし、僕は頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。そんな方法があったなんて……しかもその薬効が素晴らしくケシのように痛みを和らげてくれるが中毒にはならないと言う。また、気持ちを落ち着かせ、食欲を増進させる。


 一体どんな薬草が使われているんだ!?さぞかし優秀な薬師がいるんだろう。

 知りたい……どうやって作ってるか知りたい!

 どこから出ているかはすぐに分かった。テルノアール領の領主が売っているらしい。恐らく貴族に雇われている薬師がいるはずだ、研究環境も貴族が用意してくれるなら潤沢だろう。しかも薬学に理解のある貴族だ、こんな貴重な機会を逃す訳にはいかない取り入ってやる!と思っていたのだが、目論見は外れた。なんと乱暴で有名なディパッシ族が昔から作っているものだと言うのだ。

 わざわざ課題まで出されて必死で制作してきたのにだ。珍しい薬草でもない、特別な製法でもない、薬師もいない、研究所もない。話を聞かされた時はぶっ倒れるかと思った。


 ロウゼ様は変わった人だった。僕が作ってきたシャンプーを高く評価した。しかもそれがジュアンドルに負けないくらいの価値があると言っていた。なんでも、『ブランド』というものを作っていく上で必須で貴族の夫人に売れると言うのだ。商売に関してはからっきしで売るのは担当に任せるが、研究所を用意してくれた。必要なものは買ってくれる。先行投資らしい。

 薬師も特別な薬草も無かったが結果的に良かったと思う。食事もここは凄く質が高い。どれも見たことない調理方法で調理されていて美味しい。料理だけでも来て良かったと思うのにこんなんに良い暮らしをしていては逆に不安になるくらいだ。


 2つの瓶を手にして屋敷に向かう。少し距離があるが苦情で邪魔をされるくらいならこちらの方が良い。


「ん? ゲオルグか」

「やあ、ライカ」


 今日の見張りは犬人族のライカだ。彼とはロウゼ様に深い感謝をしている仲間で気も合う。


「また変なもの作ってるんだろう、嗅ぎ慣れない匂いがプンプンするわ」

「変なものじゃない、ロウゼ様の命令で作ってる薬だ、高く売れるらしいんだ」

「へえ、ま俺には関係ないわ」

「大量に作るようになったら皆使えるってロウゼ様は言ってたぞ」

「へえ、楽しみにしとくわ」

「僕は君のように毛が長い亜人に需要がある薬だと思うけど」

「どんな薬なんだ?」

「髪の毛を綺麗にする薬だ。貴族のご婦人はさぞかし喜ぶだろうっておっしゃってたけど身体中毛で覆われてる亜人の方が必要じゃないかと思う。清潔にしてないとノミがいっぱいになるし衛生的じゃない」

「あー確かに痒い時が多いな」

「それが無くなる薬って凄いだろう?」

「言われてみれば……」

「早く皆が使えるように頑張るよ」

「おう、期待してるわ!」


 軽い雑談をした後に屋敷に通る許可をもらって入る。いつ見ても立派な屋敷だ。掃除は行き届いているし、嫌な匂いはしない。ロウゼ様は衛生にも気を配っている。

 細かいところまで注意して清潔にしていれば病気になる確率はグッと下がる。それを屋敷だけでなく領地全体で徹底させることで働き手を増やそうとしていると聞いた時は驚いた。薬師ならともかく貴族がそれに気付いているとは思わなかったがロウゼ様も僕がそれに気付いていることに驚いていた。


 貴族は薬師を胡散臭い目で見ているし意見を聞かない。そのくせ病気になった時には治せと命令してくる都合の良いやつらだと思っていた。しかしロウゼ様は薬学に関する知識や仕組みをある程度理解していたし、それを利用してお金儲けをしようとしていた。恐ろしい賢さだと震えた。明らかに普通の貴族ではないことは分かる。この人についていけば美味しい思いが出来ることは間違いない。


 ロウゼ様の自室の前に控える執事に用事があると伝えて入室させてもらう。


「ゲオルグ、もう出来たのか?」

「はい! 出来ました」

「よし、説明しろ」


 ロウゼ様は曖昧なことは許さないお方だ。常に何故そうなるのか、何故そうしようと思ったのかを考え、他の者にもそういう風に考えるようにさせている。確かに薬を作る上で何故そうなるかを考えていないと自分で作ったのに説明出来ないなんて間抜けなことになってしまうし、それを意識することで考える力が身につくだろう。


「はい、まずシャンプーですが、泡がより立つように改良しました」

「ほう、素晴らしいな」

「使った薬草ですが……」


 詳しい調合方法を説明していく。ロウゼ様はうんうんと頷いて聞いてくれるので理解しているかどうかが分かりやすく説明する側としてもやり甲斐がある。


「それで、使った後に髪が痛む問題について何かしらの対策をしろとの指示でしたが、薬剤をもう1つ作りました。薬には……えー、ロウゼ様がご存知かどうか分かりませんが陽の性質と陰の性質があり、人間の肌や髪は陽の性質な事に対して、シャンプーは陰の性質です」

「ふむ、酸性とアルカリ性のことだろうな」

「ご存知なのですか……?」

「ああ、知っている。薬師は陽と陰と呼んでいるのは知らなかったが仕組みは理解している」

「驚きました……それで、シャンプーを使った後に陰の性質に寄ってしまうので、陽の薬で元に戻せばいいと思ったのです」

「なるほどな、やはりお前は天才だ」


 腹の底から何とも言えない喜びがジワーッと湧き上がり口角が上がっていくのを押さえつけながら続ける。


「ありがとうございます、それで髪の性質を最初の状態に戻しながら髪に良いと言われている薬草などを混ぜました」

「上出来だ、次はより髪に良い成分を調べて、髪の水気を失わないように出来るか研究してみてくれ。後は香りだ、貴族の貴婦人が好むような香りを数種類。男性向けに匂いを抑えたものを1つだ」

「かしこまりました」

「では私は一度試してくるので食事でもしていろ、褒美に好きなものを作らせる」

「……! ありがとうございます!」


 お腹が丁度空いていた。健康には気を使っているが締め切りが近づくとどうしても根を詰めてしまうので食事をなおざりにしてしまいがちだ。因みに僕の好物はフライドポテトだ。明らかに身体には良くない邪悪な味がしているのだが中毒性があっていっぱい食べてしまう。

 食堂でしばらく待っていると料理が運びこまれてきた。黒パンで肉とチーズと野菜を挟んだバーガーと呼ばれる料理とフライドポテトが出てきた。

 熱々のフライドポテトを口に入れる。カリッとした食感の後にくるホクホクした感じがたまらない。


 うん、テルノアールに来て正解だったと改めて実感した。

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[一言] 身体に悪いものほど美味い法則
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