フィッツとの対決
フィッツのいる丘に向かっていた。静かに後ろから着地する。
「遅い! どうなっている!?」
「はっ!どうやら関所の向こう側で戦闘が起こっており、クシーの兵は押されている模様」
望遠鏡で観測していた兵士が答える。
「馬鹿なっ!? 小領地に圧されるなんて! 人数はクシーが圧倒的に上のはず!」
「戦闘力が違うのだ。有象無象の兵とレベルアップを重ねた我々とではな。因みに我が兵は負傷者は居ない」
「だ、誰だ!?」
「テルノアール領、領主ロウゼ・テルノアール。戦犯者として貴様を拘束させてもらう」
「な、いつの間に!? それにどこから!!」
「どこからって空からだが?」
「空を飛んだだと……あり得ん……」
「私にとっては日常でしかないのだがな」
フィッツ卿は歯ぎしりをしながらロウゼを睨みつける。
手を前に出し呪文の詠唱を始めた。
「殺してやる! ロウゼ・テルノアール!」
「キャンセル」
ロウゼは指をパチンと鳴らした。
「なっ!? 魔力が断たれた!??」
「私の前で魔法など使えん。……火よ!」
手からは炎が生まれ、それはまるで生き物のように自在に動き出した。
「詠唱も無しに魔法を!? しかも火が生きているだと!」
「生きてはいない、私が操作しているだけだ」
「あり得ん!! 魔法は力を放出するものだ!何故力の方向を変えられる!?」
「貴様が知ってる『魔法』なら無理だろうな」
火はフィッツ卿の周りを囲むように動き、包囲した。
「終わりだ、投降せよ」
「ぐっ……!」
「ロウゼ様こちらは終わりました」
四角い黒の通信の魔道具から男の声が聞こえる。通信の魔道具を取り返事をする。
「ああ、こちらも終わった。捕らえたものは殺すな」
「了解しました」
「なあ、こいつらどうするんや?」
リュンヌがいつでもやれるぞと脅したような口調で言う。
「首謀者に命令されていただけの事だ。俺に命令されて戦ってるお前たちと変わらん。主人が馬鹿だった不幸な者たちだ。だが、これからは俺の領民になるのだ。わざわざ人口は減らさん。その代わり働いてもらうがな。こいつは殺す。下らん目的で戦争を起こして無駄に命を減らしたのは許せん」
「まあまあ、落ち着け。ほら、これ吸えや」
リュンヌは吸っていたジュアンドルを俺の口に押し込んだ。
「ちょっ……スー……ふう、やはり落ち着くな」
「これが原因でこんなことなったって思うと何とも言えんけどな」
「確かに。あの時からこうなる事は決まっていたのかもしれない。それに俺のせいだな……」
「貴様!私をどうするつもりだ!?」
「フィッツ領の領主は捕らえた。領主を失った今、フィッツは私のものだ。死にたくなかったら契約魔法で私に領地を譲り今回の事のあらましを民に直接説明せよ。それが嫌なら死ぬのだな」
「娘を誘拐したのはそちらだ!」
「という建前で侵攻しようとしたのだろう。本当の狙いはジュアンドルだろう」
「……知っておったか」
「情報は入っている。言っておくが農民が大切に育てているものはジュアンドルの原料ではないぞ」
「何っ!?テルノアールに急に栽培され始めた見慣れない植物がジュアンドルの原料ではないと言うのか!?」
「あれはただの食料だ、珍しいものだからフィッツにはないだけの話だ」
「くっ……報告は間違いであったか、無能どもめ」
「貴様の情報不足が原因だ、あの植物は食べ物ということはそれこそクシー卿には私が説明していた情報だ。利用するのではなく、もう少し仲良くしていれば簡単に手に入ったことだが目先の利益に釣られて雑な判断をしたのが失敗だったな。土地が痩せていて税収が厳しいのでジュアンドルが欲しかったのだろう?」
「何故それを!?」
「娘から聞いた、平民に厳しい税を課していることも、それをよく思っていないこともな。おかげで貴様の行動もおおよそ読めていた。クシーが裏切るというのは予想外だったが大した被害はない。傲慢で自分勝手な其方が領主では領民が不便だ、私が統治してやろう」
「ふざけるなよ、小領地の領主風情が!」
「偉そうにするだけが貴族ではないぞ小物風情が。貴族であるならそれなりに領民の為に働け。自分の利益の為だけに統治する貴様は貴族失格だ」
「ふん、フィッツのような荒れた土地はどうやっても豊かにすることなど出来ん!」
「それが私なら出来るのだ、実際テルノアールの収穫量は上がってきているし作物もしっかりと育つ。地理的には何ら変わりのない場所で違いが出るということは治める人間の格が違うというだけの話。お前のような小物には無理だ私が直々に改革してやる」
「ふん、その改革のせいでクシーに裏切られたというのにか?」
「あやつは愚かだけだった、それだけのこと。真に利益があるのはどちらかということを理解すれば自ずと答えは出る。貴様の一族で反意を持つものがいれば貴様ともに処分する。そうだな、魔石に魔力を注ぎ続けてもらい飼い殺しにでもするか?魔力は貴重だからな」
ガクンとうなだれ全てを諦めた表情をフィッツは浮かべ、膝をついた。
「お前たちは帰れ、抵抗する者は容赦しない。死にたく無ければ今すぐ撤退し、こいつが自分の利益の為に自分たちを使って危険な場に送り込んだこと、その為に自分の娘さえ利用したことを街の者に知らせよ。私が新たな領主だ、こいつのように無駄に民を苦しめず、領地が良くなるように尽力することを誓うので安心して欲しい。行け!」
情報で民を誘導しこちらの都合よく動かすのは常套手段だ。実際フィッツもそれをやったのだから意趣返しをしてやろう。貴族の事情に振り回される民衆には悪いが利用させてもらう。その代わりより良い生活を提供してやるから許してもらいたいものだ。
蜘蛛の子を散らすように慌てて兵は撤退しはじめた。残っているのはフィッツただ1人だ。
「逃げようとしたら足を切り落とす、妙な真似はするなよ」
両手を拘束したフィッツを連れて関所に戻る。関所ではテルノアールの兵が整列して待機していた。
「ご苦労、フィッツ卿を捕らえたので事態は収束した。この者は屋敷に連れ帰り牢に入れておく。今回の騒動と報酬については追って沙汰を下すのでそのつもりでいろ」
「はっ!」
兵士は揃って返事をした。
フィッツを連れて関所をくぐろうとするとフィッツだけが弾かれた。
「な、なんだ!?」
「ああ、私に敵意があると結界に弾かれるのだ、どうしたものか……」
結界を解除するには一度神殿に行かなくてはならない。
「触れていながらなら通れるか……?」
フィッツに触れながらもう一度くぐろうとすると通過出来た。
「となると、クシーも同じか」
クシーに触れながら再び関所をくぐり抜ける。
「馬車でこいつらを屋敷まで運べ、途中で逃げられるようなヘマは犯すなよ。魔法を使われたら厄介なので猿轡をさせておけ。私は処理することがあるので先に帰る、では後は任せた」
ホウキに乗りリュンヌと屋敷に戻る。
「いやーまさか、俺らのジャンガ草と芋間違えて戦いに来よるとは思わんかったな」
「まあ、時期的に言えば出回りだしたのは同じだから何も知らない者なら同一の植物だと勘違いしてもおかしくはないな」
「全然違うやろ」
「ジュアンドルとして形になっていれば原料は想像するしかないから勘違いしたのだろう。ポムドテルを乾燥させて火をつけたら毒の煙になって大変なことになるがな」
「それ逆に見てみたかったな、めっちゃ笑えるやろ。金儲け出来ると思って作ったのが毒の煙って」
「それを目当てで戦いを始める馬鹿がいるのだから笑えんな」
「まあ確かに馬鹿やな」
「お前より馬鹿なやつがいるとは思ってなかったが」
「一緒にすんなや!」
「ふん、ああいう間違いを犯したくなかったらせいぜい勉強することだな」
「んー、肉があれば出来る気がする」
「領地が大きくなれば食べられるかもな」
「フィッツもお前が仕切るんやろ?大丈夫か?」
「ふん、余計なお世話だ。情報さえ集めれば問題はない」
さて、これから領地が大きくなるので忙しくなるな。フィッツの貴族も黙ってはいないだろうが領主の命を握ってる限りこちらが有利だ。働き手も増えるし紙を作っていけそうだな、やる事は山積みだ。
これにて第1章完です。 初めての連載で何とか一区切りつけることが出来てホッとしています。もしよろしければブクマ、評価等して頂けると頑張れますので何卒よろしくお願いします。